25話(前編)


「わしはギアスの代わりに新たなる力を手に入れた。
ゆえにルルーシュ、教えてやってもよい。この世界のまことの姿を」

皇帝のいるところがカッと輝き、ルルーシュとあたしの足元も同じように輝いた。
瞬間移動したみたいに景色が変わる。
目が痛くなるほどの白い空間にルルーシュは警戒して動かない。
ひとつ、またひとつと、無数の仮面が空間に現れる。仮面には赤い奇妙な模様が刻まれて不気味だ。

「な、なんだこれは!?」
「変なところに連れて行かれた……」

数え切れない仮面が宙に浮かぶ謎の白い空間が、巨大な歯車で敷き詰められた意味不明な景色に変わる。
大小全ての歯車が回転している現実離れした別世界だ。
目の前、景色の一部分がぼんやり揺れ、皇帝が現れた。

「ギアスとはなんだ!?
貴様は何を企んでいる!!」

他にも聞きたいことは山ほどあるけど、あたしは口を閉ざしておく。
皇帝はにやりと笑った。

「おかしなことよ。
嘘にまみれた子供が人には真実を望むか」

前からじゃなく後ろからも皇帝の声が響く。
左右や上には仮面が浮いていて、全方向から監視されているようで気持ち悪くなった。

「お前はゼロという仮面の嘘で何を得た?」

ルルーシュは顔を歪めて悔しそうに皇帝を睨む。

「手に入れた!
ただの学生では到底手に入れられない軍隊を! 部下を! 領土を!!」
「ユーフェミアを失った」

皇帝じゃない声が右から聞こえた。
造り物みたいな性別不明の声。
ルルーシュは息を呑み、鋭い目で警戒する。

「スザクやナナリーにも姿をさらせない」

性別不明の声が次は左から。
ルルーシュはさらに警戒を強めて左を向く。

「黙れ!
人は誰でも嘘をついて生きている! 俺もそうしただけだ!!」

ルルーシュが声を荒らげる。
いつもと違って冷静じゃない。ここは平常心を保つのが難しい空間なんだ。

「ルルーシュ……!」
「なぜ嘘をつく」

すぐそばで、気味の悪い仮面をつけた学生服のルルーシュが出現した。
立体映像みたいにぼやけている。

「本当の自分を分かってほしいと思ってるくせに」
「そう望みながら自分をさらけだせない」

一体、もう一体と、性別不明の声で喋りかけながら現れる。
あたしとルルーシュを囲み、増えていく。
最悪なかごめかごめ状態だ。

「仮面をかぶる」
「本当の自分を知られるのが怖いから」
「ち、違う!」
「ルルーシュ!!」

全部吹き飛ばす気持ちで大声で怒鳴った。

「あたしはここにいる!
ルルーシュはひとりじゃない!!
だからしっかりして!!」

ルルーシュは大きく呼吸し、あたしをちゃんと見てくれた。
立体映像は消え、登場した皇帝が近づいてくる。
周囲で巨大な歯車と小さな歯車と大きな歯車がぐるぐる回っている。

「嘘など、つく必要はない。
なぜなら……お前がわしでわしがお前なのだ。
そう、人はこの世界に一人しかいない。
過去も未来も人類も歴史上、たった一人」
「え。なに言ってるの」
「一人? 何を言っている?」
「なに言ってるか全然分からない」

本当に意味が分からなかった。

「シャルル。遊びの時間はもう終わりだ」

C.C.の声が響き、歯車がピタリと止まる。
扉が開くみたいに歯車と歯車が左右に分かれ、C.C.が出てきた。

「私にとって、それにもう価値はなくなった」

C.C.は1秒だけルルーシュを見て、次にあたしを見る。大きく目を見開いたのは一瞬だけ。
視線を逸らし、皇帝に顔を向ける。感情が読めない無表情だった。
ルルーシュは戸惑う。

