「…ん?」

馴染まない少し固めのシーツを感じて、自分の状況を把握する。この目覚め方にも慣れつつある自分に驚いてしまうが、何とか身体を起こす。

広いベッドに寝ていたのは私だけだった。…一人。逃げるチャン…と思った瞬間に、襖が開いてナッシュさんと目が合う。

「よう」
「…おはようございます」

***

彼女は温泉が人並み以上に好きなのかもしれない。身体を綺麗にすると、湯船に浸かって、景色へ近づけるだけ近づいて、湯船の淵に腕を乗せて楽しそうに景色を眺めている。

確かに木々から差し込む光の加減は時間によって異なる上に、季節によって見える顔も変えるのだろう。四季の日本と言うだけある。俺が言うのもなんだが、彼女は中々お気楽な奴だと思う。
この状況で温泉を楽しめる余裕が持てるのだから。生真面目な日本人らしい所は確かにあるが、イメージとギャップがあるのもまた事実だ。

「…?」
「…」
「おい」
「…」

彼女が振り向いて、表情を固くする。こいこいと、手招きをすれば、彼女は素直にあっと言う間に、俺に近寄って来た。ちゃんと学習はするらしい。

「…」
「…」
「…?」
「…いや、特に意味はない」

彼女は分かりやすく顔を顰めた。その表情に出やすい所がより彼女を子どもっぽく見せているのだと気付き、俺は彼女の頬に指を滑らせる。しっとりとしていて、赤ん坊のようだ。

「…ちゃんと女の表情が出来れば、上出来なんだけどな」
「…!」

彼女はまた不満気に、そしてやっぱり子供らしく顔を顰めた。

***

寝過ごしてしまった上に、朝風呂をのんびりと味わってしまったため、私とナッシュさんは朝食を食べ損ねた。私が寝ている間に、情報収集でもしたのか、ナッシュさんが温泉街に行きたいと口にした。逆らう理由も術もなく、私はナッシュさんに頷いて、後ろに続く。

私とナッシュさんは茶羽織を羽織って、温泉街へやってきた。
まだ明るい温泉街は新鮮だった。ちょっと暗いくらい雰囲気の写真を観光サイトでよく見るからイメージと違ったのだ。色んな所から湯煙が上がって、独特の匂いもして、私はきょろきょろと視線を動かしぱなっしだ。

ナッシュさんは落ち着いているけれど、どこか様子がおかしい。いつもならどんどん歩みを進めていくのに、何だかゆっくりだ。

私は懐かしい痛みを感じて、眉を顰める。つい、ナッシュさんの浴衣の袖を掴んでしまった。なんだ、と見下ろされて、私はつま先を見せるように足を少し持ち上げる。

「すみません、下駄ちょっと痛くて…絆創膏貼ってもいいですか」
「…貼ると痛くなくなるのか」
「今よりは…あと、予防にもなります」
「予防?」
「靴擦れする前に絆創膏を貼って」
「…なるほどな」

ナッシュさんは納得するように頷いて、近くに座れる所があるか周りを見渡す。見つけたのか、ナッシュさんは歩き始める。

「あ、あの…」
「なんだ」
「浅めに履いて歩いた方が痛くなりにくいって聞いたことが」
「…」

ナッシュさんは私に視線を向けるが、返事は返してくれなかった。
…でも、ちょっとだけ歩き方に変化があるように見えるのは私の気のせいだろうか。


「…こ、ここは」
「…?」

た、確かに座れる、座れるけれども、ナッシュさんが足を止めた場所は自由に利用ができる足湯だった。僅かに首を傾げるナッシュさんに私は慌てて説明をする。

「えっと、ここは足湯です。
 温泉街を周って、一休みするみたいな…足だけ浸かるので、湯あたりもしないので、おすすめ?です?」

途中から、ガイドさんが入って来た。日差しも渡ってくれる屋根付き、囲いの板塀や腰掛け板にはヒノキで、木の香りが何だか心地いい。湯口には小川の石をあしらってあり、清涼感溢れる造りになっていた。

