初体験1/3





「 ナマエさんこんにちは」
「あ、アズールさん、こんにちは」

 彼女はモストロ・ラウンジの隅の方の一席で課題に励んでいた。アズールに席に座ってもいいか?と尋ねられて、彼女は笑顔で頷いた。今日を合わせて、彼女はフロイドと会うのは四回目になる。会うまでに電話やメッセージアプリで連絡を取っていたとは言え、かなり急展開の関係だなぁ、と彼女は改めて思った。今日も彼女とフロイドはデートの予定だった。だが、フロイドがモストロ・ラウンジのシフトに入っていたので、彼女はその後に会おうと提案した。フロイドはその提案に却下を出した。

「え、やだ。朝から ナマエに会いたいもん」
「ええ……、じゃあ」

 フロイドくん、お仕事サボっちゃうの?と言いかけて、彼女は口を閉じる。彼女は短い時間しかまだフロイドと過ごしていないけれど、分かる。フロイドは彼女が躊躇するようなことを、躊躇しないのだ。その理由は実にシンプルで、やりたくないことはやりたくない。そこに、それ以上の、それ以下の理由もない。他人の行動を制限しよう、なんて考えるつもりもないが、フロイドの行動を常識範囲内に留めて貰おうと考えるのはとても無謀なことに思えた。

「だからさ、オープンからモストロ・ラウンジに遊びに来て?」
「え」
「オープン時間はねぇ、あっ!朝こないだみたいに迎えに行く!そしたら、もっと早く会えるじゃん!」

 ぽんぽん、と予定が勝手に決まっていく。彼女がアッアッ、と固まっている間に、フロイドが納得するスケジュールが完成したらしく、ピコン、とメッセージが送られてきた。待ち合わせ時間と、フロイドのシフトが終わる時間も記載されていて、暇つぶしができるように何か持ってきた方がいいと一言添えられていた。わあ、フロイドくん相変わらず抜かりないな。フロイドは気分屋で、突拍子もない。でも、恋人に対しては、やさしく愛情深かった。

 そんなフロイドの愛情を彼女は連日たっぷりと注がれている。その内自分はフロイド無しでは生きられなくなるのでは?と秘かに怯えていた。

「じゃあ、 ナマエまた明日ねぇ。おやすみー」
「お、おやすみなさい、フロイドくん」



 フロイドは宣言通り、彼女の学校へ続く鏡の前まで迎えに来た。彼女が鏡から出てくると、フロイドは両手を広げて彼女をぎゅう、と抱き締める。そと!ここ公共の場だよ!フロイドくん!言葉ではそう言ってしまうが、彼女の小さな手もちゃっかりフロイドの背中にしっかりと回っていた。一週間我慢したからいいでしょ、とフロイドは彼女の唇を塞ぐ。

「ふ、ふろ」
「ん、分かってるってば。

 最後までしないって。フロイドは彼女の両頬を両手で包むと、朝の日差しには似合わない色を瞳に宿して問いかける。
 
「ねえ、 ナマエ」
「ん?」
「こないだの続き今日してもいい?」

 彼女は思い切り踵を上げて、フロイドの問いかけに応えた。




「 ナマエさん……もしかして、数字苦手ですか?」
「に、苦手です」

 少しの世間話の後、アズールは彼女の手元を見てにっこりと笑い掛けたのだ。良かったら、僕がお教えしましょうか、と。彼女は思わず書きかけの数式を隠してしまった。今彼女が取り組んでいた課題は、空間認識・把握に関する科目だった。魔法と数学が絡み合った学問の一つだ。彼女はこの科目がとても苦手だった。一般教養の数学も苦手なのに。数字の中に、XやYと言ったアルファベットが乱入だけでも勘弁して欲しいのに。そこに魔法が関わってきたら、もうぐちゃぐちゃになってしまう。

「数字の苦手意識に引っ張られてますね」
「え」
「メインは正しい空間をどうやって求めた上で、どれだけの魔力が必要になるか、考えることです」
「あ」

 彼女は目から鱗だった。アズールを見上げると、アズールはそうでしょう?と笑っていた。

「そもそもの目的を忘れてました」
「苦手科目ほど、変に構えてしまいますからね。
 基本的な流れを覚えようとすることもいいですが……」

 アズールが胸ポケットにしまっていたマジカルペンを取り出す。マジカルペンを軽く振ると、一つの立体的な正方形が現れた。彼女の手元のノートにも、マジカルペンを振るう。アズールがノートに数式を書くと、立体的な正方形に連動するように一直線も現れる。

「一つ一つの数式が対象にどのような影響を与えるのか、丁寧に見ることもおすすめです」
「た、たしかに……」
「本当の意味で、理解もできると思います」

 そこからも、アズールは丁寧に彼女に勉強を教えてくれた。彼女はアズールをきらきらとした目で見上げる。アズールさんすごい……!彼女はアズールへ素直に称賛を口にした。何故かアズールは少しだけ、居心地悪そうに笑っていた。最近のシンシアの様子はどうかと尋ねられて、一言二言応えていると、アズールは他の寮生に呼ばれてしまった。彼女はごゆっくりとお辞儀をするアズールにお辞儀で返して、黙々と課題に取り組んだ。課題のワークを一周したところで、後ろから大好きな声が聞こえて来た。

「 ナマエ〜」

 美味しそうな匂いに顔を上げると、料理をもったフロイドが立っていた。フロイドは慣れた手付きでテーブルへ静かにお皿を置くと、ドカッと彼女の隣へ座った。フロイドくんお疲れさまと言おうとして、言えなかった。フロイドが彼女の頬へキスをしたからだ。ご丁寧にリップ音付きで。彼女は顔を真っ赤にして、フロイドの腕を軽く叩いた。フロイドはイタズラが成功して喜ぶ少年のように、えへへと笑う。

「も、もう人前で良くないよ」
「えぇ〜?舌入れてないから良くない?」
「そもそもの判断基準に差異が!大きい差異が!」

 なんだ、そのガバガバ判定は!彼女は人前で過度なスキンシップは控えたい派なのだ。そう言えば、 ナマエって初めてキスするときも、二人きりならって言ってたっけ。お年頃のフロイドに、"二人きりなら"なんて言葉はとても魅惑的に聞こえる。フロイドはラウンジ後の時間を考えて、つい唇を舌で舐めてしまう。その仕草を見て、彼女は大袈裟に視線を逸らす。ああ、もう、 ナマエのばか。フロイドはたまらなくなって、彼女の耳元に唇を寄せて囁いた。

「 ナマエのえっち」

 フロイド独特の声に、彼女の頬がカァと赤くなる。彼女は脳内に駆け巡る妄想を振り払うように、フロイドをぺちぺちと叩いた。

「も、も!早くお昼食べよう!」
「ふふふ」



 お昼のまかないは彼女の好きなオムライスだった。フロイドはオープンから午後までのシフトだったらしく、まかないを食べて二時間ほど経った頃、彼女を迎えに来た。フロイドは彼女が心配になるくらい部外者である彼女を堂々と寮の中へ連れていくものだから、彼女はますますNRCの規則が分からなくなった。

 フロイド曰く、フロイド以外から彼女の姿が見えなくなる魔法を使っているから大丈夫だとか、なんとか。その魔法に必要な材料はかなり珍しいものだったような。彼女は度々起こるフロイドの常識から外れたことに目を瞑ることは日課になっていた。正直、そんなことよりも優先させたいものがあるから。一々気にしている余裕がないと言った方が正しいのかもしれない。