「C.C.……?」
「C.C.!」
「それを籠絡して私を呼ぶ必要もない。私はすでに、ここにいる」

淡々とした声だった。

「そうだな。
お前の願いはわしが叶えてやる」
「願いを知っているのか!?」

C.C.はうつむきながら一歩進む。
皇帝のほうへ、また一歩。

「ルルーシュ。
今こそ契約条件を、我が願いを明かそう」

C.C.は足を止め、顔を上げてルルーシュを見た。

「我が願いは死ぬこと。
私の存在が永遠に終わることだ」
「それが……C.C.の……?」

深夜の総領事館でC.C.が打ち明けてくれた話を思い出す。
自分の願いに気づいた、と言っていた。

「終わる?
しかし、おまえは……」

ルルーシュの声は震えていた。

「ギアスの果てに、能力者は力を授けた者の地位を継ぐ。
つまり、私を殺せる力を得る」
「C.C.を……殺す……?」
「あまたの契約者は、誰ひとりとしてそこまでたどりつけなかった。
しかし、ここに達成人・シャルルがいる」
「ばかな…… 。
……おまえは死ぬために、俺と契約したというのか?」
「そうだ」
「死ぬために……生きてきたと?」

言いたいことはたくさんあるのに、全部喉で詰まって声にならない。

「この世の節理はそこにある。
限りあるもの、それを命と呼ぶ」
「違う!!」

ルルーシュはすぐ否定してくれた。
C.C.に気持ちをぶつけるように、一歩前に出てくれる。
あたしも前に出てルルーシュと並んだ。

「生きているから命のはず!!」
「同じことだ。
死があるから人は、生を自覚できる」
「言葉遊びだろうそんなものは!!」

C.C.は泣くのを我慢しながら微笑む表情になる。

「しかし、人は死ぬ」
「だとしても! この世に生まれた理由が! 意味が……!」
「知っているくせに。そんなものはただの幻想だと」
「死ぬだけの人生なんて悲しすぎる!!」
「死なない積み重ねを人生とは言わない。それは、ただの経験だ。
おまえに生きる理由があるのなら私を殺せ。
そうすれば、シャルルと同等の戦う力を得る」

ルルーシュは無言でC.C.を見据える。
拒絶する瞳に、C.C.の顔から感情が消えた。
何も無い空間から石版が現れる。

「ルルーシュ、おまえは優しすぎる。
空と共に、ここではないところへ行け。さようならだ」

石版がカッと赤く光り、ルルーシュとあたしの足元もまばゆく輝いた。

「C.C.!!」
「待て! おまえは!」

赤い輝きで視界がいっぱいになる。
C.C.が遠く離れて、ルルーシュと深い底に引きずり落とされた。


  ***


視界が白くぼやけている。

「ここは……?」

隣でルルーシュの声が聞こえて、目の前がハッキリと見えてきた。

「ルルーシュ……」
「空!
良かった! 無事だなっ」

灰色の景色で霧がかっている。
ぼこぼこした農道、黒い木々がところどころ並び、古びた石造りの建物がひとつ。
教科書に載ってそうな中世の景色。
違う世界に飛んでしまったみたいだ。

「ここは一体……」
「……現実の世界じゃないよね」

農道、視線の先で、小学生くらいの女の子が歩いてくる。
ぼろぼろのケープと破れそうなワンピースを着て、片足に足枷をつけてふらふらしている。
すぐ目の前まで近づき、倒れそうになった。

「お、おい!!」

ルルーシュがとっさに動き、支えようとする。
少女はすり抜け、ドサッと倒れてしまった。
遠くで鐘の音が聞こえてくる。

「ムダよ」

隣からC.C.の声。

「わっ!!」

いつの間にか至近距離に立っていてビクッとした。ルルーシュのところに飛んで逃げる。
 
「これは私の記憶、干渉はできない」
「C.C.?」

人形みたいな顔つきで、黒い拘束衣みたいな服装だ。

「……いや、違う。あれは」
「あなたは誰?」

ロボットみたいに抑揚がない。

「ルルーシュだ。
お前の……」

景色が急に変わる。
次は天井のある室内だ。
ステンドグラスから光が差し込んでいる、教会らしき建物にあたしとルルーシュは立っていた。

「あなたに生きるための理由はあるの?」
「わ、分かりません
でも……死にたくないんです!」

ステンドグラス、説教壇の前で先ほどの少女とシスターが話している。

「あの女の子が……C.C.……?」
「……だろうな」

近づける雰囲気じゃない。
ルルーシュとあたしはただ見守るだけだ。

「では契約をしましょう。
生き延びる力をあなたに授けます。
その代わり、いつの日か私の願いをひとつだけ叶えていただけますか?」
「まさか……」
「そう。私は彼女と契約した」

