初体験2/3



 〇
「今日も仲がよろしいことで」
「ふふ、そうですねぇ。羨ましい限りです」
 幼馴染の言葉に、アズール・アーシングロットはゆったりと微笑む。幼馴染の片割れに、恋人ができて数ヶ月。学園内のトラブルはさておき、幼馴染の片割れ……フロイドは恋人である彼女と順調に仲を深めているようだった。まさか、その間に幼馴染ことジェイドにも恋人が出来ているとは思っていなかったが。
「ジェイドたちも、仲が良くて何よりですよ」
「気にかけていただいて、ありがとうございます。実は次のシフトなんですが……」
「はいはい。ちゃんと穴を埋めてくれるなら、いつ休んでも構いませんよ」
「ふふ、ありがとうございます」
 二人の会話をよそに、シフトから上がったフロイドは慣れた手付きで彼女を抱き上げる。そして、自分の部屋へと急いだ。
 
 一
「んっんっ」
 部屋の中に、甘ったるい声が響く。同時に、ぴちゃぴちゃと濡れた音も。彼女は大きなビーズクッションに背中を預けて、目を開けては手を伸ばす。自分の足の間へ、埋まっている鮮やかなターコイズを見つけるたびに、泣きそうになる。さらさらの髪へ指先が触れそうになる瞬間、すっかりかたくなってしまった部分をちゅるちゅると可愛らしく吸い付かれ、彼女は目を瞑ってしまう。腰はびくん、と揺れて、つま先がきゅっと丸くなる。
「あっ、あう、ふろいっ、うぅ」
「ンー」
 聞く気のない恋人の声を聴きながら、彼女はぎゅうう、と腕の中のぬいぐるみを抱き締めた。
「ふふ。ナマエ上手くイケるようになったねぇ」
「う、うん……?」
「休憩する?」
 ふわふわとした意識で、フロイドの言葉に首を横にふる。フロイドは意外そうに目を丸くして、彼女の頭を撫でる。
「無理しなくてもいいけど」
「……」
 彼女が首を横に振って、フロイドに向かって手を伸ばす。フロイドは立ち上がって、彼女へと身体を寄せた。すぐに彼女はフロイドの首へ腕を回して、ぎゅうと抱き付いてきた。
「なぁに、ナマエ」
「……もっと」
「もっと?」
 予想外な言葉にフロイドは改めて、彼女を見つめる。彼女は生理的とは別の意味で頬を赤く染めて、縋るようにフロイドを見つめ返した。察して欲しい、伝わって欲しい、分かって欲しい。彼女の言いたいことはフロイドの手の内だった。フロイドがにんまり、笑えば、彼女はうう、と弱々しく眉を下げる。
「ナマエ、もっとなぁに?」
「いじわる」
「え〜? オレただ聞いてるだけじゃん」
「……」
 フロイドは頑張って、普段通りの声出して見せた。本当は今すぐにでも、彼女を甘やかして可愛がりたい。それでも、ちょっと我慢をするのだ。極上の瞬間のために。鈍い彼女はフロイドの演技に騙されて、へにゃへにゃとさらに泣きそうになった。
「もっと」
「もっと?」
「フロイドくんに触って欲しい」
「うん」
 彼女の顔が絶望で染まる。言ったのに。ちゃんと言ったのに。うん、だけ? それだけ? 彼女がガーンと、どんよりとした青い背景を背負って、頭に大きな岩を乗せていると、ふと違和感に気付く。面白そうにしているフロイドの息がどこか荒く。表情も辛そうだった。
 彼女が自分の体を押し付けるように、よりフロイドに抱き付けば、フロイドはごくり、と大きく喉を鳴らした。彼女はなんだ、と頬を緩める。フロイドの白い耳に唇を押し付けて、口を開いた。分かっていても、やっぱり恥ずかしくて声は震えてしまった。
「もっと中のほう、触って欲しい」
「もっと中のほう?」
「うん」
 フロイドが少し体を離して、彼女を見下ろす。彼女は焦ったそうな顔をするフロイドに、ふふと笑い声が漏れてしまった。フロイドはバツが悪そうにして、唇を尖らせる。
「ナマエのいじわる」
「えー? ちゃんと言ったのに?」
 どこで聞いたようなフレーズだった。
 フロイドは不貞腐れた子どものような顔をして、彼女に思い切りのしかかって来た。彼女はフロイドくん重い! と文句を言っても、彼女の腕はフロイドの首をしっかりと掴まっていた。
 フロイドは自分の下で、楽しそうに笑っている彼女を盗み見て胸がきゅーと締め付けられる。出会ったばかりのナマエだったら、絶対こんな風に笑わなかっただろう。何も着ないで、身体ひとつで。
「フロイドくん?」
「んーん。ちょっとセンチメンタルになっただけ」
「え、どうし……ひゃっ」
 フロイドは気分が変わったと言うより、やることを思い出したように動き出した。
 彼女はフロイドと裸で触れ合うことには慣れたが、“口にするのも恥ずかしいところ”を触れられるのはまだ慣れていない。いや、慣れる予定もないし、慣れる未来も見えない。