 水族館にある水中トンネルのような廊下に、彼女は足を止める。フロイドにとっては当たり前の風景の一つだが、彼女にはとても魅力的に映っているらしい。

「 ナマエ初めてオクヴィネル来たときも、通ったじゃん」
「あのときはフロイドくんに抱っこされて、周りを見る余裕なんてなかったの」
「そうなの?」
「そうなの!」

 ガラスにへばり付いている彼女の小さな頭を見て、フロイドはニヤッと笑う。悪いことを思いついたときの顔だった。フロイドは後ろから彼女を抱き上げる。

「えっ」
「帰りゆっくり見せてあげるから、ね」

 フロイドに抱っこされることは未だに慣れない。それを分かってて、フロイドは彼女を抱き上げたのだ。彼女はフロイドにね、と首を傾げられるのに弱かった。うん、と大人しく頷いた彼女に、フロイドは機嫌よく歩き出した。





「やっと二人きり〜」
「わ、フロイドくん」

 扉が閉まった瞬間、フロイドは凭れ掛かるように彼女を抱き締める。フロイドの重みに彼女の背骨が悲鳴を上げた。ぎゅう、ぎゅうと痛いほど抱き締められて、右と左と順番に両頬に頬擦りまで。フロイドの頬はつるつると滑らかで、とても触り心地が良かった。彼女も負けじと、フロイドにひしっと抱き着いた。一週間ぶりに掴まる大きな背中に、身体中の細胞が喜んでいるようだった。鼻をくすぐるフロイドの香水の匂いも、自分より低い体温も、ちょっと苦しいくらい抱き締められる力も。全部フロイドの腕の中にいる実感になって、胸がいっぱいになる。

 ひたすらふたりは互いの身体を押し付け合った。ふたりの頬が少し上気した頃、ふたりの視線は何も言わずとも自然と絡んで、そのまま触れ合うキスをひとつ。ちゅ、ちゅと繰り返して、フロイドの薄い唇が彼女の唇へ、頬へ、首筋へ下っていく。彼女は肌に優しく吸い付く感触に身体を捻って耐えようとする。それでも、やっぱり口から変な笑い声がもれた。フロイドは勝手に彼女のブラウスを捲り上げて、脇腹にも唇を押し付けていた。フロイドくんいつの間に屈んでたんだ。ひい、こしょばい。

「ふ、ふふ、フロイドくんくすぐったい」
「だってずっと ナマエとこうしたかったんだもん」
「……」

 フロイドは彼女のお腹に頬を押し付けて、彼女を見上げる。甘く垂れた目元に、困り眉。おまけに少しだけ寂しそうな声色に、彼女の母性は多いに刺激された。彼女はフロイドの頭をぎゅう、と胸に抱える。

「私も、ずっとフロイドくんとこうしたかった」
「ホント?」
「うん……うわっ」

 急に視界が回転した。フロイドが彼女を下から器用に持ち上げたらしい。彼女はお姫様だっこ以上の視線の高さに、びっくりしてしまう。このまま手を伸ばしたら、天井に手が届きそうだ。フロイドは機嫌良さそうに鼻歌を歌って、彼女を自分のベッドへ下した。彼女は朝一番に言われた言葉を思い出して、頬を赤く染める。しおらしい表情になる彼女に、フロイドは眉を下げた。

「 ナマエ」
「う、ん?」
「 ナマエが嫌がることも、怖がることも、オレはしないよ」
「フロイドくん」

 彼女はフロイドの静かな声に笑ってしまう。嬉しくて。笑われることが予想外だったフロイドは、むぅ、とむくれて、彼女へのし掛かる。フロイドの大きな手が彼女にじゃれるように、わさわさと動いた。彼女は腰や脇腹をいたずらに撫でられて、きゃっきゃっと赤ん坊のように高い声を上げた。くっすぐたくて、仕方がない。

 彼女がフロイドの手から逃れるために、うつ伏せになると、フロイドの匂いが鼻をくすぐる。今更彼女はフロイドが普段寝ているベッドに居ると自覚して、身を硬くしてしまう。同じタイミングで、フロイドも彼女の背中に少しだけ体重を乗せて来た。彼女が身体を揺すって、フロイドから逃げようとするから、身体の動きを止めてやろうと思ったのだ。

「ひゃ」
「アッ」

 タイミングが悪かった。触り心地のいいスカートの生地越しに、硬いものが触れた。丁度彼女のお尻を潰すように、それは触れていた。ぴしり、と身体を硬くする彼女に、フロイドはやべぇと身体を起こそうとした。でも、すぐにそんな必要がないことに気付く。彼女は後ろへ振り返って、フロイドを見上げた。

「 ナマエ」
「フロイドくんこないだの、続き」
「ん」
「するんだよね……?」
「う、わ……もう ナマエって本当にえっち」
「だ、だって……」

 寮服のスラックスを押し上げている部分を彼女の手が撫でていた。彼女は恥ずかしがり屋のくせに、積極的だ。彼女の熱い眼差しを受け止めるように、フロイドは彼女の唇を塞ぐ。そこからは勝手に身体が動いた。

 彼女はフロイドの首に腕を回すために、身体の向きを変える。フロイドはもっと彼女に近づきたくて、触れたくて、ベッドに彼女の体を押し付けた。シーツが乱れる音と、互いの息遣いが部屋に響く。フロイドの長い舌が彼女の舌へ絡みつく。擦り合って、時々甘噛みをするように、ギザギザとした歯が彼女の舌に沈む。フロイドの匂いに、熱に、頭がぼーっとして、腰に走るピリッとした刺激に彼女の口から甘い声が溢れた。

「やぁっ、ふろ」
「んー、 ナマエきもちい?」
「んっ、きもちい」

 眉を寄せて、蕩けた瞳で自分を見上げるだけでも十分伝わるのに。言葉でも伝えてくれる健気な彼女の姿に、フロイドの垂れ目はこれ以上ないほど甘く目尻が下がる。フロイドは彼女の髪に指を差し込んで、髪をとくように撫でてやった。フロイドの甘い手つきに、もっと、と甘えるように彼女はフロイドの大きな手に擦り寄った。

「もー ナマエって、ほんと可愛い」
「ふぁ」
「ほら、舌出して」
「ん」

 フロイドが彼女に戯れていたおかげで、彼女の服はすっかり乱れていた。フロイドの指がブラウスのボタンを外す間も、彼女はずっとフロイドの口付けに夢中になっていた。久々に肺いっぱい酸素を取り込んだときには、下着しか身に付けていなかった。ベッドの下に落ちている自分のブラウスとスカート、ソックスを横目に彼女もフロイドの寮服へ手を伸ばした。

「 ナマエが脱がしてくれんの?」
「う、ん」
「ちゅーは?」
「私はフロイドくんみたいに器用じゃないから」
「オレ器用なの?」
「たぶん、とっても器用」

 フロイドくん以外としたことないから、分からないけど。フロイドは彼女が脱がしやすいように身体を起こして、胡座をかいた。彼女もフロイドの前で膝立ちになって、ぷちぷちとボタンを外していく。ジャケットは気付いたら、いなくなっていた。きっと彼女の服たちと一緒にベッドの下に放ってあるのだろう。

 日焼けを知らない白い肌に、彼女の視線は泳いでしまう。散々抱きしめられているから、知っているはずなのに。フロイドの身体がどれだけ鍛えられているか、なんて。いざ目の前に引き締まった身体が現れると、どうしていいか分からなくなってしまった。