「足だけ?」
「はい、歩き疲れた足を癒すイメージをしてもらえれば」
「…」

ふぅんとでも言うように、大した関心がなさそうなナッシュさん。でも、下駄を脱ぎ始めたので、入る気はあるらしい。私はナッシュさんの脱いだ靴を揃えて、隅に寄せてから、一人分間を開けて、隣に失礼した。

温かいお湯に足だけ、浸かると言うのも中々気持ちが良い。
じんじんと少しだけ痛みを感じていた足の裏や指の間が解れていくようだった。

「…」
「…」

温泉街を景色に足湯を楽しむ、なんて贅沢な感じがする。きっとお金を使うことよりも、今私は贅沢な時間を過ごしているんだろうなぁ。隣に居る人のことは置いておくとして。

ゆったりとした落ち着く空間を時間を気にせずに過ごすなんて、とっても心地が良い。

視線を足湯に向けると、視界の隅にナッシュさんの足が入っていた。改めて比べることもないけれど、やっぱりナッシュさんの足のサイズは大きかった。下駄探すのも一苦労だったもんね。
全体的に見ても、部分的に見ても、ナッシュさんは大きい人なのだ。ちなみに態度は大きいと言うより、デカい。

「…!」

不意にナッシュさんの手が伸びて来て、私の腰を抱いたかと思うと、ずるずると自分の方へ引き寄せる。摩擦熱で若干お尻が痛かった。ぱしゃり、とお湯が音を立てて、足の指先がナッシュさんの硬いふくらはぎに触れてしまう。若干ナッシュさんの胸板に顔を押し付ける形になりながら、私はぐいっとナッシュさんのお腹に手を置いて抵抗を試みた。

「…こっちの方が癒しになる」
「はい?」
「…」

ぎゃああああ。心の叫びはナッシュさんには届かない。
旋毛にナッシュさんの鼻先の気配を感じる!呼吸の気配を感じる!

傍から見たらバカップル…。
せめての抵抗で私はナッシュさんのお腹にぐりぐりと拳を押し付けた。
それすら、手首を掴まれ阻まれてしまった。非常に悔しい。



「…」
「どうぞ」

濡れた足を見て思案している様子のナッシュさんにハンドタオルを渡せば、ナッシュさんは当たり前のように受け取って足を拭き始める。膝に片足を乗せて拭く辺りの大胆さに目を背けてしまう。だからナッシュさん、開けてますって。

私も足を拭いて、ナッシュさんに絆創膏渡さない…と?

ナッシュさんは下駄を履いて何度か足踏みをした後に、私の前で跪いた。呆然とする私は置いてきぼりで、ナッシュさんに足の裏、指まで綺麗に拭かれていて、驚いて足を引こうとしても、足首を掴まれて空しい抵抗で終わってしまう。

「…本当に小せぇな」
「…」

ガラスの靴を見る王子様のように、ナッシュさんは私の足に触れる。その様子に見惚れてしまっていると、ナッシュさんは昨日のように意地悪い顔になったので、私は意味もなく首を横に振った。

「まあ、お前は姫って柄じゃねぇか」
「…」

ナッシュさんも王子って柄じゃないと思います!言い掛けて開けられた私の口はもう慣れたように閉じられる。ナッシュさんも、言いたいのに言えない私の様子を察して、むぐむぐと不満げに動かす唇を指先で撫でてフッと笑う。バカにされているのに、毒気のない笑みに私の心の奥の方がぐらっと、したのは気のせいだ。絶対に。

***

「温泉に入ってばかりだな」

思わず零れた言葉に彼女は肩を揺らしたけれど、振り返らなかった。
独り言だと思われたらしい。

今更だが、彼女は口数が少なく大人しい。何だったっけか…りょう…、良妻賢母だったか?
日本の女は大人しくて従順だと聞いたことがある、ような気がする。でも、彼女はどことなく抵抗するところがあるから、日本人らしくないかもしれない。

夜の景色に溶け込むように、景色に近付いて彼女はまた湯船の淵に腕を置いて、星が散りばめられた夜空をときどき見上げている。見上げなくても、木々の間から紺色に近い夜空をベースに、ちらほらと光る星が見えた。

