03「マッドな技術者、ロイド」
マッドな技術者、ロイド
「いや〜、君ってばサイコーのデヴァイサーだよぉ!」
アッシュフォード学園の大学部に間借りしている、特派内。
正式には、特別派遣嚮導技術部のヘッドトレーラー内である。
そこで、いつものように実験で新しい数値を叩き出した、ロイドが開発したNMFランスロットのデヴァイサー・枢木スザクに、ロイドは絡んでいた。
相手が困った表情をしていても、そんなことはロイドには関係ない。
いつものように、テンション高く話しかけていた。
…そこに、僅かなりとも恨みが入っていないとは言い切れないが、それはロイドにとって標準装備であるため、そんなロイドの複雑怪奇な心情には誰も気が付かない。
「そんな…僕に出来ることがあれば、何でも仰ってください」
「そう? じゃあ、遠慮なく〜」
褒められて悪い気がしないスザクは、何でも引き受けると言う。
そんな隙を見逃すロイドではなく、遠慮なく次々と言おうとした ――― のだが。
バキッ!「い……った〜〜い! 何するのさ、セシル君ってば〜」
見事な音と共に、ロイドは殴り飛ばされた。
殴られた頬は真っ赤に腫れ、痛々しくなってしまっている。
一方、殴り飛ばしたセシルは、実にイイ笑顔で握り拳を作って再びニッコリと笑う。
「ロ・イ・ド・さん? スザク君に甘えて、お仕事を押し付けようって魂胆でしょうけれど、そうは問屋が卸しませんからね!」
「ご、ごめんなさ〜い!!」
謝ると共に脱兎の如く逃げ出した。
ロイドとは思えぬ素早さに、その場にいた一同は呆気にとられてしまうが、逃げ足が速くなってしまったのはこの人(※セシル)相手ならば仕方がないのかもしれない。
そんなロイドの姿に、セシルは「もう、ロイドさんったら!」と呆れたようにため息をつき、スザクへと向き直った。
「ごめんなさいね、スザク君。あんな人でも、昔はもっとマシな…あら、多少…いえ、少しは……ん〜、今と変わらなかったかしら?」
「ハハハ…」
フォローするのかと思えば、逆に貶しているようにしか聞こえないのはどうしてだろう。
言われているスザクは、相槌の代わりに乾いた笑い声しか出せなかった……。
「あぁ、危なかった。セシル君ってば、枢木一等兵に対してやーけに肩持ってなぁい〜?」
疎開を歩きながら、ロイドはぼやく。
だが、逃げるように飛び出した割には、当て所なくさ迷っているようには見えない。
それどころか、ロイドの足取りはかなり軽い。
それこそ、今にもスキップし出しそうなぐらいには。
「…お、あれかな? ミ○ェラン通信に載っていた、プリン専門店!」
ロイドの足が向かったのは、ショッピングモール内にある、プリン専門店“ドルチェ”。
その店は、ロイドのようなお菓子愛好家からの評価が高い雑誌“ミ○ェラン通信”に掲載されていたお店だった。
ミ○ェラン通信は毎号三ツ星以上のレベルのお菓子店舗を紹介しており、このドルチェは珍しくブリタニア本国以外で紹介されたお店なのだ。
せっかく、そのエリア11にいる上に、このドルチェはロイドが大好きなプリンの専門店。行かない手はないだろう。
「(特にプリンは、あの方も大好きだったからね)」
ロイドが、好きな食べ物の中でも特にプリンに愛情を傾けるのは、彼の敬愛せし少年が、プリンをこよなく好んでいたからだ。
そして、NMFに心血注いでいるのは、彼の少年が当時一番興味を持っていたから。
ロイドのすべては、一人の少年が根底にある。
「あっは〜! これは予想以上に期待出来そうかも〜♪」
漂っている香りに心弾ませ、店の扉を開いた瞬間、ロイドの目に飛び込んできたその人に、ロイドは時を忘れた ―――――。
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