「 ナマエボタン外すだけ?」
「ぬ、脱がすよ、うん、ちゃんと脱がす」
「うんうん」

 彼女は緊張のあまり自分でも何を口走っているのか分からなかった。視線をどこに置いたらいいか分からない。手探りでフロイドのワイシャツを脱がそうとしていると、むにゅっと頬が潰れた。頬に触れる大きな手はフロイドのものだった。彼女の顔が強制的にフロイドの方へ向けられる。彼女の視線の先には、頬を膨らまして拗ねているフロイドの姿があった。

「 ナマエどこ見てんの?オレはここなんだけどぉ」
「だって、フロイドくん裸だし、どこ見ればいいか、わかんなくて」
「 ナマエこんなときも、小さな頭でごちゃごちゃ考えてんの?」
「うっ」
「本当 ナマエって面白すぎ。簡単でしょ、そんなの」

 彼女の視界いっぱいに、異なる色の両目が近づく。オレだけ見てればいいんだよ、なんて。そんなキザなセリフ……フロイドはわざわざ口にしない。彼女はいつの間にかフロイドの膝の上に座っていて、フロイドの深い口付けに目を見開いた。

 フロイドの長い舌の彼女の口の中でいっぱいになる。彼女の弱い上顎を舌先を丸めて、彼女の上顎を舌先で擦れば、彼女はフロイドの背中に必死で掴まる。そうでもしないと、刺激に飲み込まれてしまいそうになるのだ。ボタンを外されたワイシャツは彼女に引っ張られるだけで、簡単にフロイドの肩から落ちる。

 彼女ははぁはぁと息を荒くしてフロイドを見上げた。フロイドはにこっと目を細めていた。

「ちゃんと脱がせたねえ。えらいじゃん、 ナマエ」



 フロイドも彼女も下着だけの姿になると、彼女は再びフロイドに押し倒された。彼女の柔いお腹に、フロイドの硬い腹がくっ付く。ぴったりと、隙間なく。自分とフロイドの体温がどんどんに一つになっていく感じがして、心地がいい。彼女はなんだか、それがとても気持ちが良くて、好きだと思った。フロイドが腰を浮かせると、やだやだとフロイドの首に腕を回して、無理矢理引き寄せるくらいには好きだ。

 彼女が引っ付いてくるのはとても嬉しい。嬉しいけれども、フロイドだって彼女に触れたい。フロイドは彼女が駄々を捏ねると、ちゅうと腰が砕けてしまうキスをした。

「んっ、んんっ」
「ふふ、 ナマエかわいいねぇ」
「ふろ、いどくん?」
「ねえ、 ナマエのここ触ってもいい?」
「あっ」
「やだ?」
「ううん、や、じゃない」

 フロイドの長い人差し指がつん、と触れるのは彼女の胸だった。まだ下着に包まれている胸。下着は可愛らしいレースだった。色はフロイドの髪色を連想させるもので、彼女は恥ずかしくて、ぎゅうっと目を瞑った。

 フロイドは鈍感な男ではなかった。フロイドはじっくりと彼女が選んだ下着を見つめて、真っ赤になっている耳へキスをひとつ。「これ、可愛いね ナマエ」「ほんと?」「うん、脱がすのが勿体ないぐらい」彼女は耳元で囁かれる甘い声に、身体の芯が溶け出すのが分かった。お腹の下の方がじんじんして、太ももの奥が無性に寂しい。こないだの熱くて、擦り合って、腰が痺れるような感覚を思い出して、彼女はフロイドを物欲しげに見上げる。

 フロイドはじーっと見上げてくる彼女の瞼にちゅう、とキスをする。 ナマエまだだよ、もうちょっと我慢して。彼女は瞼ごしに感じるフロイドの唇の感触、熱にさえ、喉を鳴らしてしまった。

「 ナマエ痛かったら言ってね」
「うん」

 彼女は無防備になった胸元を隠したくて堪らなくなったが、フロイドの枕を掴むことでなんとか我慢した。フロイドの大きな手が彼女の胸に触れる。ふわふわと熱に浮かれていた彼女の頭が冷静さを取り戻して来た。フロイドの大きくて、いつもより温かい手が自分の胸に触れている。その生々しい光景に、我に返ってしまって、彼女はもじもじと身体を揺らした。

 そんな彼女の気持ちに気付かないフロイドは、慎重かつ自分の欲望を調整しながら彼女の胸に触れていた。胸の輪郭を確かめるように包み込んで、そのまま少しずつ指を沈めていく。「 ナマエ痛くない?」「いたくない」フロイドはバカが付くほど丁寧に彼女に触れる。同じ質問を三回された頃、フロイドの触れ方に変化が起きた。フロイドの手の中で、胸がむにゅ、と形を変えた。

 彼女は自分の身体の変化に驚いた。正直に胸を触れることは、そこまで刺激的じゃない。フロイドに自分のプライベートな部分をさらけ出して、見られている、触れられている。そして、自分の身体に触れて高揚しているフロイドにまた彼女も高揚を覚えていた。なのに、むにゅ、むにゅと胸を揉まれて、声が勝手に出る。

「んやっ……」
「 ナマエ可愛いねぇ」
「んっ……」

 フロイドは荒くなりそうな息を必死に抑えていた。指の先に、手のひらに触れる柔らかな感触に、興奮している自分自身も、必死に抑えていた。彼女の素肌に触れると、言葉にし難い熱が自分の身体から生まれる。顔も、身体も真っ赤にして、フロイドからの刺激を必死に受け止める彼女はとても可愛らしい。 ナマエかわいい。もっとかわいい ナマエが見たい。でも、同じぐらいもっと ナマエのこと、めちゃくちゃにしてぇって思っちゃうの。ほんと慣れない。なんで正反対のこと思うんだろ。

 フロイドはちゃんと手加減が出来る。ただ得意ではなかった。彼女に触れるときは優しく優しくと考えて、手に変な風に力が籠ることもある。ちょっぴり手が痺れそうになる。でも、彼女が目をとろん、とさせて、フロイドの名前を呼ぶ。キスして、ぎゅうってして、と腕を伸ばしてくる。そんな彼女を見るだけで、フロイドの胸は幸福感で満たされる。だから、フロイドは彼女に合わせて、彼女に触れる。何よりも、少しずつ少しずつ自分の手で乱れていく彼女の姿がとても癖になるのだ。

「ひゃ、ふ、ふろいどくん?」
「んーここ舐めてもいい? ナマエ」
「え、えっと」

 フロイドの人差し指がつんつん、と突く。ぷくり、と膨らんで硬くなっている胸の先端は、彼女が気持ち良くなっている証拠だった。彼女は両手で自分の顔をを隠すと、こくん、と小さく頷いた。すごくすごく恥ずかしい。でも、それと同じぐらいフロイドにもっと触れて欲しい。

 フロイドは恥ずかしがり屋の彼女に眉を下げて、つん、と上を向いている胸の先端に顔を寄せた。さっきまでは胸の先端の近くまでしか触れなくて、もどかしくて、甘い刺激だったのに。フロイドの口が開いて、ギザギザの歯が覗く。もうその歯に怯える彼女はいない。ちゅう、と可愛らしい音がして、フロイドの口の中へ。ちゅ、ちゅうとフロイドに胸の先端を吸われると、嫌でも口から声がもれる。新たな刺激に耐えるだけでもやっとなのに、フロイドは器用に、もう片方の胸の先端も指の腹で、くりくりと可愛がる。彼女は腰をびくんっと揺らして、もじもじと足を擦り合わせた。

「あっ、ふろいっ、んうっ」
「ん」

 胸へ触れる刺激はキスと違って、じわじわと外側から内側へ熱が入っていくようだった。恥ずかしくて、もどかしい刺激が気付いたら、気持ちよくてなっていた。彼女はフロイドの頭を抱えて、自分の胸へ押し付けていた。くすぐるように触れるフロイドの髪の感触でさえも刺激の一つになる。

