身体に染み付いたタバコや酒の匂いに眉を顰める。
別に苦手と言うわけではない。
昨夜、決して匂いは強くはないのに、妙に居心地のいい匂いを振り撒く女を抱いた所為だろうか。
やけに、タバコや酒の匂いが気になった。
ホテルに着き、部屋に入りシャワーを浴びようとバスルームへ向ける足を止めた。
部屋に人の気配がするのだ。
そして、無防備に聞こえてくる寝息の主を見下ろして、俺は頭を抱えそうになる。

どうして、居るんだ。
普通強姦されかけた男の部屋で、こうも無防備に寝れるものだろうか。
平和ボケしている島国の住民の考えることは本当に分からない。理解もしたくないが。

シーツに包まって、柔らかそうな丸い頭部をだけ見せて、
人のベッドで眠りこける彼女からシーツを取り上げて、俺は昨日のように彼女を抱え上げた。

***

「…?…???」

不思議そうに俺を見上げる彼女の身体に触れれば、彼女はぴくんと、肩を揺らして、
頬を赤く染める。シャワーを浴びさせたからか、まだ濡れている髪が頬に張り付いていた。

快感を覚えた彼女が俺の指一つで、恥らないながら股を濡らすのを見ることが面白い。
諦めれば簡単に気持ち良くなるだけなのに、彼女は毎回バカみたいに抵抗を繰り返す。
無駄に足掻けば足掻くほど、苦しい思いをするのは彼女なのに。

そして、彼女の身体に唇を寄せようとした。

***

きゅ、きゅるるる。

そんな色気のない私のお腹の音に、ナッシュさんは目を丸くした。
たぶん、一瞬何が起きたのか理解出来なかったんだと思う。

ナッシュさんは盛大に舌打ちをかまし、部屋の電話を手に取った。
ぺらぺらのルームウエアに身を包んだころに、ルームサービスで頼んだものが届いて、
ソファとテーブルの方へ移動させられた。
ベッドの上ではご飯を食べてはいけない、と言う人なのだろうか。

テーブルに置かれたシンプルなサンドイッチと、オレンジジュース。
オレンジジュース…、妙に子どもっぽいチョイスにどこか引っかかりつつも、素直に頂くことにした。
人間って空腹に耐えれないと思うの。

私がサンドイッチを食べている間、ナッシュさんはシャワーを浴びに行ったり、
スマホを触ったりしていた。
時々視線が合うと、何見てんだと言う顔をされた。
つい、すみませんと謝ってしまった。私悪くないのに。
だって、何で腰にタオル一枚で居るの…?そんな如何にも、今から、そのヤ

「食い終わったか」
「!」

ラスト一口は大きかったが、口の中に放り込んで、オレンジジュースで流し込む。
急いで噛んで、噛みまくって何とか飲み込んだ。
そんな私を改めて確認するように見下ろして、ナッシュさんはまた無遠慮に私の顎を掴んだ。
い、痛い。顎割れる。

「…」
「…」
「歯」
「?」
「磨いて来い」

深く考えてはいけない。
言われるままに、私はバスルームへ向かって言われた通りに歯を磨く。
なに、さっき口臭チェックでもされたの?
ホテル特有の小さい歯磨きの蓋を開けながら、私は首を捻った。

***

「や、…ん」

鼻にかかったような吐息や、甘ったるい声をもらすたびに、
彼女は自分の指を噛んで、俺が与える刺激に耐えようとする。
彼女の細く白い指に残る小さな歯型に、俺は少し気をとめつつ、彼女の太ももに舌を這わせた。

唇でなぞって、吸い付き、微かに付く痕を舌先で強めになぞれば、
彼女の足はぴくんぴくん、と揺れて、腰も浮く。
身体のどこもかしこも、小さく細い彼女は肉が付いて居ても良さそうな場所に肉がない。
そんな彼女の中で、唯一柔らかそうな場所がある。
感じる度に、腰と一緒に揺れる胸は思わず鷲掴みにしたくなるほど、そそるものがあった。
幼い顔には似合わない。

「…え、やだ、まって」
「静かにしろ」
「んっ」

身体を反転させて、うつ伏せにさせると、状況が分かりづらくなることが不安なのか、
ぱたぱたと足を動かして抵抗をする。
小さな頼りない弱弱しい背中に体重をかけるように、覆いかぶされば、
ぐえっとカエルが潰れたような声が下から聞こえて萎えそうになった。

「どうせ鳴くなら、色っぽく鳴けよ」
「そんな…」

無理とでも続けようとした口から、とびきり高く甘い声が零れた。
昨夜、俺に好きにされて自分でも知らない一面を引き出されたときのように、
彼女は目を白黒とさせて、力の入らない唇を震えさせた。

「へえ?
 指よりこっちがいいのか」
「…」

真っ赤な首筋や耳は元々の肌の白さがあるからこそ、映える。
彼女の肩に顎を乗せて、密着すると俺と彼女の、身体の隙間がなくなるようだった。
俺も、らしくもなく興奮しているのかもしれない。
しっとりとした柔い肌に触れることは純粋にとても気持ちがいい。

俺が動かさなくても、息を乱している彼女の身体は、彼女の意思とは関係なく、
整えるために呼吸を繰り返しているのに、俺に触れてしまう。
また、そしてぴくんぴくん、と腰を跳ねさせて、苦しそうな息遣いに元通り。

