その悪魔、採寸。




荘園屋敷生活一日目

さっそく使用人たちとの顔合わせとなった。
興味なさげに煙草を吹かすもの、緊張した面持ちでこちらを見るもの、マイペースにお茶を啜るもの、様々である。


「今日から一緒に働くことになった、エヴァさんです」


隣りに立つセバスチャンの紹介を受けて一歩前へ出る。


「初めまして、エヴァ・ドマンドルと申します。ファントム社に勤めておりました夫に先立たれ難儀していたところ、温情厚い坊ちゃんに拾っていただきました。
こちらでは坊ちゃんの家庭教師としてお仕えすることになりました。皆様宜しくお見知りおきください」

エヴァは儚げに微笑むと、ロングスカートの裾をふわりと持ち上げて、優雅に淑女の礼をする。

(なんですか、その妙にしっかりした設定は・・・)
(あら、お気に召さない?未亡人って便利なのよ)
(退廃的な響きに背筋がゾクゾクしますよ)
(うふふ)

悪魔同士だからか、夫婦だからというべきか目線だけで何故か会話が成立する。

「エヴァ、左から料理長のバルド、庭師のフィニ、家女中のメイリン、そして家令のタナカさんです」

コホン、と咳払いしてからセバスチャンが使用人を紹介してくれる。
この屋敷には彼を覗いて4人の使用人しかいない。

「僕フィニ!よろしくね、エヴァさん!」

きらきらした笑顔でぎゅっとエヴァと握手をしてくれる。うん、なかなかに力がお強い男の子だということが分かった。

「ええ、よろしくね。フィニ」


「さ、皆さん、仕事を始めてください」

セバスチャンの号令で各々朝の準備に取り掛かった。




朝食も終わり、お仕事の時間である。
エヴァは執務机の上に山積みになった課題や仕事の書類やらを捌く伯爵の斜め前に座りエスケープしないように監視を仰せつかった。

そして今は集中力が切れたのか、タイミングよくセバスチャンが淹れた紅茶を飲んで小休憩だ。
そうだ、と思い出したように、伯爵がぽつりと漏らした。

「エヴァ、お前のお仕着せを作るぞ」
「まぁ!わたくしのお仕着せを仕立ててくださるの?」
「ああ、お前もうちの使用人になるんだからな」
「午後から出入りの仕立て屋を呼んでありますよ」
「うふふ、楽しみだわ」

悪魔と言えど、エヴァも女性なので新しい服という響きは心躍るものだ。
隣りに立つセバスチャンを見上げて問う。


「どんなデザイナーの方なの?」
「新進気鋭の方なのですがね・・・少々アレなんですよ・・・」
「・・・アレ?」




そして午後
玄関の呼び鈴が鳴ったかと思えば、扉から勢いよくサイドテールのご婦人が現れた。


「季節を告げる仕立て人、ニナ・ホプキンス!華麗に参上!」
「だから、出入りの業者は裏口から入れと言ってあるでしょう」
「ミスター石頭!今回のモデルは!モデルはどこにいるのです!」


おや、これはこれは先進的な女性が現れたものだ。とエヴァは驚いた。
セバスチャンの後から現れて、ニナに挨拶する。

「こちらのエヴァです。家庭教師を任せています。エヴァ、こちらが仕立て屋のミス・ホプキンスです」
「エヴァと申します。ホプキンスさん、宜しくお願いします」
「トレビアン!まるで月の女神のような方ね!!」

インスピレーションが刺激されるわ〜〜!!!とニナは一人テンション高めに興奮しながら握手を交わした。
そんな仕立て屋をセバスチャンを溜息をつきながら冷やかかに見ていた。


「さっそく採寸させて頂戴!」
「応接間に準備してありますよ」


セバスチャンに先導され、応接間に移動する。
扉を開けたところでまだ仕事があるセバスチャンとは別れ、2人は応接間に入った。


「では、そちらで下着になってくださる?」
「えぇ」


セバスチャンが予め用意しておいてくれたのであろう衝立の裏で身に着けていたワンピースを脱いで下着姿になる。


「ホプキンスさん、準備出来ましたよ」

ニナを衝立の裏に招くと、どんどん採寸が進んでいく。


「まぁ!まぁ!まぁ!エヴァさん!!あなた・・・!」
「?」
「まさにプリマドンナね!」

コルセットがなくとも引き締まったウエスト、柔らかい筋肉のしなやかにのびる四肢はまるで舞台に立つバレリーナのようだ。
華奢に見えるのに均衡のとれたエヴァの体つきにニナは感動していた。

「あら、ありがとう?」
「これは張り切ってデザインしなくては!!!」

採寸が終ったのか、ニナはわき目もふらずテーブルに突進して準備していた紙にデザイン画を書きはじめた。
なにごとかぶつぶつと呟きながら、ペンをはしらせている。

その様子が面白くて見入っていると、いつのまにかエヴァの隣にセバスチャンが立っていた。
手を引かれて、衝立の裏までエスコートされる。

「いつまで下着姿でいるんですか?」
「あら、貴方、お仕事は?」
「休憩時間ですよ」
「ふふ、そうなの」

セバスチャンの手によっていままで着ていたワンピースを着せられていく。
その動きは手際が良いがどこか緩慢とした動きだ。
ゆっくりゆっくり焦らすようにボタンが留められていくのを見下ろす。

「自分で出来るのに・・・」
「少しでも貴女に触れられる理由を私から奪わないでください」
「まぁ、お上手ね」

仕上げとばかりに、恭しく手の甲に唇を落とされた。





1週間後、仕上がったエヴァのお仕着せが届けられた。



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