 フロイドは自分の下で、もじもじと動いている彼女の太ももが気になって仕方ない。こないだの彼女から、彼女の下着の中がどうなっているか、なんて。考えなくても、すぐ想像はついた。彼女は気付かない。全然気付いていなかった。彼女が太もも動かしたり、腰を捻ったりする度に、くちゅっと音が小さく聞こえてくることに。フロイドがクラクラしそうなほど、甘い匂いを零していることに。

「 ナマエこれ好きぃ?」
「あんっ、ぇ?どれ?」

 彼女は自分の胸元を見下ろして、首を傾げる。フロイドは長い舌を出して、ぷくっと硬くなった胸の先端をぐりぐりと押し込んだ。フロイドの舌はぬるぬると別の生き物のような動きで、彼女はとても耐えられそうになかった。

「ひゃっ、あうっ、ふろい」
「今のとー」

 今度はもう片方の胸を揉みながら、人差し指だけで、胸の先端をぐりぐりと押し込んできた。

「ひゃああっ、あっ、それだめっ」

 自分の口から聞いたこともない、高い声が出る。喉が勝手に反って、目が開けられない。あ、やばい。飲み込まれる。彼女の中に残った理性が彼女を追い詰めた。思わず彼女はフロイドのうなじに爪を立てる。彼女は分かった。きゅん、と自分の下腹部が大きく収縮したのが分かった。まだ胸だけなのに、とか。ぐっしょりと張り付いている下着のこと、とか。もう、ない。もうフロイドからの刺激を受け止める余裕もないし、できない。

 彼女は異なる刺激に恐くなって、フロイドに縋り付く。彼女は思考ができないぐちゃぐちゃの状態が嫌で、フロイドくんフロイドくんと繰り返しフロイドを呼んだ。フロイドは慌てて手を止めて、顔を上げた。彼女は息絶え絶えになっていて、目は涙で潤んで、唇からは唾液は溢れていた。気持ちよさに溺れることが怖いのか。彼女はイヤイヤと首を弱々しく振っている。

「ご、ごめん、 ナマエ。ヤダだった?痛かった?怖かった?ごめん、ごめんね、 ナマエ」
「うっ、ううっ、なんかすごい」
「うん」
「落ちそうだったの」
「落ちそう?」

 フロイドの問いかけに、彼女はこくん、と頷いた。フロイドは彼女を膝の上に抱き上げて、ぎゅう、と抱き締めた。彼女の手も、足も、ぎゅう、と同じようにフロイドに抱きついて来た。よしよし、とフロイドは彼女の頭を撫でながら考える。そういや、 ナマエってこないだイきそうなときも、めっちゃ泣いてたかも。もしかして、イクの苦手とか?うーん、でもこれからのこと考えると、一回くらいイッた方がいいんだけど。自分にきつく抱きついて来る彼女のつむじにキス、横髪から耳を探し当ててキス。白く丸い曲線を描く耳も、赤くなっていた。耳の輪郭を辿るように唇を滑らして、そのまま柔い耳たぶに吸い付いた。

「うっ」
「 ナマエ落ち着いた?」
「ふ、ふふ、うん、もう大丈夫。大丈夫だから、ふふ」

 ちゅうちゅう、と耳たぶを吸い付かれるのはくすぐったいらしい。彼女の顔に安堵の色が戻って来た。きゅ、と結ばれた唇はふにゃふにゃと柔らかくなっていた。彼女が顔を上げると、フロイドがとても優しい顔で自分を見ていることに気付く。すごく嬉しいのに、なんだか照れ臭い。

「 ナマエさ、イくの怖い?」
「え、いく?……アッ、そっか、あれは、あ……」

 彼女はフロイドに言われた内容をワンテンポ遅れて、理解した。自分がどうして、あんなに怯えていたのか理解して、別の意味で頬を赤くする。恥ずかしさから彼女はフロイドの首筋に顔を埋めて、小さく口を開いた。

「 ナマエ?」
「うん、私その……イくの怖いんだと思う。
 だから、私が……とき、ぎゅうって抱き締めてほしい」
「……オレが抱き締めたら、怖くない?」

 彼女の頭が動いて、フロイドの首筋を彼女の前髪がくすぐった。フロイドは彼女に可愛いことを言われて、ぎゅう、と彼女を抱き締める。嬉しそうに身体を揺らすフロイドに、彼女の照れが限界に達してしまった。彼女は無意味に身体をもぞもぞと動かした。そのとき、自分の足の間に触れるものに違和感を覚えて、顔を青くした。

「 ナマエ?」
「あ、ご、ごめんね、途中なのに……」
「はぁい、禁止です」
「え」
「これから、ごめんねって言うの禁止」
「ええ」

 驚く彼女に、フロイドはただただ甘い表情で、ねえ?と笑いかけるだけだった。
唸りながら彼女は頷いた。

「そもそも、 ナマエは謝るようなことしてないじゃん」
「え、だって、……私ばっかり、その」
「?」
「フロイドくんに……きもちよく、してもらって、も、申し訳なくて」

 ずっとだ。彼女はフロイドのベッドに上がってから、ずっと頬も、目尻も、耳も赤くしている。もし、声色に色を付けることが出来たら、声色も恥じらう色に染まっていることだろう。胸の前で祈るように重ねている小さな白い手も、赤く染まっていた。フロイドは痛みを覚えた。その痛みは尾びれをジェイドに絞られるよりも、ズキン、と鋭いのに、とても甘美なものだった。絞られている場所は、心臓だった。彼女はフロイドの心臓をぎゅう、と締め付けるように絞るのが得意だ。

 フロイドはしおらしくて、素直な彼女にとても弱かった。フロイドは重ねられている白い手を取って、ちゅう、と吸い付く。

「フロイドくん……?」
「そもそも、オレは ナマエから貰ってんの」
「え?」

 大きな両手が彼女の頬を包む。彼女の頬がふに、と上がって、目の下に頬が集まって来た。彼女の使い魔にそっくりだった。恥ずかしがり屋の彼女が自分の心も、身体も裸にする行為を、フロイドに許して委ねてくれている。それはフロイドにとって大切なことで、とても嬉しいことだと、フロイドは言う。

「そ、それなら、私だってフロイドくんに……」

 フロイドの言葉に、打ち震えた彼女がぽしょぽしょと口を開いた。フロイドは今ばかりは彼女の遠慮がちな性格に、ムッとして強引に話を進める。

「てか、えっちってお互い気持ち良くないとヤじゃね?」
「え」
「オレだったら絶対イヤ。実は ナマエが嫌だったけど我慢してた、とか……ヤダ」

 不貞腐れたフロイドの表情に、彼女は目を丸くする。も、もしかして、私フロイドくんに失礼なこと言っちゃったかもしれない。そう。フロイドは彼女の遠慮がちな性格が原因だと分かっていても、謝られるとイヤなのだ。まるで、フロイドが彼女の身体目当てみたいな言い方で。まるで、大好きな恋人を大切にすることよりも、目の前の快感にしか目がない男と言われているようで。彼女は一瞬謝りそうになって、必死に違う言葉を探した。