細い見た目よりも、意外に柔らかい内ももに挟まれた俺のものを動かしてみると、
彼女は抵抗でもしようとしていたのか、突っ張っていた肘がへにゃりと折れた。
完全に突っ伏す彼女の反応に、興奮が背中を走るようだった。

昨日まで何も知らない生娘だった彼女が、野郎のものに、自ら扱かれてにいって、
快感を前に手も足も出ない彼女の姿がとてもいい。
完全な敗北を形容したような、そんな感じがして、とても気分が良い。

「飲み込みが早い奴は嫌いじゃない」
「や、だ」

耳元で囁けば、ご主人にいい子な上のお口はまだ抵抗の言葉を口にする。
反対に下のお口は可哀想なくらいに素直だ。
俺のものはすっかり、彼女の所為で汚れてしまっていた。
そのことを知らしめるように、俺が意図的に動かせば、湿っぽい音が響いて、
彼女は枕に顔を押し付けて、やはりまた抵抗を重ねる。

彼女が昨日覚えたばかりの、一番敏感な所を扱くようして重点的に動けば、彼女の腰の揺れが、
俺の身体に直接ぶつかって伝わってくる。
身体の揺れだけじゃ、足りない。

下から掬い上げるように、彼女の首に手をかける。
細くて折れそうな首を掴むようにして、手を滑らせて、顎を掴んだ。

「…はぁ」
「逃げんな」
「んうっ」

彼女の小さい唇を割って、口の中に指を突っ込めば、
ぬめぬめとして温かい感触が余計に俺を昂らせる。
きっと、彼女の中も、この口のように小さく温かいに違いない。
疑似的な感覚を味わうように、俺は指も腰も動かした。

その度に、苦しそうな声に混ざった甘い鳴き声を増やすように、
俺はもう片方の手で彼女の胸を触れる。

薄い暗い部屋の中、小さな彼女を無理やり犯していると、本当にガキを襲っているような錯覚に陥りそうになる。

「あっ…んんっ」
「…」

高くいやらしい声を出して、腰を捻らせる彼女の姿を見下ろして、
いや、こんなガキは居ないかと一人でごちる。
ここベッドの上、男と女しか居ない。

「今日は俺を、ちゃんと覚えろよ?」
「…!」

首を横に振って拒絶しようとするが、口の中に指を入れられたままの彼女は
満足に動かすことが出来ない。
胸を触れていた手で、彼女の頭を優しく撫でてやる。

「大丈夫だ」
「…?」
「お前は…飲み込みが早いみたいだからな」

その言葉とともに、一歩でも間違えれば彼女の中に俺が入ってしまいそうな、
そんな腰の動き方をすれば、彼女はシーツを強く掴んで、髪を振り乱した。
抵抗のつもりで、足を閉じようとして来るが、俺からして見れば、
有難い刺激をもらっているだけである。

鋼のような彼女の理性には心から褒め言葉でも言ってやりたい。
ここまで追い込まれて、紛れもなく感じているのに、何故そこまで抗う必要があるのか。
真正のマゾか、何か?

「は、あ」

俺も、そろそろかもしれない。
彼女の腰を支えて、彼女の肩に顔を埋めたとき、また妙にいい匂いがした。
うっとりすることもなく、甘いわけでもない。ただの、いい匂い。
これと言って特徴もないが、もっと嗅ぎたくなるような、そんな匂い。
鼻をこすり付けるようにすれば、それすら刺激になるのか、
彼女は喉を揺らしてか細く鳴いた。

***

視界が揺れる。
私が揺れているのか、それ以外が揺れているのか、よく分からない。
昨日は温かいくらいだったのに、背中に熱いナッシュさんの身体があって、
ぴったりと張り付くように。
身長差があるからか、どこか歪な気がする。

でも、ナッシュさんは決して私から手を離さなくて、ナッシュさんに与えられる刺激よりも、
身体全体で、ナッシュさんの熱を感じていることの方が辛かった。

どろどろ溶けるように、意識がなくなりそうだ。
本当に瞼が重くなって、意識を飛ばしそうになったとき、一際強くナッシュさんが私の腰を抱いて、
私の敏感な所を突いた。
思わず身体全体に力が入って、きゅうっと太もも締めるような形になった。

そして、ナッシュさんの低く唸るような声と、熱い息が耳に吹き掛けられて、
本当に意識が飛びそうになった。
昨日味わった息苦しさに溺れながら、私はナッシュさんの指を咥えたまま、
声をもらした。

太ももにあった熱くて固い塊が引き抜かれて、私は昨日と同じように身体を投げ出すことになった。
太ももに感じる違和感に眉を顰めていると、ふぅふぅと動物のように息を荒くしたナッシュさんが、
私の首筋に顔を埋めたまま、息を整えるので、勘弁して欲しい。
息遣いの途中でも、ときどきナッシュさんの優しい声色が聞こえて、
お腹の奥で何かが溶けるように、じゅわっとなった気がした。

「…」
「どうした?」

声も息も乱していないはずなのに、ナッシュさんは様子を伺うように私の顔を覗き込むが、
その瞳には心配なんて感情はもちろんない。
黙って首を横に振れば、ナッシュさんは熱く大きい手で、ぐっと私の下腹部を押さえる。

「明日はここで、気持ち良くしてやる」

肌の上から触れただけなのに、またさっきの感覚に襲われて、私は戸惑いを隠せなかった。
そんな私をナッシュさんは楽しそうに見下ろして、舌なめずりをした。

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