「フロイドくんまって、はぅ」
「もっと中のほう触って欲しいんでしょ〜」
「それはっ、んんっ」
 ぺろぺろと遊ぶように舐められて、彼女はつま先を丸める。素直になりたくて、なりたくない。フロイドくんの舌、きもちい。
 温かくて、濡れていて、柔らかい。痛みはなく、気持ちのいいだけの刺激をくれるもの。他人に自分の身体を委ねることに、性的な快感に慣れていない彼女は、指のような確かな刺激より曖昧な刺激をくれる舌の方が好きだった。でも、メンタル的には舌より指の方が負担は少ない。負担というか、抵抗がない。
 きっとフロイドの指の方が、彼女が求める“もっと中へ”届くだろう。でも、指はちょっと怖い。彼女が拒めば、舌は柔らかく形を変える。でも、指はただ締め付けてしまうだけで、そこにある圧迫感も違和感も痛みも消えない。
 あの、かたくあつい熱の塊を押し付けられたり、なぞったりするのは気持ちがいいのに。どうして、中に入れようとするの痛いのだろう。彼女は蕩けた頭で、そんなことを考える。考えても仕方のないこと。分かりきったこと。フロイドくんから与えられるもの、全部気持ち良かったらいいのに。
 そんなこと考えていたから、だろうか。にゅる、と自分の中に舌先が入ってくる感覚が、いつもよりずっと生々しかった。充分なくらいフロイドに可愛がってもらったから、入り口はぱくぱくと口を開いて、フロイドを受け入れる。
「ナマエきもちー?」
「あっ、んぅ、そこっ」
 彼女があまりの気持ちの良さに、腰を逃しそうになると、大きい手をグッと引き寄せて来た。それと同時に、フロイドは彼女の要望通り、今まで以上に中に触れてやった。舌の根が攣ってもおかしくないほど、中へ、奥へ舌先を突っ込んで、きゅ、と狭くなっているところをグリグリと広げようした。
「やっ、あぅ、あっ」
 彼女はどうしようと、戸惑った。フロイドに触れれば触れられるほど、どんどん身体が変わっていく。恥ずかしさも、痛みも、溶かされて、気持ちよさに幸福感に変わっていく。やっと触れ慣れたところを繰り返し触れるだけで、気持ちがいいのに。疼いている奥を少しずつ暴かれていく感覚でさえ気持ちがよくて、どうすればいいのか分からない。
「んっ、んっ」
 フロイドは甘い声に興奮しながらも、冷静に真剣に彼女の中へ触れていた。ナマエ感度もいいし、濡れやすいと思うんだけど、中はすっげぇ狭いんだよね。狭いっていうか、ギチギチ。今も広げてみてるけど、中々広がんないな……。うーん、ナマエ中より、擦りっこしてるときの方が気持ち良さそうだし。
 フロイドが突っ込んでいた舌をずるる、と引いていくと、彼女の声は一層大きくなる。フロイドは彼女の反応の良さに、やっぱり〜と目尻を下げた。彼女は中よりも、入り口近くの、お腹側の部分を触れられるとすぐにイってしまう。入れたばかりのところはすっかり解れて、フロイドも舌を動かしやすかった。だから、舌を抜き差しして擦るだけではなく、舌先を尖らしてグリグリと可愛がってみた。すると、彼女は腰も、中もビクビクと激しく揺らして、一気に脱力してしまう。
「ナマエ、イケる?」
「……うんっ」
 荒い息遣いのなかで、フロイドは彼女が確かに頷いたことを確認して、またにゅるり、と彼女の中へ舌を差し込んだ。今度はきゅう、と狭くなった奥を広げるようにさっきよりも大胆に舌を動かす。本日二度もイッているおかげか、彼女の身体は随分と力が抜けて敏感になっていた。あまりの刺激に彼女がまた逃げようとするので、フロイドは彼女の腰を思い切り掴んで、デカい口ごとじゅう、と彼女に吸い付いた。
「ニャッ!?」
「!」
 お腹がいっぱいになって、刺激もいっっぱいになっているのに、外までもいっぱいにされてしまって。彼女は思わず子猫のような鳴き声を上げてしまった。しかも、フロイドの無意識で、ギザギザの歯が彼女の柔らかい肉に軽く突き刺さっていた。チクリ、とした痛みが不思議と気持ちが良くて、彼女は余計に困る。これ以上気持ち良くなって、私どうすればいいんだろう。
「ん、んっ」
「ナマエ?」
「あっ、なっ、ひぃっ、んんっ」
 ヤバい。ナマエめっちゃ気持ち良さそう。
 フロイドが舌を緩めても、彼女の腰は揺れたまま。止めようと思っても、身体が言うことを聞かない。こんなに、快感に夢中になるのは初めての感覚だった。
 彼女はゆらっと自分の手を上げて、自分の腰を掴むフロイドの手を掴んだ。
「ナマエ?」
 フロイドが彼女の名前を呼ぶと、小さな手が応えるようにぎゅう、とフロイドの手を掴んでくる。
「!」