「わ、私も、フロイドくんが嫌なのに我慢してたとか、やだよ」
「でしょ?だから ナマエは謝る必要ないの。分かった?」
「で、でも……」

 まだ腑に落ちない彼女に、フロイドは閃いた。

「じゃあ、 ナマエに良いこと教えてあげる。手出して?」
「うん?」

 フロイドは彼女の手を持つと、自分の身体へ触れさせる。

「ひゃ」

 フロイドの胸板は妄想よりも硬かった。白い肌はしっとりと汗ばんでいて、ほんのりと赤い。肌はやっぱり綺麗で、つるつるとしていた。筋肉の凸凹をなぞって、彼女の手は下へ下へ動かされていく。彼女の指先が下着へ引っかかる。彼女はもう片方の手で、口元を隠した。下着の上からでも目を逸らしたいほど、そこは膨らんで主張していた。彼女と同じように、下着は濡れて滲んでいた。恥ずかしいのに、はしたないのに、彼女の目は大きく開いて、じっとそこを見つめていた。

 フロイドはふーふー、と息を荒くするのを我慢する。今日あとオレ我慢できっかな。いや、ここまできたら、やるしかねぇんだけど。彼女は恥ずかしがり屋で素直なで、さらに好奇心旺盛だ。その意外性もフロイドのツボだった。自分の身体を見て、喉を動かしたり、夢中で見つめて来たり、その姿だけで十分な刺激だった。

「ふ、ふろ」
「ん、やだ?こわい?」

 ううん、彼女は静かに首を横振った。フロイドは下着を指を引っかけて、躊躇なく下へずらした。彼女の口から悲鳴は漏れたが、目はそのままガン見していた。比較対象が無くても、分かる。お、おおきい……。フロイドは熱いため息をついた。ずっと押さえ付けていて、苦しかった。フロイドは彼女の手をゆっくりと、自分自身に触れさせた。殆どフロイドの手に力は入っていなかった。いつでも、彼女はフロイドの手を振り解くことはできる。

 フロイドの唇が彼女の耳元へ近づく。彼女の胸がドキッと、跳ねる。彼女の胸は期待で満ちていた。吐息混じりの声はとても心臓に悪い。

「 ナマエの所為で、こうなってんの」
「えぇ?」

 驚いてこちらを見つめる彼女に、フロイドはにやり、と笑う。色っぽい笑みだった。

「 ナマエのかわいいーとこ見るだけで、オレも気持ち良くなっちゃうの。
 今の ナマエみたいに」
「え……?」

 もう片方の手が、彼女の太ももの間へ伸びる。軽く触れただけ、だった。くちゅり、と濡れた音がふたりの耳に届く。彼女が恥ずかしがる前に、フロイドは口を開いた。

「だから、あおいこね」
「ふ、ふろいどくん……」

 もういっぱい、だった。感情も、ときめきも、興奮も、全ていっぱいいっぱいで、彼女はパンクしそうだった。そんな彼女に、フロイドはゆっくりでいいと言うように、ゆったりと笑っていた。彼女はぽかん、と口を開いた。さっきまでの、色っぽいフロイドくんどこ行った?私が瞬きしてる間に?こんな一瞬で?

「フロイドくんばっかり、かっこよくてずるい」
「ハハ。そりゃあ、好きな子の前ではカッコ良く居たいでしょ。オレも男の子だし」
「……」

 彼女は一瞬考え込んで、再びフロイドを見上げる。どうしたんだろ、 ナマエ。フロイドはこてん、と首を傾げて、その様子を見守っていた。

「うわ」

 変な声を出してしまった。フロイドはスッと彼女を見下ろす。彼女はへにゃり、と眉を下げていたが、申し訳ない表情の中に見え隠れしているものがあった。

「私もさ、触っていい?」
「……ウン」

 そういうとこだよ ナマエ。まさか彼女からのアクションに、フロイドは一瞬言葉に詰まったが、なんとか頷きを返した。彼女はおそるおそるフロイドの形に沿うように、触れる。小さな手の平で包み込むと、その熱はぴくり、と動いた。彼女が顔を上げる。フロイドは眉を寄せて、耐えるような表情していた。彼女は期待した。その顔は気持ちいいから?それとも痛い?

「い、いたい?」
「まさか。きもちいーよ」
「もっと触っていい?」
「うん。もっと触って、 ナマエ」

 彼女は少しずつ手のひらに力を込める。手のひら越しに伝わる熱に、彼女はどうしようと戸惑った。触れてるだけなのに、なんか私も変な感じしてきた。片手ではとてもじゃないが、フロイドのものは包み込めない。その包み込めていない部分も可愛がるように、彼女はそろそろと手を上下に動かした。フロイドは鍛えられた腹筋をぴくぴくと動かして、時々「はぁっ……」と熱い吐息を漏らした。

「ねえ、 ナマエ」

 フロイドはこちらを見上げる彼女の頬に触れると、口を大きく開いた。ちろちろ、舌先が揺れている。彼女は膝立ちになると、フロイドの口を塞いだ。彼女は満たされる感覚に、眉を寄せる。大きく長い舌が自分の口内に収まって、小さな舌を絡め取って擦り合う。決して、二つの舌が一つになることはないのに。それでも、重ね合わせているときは一つになったような錯覚を受けるから不思議だ。

「んぅ、ふぁ……ふろっ」
「んっ、 ナマエもっと強くして」
「ん、うんっ」

 ぬちぬちと舌絡めせている合間の、フロイドの要望に彼女は頷いて手をごかす。くちゅ、と音がして、彼女は下を見ようとするが、キスに夢中になっているフロイドが彼女の後頭部を押さえ込んで来た。彼女は手探りで滑りが良くなった熱を、ぎゅうと強く、でも優しく包み込む。また、びくん、と反応して、彼女の手に触れる。なんか、かわいいかも。くちゅ、くちゅとい音も、滑りが良くなっていくのも、キスが乱暴になるのも、全て気持ちがいい。気付いたら、彼女は両手でフロイドのものに触れていた。

 どこで習ったわけではない。勝手に、彼女の小さな両手は動く。フロイドの反応を見て、どこを触ったらいいのか気持ちいのかな?と考えて、彼女の小さな手はねちっこい動きを覚える。熱の先端をやさしく親指で触れたとき、彼女は目を見開いた。フロイドに勢いよく舌を吸われて、一瞬息が出来なくなったのだ。

「んっ!?」
「ふふ、…… ナマエ、一旦ストップね?」
「う、うん?」

 フロイドはニッコリ笑って見せたが、フロイドの心臓はドクドクと激しかった。オレ聞いてねぇんだけど。 ナマエがこんなエロい手つきするとか。平たく言うと、フロイドはもう少しでイきそうだったのだ。これは勝手なフロイドの事情だ。 ナマエより先にイきたくない。イクなら一緒がいいし、なんなら先に彼女をイかせたい。

「ふ、ふろいどくん」
「うん?」
「その……気持ちよかった?」

 彼女が心配そうにしょもしょも訪ねて来た。答えは決まってる。またフロイドの唇が彼女の耳元へ。

「めっちゃ気持ち良かったよぉ。ありがとね、 ナマエ」
「……」

 自分から聞いて来た癖に、彼女はフロイドの言葉に顔を真っ赤にした。返事は頷くので精一杯だった。そのままフロイドは囁いた。

「オレも、 ナマエのこと気持ちよくしてもいい?」
「あっ」
「ここで」

 フロイドの長い指が、下着がぴたりと張り付いている部分をなぞる。彼女は腰をビクッと揺らして、声をあげる。フロイドの目はやさしく垂れているが、その瞳の奥には興奮が隠れていた。



 彼女は下着を脱がされて、フロイドの首にぎゅう、と掴まった。下着が離れていく感覚に、自分がどれだけ感じていたのか嫌でも自覚してしまう。フロイドは彼女の頭をあやすように撫でながら、彼女の柔らかな太ももに手を滑らした。いっそのこと、最初から触ってくれればいいのに。フロイドくんのえっち。徐々にフロイドの手が近づいて、彼女の内腿をやわやわと揉む。

