5万打 | ナノ

クリスマスダンス


※キャラクターのイメージが損なわれる可能性があります。



誰しも知られたくないことの一つや二つあるだろう。所謂、黒歴史ってやつ。何歳まで親と一緒に寝てたとか、初恋は近所のお姉さんだったとか。中学の時気になっていたヤツに、アホみたいなちょっかいしか出せなかったとか。まあ、それはいい。それはいいのだが、今の俺には知られたくない黒歴史がある。特に彼女のナマエには知られたくないそんな黒歴史。


高校時代、部活に明け暮れて高校も工業で女と縁のない生活を送っていた。そんな生活も部活を引退して、就職の内定が決まったことにより終わりを告げた。時間をもて余していた俺はひょんなきっかけで彼女ができて、ああ、俺の外見ってのは結構女受けするんだなって理解して、その味を占めてからの行動は誉められたものではなかったと思う。

「いつか痛い目みるぞ」

そう言っていたのは誰だったか。
まさかその「痛い目」ってやつと直面する時が今日。しかもクリスマスって日に来るとは思ってもみなかったわけで。俺は今更ながら過去の行動を死にたくなるほど後悔するはめになる。


‐‐‐‐‐‐‐‐


中学のころ、前の席だったナマエの凛とした後ろ姿を案外俺は気に入っていた。そんな俺に初めて向けられた、敵意むき出しの好戦的な眼差しに人生で初めて感じる類いの高揚感を覚えた。
ふとしたことで、ナマエは女なんだなと意識してからは、どうにか気を引きたくてアホみたいなちょっかいを出すくらいにあの頃の俺はナマエに引かれていたと思う。

中学を卒業して、ナマエはそれなりの進学校へ行った。学校が違えばナマエを思い出すことも無くなり、俺の中では時の人となったナマエ。部活に明け暮れ、それが終われば就活に追われ。それから解放されて仕事に追われる日々を送る前まではそれなりに遊んで、それなりにいろいろ覚えた。成人式の日にナマエに再会して、付き合ってもないのに尽くしてやるくらいにはナマエに再び引かれていた。

その気になれば無理矢理に自分の我を押し付けられるが、気づいた時にはそれを抑えて待ってやるくらいには惚れていた。
キスしただけで真っ赤になって、いくらでもそういうチャンスはあっただろうに貞操を守ってきたコイツを、大事にしないといけねえなと柄にもないことを思うくらい惚れている。

クリスマスの話が決まった途端に、分りやすくバイトを始めたナマエ。しかしながら今汗水流して働いたところで給料が入るのは来月だぞって言葉を呑みこみ、馬鹿だな可愛いじゃねーかって思ってしまう程には惚れている。

つまり俺はかなりナマエに惚れ込んでいる。


「お前何が欲しいの」
「え? ……あ! クリスマス?」
「他に何があんだよ」
「んー……。鞄、かなぁ。この鞄ファスナー閉まんなくなっちゃって」
「どんなの」
「どんなの?」
「なんも言わねーとエコバッグになるぞ」
「今くらいの大きさでファスナーついてるやつ! それで出来れば濡れても大丈夫そうなやつ!」

俺はブランド名が出てくると思って身構えていたにも関わらず、拍子抜けの答えに肩の力が抜ける。それと同時に喜ばせてやりたいとも思った。

「二口は? 何か欲しいのある?」
「マフラー」

ハテナマークを浮かべながら「マフラー?」と俺とは違ったイントネーションで答えたナマエは、俺の言う「マフラー」が、車の一部であることは分かっていないらしい。

「わかった」

そう言って顔を綻ばせるコイツに、マフラー違いの訂正をする気にはならなかった。


‐‐‐‐‐‐‐


クリスマスのために高層階のホテルの部屋を予約して、プレゼントの鞄は仕事終わりに何軒か店を見てまわった。最初こそどれがいいか真剣に悩んではみたものの、最後には面倒臭さが勝ってチャックが付いていて生活防水がついたいつもナマエが持ち歩いていたような鞄を買った。次からは絶対に本人に選ばせる。飯に関してはナマエが予約すると息巻いていたので、クリスマスの事前準備とやらは滞りなく終了した。