 フロイドは猛烈に、彼女とひとつになりたくなった。受け止めることが精一杯の中でも、フロイドの愛に溺れながらも、フロイドの声に返事しようとする。その気持ちがいじらしくて、フロイドは頭がおかしくなりそうだった。
 フロイドが気持ちのままに舌を激しく動かすと、彼女はフロイドの手を掴む余裕も無くなってしまった。上品さも、可愛らしさも失った喘ぎ聞こえを聞きながら、フロイドは好きな女の中で死ねるなら、それもアリかなんて、馬鹿げたことを思った。
 
 二
 フロイドは柔らかな肌にぎゅうう、と挟まれて、すぐに解放される。くたり、と無防備に開かれた足は絶景でしかない。フロイドは機嫌良く目を細めて、柔らかな肌に、ちゅうと吸い付いた。内腿は吸い付きやすく、すぐに跡が付きやすい。
「んっ……ふろいどくん、ダメだってば」
「んー?」
「も、もー!」
 彼女は脱力した身体に叱咤して、なんとか足を引き寄せて、身体を起こす。マルッと体操座りの体勢になって、フロイドから距離をとる。フロイドは彼女の抵抗に不満気な顔もせず、ちょっと目尻を下げるだけ。
「何がダメなのナマエ」
「……」
「ねー」
「うう」
 イッた後は、敏感だから触らないで。特に内腿なんて、こんなときじゃなくても、敏感に感じる場所なのに。そうだ。普通にくすぐったいのだ。恥ずかしいことを言うわけじゃないと分かっているのに。どうしても、やっぱり恥ずかしい。特に「イッた後」なんて生々しくて口にできない。
 彼女が葛藤している間も、フロイドは楽しそうに「ねぇねぇ」と彼女の頬を突いて絡んでくる。
「な、なんでもない」
「絶対ウソじゃん」
「フロイドくんが意地悪してくる」
「えー? オレ超やさしいし〜」
「……」
 彼女がなんとも言えない顔をすると、フロイドは机に置いたペットボトルを魔法で引き寄せて、彼女へ渡す。彼女がキョトン、として受け取ると、フロイドはにっこりと笑った。
「いっぱい声出して、喉乾いたでしょ」
「なっ、やっぱりフロイドくんいじわる!」
「あはは。オレも、水取ってくる〜」
「も〜!」
 彼女はフロイドの背中を見送って、なかなか力が入らない手でなんとかペットボトルの蓋を開ける。ごく、と一口水を飲むと、妙に冷たく感じた。そのまま勢いよくゴクゴクと飲んでしまう。やっぱり、フロイドくんの言う通り、私喉乾いてたのかも。彼女がペットボトルの蓋を閉めていると、フロイドが戻ってきた。
「ナマエ、ちゃんと自分で飲めた?」
「飲めたよ? どうして?」
「ナマエイった後、すぐへにゃへにゃしちゃうから」
「それはそうだけど」
 フロイドはむぅ、と自分を見上げる彼女の頭を撫でて、彼女の隣に腰を下ろす。ずっと床に膝を付いていた所為で、フロイドの膝は少し赤くなっていた。彼女はフロイドの膝を撫でて、甘えるようにフロイドの右腕に凭れかかる。その際、彼女の胸がむにゅり、と潰れるのはお約束だ。もちろん、わざとに決まっている。
 フロイドはあざとー、と思いながらも、ドキドキする。
「フロイドくん……ん?」
「どしたのナマエ」
「……なんかミントの匂いする」
 彼女が小さな鼻でくんくんと探れば、鼻先はフロイドの唇にたどり着いた。
「フロイドくん、もしかして歯磨いてきた?」
「……」
 今度はフロイドがだんまり、を決め込む番らしい。彼女は楽しそうに笑って、「ねー」と先ほどのフロイドの真似をして、シャープな頬を控えめに突いてみる。フロイドはぷくーと片頬を膨らまして、可愛らしく拗ねてみせた。彼女は目をきらきらと輝かせて、ぎゅむっとフロイドに抱き付いた。本当はフロイドに膝の上に乗ってもいい? と甘えるつもりだった。だったのに、我慢ができずに、つい勝手に乗り上げてしまった。
 フロイドは勢いよく抱き付いてくる彼女に驚きながらも、彼女の腰を支えてやる。彼女はフロイドの頭を胸に抱き込んで、後頭部をわしゃわしゃと撫で回した。
「ナマエ〜? オレ犬じゃねぇんだけど」
「分かってるよぅ。でも、フロイドくんが可愛いくて」
「はぁ? ナマエの方が可愛いし」
「エッ」
 彼女が驚いて、一瞬固まる。フロイドは彼女の反応に、顔を顰める。まるで、彼女が初めて言われたような反応するから。
「えっ、すっげぇ今更じゃね? ずっとオレ、ナマエ可愛い〜って言ってんじゃん」
「そうなんだけど〜」
「けど〜?」
 フロイドはもぞもぞ、と彼女の胸元から顔を上げる。彼女は顔を真っ赤にして、困ったように視線を泳がせていた。
「ナマエ?」
「フロイドくんに可愛いって言われるの、慣れないって言うか」
「えーなんで」
「だ、だって……フロイドくん、すっごいカッコいいんだよ?」
「は?」