「んっ」

 最初に触れたのは中指の腹だった。フロイドは中指の腹で、ぐずぐずに濡れている割れ目をなぞる。全体の具合を確かめるようになぞれば、指が沈んだり、敏感な場所に触れたり。曖昧な刺激は彼女の思考を鈍くするには丁度良かった。

「あっ、んぅ……」

 声を我慢しているのか。吐息のような小さな声が、フロイドの耳をくすぐる。フロイドは少しずつ素直になる彼女が好きなので、彼女の頭を撫でながら指を動かした。ちゅくちゅくと割れ目を往復としていると、変化が起きた。指を前へ戻したときに、芯をもった硬いものに触れる。彼女が大きく身体全体を揺らして、フロイドの耳に歯が触れた。思わず口を開けてしまったらしい。

「 ナマエちゃんと息しなよー?」
「……うん」

 恥ずかしくて、それ所じゃないんだよ!とか、思ってそう。フロイドは彼女から顔が見えないことを良い事に、悪いカオをしてもう一度触れる。つん、と優しく突くように触れると、彼女は腰がもぞり、と動いた。フロイドの大きな手が彼女の腰を抱くと、彼女の喉からひゅう、と息を吸う音がした。つんつん、と触れ続けると、そこは硬さを増して、ぷくりと膨らんできた。とろとろと熱い粘っこい液体に、フロイドの指が汚れていく。

「ふろいどくん、そこっ」
「ん、ヤダ?痛い?」
「んん、えっと……」

 彼女はフロイドを真似て、フロイドの耳元で素直になった。

「き、きもち、いい」
「……もっと触ってもいい?」
「うん、触って」

 彼女の要望にフロイドの指が動き出す。ぷっくりと膨らんだ部分を指の腹で撫でるように、触れた。にゅるにゅると粘っこい液体のおかげで、フロイドの指は摩擦も起こすことがなかった。つんつん、とおぼろげだった刺激が、直接的になって、彼女の腰が勝手に動いた。

「あっ、ん、んんっ」

 フロイドは耳元の近すぎる甘い声に、ギリっと奥歯を噛み締めた。 ナマエのせいで、オレの歯丸くなったらどうしよ。熱く硬くなっている部分に、長い中指をぴと、と軽く固定させる。そのまま振動させるように、中指を小刻みに揺らせば、彼女の腰は面白いほどに反応した。

「はぅ、あっ、ふろっ、うぁ……!」

 つんつんと触れられるだけでも、腰が痺れそうな刺激だったのに。硬くなった芯をくにくにと押し込むように触れられたり、強い振動を送られたりすると、息を止めてしまう。無理やり息を吐いたときに、コリコリと擦られて、彼女は背中ごと反りそうになる。フロイドの大きな手が腰に回っているから、逃げられるはずもないのに。勝手に身体が動いて、目の前に迫る快感を逃そうとするのだ。

「 ナマエ……かわい」
「な、んんっ、あっ」

 なんで、今言うの。再びフロイドに思考も、お腹も、全てぐちゃぐちゃにされているタイミングで、それは最悪だった。彼女にって、フロイドの言葉は魔法だ。下手な洗脳よりも、まじないよりも、効き目は凄まじい。さっきまで怖かった目の前で迫ってくる快感に、期待している自分がいる。彼女は力が抜けそうな腕で必死にフロイドの首に掴まって、小声でフロイドに告げる。もう、イってしまうと。

「ん、ちゃんとぎゅってするから」
「ん、うんっ、あっ、やぁ、あっ」
「いいよ、 ナマエ。
 大丈夫だから、そのまま……」

 素直に感じるだけでいいから。フロイドの優しげな言葉とは、対照的にフロイドの指はくちくちと一層ねちっこく動いていた。ガクガクと細い腰が揺れる。力が入らない唇から、鳴き声のような声が響く。その声に、フロイドの腰はズンと重たくなった。

「ふろいどくんっ、やっ、あっ、ああっ……!」

 一際彼女の身体が激しく震えて、一気に脱力する。フロイドは自分の腕の中で、くたりと息を荒くする彼女のつむじにキスをして、囁く。

「今回も、 ナマエ上手にイケてえらいえらい」
「……?」

 彼女はふわふわした頭で、なんだか既視感を覚える。似たような言葉を以前フロイドに言われたような気がした。





「 ナマエー?」
「あ、えっと、……うん、だいじょうぶ」

 荒い息遣いが落ち着く頃に、フロイドに顔を覗き込まれた。彼女は気恥ずかしさを誤魔化すように、うんうんと何度も頷く。正直ちょっと眠気が忍び寄っている気配もするが、ここまで来て中断するのは嫌だった。いつの間にかペタン、とフロイドの膝の上に座り込んでいたらしい。彼女はスリスリと硬い胸板に擦り寄って、続きがしたいと伝えてみた。

「んふふ、 ナマエくすぐったい」
「ん……」
「 ナマエ、膝立ちできる?」
「うん……あ、あれ?」
「あらら」

 フロイドの肩に手を置いて、膝に、太ももに、下半身全体に力を入れようとするが、彼女はペタンと座り込んでしまう。目を白黒させる彼女の頭を撫でて、フロイドは眉を下げた。 ナマエ頑張って抵抗しないようにしてたけど。正直身体かーなりカチコチに力入ってたもんなぁ。その反動で、身体が緩んでんのかも?それとも腰抜けちゃったかな?フロイドが考え込んでいると、彼女はふるふると首を横に振る。

「フロイドくん私できるよ」
「へ」
「ううん、したい。
 フロイドくんと続きしたい」

 どうやら黙り込んでいるフロイドが続きをするかどうか、決め兼ねていると思ったらしい。彼女は半泣きなりそうな顔をして、フロイドに何度も訴える。まさか彼女からストレートな言葉を聞けると思っておらず、フロイドはニヤニヤと頬を緩めそうになった。

「ん、オレもしたい。
 でも、無理はしちゃダメだからね」
「うん」

 フロイドは彼女の言葉に頷くと、彼女を抱き上げてベッドの上へ横たえた。そして、ガサゴソとベッドの隅から、ひとつのぬいぐるみを取り出した。水色っぽくて、目の色が左右異なって……それはウツボのぬいぐるみだった。

 彼女はまたウツボ?と首を傾げる。フロイドにモストロラウンジへ招待されたときも、ウツボだった。フロイドは海の生き物の中でも、ウツボが大好きなのだろうか?まさか目の前の恋人が、ウツボの人魚だとは知らない彼女はそんなことを思っていた。そもそも、彼女はまだフロイドが人魚であることも知らないのだ。

「ちょっと今から抱き締めるの難しいかもだから」
「この子フロイドくんの代わり?」
「そー。可愛いでしょ?」
「うん、かわいい」

 それに、フロイドくんの匂いがする。彼女はウツボのぬいぐるみを抱き締めて、顔を埋めた。フロイドはリラックスした彼女の様子に目尻を下げて、白い太ももに触れる。

 びっくりした彼女がそろそろとフロイドの様子を伺うが、彼女の目に恥こそあれど怖がっている様子はなかった。大きな手が優しく彼女の足を開いて、内腿に触れて、そのまま先ほどまで散々可愛がった場所へ。そこはぐずぐずに熱くなっていて、ぱくぱくと口を開いてフロイドを待っていた。