そして向かえたクリスマス当日。クリスマスといえど俺は普通に仕事。仕事終わりに急いで寮へ戻り、シャワーを済ませてそれなりの服装へ着替え待ち合わせ場所へ向かう前にホテルへ寄った。鍵を受け取り、代わりにクリスマス丸出しのラッピングを施された荷物を預ける。

まだ時間には余裕があるが、足早に待ち合わせ場所へと向かった。吐き出す息が白く色付いているが、目がチカチカするような装飾だらけの街並みがその事をどうでもよく思わせる。そんな景色は外にいるはずなのに、小さい頃に好んでいた玩具屋の店内を思わせた。賑やかな街中を進む人波の速度が遅く感じられるのは、俺の気が立っているせいだけではないはずだ。



「二口お疲れ」

待ち合わせ場所へつけば、いつもより洒落た格好をしたナマエが既に俺を待っていた。クリスマスなんて本当はどうでもいいが、これを口実にあれこれできるなら悪くない。
俺のことを上から下まで視線を動かして確認したナマエは、ばつかが悪そうに「コース料理じゃないんだけど」と口にした。スーツを着るような職場ではない俺が、仕事帰りにそのまま来ると考えて気を使わせたのだろう。

「別にどこでも構わねえよ」

これじゃあ俺が張り切っているようできまりが悪い。いや、散々待たされたんだ。張り切りもするだろと己を納得させ、いつもなら勝手に動き苦言を吐き出す口を意識的に閉じた。つまらないことを言って今日を台無しにはしたくない。

「店どこ?」
「えーと、こっち」

スマホを見ながら歩くナマエは、ただでさえ浮かれきった街中では頼りない足取り。なんか危ねえな。そう思っていれば早速知らねえヤツにぶつかってペコペコと頭を下げている。

「貸せよ。お前にナビさせっと日付け変わりそうだわ」

あぁ、習慣ってのは怖いもんで、気を付けようと思ったそばからコレだ。ムッとした顔をしながら俺にスマホを差し出すナマエは気を悪くしたようだった。ナマエにそんな顔をさせるのはいつものことだが、その機嫌を回復させる術は未だに知らない。無能な自分に思わず舌打ちしてしまって、本日二度目の後悔。

「そんなに怒らなくてもいいじゃん!」

いや、怒ってねえよ。お前こそそんなにプリプリするなって、いつものことじゃん? そんな地雷だらけの言葉は呑み込んだ。呑み込んだが、ふんとわざとらしく顔を背けられてまた口が滑る。

「呆れてんだよ」

みるみるつり上がる目。これはマズイ。さすがにマズイ。待ち合わせてものの数分でこの空気とか最悪過ぎる。

「あー、違う」
「何が」

いつもなら痴話喧嘩で済むようなことも、あれこれできるクリスマスはそれを許してはくれないらしい。

「……悪い」

俺の情けない蚊の鳴くような声はナマエに届かなかったのか「え?」と、間の抜けた返事をして俺を見上げるだけ。

「だから!」

悪い、ともう一度言うには気恥ずかしさが勝って「もー行くぞ」と無理矢理に手を引っ付かんで視線をナマエのスマホの地図画面へ向け先程より早いペースで歩く。歩きながら握ったナマエの手が、仕事で触れる工具のように冷たくて驚いた。そこで漸く髪から覗く耳が赤いことに気づき、よく見れば頬やら鼻やらも赤く染まっていた。

「お前いつから外にいたんだよ」
「え?」
「どっか店入ってりゃよかったじゃん」
「お店、混んでたし……」

クリスマスだしな。世の中商法にのせられすぎだろ。まあ、俺もその一人ではあるが。そんなことを考えていると「それに」とナマエが言葉を続ける。

「早く会いたかった……し、」

まじかコイツ。なんだそれ。クリスマスだからって浮かれすぎじゃね? 寒さのせいなのか、そうではないのか。ナマエの赤い顔がアホみたいに可愛く見えてしまった俺も、クリスマスに浮かれる馬鹿その2であった。