チラッと右隣を見る。
黒い拘束衣のC.C.がいつの間にか至近距離に立っていた。

契約した後、シスターの差し伸べる手を少女は握り、ゆっくり立つ。
左目が宝石みたいに赤く輝き、鳥の紋様が浮かび上がっていた。
空間がぼやけ、絵の額縁がたくさん現れる。
全て白紙だ。

「私に発現したギアスは愛されること」
「愛?」
「心の奥底で私は……。
……私は誰かに愛されたかった。
願いは叶ったが、ギアスのおかげで私はあらゆるものに愛された」

白紙だったものが上書きされ、少女の人生が絵として描かれる。

石造りの建物が並ぶ町中で住民にパンをもらったり、
暖炉の前で知らないお姉さんに優しく体を拭いてもらったり、
きれいな服を着せてもらったり、
緑あふれる丘の上でたくさんの人に囲まれて楽しそうに笑っていたり、
成長して美しいドレスを着て舞踏会で踊っていたり。

「……でも愛されすぎて、そのうち本当の愛が分からなくなった」

巨大な絵が浮かび上がる。
野原で赤いドレスを着たC.C.とシスターが話している絵だ。
C.C.の髪の長さが今の彼女と同じだった。

「私が信じたのは彼女だけ。
ギアスにかからない彼女は、遊んでいた私を叱ってくれたから。
なのに……」

景色がまた変わる。
次は教会の中だ。シスターがいる。
説教壇の前でドレスを脱いで全裸になるC.C.に「わ!?」とあたしは叫び、ルルーシュはサッと目を逸らした。

「はいはい。言われた通り、もらい物はすべて手放しました。
でもマリスのは無理よ。
“クラン”だったかしら。家名だけじゃなく、お城も家族も全て私にあげるって言ってきたんだから……」

声色、話し方が今のC.C.と全然違う。
甘い砂糖菓子みたいな可愛い声だ。

「あ! ルルーシュ、C.C.の両目が……!」
「……両目?」

こんな時でもルルーシュは紳士だ。裸のC.C.を見ようとしない。

「暴走してる。両目がマオみたいになってる」

シスターはC.C.の隣で優しく微笑んだ。

「運命を感じたのね。
髪も、瞳も、あなたと同じ色だから」
「そんなのじゃなくてギアスのせいでしょ。
シスターには感謝してるけど、正直私も困ってるの。プレゼントやプロポーズにはもう飽き飽き。『嚮主様』って言う人まで出てきちゃって……」
「じゃあ、 おしまいにしましょう」
「え?」

シスターの硬い声にあたしは緊張する。
目を逸らしていたルルーシュが見てしまうほどの変わりようだった。

「私の永遠を終わらせる為には、誰かを身代わりにしなければならないの。
一定以上のギアスを持つ誰かを。
どれだけ苦しかったか……。生き続けるという地獄が……!」   
「あの、何の話?」

戸惑うC.C.に、シスターは口角を上げていびつに笑う。

「残念でした! あなた騙されちゃったの!!」

シスターはナイフを振り上げる。
「見るな!!」とルルーシュが前に出て、説教壇のほうが隠れて見えなくなった。
悲鳴と刺す音だけ聞こえてくる。
シスターの豹変にあたしの心は追いつかなくて、視界に広がるのはルルーシュの背中だけ。
  