 フロイドは自分の指を見て迷った。念の為、一番短く細い指にすることにした。割れ目を擦ると、くちゅり、と音がして、彼女がもどかしそうに腰をくねらせた。そして、ゆっくりと彼女の中へ指を差し込んだ。こないだよりも、すんなりと入っていく指にフロイドはほっと息をついた。そのとき……

っ……」
「 ナマエ?いたい?」
「……ちょ、ちょっといたい」

 彼女の唸り声にフロイドは慌てて指を止める。彼女はウツボで顔を隠しているが、その声は涙声だった。注射を我慢する小さな子どもと同じ声だ。何度か行ったことがある陸の病院で、聞いたことがある。

 彼女は身体の内側が裂けそうな痛みに眉を顰める。ジンジンと響くような痛みで我慢出来なくもないが、痛いものは痛い。加えて、内臓を押し上げる圧迫感と、異物感。素直に言ってしまえば、あまり気持ちは良くなかった。

「?」
「……」

 おかしい。フロイドの様子がおかしい。今までだったら、彼女が少しでも異変を訴えたら、すぐに気遣ってくれたのに。フロイドは目を丸くして、固まっている。その視線は彼女の足の間に向けられていた。彼女は不審に思って、諸々の違和感に耐えて、身体を起こした。

「フロイドくん?
 どうし……え」
「ハッ」

 彼女は目の前の光景に、フロイドのように目を丸くして固まった。本来なら、自分の身体に恋人は言えば指が入っているところを、まじまじと見るのはかなり恥ずかしい。彼女が身体を動かしたせいで、彼女の中も動いて、フロイドの指を押し返そうと動き始めた。その感触に、放心していたフロイドが戻ってきた。

「ひ、人差し指じゃなかったんだ……」
「……」

 小指だった。しかも、最後まで入っていない。フロイドは身体がとても大きい。元々が大きいから、部分的なサイズも人並み以上にデカイ。フロイドくんの手が大きいことは分かってたけど、けど……、まさか小指まで長いなんて。こんなに長いなんて、知らなかった。

 彼女はフロイドを見上げて、へらりと笑う。フロイドも笑い返した。見事にふたりとも引き攣った笑みだった。互いの体格差は思ったよりも、手強い問題かもしれない。

「あのさ、 ナマエ」
「う

 フロイドが彼女に寄り添おうとしたとき、手も動かしてしまったらしい。彼女が痛みに眉を寄せる。慌てて指を抜こうとすると、小さな手がフロイドの腕へ触れる。

「ゆ、ゆっくりぃ……」
「あう」
「ゆっくり抜いて、お願い」
「ウ、ウン、ゆっくり」

 ウンウン、とフロイドは頷きながら、慎重に、ゆっくりと、彼女の中から小指を抜いた。小指が締め付けられる感覚も、柔らかく熱くうねる中も、フロイドの欲望を掻き立てるには十分だった。つぷん、と重たい音がして、彼女の中から押し出されるように小指が出てきた。

「んっ」
「……」

 本音を言うと、フロイドは彼女の中に入れたくて堪らない。アー、めっちゃ痛い。ギンギンだわ、こんなになったのオレ初めてかも。さすがのフロイドも、理性と性欲の狭間でグラグラとしてきた。そんなフロイドに対して、彼女はしょぼんりとして、ウツボのぬいぐるみを強く抱き締めて俯いていた。フロイドはそんな彼女のつむじにキスをひとつ。ぴく、と彼女の肩が動いて、おずおずと顔を上げる。

「 ナマエ……まだ頑張れそう?」
「うん、でも……」

 正直、指は難しいかもしれない。彼女が申し訳なさそうにしたとき、ぺろり、と唇を舐められた。そのままちゅむちゅむ、と軽く吸われて、フロイドがのしかかって来た。彼女はフロイドの重さに耐え切れず、ぽふん、とベッドに倒れ込んだ。彼女もキスに応えて、フロイドの首へ腕を回す。フロイドの分身こと、ウツボのぬいぐるみは二人の間で不憫にも潰されていた。

「んじゃ、がんばろっか ナマエ」
「んっ、うんっ……?」

 ちゅう。可愛いらしいリップ音を立てて、彼女の唇からフロイドの唇が離れて下がっていく。彼女の顎、首筋、胸元……ついでに、ぷっくりと硬くなっている先端も。「ひゃあ」そのまま柔いお腹をはむはむと軽く噛んで、フロイドの唇がさらに下がっていった。

 彼女は擽ったさと、気持ちよさで、身体をびくびく揺らしていたが、目を大きく見開いた。待って、このまま下に行ったら……彼女が身体を起こそうとしたときには、遅かった。

「あうっ」

 べろり、と舐められた。さっき痛みを感じた場所を舐められた。彼女が信じられない目で、フロイドを見つめる。フロイドは変な顔をしていた。意地悪なような、でも困ったような、やっぱり変な顔だった。

「痛くはないと思うんだけど……」
「フロイドくん」
「恥ずかしがり屋さんの ナマエには……コレ、きついよね。
 やめとく?」

 恥ずかしい。それは本当だ。好きな人に、そんな所を舐められるなんて、正気で居られる訳がない。でも、それ以上にフロイドに触れて欲しいと、フロイドに応えたいと、そう思った。彼女はまた首を横に振って、ぽふん、とベッドへ倒れ込んだ。ウツボのぬいぐるみで顔を隠すと、ゆっくりと足を開いた。彼女なりの答えだった。

 フロイドはゴクリ、と喉を鳴らして、目を見開く。まさか彼女が自ら足を開くなんて、思わなかったのだ。無意識のうちに、フロイドの口内に唾液が溜まる。

 あー、ホント…… ナマエって最高。



 ぴちゃぴちゃ。子犬がミルクを舐めるような音がフロイドの部屋に響く。そんな可愛らしい音に、シーツが擦れる音と、高い声が混じっていた。フロイドは自室の床に膝をついて、彼女の足の間に顔を埋めていた。

 ベッドの上で身を屈むのは、体勢的にキツかった。ベッドの隅までズルズルと引き寄せられたときの、彼女のキョトン顔はとても可愛かった。

 彼女の熱を溢す部分は、充分に濡れていたと思う。ただ濡れているだけで、中が解れていない。フロイドは全体をべろり、と舐め上げて、不思議な味に喉がゴキュと捩れる音を出した。ぱくぱくと開いている口にキスをして、ちゅうと軽く吸いつく。すると、彼女はビクビクと腰を跳ねさせて、柔らかい内腿でフロイドの顔をぎゅう、と挟み込む。

 彼女の匂いや柔らかさに一瞬うっとりしそうになったが、首を締められたら洒落にならない。白い太ももを両手で押さえ込んで、また彼女の足の間に顔を埋めた。フロイドは舌先を尖らして、くちゅり、と彼女の中へ舌を差し込んでいく。

「んゃっ」

 フロイドの視界の隅で、柔い肌が震えて、彼女の甘い声が聞こえてきた。痛がっている様子がないことにフロイドは安心して、そのままにゅるにゅると限界まで入れてみた。

 トン、と奥に舌先が当たる。グニグニと力を込めれば、きゅっと狭くなっている奥が広がりそうな気がした。ただ彼女は浅い所でも狭いので、フロイドはここまだ先だなと判断して、舌の抜き差しを繰り返した。

「あっ!んっ、あぁっ、ふろ」
「んぅ、…… ナマエここ?」
「はぅ、そこっ」

 単調な動きでも、繰り返せば快感を生む。すっかり異物感は消えて、彼女はフロイドの舌の動きに合わせて、腰を振っていた。

 フロイドの舌が腹側の面を擦る度に、ぬいぐるみに皺が寄るほど抱き締めた。フロイドは舌先を曲げて、くちゅくちゅと彼女が教えてくれ場所を集中的に擦り上げる。フロイドの顎を伝うほど、熱は溢れて、彼女は痙攣するように腰をガクガク揺らしてしまう。