「だから、すっごくカッコよくてイケてるの! クールなの!」
「なに、ナマエ。急に」
「急にじゃないよ! ずっと思ってるよ!」
「ずっとって、常時?」
「常時思ってる!」
「なんて?」
「フロイドくんカッコいい! って」
「えへへ、ありがと」
 ニコニコと機嫌良く笑うフロイドに、彼女もえへへと笑い返す。
「どういたしまして……って、そうじゃなくて!」
「え?」
 キョトン、と首を傾げるフロイドに、彼女はうっと唸って心臓を押さえる。自分の胸を、自分で押し潰す形になって恥ずかしかったので、すぐ手を離した。
 フロイドと二人きりの空間はダメだ。いや、ダメではない。ダメではないけれど、すぐに二人揃って気が逸れてしまう。彼女はフロイドと付き合うようになってから、フロイドに流されることが多くなった。別にそれがイヤという訳ではないけれど。でも、その所為で帰ってから、気付くのだ。あ、本当はフロイドくんにこうやって言うつもりだったのに! とか、これ話したかったのに! とか。
 だから、我に返った彼女はフロイドをむんっと見つめる。今日こそは言い忘れないぞ! という気持ちである。フロイドは何やら意気込みを感じたが、相変らずキョトン、としていた。
「だからね、私はフロイドくん見るたびに、すっごいかっこいい〜って心底思うの!」
「うん」
「だから、そんなフロイドくんに可愛いーとか言われると、信じられないっていうか」
「……」
 ニコニコしていたフロイドが一気に機嫌を急行落下させる。彼女はヒエっと悲鳴を小さく上げて、フロイドをわしゃわしゃと撫で回して必死で誤魔化す。
「違うよー! 違うんだよ! ネガティブな意味じゃなくて、信じられないぐらいカッコいいフロイドくんから可愛いって言われると、毎回信じられない! って思うくらい嬉しくなるって言いたいの!」
「!」
 不機嫌だったタレ目が大きく見開いて、驚いたように彼女を見上げる。彼女は照れと、羞恥に耐えて、先ほどのフロイドのようにぷんぷんと頬を膨らまして見せた。
 大事な女の子が出来ようが、その子が相手だろうが、フロイドはフロイドなのだ。気に入らないことに、つまらないことに、イライラすることに多少目を瞑ってやることはあるが、それもあくまでフロイドにとっての多少レベル。
 実際、彼女はフロイドから理不尽な扱いも、八つ当たりもされたことはない。ただ彼女の元々の人間性もあって、フロイドの機嫌には敏感だった。
 特にフロイドは自分のことを、他人に決めつけられることを嫌う。もっと分かりやすく言えば、自分の言葉をそのまま受け取られないことを嫌う。イラッとする。話が通じないのは本当に、嫌らしい。
 彼女は以前、それでやらかしそうになったことがある。ゆえに、フロイドの前ではあまりネガティヴなことを言わないように気をつけているのだ。
「はぁ〜? なにそれ」
「い、イケているフロイドくんには分からない感覚かもしれなギャッ」
「なんでナマエって、そんな可愛いの? なに可愛いの自己ベスト常に目指してんの?」
「……」
 彼女はフロイドにぎゅ〜と抱き締められながら、キョトン、と固まる。一瞬、フロイドに何を言われているのか理解が出来なかった。そして、理解して首を横に大きく振った。
「め、目指してない!」
「そっかぁ〜じゃあ、無意識なんだ。ナマエってば、ストイック過ぎ」
「フロイドくん、私のこと揶揄ってる〜」
「揶揄ってないって。ナマエって、ずっと可愛いからさぁ〜」
「か、かわいくなんか……」
 売り言葉に買い言葉。そんなノリで、つい照れゆえに、フロイドの言葉を否定しそうになる。でも、彼女はハタっと一瞬立ち止まって、フロイドを見上げる。フロイドは、どうしたの? ナマエと彼女を見つめ返した。
「あ、ありがとう」
「うん、どういたしましてぇ」
 彼女は満足そうに笑うフロイドに、ちゃんと素直にありがとうと言って良かったと思った。今までの人生で、いい意味でも、心臓に悪い意味でも、彼女はフロイドほど素直な人間(人魚)に遭遇したことがなかった。
 フロイドの素直で甘い言葉は嬉しいし、自分も素直になりたいと思う。でも、やっぱりいつも照れ臭さが邪魔をしてくる。……でも、フロイドくんの、この笑顔が見れるなら、自分の小さな事情なんて、なんのそのだよ。
 フロイドは小さな手がむいむい、と頬に触れてくるので、目を瞑ってされるがままにしてやった。二人がしばらく戯れ合っていると、不意に彼女が悲鳴をあげる。
「どしたの、ナマエ」
「……や、えっと」
 彼女はフロイドに抱き付いて、居心地悪そうにお尻をもじもじと揺らした。
「あ」