「私の存在は、彼女にとって、自分自身のピリオドを打つための道具。
ただ、それだけだった」

足元が変わる。白い石畳になる。
また違う場所に飛んだみたいだ。

「空、もういいぞ」

ルルーシュが一歩横にずれる。

「ここ……どこ…?」

本当に違う場所だった。
広い廊下に絵をたくさん飾っている画廊みたいなところで、天井は無く、白い雲が浮かぶ空は明るい緑色だ。
どの絵も動いている。未来の美術館みたい。
黒い拘束衣のC.C.は、体温を感じさせない表情だ。

「あなた達はまだここにいない。
私にとってあなたは過去ではなく、現実の人なのね」
「さあ、どうなんだろうな」
「よっぽど大事な人なのかしら」

ルルーシュは「あり得ないよ」と軽い口調で否定する。

「大事に思ってるよ。C.C.はルルーシュとあたしのことを。
あそこには皇帝がいた。
こうしなきゃいけなかったんだよ。多分……」
「そう。ここに送ってきたということは、ひと時でも何かからあなた達を守ろうとしたんだと思うけど」
「C.C.のところに戻ろうルルーシュ!
あたしは嫌だ! あんな……あんなさようならは!!」
「俺だってそうだ。
だが、戻るには……」
「目を閉じて」

黒い拘束衣のC.C.がルルーシュに歩み寄る。
急接近にルルーシュは一歩後ずさるが、彼女は手を伸ばしてさらに近づく。

「戻りたいという思考を」

近づく手のひらにルルーシュはギュッと目を閉じる。
あたしも同じようにまぶたを閉じた。

「C.C.ーーーーーーー!!!!」
「C.C.のところへ!!」

ブゥン……と鈍い音が聞こえる。
叩きつける突風の音も耳に入り、まぶたを開けた。
すぐ近くにC.C.と皇帝が立っている。

「開いたのか? ルルーシュ!
思考エレベーターを!!」
『なるほど。この空間そのものが、思考に干渉するシステムか』

ルルーシュは蜃気楼の中にいるみたいだ。
ひし形の巨大ブロックがビュンビュン飛んでいき、蜃気楼にゴンゴンガンガンくっつき、動きを封じていく。

「すぐに終わる。
ルルーシュよ、そこで見ておれ」

皇帝はC.C.との距離を詰め、大きな左手で細い腕をグッと掴み、華奢な背中に大きな右手を回して抱き寄せた。

「ギャーーーーーーーーーーッ!!!!」

ふたりのところから神々しい光が発生する。
C.C.は息を呑んで眉を寄せ、皇帝の胸板に手を当てた。震える手が嫌がっているように見えた。

『やめろ!
そいつは俺の! 俺の……!!』
「やだぁあああああああ!! C.C.から離れてよぉッ!!」

絶叫するあたしを皇帝は完全に無視してる。

『答えろC.C.!! なぜ俺と代替わりして死のうとしなかった!?
俺に永遠の命という地獄を押し付けることだってできたはずだ!
俺を憐れんだのかC.C.!?』

C.C.はまぶしい光に包まれる。目に涙が浮かんでいて、そばにいるからよく見えた。
辛そうで、苦しそうで、願いが叶う時の顔じゃなかった。

『そんな顔で死ぬな! 最後くらい笑って死ね!
必ず俺が笑わせてやる! だから!!』
「C.C.!!」

C.C.は皇帝をドンと押しのけ走って離れて、何も無い空間から石版を出して手をかざす。

「どういうつもりだC.C.!!」

石版がカッと赤く光る。
蜃気楼を押さえ込んで封じていたものが四方に弾け飛び、自由に動けるようになった。
蜃気楼は空へ上昇する。

『これ以上奪われてたまるか!!』

左腕をこちらに向け、ハドロン砲の弾丸を撃つ。
閃光みたいな一撃は皇帝の真後ろ、遺跡に直撃する。
皇帝は目を剥いて蜃気楼を睨んだ。

「なんッたる愚かしさかァ!!」

蜃気楼はさらに撃ち続ける。
無数の爆撃が遺跡を破壊し、凄まじい爆風がC.C.を吹き飛ばす。
下は底なしに広がる金色の空だ。
真っ逆さまに落ちていくC.C.を、あたしと蜃気楼は同時に追いかける。