「バカじゃねーの」


‐‐‐‐‐‐‐


ナマエが予約した店は、普段なら行かないような和食屋だった。個室なんだとなぜか偉そうに話す姿が笑えた。二人して緊張しながらも、少しのアルコールと正直俺には味の良し悪しなんか分からない、兎に角上品な味の料理を口にした。ナマエは「美味しい」と言っているので、たぶん旨いのだと思う。
長居をするような店では無かったため、食べ終わってから早々に店を出ると、「写真撮るの忘れた」と落ち込むナマエ。どうやら機嫌は直ったらしい。

「イルミネーション見るんだろ。そんとき撮りゃいーじゃん」
「そっか、そうだね」

大して飲んでいないのに、飯を食べる前よりも赤い顔がなんでかいつもの二割増し可愛い感じに見えた。クリスマスってやべーな。今まで侮ってたわ。

一際賑やかで人がごった返している場所。人混みに紛れてたどり着いた巨大なツリー。綺麗ではあるが、人がうぜえ。歪みそうになる顔に力を入れて、隣にいるナマエに視線を落とせば「綺麗だね」とクリスマスの街並みを閉じ込めたような瞳を輝かせていた。そういえばいつもと髪型ちげーな、見たことないコート着てんな、そんでも相変わらず鞄のファスナー開いてんな。俺が考えていたのはそんなロマンの欠片もないこと。その思考がバレたのか、不意に交わった視線。

「写真! 撮りたい!」
「どーぞ」
「どうぞじゃなくて、一緒に撮るの」

「あ、その前に」と鞄を漁りクリスマス仕様の袋を取り出すナマエ。おいおい、今渡すのかよ。その赤と緑のリボンかついた袋を俺が持ち歩くのかよと、こめかみの辺りがピクリと震えた。

「はい」
「あー、……ドウモ」
「荷物になるから今つけて」

ああ、その手があったかと感心している俺の返事を待たずに袋をあけて、マフラーを手に俺へと腕を伸ばすが勿論届く気配はない。「屈んでよ」と文句を言う顔がやけにいい女に見えたのは、酒に酔ったのかクリスマスの雰囲気に酔ったのか。……前者であると願いたい。

「へいへい」

屈んで目線を合わせてやれば、満足げに笑って俺の首へ手を伸ばすナマエ。首に感じる肌触りのいい感触と、知らない香り。コイツなんかつけてんのかな、つーか顔ちけーな。そう思ったときには唇を寄せていた。
柔らかい感触と、べたりと口に何かが張り付く感覚。

「何かついたんだけど」

顔を離せば、コイツまだ顔が赤くなるのかってくらいに顔を上気させて「馬鹿」と一言。人前でこんなことをするなんて、自分自身に驚き本当にバカじゃねーのと思う。クリスマスに踊らされすぎだ。それと同時にこれからホテルへ行ってすることを考えると、ナマエはこんなんで大丈夫かよという不安と、どうなるんだ? っていう好奇心。それを誤魔化すように自分の口を拭えば、うっすらと赤いモノが手の甲に付いていた。