 フロイドは自分の体を見下ろして、気付く。丁度、彼女の足の間に、フロイドの欲求が当たっていた。目を逸らせないほど、そこは強く主張していた。フロイドの下着は濡れて、色が濃くなっていた。フロイドは機嫌よく頬を緩めて、彼女をぎゅう、と抱き締める。
「ふふ、ナマエの所為で汚れちゃった」
「!」
「まあ、男冥利に尽きるってヤツなのかなぁ」
「うっ」
 フロイドは彼女を世界一幸せにする天才だったが、それと同時に彼女を困らせる天才でもあった。ニコニコとやらしい笑顔に追い詰められて、彼女はなんとか逃げ道を探し出そうとする。
「わ、私もフロイドくんにしたい」
「オレ?」
「う、うん、私もフロイドくんの……したい」
 もにょもにょと誤魔化す彼女に、フロイドは目を見開いた。驚きながらも、納得するフロイドがいる。ナマエ恥ずかしがり屋だけど、快楽に割と素直だし。何より、ナマエも“そーいうこと”に興味あるんだよね。意外に積極的っていうか、そこが好きなんだけど。
「んーもうちょっとナマエが頑張ってから、舐めてもらおっかな」
「な、なめっ」
「え? 違うの?」
「……あ、合ってるけど」
 そんなストレートに言われると思わなくて。羞恥心に襲われて、もじもじしている彼女を抱き上げて、フロイドは自分の足の間へ座らせる。フロイドの手にかかれば、彼女は赤ん坊と変わらない。
 彼女はフロイドに背中を預ける姿勢になって、首を捻る。フロイドくん、急にどうしたんだろう。次の瞬間、躊躇いなく両足を広げられて、彼女はまた悲鳴を上げた。
「ふ、フロイドくん……?」
「今日せっかく中いつもより触ったし、こっちで触ってもいー?」
「……あ」
 フロイドは彼女に、自分の小指を見せて、軽い調子で聞いてくる。彼女はちょっと身体に力が入る。でも、そんな彼女の背中を押すものがあった。中を触られるのは気持ちが良かった。そう考えた瞬間、お腹がきゅう、と収縮して、入り口から何かが溢れてくる感覚がした。反射的に、足を閉じようとするが、フロイドに目敏く気づかれてしまう。
「あう」
「すっげぇとろとろ」
「イヤー! 言わないで!」
「入れていー?」
「自由! ……うん」
 一人で騒いでいるの恥ずかしい。フロイドくん本当に自由。彼女が少しシュン、として大人しく頷くと、ぽんと優しく頭を撫でられた。
「ゆっくりね」
「うん」
 怖がらせないための一言。自由でワガママで甘えたに見せる癖に、こういうことをしてくる。本当にフロイドくんは私とって”優しくて良い恋人”だ。
 
 三
「んっ……」
「痛くない? 大丈夫?」
 彼女はフロイドの問いかけに、ウンウンと頷いた。フロイドの、左手の小指はにゅぷ、と彼女の中へ、問題なく入っていく。奥まで入ったのか、恥骨に曲げた薬指が当たっていた。散々舌で広げてくれた部分だ。特に痛くも、苦しくもなかった。
 自分を抱き締めるフロイドの右腕を握って、彼女は小さく頷く。フロイドは彼女の頭にすりすりと鼻先を擦り寄せて、耳元で囁く。
「動かしていいってこと?」
 彼女がまた頷こうとした、そのとき。
「それとも、動かして欲しい?」
「!」
 フロイドの、独特の甘ったるくて、鳥肌が立つほどの色っぽい声。どこか笑いを含んだ声。彼女は辛くも苦しくもないのに、じわっと目に涙が滲んできた。少し体を捻れば、すぐにフロイドと目が合った。フロイドは半泣きになっている彼女にに驚いたが、彼女がむにゅ、と唇を押し付けて来て、頬を緩めた。
「キスされながら、とかナマエ大胆
 フロイドの言葉に、彼女の耳がカァっと真っ赤に染まる。フロイドは彼女の口に舌を差し込むと同時に、小指を動かした。奥まで差し込んで、ギリギリのところまで引いて。何度も同じことを繰り返せば、彼女がもどかしそうに腰を揺らして、小さな舌を身を寄せるようにすりすりと動かして来た。
「んぅ、ふぁ」
 フロイドは口の中で、ふっと笑うと、口を離した。
「ナマエ、ここ好きだもんねぇ」
「んっ、んっ」
 彼女の好きなところ。入り口近くの、お腹側のところ。フロイドは抜き差しをやめて、くにくにと小指を曲げて、優しく壁を引っ掻くように動かした。
 お腹の内側を触れられるたびに、うう、と前のめりになりそうになる。フロイドは前に逃げていく彼女を捕まえて、小さな顎を掴む。彼女は強制的に顔を上に向かされて、フロイドにこんな近い距離で顔を見られて、恥ずかしいと目を瞑る。それでも、口から漏れる喘ぎ声は隠せない。
「いーよ、ナマエそのままイって」
「んぅ、んっ、あっ」
