沖田姉弟









さよなら
さよなら
さよなら…



かんばからあがる送り火を見つめながら、別れを告げる。



本当にあの人がこの世に帰ってきていたのかはわからない。


別にあの儚げな姿を見たわけでも、あの優しい声を聞いたわけでもない。







ただ、久しぶりに帰った実家の空気はどこか穏やかな気配に包まれていた。




『おかえりなさい、そーちゃん。』



そんな声が聞こえてきそうな柔かな空間は、なぜこんなにもこの胸を苦しくさせるのだろう。



『今日はそーちゃんの好きなもの作るわね。』



袖を襷あげて、張り切った顔をした今は亡き人を思う。

そして…どこを探しても見つからない影は、自分の心に錆を作っては苦しめるのだ。





さっきまで木の皮の色をしていたかんばが、ジジ…と音をたてながら崩れた。


上がっていた小さな炎も、もう灰を弱々しいオレンジに染めるだけ。




ひとつ息を吐いてひしゃくに手を伸ばした。



カタン…





「…!」




『またね、そーちゃん。』



そんな声が聞こえた気がした。

煙はもう、空に溶けている。


既に宵闇は夏の空に迫っていた。





「来年も…待ってやす。」



呟いた声は、夏虫の声の中へと消えていった。






今更ですがお盆話









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