「二口、マフラーって車の排気口のことだった?」
「あ?」

視線を下げていじらしい仕草をしながら不安げな声色をしたナマエ。

「調べたんだけど、よく分からなくて……」
「いや、コレ。俺欲しかったやつ」
「本当?」
「おー。……サンキュ」

くっそ恥ずかしい。くっそ恥ずかしいが、ナマエの笑顔に救われる。まじで車のマフラーをプレゼントなんかされたら俺は死にたくなったな確実に。

「じゃあ、写真とろ」

そういえばそうだったと、隣に並んでナマエのスマホ画面を見ていれば腕が短い短い。「貸せよ」そうでかかった言葉は他の音にかき消された。

「撮りましょうか? 二口くーん」

名前を呼ばれて歪む顔。誰だよ。声がした方を向けば、嫌でも眉間に皺が寄った。

「久々じゃん二口。つか顔こえーよ」

へらへらと笑った男は高校の時の同級生。無意識に舌打ちが溢れる。なぜならコイツは俺の知られたくない黒歴史の一部であるから。つまりは悪友だ。

「お前変わったな」

そう言ってナマエに視線を向けるその顔は「女の趣味変わったな」と語っていた。じろじろナマエを執拗に観察する元同級生を手で払うが、そんなのお構いなしにナマエに向かって自己紹介を始め、それに応えるように「ミョウジナマエです」なんて言って頭を下げたナマエ。

「高校の時のよく遊んでで仲良かったんすよ」
「そうなんですか」
「いやーそっかぁ、二口も落ち着いたんだな」

結局写真を撮るまで俺に付きまとい、「早く行けよ」と嫌でも低くなった声で漸く去っていった悪友。ナマエは不思議そうに「二口グレてたの?」なんて見当違いなことを口にしたが、まさかアイツと競うように女を取っ替え引っ替えして遊んでましたなんて、言えねぇ。


‐‐‐‐‐‐‐


ナマエに悪友のことを咎められることはなく安堵して、もういいだろうとホテルの方向へ足を進めた。
さっさとこの人混みから解放されてえ。

ナマエはホテルにつくまで忙しなく口を動かしていた。コイツ緊張してんだろうなと察することができても、それをどうにかできる気の利いた言葉は出てこない。なるべく余計なことを言わないようにと、いい加減な相槌しか打てない俺もまた、緊張しているのかもしれない。

ホテルへつけばエントランスで「凄いね」と目を丸くさせるナマエ。それは夜景を見てから言えよと思ったが、あまりに嬉しそうな顔をするもんで奮発した甲斐があった。どうせなら思う存分エントランスを見て楽しんでくれと、少し離れた場所でナマエがエントランスを見飽きるのを待つことにした。
そうやって天井を仰ぐナマエを見ていると、俺に天罰が下った。過去のつけがここに来て回ってきたのだ。


「堅治」

聞き覚えのない声に名を呼ばれた。今度は誰だよと振り向けば、ギラギラとした綺麗な女がいた。顔を見ても名前が出てこない。覚えがない。それなのになぜか冷や汗がつたった。

「こんなとこで会うなんて奇遇だね」
「あぁー……」

言葉が続かなかった。そんな俺の様子を見て可笑しそうに笑う女。

「そっかぁ、覚えてないんだ? まあ、時間も経ったしね。無理もないよ。二回ヤって連絡ブチられたもんね私」

心当たりがありすぎて言葉が出なかった。女は「私も馬鹿だったし別にいいよ」と綺麗な顔をして笑う。しかし俺の傍まで来ていたナマエに向かってハッキリとした口調で「彼女?」と言葉にした。ぱちぱちと瞬きをして、「はい」と頷いたナマエに忠告だと棘だらけのセリフを言葉にする。

「気を付けた方がいいよ? 顔はいいかもしんないけどコイツ、本当にクズだから」

こういう時って本当に頭が真っ白になるんだなと知った。後悔の意味を初めて実感した。
ナマエはどんな顔をしているのだろうか。なんで俺はあの女の名前も思い出せないのだろうか。ナマエはこんな俺をどう思ったのだろうか。なんであの時の俺は馬鹿だったのだろうか。

名前も思い出せない綺麗な女は、俺なんかよりスーツを着こなす男とを腕を絡ませてエレベーターへ姿を消した。その後ろ姿を黙って見据えて、閉じられたエレベーターの扉をしばらく眺めてしまった。



「二口もうチェックインしてるんだね」

その声に我に返って、ポケットに忍ばせた鍵の存在を思い出した。部屋へ行こうと歩き出したナマエに続いて、エレベーターに乗る。無言の狭い空間が息苦しい。ナマエを見ることができない。