 ビクビク、と甘く痺れる感覚に、彼女は頭がぼーっとする。休憩を挟んでいても、こんなに一度にたくさんイクのは初めてだった。フロイドにもたれ掛かって息を整えていると、小指よりも長いものが、お腹に入って来た。イッたばかりの刺激で、びくんっと身体が揺れるがしっかりとした腕に拘束されて逃げれなかった。
 太くて、長い。でも、痛みはない。彼女が若干重い瞼を開けて、視線を下へ向ける。
「あ……」
「見て、ナマエ。中指入った」
「すごい」
「ね。しかも、ちゃんと最後まで」
 フロイドは手の平が大きく、その中で一番長い指は中指だ。言葉の通り、中指は彼女の最奥まで入っていて、フロイドの手のひらが、指の付け根が、彼女の恥骨にぴったりと当たっていた。フロイドが指先を少し動かすと、彼女の腰が跳ねる。「痛い?」
「い、いたくない、けど」
「けど?」
「……なんか、変な感じっ」
「あー、流石にここまでは舌届いてなかったかも」
「あぅ」
 フロイドはぐちぐち、と軽く指を動かし始める。奥を広げるように、とんとんと突かれると、変な感じなのに。指を引かれると、癖になったところを擦られて気持ちがいい。フロイドが動かすたびに、くちゅくちゅとなる音も、たんたんと当たるフロイドの手の平も恥ずかしくて、勝手にお腹がきゅう、となってしまう。
「ん〜? また狭くなった?」
「!」
 フロイドくんに全部バレてるの恥ずかしい。
「や、やだ」
「ふふ、ナマエのからだ可愛いねぇ」
 な、なんてことを言うんだ。フロイドくん。
 フロイドは蜂蜜のように瞳を溶かして、微笑んだ。彼女の中は、普段の彼女以上に分かりやすくて、温かくて、柔らかい。本当にかわいい。愛おしいとも、本当にナマエは弱っちいなぁとも思う可愛いさだった。この柔らかいんとこの、奥で稚魚できるんだっけ? ぐぐっと、さらに奥に指を突っ込み、ぐりぐりと指先で舐るように触れると、彼女が高い声を上げた。
「やっ、い、いたい」
「ご、ごめん。ナマエ、ここは?」
「そこはだ、だいじょうぶ。なんか、ちくちくした」
「そっかぁ。奥はちくちくしちゃうんだ」
「んっ、ウン」
 労わるように、まだ広がる前の部分をくちくちと撫でられて、彼女の身体から力が抜ける。
 フロイドは何ともない声を出しながら、内心は結構焦っていた。やっば、ナマエ痛がらせちゃった。フロイドの心配を余所に、彼女はフロイドに身体を委ねたままだった。
 フロイドの彼女への気持ちは、一応純粋な恋心だ。フロイドにとって、彼女に信頼されること、愛されること、受け入れられることは最高で幸せを感じる。その逆……つまり、彼女に嫌われることは、フロイドにとって最悪で地獄に違いなかった。純粋な恋心に、ときどき人魚としての本能が入り混じる。すると、やっぱり彼女には強すぎる刺激や欲求が出て来てしまう。
「ナマエ」
「あっ、あっ、な、なぁに」
 彼女は自分を抱き締めるフロイドの腕に掴まって、フロイドから与えられる刺激に可愛らしく感じている。すりすり、とちょっと弱々しく擦り寄ってくるフロイドに、彼女は首を傾げる。
「痛くない?」
「いたくない、よっ、んぅ」
「じゃあ、きもちいー?」
「……き、きもちいい」
 さっきの、気にしてるんだ。フロイドくん。かわいい。彼女が胸がキュン、と高鳴る。ほとんど力が入らない手で、フロイドの頭を撫でれば、フロイドは目をパチパチを瞬いてから、嬉しそうに目を細めた。
「良かった。じゃあ、そのまま気持ち良くなって」
「?」
「オレの勘だけど、ナマエここも好きだと思うよ?」
「ひっ、あっ、あっ、そこ、ううっ」
 優しく撫でるだけ、だったのに。彼女はフロイドの腕を縋るように掴んで、腰を浮かして逃そうとするが、できなかった。フロイドの長い両足が、彼女の両足を押さえて来たのだ。フロイドは利き手を自由に動かした。
 今までは、中を繰り返し優しく触れるだけだったのに。
 フロイドは親指で硬くなった部分をくりくりと可愛がりながら、とちゅとちゅ、と指全体で触れるように抜いたり刺したりを繰り返した。その動きはこないだの、した擬似的なセックスに似ていて、思わず彼女は想像してしまう。こうやって、フロイドくんの、私の中に入れられるかもしれないんだ。勝手に喉がごくり、と鳴って、お腹がきゅうきゅう、と締まる。
「あんっ、あっ、んぅ、やぁ」
「……」
 目を瞑って快感に耐える彼女は気付かない。フロイドがじっと、と自分を見つめていることを。彼女が真っ赤になって乱れているところは見てきた。でも、こんなに彼女の中に触れながら、彼女が乱れているところを見るのは初めてだった。