「C.C.ーーーー!!」

呼んでもC.C.は無反応だ。どこも見ていない目をしていた。
接近する蜃気楼のコクピットが開き、ルルーシュが上半身を外に出す。

「俺は知っているぞC.C.!!
おまえのギアスを! 本当の願いを!
おい! こっちを向いてくれ!!」

反応を返してくれない。
ルルーシュは身を乗り出し、手を伸ばして、
落ちていくC.C.の腕を掴んで────


────ビクッと全身が跳ねて、あたしは斑鳩の医務室で目が覚めた。
強制的に戻ってしまった。
心臓はドックンドックンうるさい。まばたきを何回かする。胸の奥が嫌に騒がしい。
ルルーシュとC.C.があの後どうなったか気になるけど、体をひんぱんに出たり戻ったりするのはダメな気がして、今すぐあっちに行くのは諦めるしかなかった。
斑鳩で帰りを待つしかない。

「主任」

離れたところから男の人の声が聞こえた。

「あらぁ。
ちゃんと戻ってきたわね!」

あとはラクシャータさんの声も。
足音が近づき、ひょいっと覗き込んでくる。
今にもキスしてきそうな近さだ。
あたしは「うぅ……」とうめき、視線を逸らす。
おでこにチュッとされた。

「寝てる間に調べたわよぉ。
数値はぜぇんぶ正常!
水飲んだりトイレ行ったり歩いたり会いに行ったり、好きなことをしてちょうだい」

ラクシャータさんは背筋を伸ばし、キセルをくるくるしながら微笑みを浮かべた。

「好きなこと……」

上半身を起こす。
手をグーパーして感覚を確かめる。
さっきはバタバタして生身を実感しづらかった。
何も感じない幽霊状態が長すぎて、肌が常にざわざわしている変な感じだ。
恐る恐るベッドを下り、床にぺたんと裸足を付ける。ひんやりと冷たい。懐かしい感覚だ。

「ふふふ」

嬉しい楽しいの気持ちで何度も足踏みする。
子供みたいだなぁ、と苦笑した。

「んぐぅ……!!」

離れたところから潰れた声が聞こえた。
モニターの前に医療班の男性2人が座っていて、ラクシャータさんと同じ肌の色だ。
金髪の人は「ひぐうぅうううう」と号泣して、丸眼鏡をかけた人は『おやおや』の顔をしている。

「あらー耐えられなかったわねぇ」

ラクシャータさんはにやにや顔だ。手に紙袋を持っている。

「だって! だってぇ!!
この子あんなだったのにもう元気でぇええええ!
笑顔だよぉおおお! 良かったぁあああああん!!」
「それは本当にそう」

丸眼鏡をかけた人は号泣している人に微笑みかけ、次にあたしを見た。

「おはようございます。
驚かせてごめんね。彼はオンオフ激しくて。
治療と解析ずっと頑張ってたから。
私はジェバイト。彼はドライブ」
「お、おはようございます……」
「おはようぅうっ!!」
「ティッシュどうぞ」

ジェバイトさんが渡すティッシュ箱にドライブさんは手を伸ばし、シュシュシュッと取ったティッシュをブーッと使う。
「はい着替え」とラクシャータさんが紙袋をあたしに差し出してきた。

「端にベッドが並んでるところ、あそこ仮眠スペースね。
カーテン引いて着替えなさい」
「ありがとうございます……!」

紙袋を受け取り、仮眠スペースに行く。
カーテンを閉めてから紙袋の中身を確認した。
団員服で『わーい!!』と小躍りしたくなる。
病院の患者着を脱ぎ、団員服に着替えていく。
長袖の上着と短パンで、色はつやつやした黒だ。新品の靴と靴下も入っている。
手を動かしながら、頭の中ではルルーシュとC.C.を思った。
不安と心配が胸の奥で増えていく。
C.C.をルルーシュはひとりにしない。掴んだ手を絶対に離さない。
だから大丈夫だ。きっと無事に帰ってきてくれる。
それを信じるしかなかった。


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