本当に時間帯が違うだけで、こんなにも見せる顔が違う。
彼女が温泉好きなのも分からなくはない。

「…ひっ!」
「…」

お湯の波で気付くと思ったが、想像以上に彼女は景色に夢中だったらしく、隣に俺が居ることにワンテンポ遅れて気付いた。聞き慣れた悲鳴に、反射的に逃げようとする彼女の腕を掴むこともすっかり慣れてしまった。

胡坐の上に彼女を乗せれば、彼女は身体を固めて、落ち着きがない。

「エロいことされるとでも、思ってんのか?」
「…」
「今はそんな気分じゃねぇから、安心しろ」

彼女の頭に顎を乗せて、彼女を拘束していた手を離しても、彼女は肩を緊張させたままだった。
まあ、簡単に鵜呑みしない方が普通だ。ここで素直に身体を預けてきたら、それもそれで彼女の神経を疑う。座っていても彼女は小さいが、意外にも顎を乗せるには丁度いい。

体重を後ろに移動させるように、後ろへ手を付いた。彼女は必死に頭を動かさないように、首に神経を集中させていて、微妙に呼吸がぎこちない。その様子が妙におかしくて、俺は思わず小さい喉を鳴らした。

そして、そのとき、彼女が唐突に顔と声を上げた。とても無邪気に、全力で、後先考えずに。

「…流れ星!」

はしゃいだ彼女の声と、鈍いがんっと、した音が重なって、俺は満天の星空を見上げながら、
逃げよう、俺から離れようとする彼女の腰を遠慮なく掴む。

「…わ、わざとじゃ…」
「った」
「え?」
「気分が変わった」

青ざめる彼女に反して、俺は機嫌よく口角を上げた。

***

「・・・ん、…んんっ」

皮膚の薄い足の甲に、ひたすら唇を落とされて、足先の感覚をなくして、しまいたかった。ナッシュさんの唇の感触を覚えてしまいそう。それくらい、私の身体にナッシュさんの唇は触れているのだ。

時々歯を立てられて、私は眉を顰めた。薄い皮膚の下にある骨に響くような痛みを感じる。鋭い頭痛のような、あの嫌な痛みに似ていて、足を引いて逃げようとしても、足首を大きな手で掴まれて逃げられない。

分かっているのに。逃げれないって、でも逃げようとしてしまう。これは本能なのか、理性なのか、正直もう分からない。

じんじんと痛みを持った肌を舌先でなぞられるのが嫌い。痛いと言う感覚が、どんどんくすぐったくなって、そして腰のあたりがむずむずしてくる。

ナッシュさんが足を強引に掴む度に、湯船の淵から落ちそうになってしまう。何とか湯船の淵に手を置いて耐えているけど、この格好だと胸も足の間も、曝け出されることになる。胸が揺れる感覚が自分でも分かる。ナッシュさんは下から、そんな私の様子を面白そうに見て居るだけ。

足を閉じようと、スカートを押さえるみたいに手を使って隠したいのに、そんな事をしたら、湯船の淵から落ちることは明白だった。可能な限り足を閉じようするけれど、ナッシュさんが許さないとでも言うように、足首をぐいっと引くのだ。

ナッシュさんは全部分かってる。私が落ちない加減で、恥ずかしい格好が嫌で抵抗になっていない抵抗を重ねようとする私を、あざけ笑って、最終的に抵抗だってさせてくれない癖に、完全に支配しようする訳でもない。

この人は本当に意地悪い。

少しの希望を見せて、そこを狙って足掻こうとするのに、絶対に手は届かない。だからって、完全に諦めて、ナッシュさんに身をゆだねることだって、したくない。私が諦めたら、ナッシュさんは面白くなさそうにして、私を抱くかもしれない。ううん、やっと諦めたかって満足した笑みを浮かべるかもしれない。

でも、ナッシュさんだって分かっているんだ、きっと。抵抗した先に何があるかなんて、関係なくて、私が最後まで揺れない意志の強さも、いっその事と投げ出す勇気も、どちらもなくて、本当はぐらぐら揺れながら、抵抗することに必死な私を笑ってる。

ふくはらぎに深く沈み込む歯の痛さに、思わず目を見開く。

「いっ、たい…」
「…」

たぶん血は出ていない。
涙で滲む視界で、ナッシュさんが赤い噛み跡が付いたふくらはぎを見せるつけるように、赤い舌を思い切りだして、べろりと舐める。まるで、ドラマで犯人がナイフを舐めるような、そんな不気味さがあった。品のないはずの仕草なのに、そう感じはないのは何でだろう。ナッシュさんだから?