 彼女は全身を真っ赤にして、喘いでいる声もどこか掠れ気味で、フロイドに掴まる手の力もどんどん弱くなっている。薄い瞼の下から、ぽろりと涙が溢れて、頬を伝っていく。フロイドはその涙を舐めとって、彼女の瞼にちゅう、と吸い付いた。彼女がビクッと身体を揺らして、薄目を開ける。
「ふ、ふろいどくん」
「ナマエ、めっちゃ気持ち良さそう。顔もっと見して」
「は、はずか……んんっ、ま、まって、そこっ」
「やだ?」
「……やじゃない」
 今日何度目のやり取りだ。彼女はちょっと拗ね気味になった。だが、だいじょうぶと言うたびに、フロイドがホッとした顔をするので、無碍にすることは出来ないし、どこまでも自分のことを考えてくれるフロイドにズルい、と唇を噛んだ。
「むぅ」
「んふふ、ナマエほんとかわいー」
「あっ、ふぁ、やんっ」
「やばっ」
 フロイドはぺろり、と彼女の唇を舐めて、彼女が怯んだ瞬間に舌を滑り込ませた。小さな舌が擦り寄って来たので絡めれば、彼女は気持ち良さそうに吐息を漏らす。忘れちゃダメとばかりに、中に触れる手の動きが激しくなって、彼女は眉を寄せる。しかも、トドメとばかりに、フロイドが舌先を甘噛みしてくるので、彼女は目がチカチカとしてきた。
 むず痒い気持ち良さに、ときどき歯を立てられて、彼女は文字通りいっぱいいっぱいになった。
「あっ、やぁ、も、もうっ……ひゃぅ!」
「ナマエここも好きだよねぇ」
「む、むり、そんないっぱ、いっ、あんっ」
「ほんと、かわいっ」
 今まで抱き締めるだけだったのに。彼女は自分の胸を揉みしだいているフロイドの手を捕まえたが、なんの抵抗にもなっていなかった。むにゅむにゅと揉まれるだけでも、甘やかな刺激で、彼女はのお腹が大きくビクビク、と震える。ときどき、指先が硬くなった部分を掠って、それもまた気持ちが良かった。
「むり、もぉ、むりぃ」
「いいよナマエ、イって」
 フロイドは彼女の舌を引っ張って、柔く歯を立てて、ぐちゅぐちゅと少し強めに中を擦り上げた。
「んっ、あっ、あっ、ふろい、どくん、きもちいっ、ああっ」
「うあっ」
 彼女はガクガクと腰を揺らして、がくんと上半身が倒れそうになる。フロイドは反射的に彼女を支えて、継続的にびくんびくん、と痙攣している彼女の身体を抱き締めた。利き手も使いたかったが、きゅうう、と彼女に締め付けられて動かすことが出来なかった。
 彼女の反応の良さに、フロイドが驚きながらも口がカラカラと乾いていた。下着の中の、欲求も痛いほど硬くなっていた。
「はあ、はあ」
「ナマエだいじょうぶ?」
「うう」
 フロイドが腕を緩めると、彼女はくたりと倒れ込んで、寝転がる。正直、身体を動かすのもしんどかったが、彼女は楽な姿勢を探してうごうごとシーツの上でもがいていた。
 その様子を、フロイドがどんな目で見ているかも知らずに。
 
 四
「……」
 フロイドは完全に瞳孔が開いていた。しっとりと濡れた肌は柔くて、温かいと知っている。あの可愛らしいお尻に触れて、開けば、そこにはずっとフロイドが熱心に献身的に可愛がって来たものがある。ずっとフロイドが焦がれてきたもの。白い背中は無防備で、息をするたびに頼りない肩が動いていた。
「フロイドくんごめん、水とっ……ぎゃ」
「……」
 ダメだとか、我慢しなきゃとか。そもそも、そんな発想にならなかった。
 フロイドは彼女の背中を覆い被さって、自分の欲求の先端を彼女に擦り付けた。ぷちゅ、と濡れた音がして、フロイドは息を詰める。温かく濡れた場所に、先端が沈んで、酷く気持ちが良かった。欲望のままに腰を動かせば、うつ伏せの彼女がまた可愛らしく喘いだ。どうやら、彼女にとっても気持ちのいい部分を擦っているらしい。
「やんっ……フロイドくん? どうし」
「ごめん、ナマエ。オレも、ナマエん中いれたい」
「!」
 彼女が振り向ければ、はぁはぁと息の荒いフロイドが苦しそうにこちらを見つめていた。彼女の胸はきゅーん、とトキめいてしまう。何とか体を捻って、フロイドの頭を撫でれば、フロイドは鼻を鳴らして、首筋に頭を擦り付けてきた。
「私も、フロイドくんに入れて欲しい」
「ん」
 フロイドは短く頷くと、腰を沈めてきた。熱くて硬い先端が、彼女の中へ入り込んでくる。今までで、一番大きくて、太い。物理的な大きさに驚いたが、充分なほど濡れていたおかげで、ぐちゅり、と入り込んできた。あ、そのまま進んだら、フロイドくん曰く、ナマエの好きなところに来ちゃう。
「ん、んん?」
「?」
「ナマエ、今痛い?」
「え? 今? 痛くな……っ」
 ぐっぐっと進もうとして、フロイドは奥へ進めなかった。先端はなんとか入ったが、奥まだまだ狭く、フロイドを受け入れることは難しいらしい。強引に押し進めることはできるけど、たぶん、これオレも痛いヤツな気がする。試しにぐぐ、と強引に進めば、ギチギチと締め付けられ、フロイドもぎり、と痛みを感じて眉を顰めた。