部屋へつくなり俺が用意したプレゼントへ飛び付いたナマエは「これ私に?」と声を弾ませた。

「あ? おう……」
「ありがとう」

ナマエの笑顔がしんどく思えたのは初めてだった。
馬鹿デカイ窓に張り付いて、凄いね綺麗だねと笑う顔が酷く俺を痛め付けた。ナマエは口を休めることなく何かを話していたが、俺は適当に相槌を打つだけで呆然と外の景色へ視線を向けていた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「二口」

気づけばシャワーを浴び終えたらしいナマエがバスローブに身を包んでいた。本来ならきっとベッドへ押し倒して、欲望のまま、本能が赴くままにことを進めていただろうが、生憎そんな気にはならなかった。

「シャワー浴びないの? お風呂結構大きかったよ」
「……おう」


風呂場の鏡に映る俺自身の顔は、なんとも陰鬱であった。電球のオレンジ色の照明がいつもより色濃く自分の顔に影をつくる。なんとも滑稽な己に自嘲の笑いが溢れた。自業自得。ざまーねーな。

風呂から出れば部屋は薄暗くなっていて、ナマエは黙って窓から夜景を眺めていた。そして俺の気配に振り向き「この方がもっと綺麗だね」と何度目か分からない言葉を口にした。

「夜景が綺麗なホテル。二口ありがとう」

バカじゃねーの? なにお礼なんか言っちゃてんだよコイツ。さっきのことを無かったように振る舞われて、それを優しさと呼ぶならこれほど残忍な女は他にいないとさえ思えた。俺が苛立ちを見せることのできる立場ではないと分かりながら、それをぶつけてしまう。

「何で何も言わねーんだよ」
「ん?」
「聞いてたんだろ話」

窓の外へ視線を向けたまま「何か言いたいこあるの?」と口にしたナマエの声色は、クリスマスの賑やかな雰囲気を微塵も感じられなかった。静かなる怒りなのか、静かなる悲しみなのかも分からない。ナマエの考えていることが分からなかった。

「私は聞きたくないから言わなくていいよ」

聞きたくないと言われて、それ以上言葉を続けることはできなかった。

「冷めれたら簡単でいいのにね」

ぽつりとそう呟いて、この部屋に来て初めて交わった視線は、今にも泣き出してしまいそうだった。それはきっと不安。不安の色で染まった虹彩。俺はその不安を拭いとることができるのだろうか。何を口にすればいいのだろうか。そんなどこまでも情けない俺に応えるようにナマエは道を示す。

「……私は特別だって、好きだって、言って欲しい。私が言って欲しいのはそれだけ」

再び夜景へと視線を動かし、窓に触れた手が震えているように見えた。

「二口」
「……なんだよ」
「今、他の人のことを考えられるのが一番むかつく」

ゆっくりと俺に歩み寄り、俺の胸に額を預けた。そして消え入りそうな声で「下着買ったの」と耳を疑う言葉が聞こえた。

「は?」

まさかナマエからそんな言葉が出るなんて想像をしていなくて、驚いて思わず体を離せばゆっくりと俺を見上げる。

「……赤いヤツ」
「赤い、ヤツ」

無意識に視線がナマエの顔から鎖骨、そして胸元へ動く。それに気づいたのか、わざとらしくバスローブから覗かせた胸元には、今日見てきた紅潮した顔よりも赤。鮮やかな赤だった。白い肌に付けられたそれは強烈に目に焼き付いた。俺はどうしようもない馬鹿だ。どうしようもない馬鹿な男だと実感した。そんな気にはなれないと思ったはずなのに、高揚して気づけばナマエを抱き寄せていた。

「堅治って、呼んでいい? クズ男さん?」
「……好きにしろよ。……お前は、特別だから」



ことの最中。涙を浮かべながら俺の名前を必死に呼ぶナマエの耳元で、できるだけ優しく本心を打ち明けた。

「ナマエ、すげー好き」

ナマエは俺に言わせたと思うのだろうか。それでも本心には変わりないと、懺悔のような告白を何度もした。

「好きだ、好きだ、すげえ好きだ」

俺はどうしようもない程に、ナマエが好きなんだ。

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