「やだ」
「逃げんな」

柔らかいふくはらぎを噛まれることは単純に痛みしかなくて、嫌だった。痛みに怯えて、いやいやと首を横に振る自分に私は呆然とする。ナッシュさんと出会った夜は、与えられるなら痛みが良かった。痛みに耐える方が、正気を保てると思ってから…、でも今の私はどう思ってる?身体に感じるなら、痛みと、快感…どっちがいいって、思ってるの?

少しずつ、でも確実に、私の身体はナッシュさんに変えられている。

「どうした、急に泣き出して」
「…」

ナッシュさんは意外そうに私を見て、私の足首から手を離した。早く、この拘束から抜け出したかったのに、足首から強い力と、固い指先の体温が離れた瞬間に感じる、寂しさに、私はまた自分に戸惑ってしまう。

身体を抱き締めて、小さく蹲った。もうナッシュさんに触れられたくない。お姉ちゃんの事が頭から抜け落ちるほどに、自分の身体の変化に私の心が付いていけなくなっていた。

**

彼女は唐突に泣き出した。その様子は恐怖に怯えると言うよりも、何かショックを受けたような、そんな顔をしていた。身体を丸める彼女の身体を一応確認するが、泣くほどのことをした覚えはない。

彼女が泣くこと自体はいいが、どうして泣いているのか分からないと言う状況が気に入らない。

無理やり彼女の顎を掴んで顔を上げさせれば、潤んだ目が俺を見上げる。その瞳には一つの満足感と、恐怖が入り混じっていた。彼女の瞳に、悪い顔をした自分が映り込む。

「そのままでいい」
「え…?」
「必死に足掻こうとしているお前の方が魅力的だ。
 俺をがっかりさせないでくれよ?」

耳元で囁けば、彼女が俺の胸板を押して、その反動で湯船の淵から落ちた。耳を隠すように手で押さえながら、彼女は俺を睨みあげる。その目付きは彼女と初めで出会った夜の日のようだった。

目付きはそのままでも、首筋から肘までにかけて付いた赤い痕、所々に残る歯形、そして、彼女の胸と、足の奥は目に見えていなくても、少しずつ俺の思い通りになっている。それは彼女の様子を見れば、分かる。どうして、隠そうとするのか。

「…湯冷めする」
「…」

彼女に手を差し出しても、彼女は警戒心を緩めないまま俺を見上げるので、俺は笑いながら、彼女を抱き上げて、湯船の中へ戻った。彼女の変化はすぐ身体に表れるようで、せっかく解した身体も、また緊張感で、固くなっている。

膝の上で顔を背けて抵抗をし始めた彼女に、俺は振り戻しに戻った気は全然しなかった。むしろ、そう簡単に手懐けられない方が面白い。

「…!」
「最初の夜を思い出すな」
「…」

向き合うように抱き直せば、彼女の手が自然と俺の身体に触れて、離れる。単純に身体を安定させたかったんだろうが、思い返したように、手は引っ込んでしまう。最初の夜、彼女は変な風に手を遊ばせて、俺に触れるなんて殆んど抵抗するときだけだった。動く度に、ちゃぷちゃぷとお湯が音をてて、その波が俺たちの身体に触れる。

「んんっ」
「…こうやって、お前の舌に触って」
「…んっ」

彼女の口の中はやっぱり狭くて、温かく、逃げる舌を捕まえれば、指の間で暴れ回った。舌を捕まえたまま、彼女の足の間に手を忍び込ませる。お湯とは違う湿り気に、俺は口角を上げてしまう。彼女は目を見開いて、俺から離れようとするが、舌が捕まっている所為で、自分の首を絞めることになってしまったようで、涙目になりながら、俺の肩に掴まった。

