僕が掴んだ弱みは、大した物じゃあなかったけれど、それでも一助になったらしい。
「1年の1学期末にあった三者面談で、姉さんが父さんの代わりとして来てくれたんだ」
 助けてもらった以上は、と、真相を話してくれると言う。
「途中でふたりで話すからってオレだけ出されて――」
 普段とは違う、落ち着いた口調。
「渡された書類を職員室まで持って行って……戻ってきたら中から争う物音がした」
 ぽつりぽつりと言う声は淡々としているように聞こえるが、時折震える声が押し殺せない怒りを含んでいた。
「慌ててドアを開けようとしたが、鍵は締まってやがる。仕方なく窓のガラスを割って中に入ったら」
 ギリ、と握られた手が、真っ白になっている。

「アイツが、姉さんに覆い被さってた……!」

 吐き出された悲痛な叫びに、思わずこちらも力が籠もる。
「飛びかかったけど、あの時のオレじゃ、かなわなかった」
 橘だって、昔から強かった訳じゃない。
「他のやつらが来た時には、姉さんは服を剥かれたまんまロッカーに突っ込まれて、オレがひとりで暴れたことになっていた」
 その時の怒りが、悲しみが、橘を変えたんだ。
「周りに訴えると姉さんが傷付く。だからって簡単に転校する金もねぇ」
 橘の家は決して裕福ではなく、この学校にも奨学生として入ったらしい。
「それに……ここなら就職する時に、イイトコ行きやすいからな」
 お姉さんは有名な進学校を出たが大学には行かず、一家の大黒柱として働いてくれていた。それでも父親の医療費と、橘が産まれる時にと購入した家のローンも残っている。
「喧嘩は夜のバイトで覚えた。この見た目だし、周りが大人ばっかだったから、更に、な」
 橘も、学校以外の時間はバイトに費やしていた。――休むために屋上へ行っていた橘を、咎められる言葉なんて僕は持っていない。
「だから、姉さんにはつらい思いをさせるけど……ここに残ることにしたんだ」
 もちろんそれ以降お姉さんは学校に来ていないし、橘も青木に付け入れられないだけの力を手に入れた。
「それじゃあ……それから、ずっと独りなのかい?」
「あぁ……情けねぇ話、そん時親友だと思ってたヤツに相談したことがある」
「そいつは、なんて」

「――『俺もヤってみたい』」

 ひっそりと囁かれた言葉に息を飲んだ。
 ……なんて、ことだろうか。
 自嘲する橘に、返す言葉も見当たらない。
「それから、周りのヤツは信用しないことにした」
 度重なる裏切りを飲み込んだ橘は、疲れきった顔で遠くを見つめる。

 これが、この悲しい話が橘清治の隠された姿。



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