共に旅する船を造ろう

 この学校の屋上には『主』がいる。

 誰とも群れず、ただひとり、屋上を陣地とする最強の不良。
 橘清治。


 鋭い視線。つり上がった眉。薄い唇はキツく結ばれ、目を合わせるだけで震えが来る風貌だというのに、短く刈り込んだ髪だけは黒く、不良という枠から外れていた。

「誰だ、テメェ」
「初めまして。僕は赤岩忍。新聞部だよ」

 僕は、目立ちも映えもしない顔を、ニッコリと笑みの形に動かした。


「僕は君のことが知りたいんだ」
「……オレから話すことは、何もねぇ」
「じゃあ話したくなるまで話さなくてもいいよ。でもその代わり、僕の話を聞いてほしいね」
 一瞥して踵を返した橘に、僕は表情を変えずに後を追う。
「僕は人の他の一面を見付けることが好きなんだ。裏表のない人物はつまらない。ちょっと変わったところがあった方が愛嬌があると思わないかい?」
 そう問いかけた僕に、振り返った橘は冷ややかな笑みを浮かべる。
「へぇ。他人の弱みを暴くのが趣味なのか」
「暴くなんて失礼な。ペンは剣よりも強し。されどそのペンは諸刃の刃で、剣よりも人を傷付けることがあることぐらいわかっているつもりだよ」
 あくまで探すのは魅力のひとつだとその視線を受け止める。それはしばらく続いたが、ふと橘が顔を逸らして目を瞑った。


 その日から僕は、屋上に通い詰めることにした。



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