「やっ…ああっ」
「…」

ぬるぬると指先が滑る中でも、主張をしてくる部分を指先で触れれば、彼女は嫌そうに眉を顰めながらも、口から声が漏れてしまう。そして、彼女の中に指を侵入させると、指が沈み込んでいく。深く差し込むと未だに彼女は苦しそうにするので、取り敢えず浅い部分を擦るように、指を動かすと、肩を掴む彼女の力が強くなる。

「や、だ…あ、…あっ、…んんっ」

彼女にとって、外と中の刺激は強いようで、腰をがくがくと震わせて、声を上げる。口の中に俺の指があっても、閉じようとしたり、息を止めようとしたり、自分なりに抵抗しているが、結局自分の息を乱すことになっていた。

唇の端から唾液を零して、眉間を寄せて快感に耐えつつも、腰を振ってしまう彼女を、俺は顎を引いて見上げるように視線を向ける。彼女の腰の揺れが大きくなる度に、お湯も激しく波を打つ。その音ですら、彼女の羞恥心を煽っているのか、彼女は可哀想なほど、顔を赤くしている。

「できるじゃねぇか」
「…なに、が…」

口答えしてくるようになったか。
彼女に睨まれて、俺の支配欲のようなものが刺激されて、血が熱くなるのが分かる。

「女の顔になってる」
「…!」

彼女の口から指を抜いて、べだべだになった指先で胸の先を撫で上げれば、彼女は抵抗する余裕もなく、俺にしがみ付くことになった。

やだやだ、と彼女が激しく首を横に振る仕草に、俺は彼女の腰を思い切り抱いて、差し込む指の深さをより深くして、外の部分は親指は労わるように撫でてやる。貫くような刺激と、燻るような刺激に彼女は弱いらしい。

「あっ…だ、め…あっ、やっ…、あっ、…!」

唇から言葉になってない音を零すように彼女は鳴くと、一際大きくお湯が波を打った。そして、息を荒くして肩を上下にさせながら、俺に凭れ掛かって来た。両手で彼女を抱き締めれば、彼女の身体がぴくり、と震える。

「上出来だ」
「…んっ…」

囁かれた耳元を隠すことも、俺から離れることも、できない彼女は、素直な反応を返して来た。
甘く漏れた声には俺の機嫌は悪くなかった。

「顎のことは特別になかったことにしてやる」
「…」

彼女は少しだけ顔を上げて、今朝見たような顔で、大きく顔を顰めて見せた。せっかくの女の表情をすぐ隠してしまう彼女に、勿体ないと思うと同時に、もっと引き出したくなっている自分が居ることに俺はまだ気付いていなかった。

***

「…」

最悪だ。こんな自己嫌悪に飲み込まれるのは初めてかもしれない。今日こそ、一日観光で終わるかと思ったのに。流れ星とか言って、はしゃいでいる場合じゃない…。結局あんなことされて、気付きたくなかったこと気付かされて、くたくたになった上に、浴衣まで…。

完全に手の上で踊らされてるし、好きにされてる…。

「おい」
「…」

襖が開いて、ベッドの上で小さくなっている私を、ナッシュさんが見下ろした。反応を返すことも億劫で無視していると、大きくベッドが揺れて、私はころんと転がりそうになる。遠慮なく、私の横にナッシュさんが座った所為だった。

「…え」
「温泉の後はこれなんだろ?」
「…あ、…はい」

唖然としながら受ける取ると、ナッシュさんが呆れた顔をした。

「お前自分で説明して忘れたのか…」
「…」

いや、そういうわけじゃないですけど。私は渡されたコーヒー牛乳を見つめたまま、唇を噤んで何も言えなかった。だって、覚えてたとしても、まさか買って来るとは思わないし…。

「ああ…あんなことしながら、温泉入った後とは説明してねぇな」
「…!」

バカにするように笑うナッシュさんの言葉に、顔を真っ赤にすれば、ナッシュさんは鼻を鳴らして私を見下ろす。

やっぱり…、この人きらい…!

- ナノ -