「あっ!あっ、やぁ、またっ」
「ん、いいよ…… ナマエ」

 フロイドの優しく甘い言葉は、簡単に彼女の背中を押す。

「やぁ、やんっ、あぅ、ふろっ、うぁ、あぁっ」

 フロイドは彼女の可愛くて刺激的な声に、気分が良くなった。じゅる、じゅるると不規則にぷくりと膨らんだ部分を吸い上げて、ぐちゃぐちゃとざらついた部分を激しく擦り上げれば、彼女はあっという間にイってしまった。きゅうう、と彼女の中が狭くなって、フロイドは舌をぎゅむぎゅむと締め付けられて、急いで舌を抜いて身体を起こした。

「あっぶな…… ナマエにやられる所だった」

 彼女は身体を投げ出して、はあはあと息が荒い。柔らかそうな胸が大きく上下している光景に、フロイドは彼女には見せられない顔で舌舐めずりをした。

10

 落ちているみたいなのに、意識はふわふわとしている。不思議な状態だった。身体が熱い。迫り来る熱から解放されたはずなのに、腹が熱くて仕方ない。彼女が息を荒くして、ぼぅっとしていると、フロイドが彼女の顔を覗き込んできた。大きな手が手の甲で、彼女の頬を撫でる。

「ふろいどくん」
「 ナマエ大丈夫?嫌だった?」
「や、じゃない……。ふろいどくん」
「うん?」
「もっと」

 もっと触って。小さい声だった。恥ずかしがってるのではない。とても大きな声を出せる状態ではないのだ。

「いいよぉ。触ってあげる…… ナマエはオレにどこ触って欲しい?」

 甘ったるい声は意識なくても、フロイドの口から出た。彼女はもじもじと太ももを擦り合わせて、じーっとフロイドの腹の下へ視線を向ける。そこには、フロイドの腹につきそうなほど、硬くなっているものがあった。フロイドは彼女に負けず劣らず顔を真っ赤にして、がばりと彼女へ覆い被さった。

 フロイドは彼女の首筋に高い鼻を擦り寄せて、すんすんと鳴らした。もう我慢が出来ずに、彼女のお腹にぬちぬちと擦り付けてしまっていた。

「 ナマエそれは悪い冗談過ぎない?
  ナマエのお腹破裂しちゃうって」
「こ、怖いこと言わないでよぉ。
 い、いれるんじゃ、なくて、……こないだみたいに」
「あ、擦り合いっこ?」
「……うん」

 随分可愛い言い方をしてくれるものだ。彼女はお腹に当たる熱くて、硬い感触に、じゅん、と熱が溢れ出すのが分かった。

11

 彼女はフロイドに背を向けた状態で、ウツボのぬいぐるみに顔を押し付ける。大きなフロイドの枕は彼女の膝の下だった。

「やばい、めっちゃ気持ちい」
「んぅっ」

 彼女の白い太ももの間を、フロイドの硬いものが出たり入ったりと繰り返していた。
所謂素股だ。

 フロイドは彼女の足を少しだけ広げると、ぐちゅぐちゅになった部分へつるつるとした先端を押し付ける。ぐちゅり、と入りかけて、つるり、と滑って、ぷくり、とした彼女の硬い部分を擦り上げた。「あんっ」すっかり快楽の味を占めた彼女が甘い声を上げる。

「 ナマエっ」

 低く甘い声に名前を呼ばれて、彼女は胸もお腹も切なくなってしまう。フロイドの大きな手にやや乱暴に腰を掴まれて、ぱちゅぱちゅと腰を押し付けられるのが気持ちがいい。優しいフロイドくんも好きだけど、やっぱり欲望に素直なフロイドくんが好き。

「ひゃあ」
「ん、 ナマエこれ好きだもんね」
「あっ、んっ、すき、すきだけどぉっ」

 下から這うように、フロイドの大きな手が彼女の胸をむにゅり、と揉みしだく。おまけに、指先でぐりぐりと胸の先端を押し込んでくるものだから、彼女はベッドに胸を押し付けるような形になった。

 フロイドは自分の下で、白い背中がびくびく跳ねたり、腰がくねる光景に瞳孔が開きっぱなしだった。彼女は感じれば感じるほど、太ももに力を入れる癖があるので、フロイドは彼女がイキそうになるとすぐ分かるし、フロイドも巻き込まれる。

 フロイドはぐちゅぐちゅと熱い割れ目に押し付けながら、柔い太ももの間に出し入れをしながら、やっぱり寂しさを感じてしまう。どうせなら、全部彼女に包まれたい。

「 ナマエっ、手貸してぇ」
「えっ、んぁ、なんっ」

 フロイドは胸に触れていた手で、ぬいぐるみに掴まる小さな手を引き剥がした。その小さな手を彼女の足の間へ持っていく。彼女は手のひらに、ぬるぬるとした熱いものが触れて、目を見開く。これ、フロイドくんの。

 フロイドは器用に片手で彼女の腰を支えたまま、彼女の手を押さえて、ぐちぐちと腰を押し付けた。熱の先端を柔らかい手に包まれただけでも、フロイドの寂しさは大分満たされる。小さな手も、熱に応えるように手を筒状にして、さらに密着するように包み込む。

「はあ、それきもちい」
「やんっ」

 彼女は必死に感覚だけで、小さな両手を使って、フロイドの熱を包み込む。ときどき、締め付けるように手に力を入れると、フロイドは低く色っぽい声を出した。

 先端まで彼女の柔らかさに包まれて、部屋に籠るいっぱいの彼女の甘い匂いに、フロイドの快感の波もすぐそこまで迫っていた。本当は彼女のことをぎゅう、と抱き締めたいが、そんな余裕もなかった。

「やばい、もう、オレっ」
「あぅ、あっ、んんっ、ふろいどっく」
「 ナマエっ」

 フロイドは細い腰を掴んで、もうほぼ本能のままに腰を振っていた。部屋に響く音も、ずちゅずちゅと激しくなっていく。

 彼女は何度も何度もフロイドに触れられた所為で、全身が敏感になっていた。強引な刺激に耐性がない彼女は呆気なくイってしまう。そして、つい小さな両手と太ももに力が入った。ぎゅうっと優しく、でも力強く包まれたフロイドは彼女の後を追うようにイってしまった。

「あっ、どうしよ、 ナマエ」

 ごめん、手ぇ汚しちゃう。フロイドは小さな両手にビシャビシャと熱を出して、小さな身体を潰すように、くたりと倒れ込んだ。



12

「お、重い……」
「……」

 さきに復活したのは彼女の方だった。フロイドは荒い息を繰り返して、息を整えている最中らしい。彼女はうつ伏せの状態で、自分の下腹部辺りに手を固定させていたので、手が釣りそうになっていた。そして、その手がネトネトする。粘っこい液体に彼女はゾッとするが、フロイドの精液だと気付いて、顔を赤くした。その量はかなり多く、彼女の指の間からシーツへ溢れてしまっていた。

 彼女はフロイドの下から抜け出そうとするが、膝下に置いていた枕のせいで上手く足に力が入らない。枕と自分の手を下敷きにした上に、うつ伏せ……さらにフロイドが背中にのしかかっている状態で、彼女に打つ手はなかった。



 ジェイドが戻ってくるまでに、ふたりでお掃除に奮闘したり、一緒にシャワーを浴びたりするのはまた別のお話である。
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