「……? フロイドくん?」
 彼女は引いていく異物感と、痛みに後ろへ振り向く。そこには、避妊具をとってゴミ箱に捨てようとするフロイドの姿があった。フロイドは彼女と目が合うと、へらっと笑った。膝を立てて座り直そうとするフロイドに、彼女は目敏くフロイドの太ももに触れる。この瞬間だけは疲労感も忘れることができた。
「ちょ、わ、ナマエ?」
「フロイドくんだけ、イッてない」 
「オレはいーの。こないだより、ナマエに触れて嬉しかったし」
「ダメ」
「ナマエそこどい……なっ」
 彼女はフロイドの足の間へ、強引に割って入る。その衝撃で、フロイドは軽く壁に頭をぶつけそうになった。彼女はフロイドより小さいゆえに、身軽で素早い。まだまだ元気なフロイドのものを小さな手のひらで撫でれば、フロイドは熱い吐息を漏らした。彼女はごく、と覚悟を決めて、フロイドの腹下へ頭を沈めた。
「!」
 フロイドは一瞬何が起きたか分からなかった。視線を下に向ければ、彼女の口に、自分のナニが入っている。しかも、最初から結構奥まで。流石に入りきれない根本は小さな手で優しく、扱いていた。両手はすぐにぬるぬると汚れて、動かしやすくなった。
「は、ちょ、まって、うあ、きもちい」
「んっ、んっ」
 彼女はフロイドの反応を見ながら、一生懸命舐めていた。正直、ネットと友達の話の知識しかないけれど。歯は立てないようにして、なぞるように舐め上げて、柔らかい先端にちゅう、と吸い付いてみる。フロイドは色っぽい低い声を出して、腰を揺らした。ちゃんと気持ちがいいらしい。彼女は安心して、ぐぐっとさらに頬張った。
「ナマエ、まって」
「ん、いひゃい?」
「う、い、いたくはないけどぉ」
「んぅ」
 うわ、ナマエ、上目遣いでこっち見ないで。しかも、良かったぁって可愛い顔しないで。そんな顔されたら、すぐ出ちゃうから。フロイドは後ろに手をついて、彼女からの刺激に耐えるがそんなに持ちそうになかった。なんなら、ずっと我慢の連続だったし。彼女がイっている姿を見るだけで、オレもイっちゃうかもなんて馬鹿げたことを考えていた。
 彼女の唇の柔らかさも、口の中も温かさも、濡れている感触も知っている。でも、あそこに触れたら、いつもの倍以上気持ちが良くて、フロイドはこれが本当に彼女の中だったら、と考えてヤバかった。
 今日は入り口までだったけど。あんな温かくて、とろとろに柔らかくてうねって、気持ち良さそうなナカ。あん中に、オレの全部入れたら、絶対気持ちよくてヤバい。そう思うと、勝手に腰が動いていた。そして、ビクッとした彼女が反射的に口を窄めてしまって、フロイドは不意打ちでイってしまった。
「うっ」
「んっ!?」
 
 五
「ふ、フロイドくーん?」
「……」
「私全然大丈夫だよ?」
「ナマエが大丈夫でも、オレは全然大丈夫じゃない」
「す、すみません」
 びちゃん、とフロイドの長い尾鰭が揺れる。
 ふたりは初体験テイク二を終えて、無事バスタイムを迎えていた。唯一、フロイドの心だけ無事ではなかった。
 彼女の唐突な行動にフロイドは最後まで振り回れ、彼女の口の中でイってしまった。つまり、彼女の口の中に、出してしまったのである。フロイドは“優しくて良い恋人”で居たいと思っている。ナマエはそーいう愛を望んでいるから。“優しくて良い恋人”はカノジョの口ん中に、せーえき出したりしない。絶対。
 フロイドは後ろから彼女をぎゅう、と抱き締めて、がぶっと彼女の耳たぶに噛みついてやった。
「ニッ!」
「もーナマエあんなことしちゃダメだからね、次やったらもっと痛いことするから」
「……」
「ナマエ? 聞いてる?」
 彼女はそぉっと後ろを振り向いて、フロイドを上目遣いで見上げる。なに、その顔。可愛いだけ、なんだけど。フロイドは片頬を膨らまして、怒ったポーズを崩さなかった。
「フロイドくん、気持ち良くなかった? もう、本当にしちゃだめ?」
「……あ〜、気持ち良かったってぇ、だから泣きそうな顔やめてよ〜。今度はちゃんとオレがダメって言ったら、口離してね」
「うん!」
 彼女が元気よく頷いたが、全力で抵抗しようと思った。落ち込んでいるフロイドが可愛かったから。
「ナマエ〜」
「ん?」
「オレ約束破られるの大っ嫌いだからね」
 にこっとフロイドに笑いかけられ、彼女は久々にウンウンと振り子のように頷くのだった。
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