ホストってなに…?
先程の沖田さんの言葉が忘れられない。私はぽかん、としてしまい、「じゃあとりあえず酒用意しまさァ」なんて言って手慣れた感じでグラスに酒が満たされる。
「お、沖田さん、さっきの言葉嘘ですよね?」
私は沖田さんが作ってくれた酒をごくごくと呑みながら質問した。
「本当、ですが」
「…へ……」
「今夜だけは、あんな人のこと忘れて俺だけの彼女になりやせんか」
「…おきた、さん…」
顔はイケメン、この甘いマスクと言えばいいのか、いやみんなイケメンだけど私は銀魂のみんなかっこいいと思ってますけど、でも!(一応)銀さんと付き合ってるし、いやアレ…付き合ってるの?なんかそう言うときめきとかなく無い?無いよね?あれれ…?
と、自問自答していると、それがわかったのか沖田さんは、私の手を握る。
「あっ…」
「また旦那のこと考えて。俺が隣にいる時は俺のことだけ、考えてくだせェ」
「あ、そ、そうですよね!うん、わかりました!」
あっっぶねー!ここホストだったわー!忘れてた!なんか沖田さんの顔見てるとドキドキするし、いつもは「オイ新人、これ持て」とか「新人、どんくせェ」とかいうからその落差でドキドキしてしまう!だって!顔がいい!声もいい!背景キラキラしてる!
でもホストよ!そう、これでみんなハマっていくのね…。
「んじゃ色々話やしょう。名前さんのこと教えてくだせェ」
「…あ、はい!」
名前を、久々に呼ばれた。どき、なんてしてたり。
わいわいと話している姿を銀時、神楽、新八は見ていた。
「あいつ…いつも酷く扱う癖にこんな時だけ優しくするなんてダメ男のやることネ…」
「あはは…でも名前さんも楽しそうでなによりですね、銀さん」
「………そーね」
「…(これは…)」
「(丸わかりネ、嫉妬深い男は嫌われるんだヨ)」
*
「おきたさん!呑んでますか!」
「呑んでやすよ、名前さん」
「へへっ…名前さんだって、笑っちゃう!」
へらへらと笑う名前とそれを対応する沖田。沖田は酒を呑みつつジュースをチェイサー代わりにしており量的には呑んでおらず、代わりに名前は沖田に注がれるものを全て呑み、完全に出来上がっていた。
沖田はチラリとフロアを見渡すともう終了時間なのか、客はいなかった。
「…新人」
「やだぁ、名前で呼んでくださいよ!なんでいつも名前で呼ばないんですかぁ?」
「それは…新人がいつまでも新人なんでさァ。あんたも俺のこと名前で呼ばないじゃないですかィ」
「私呼びたい!沖田さんじゃなくて、総悟くんって!」
はいはい!と元気よく手をあげている名前と、突然名前を呼ばれた沖田は驚いていた。
「なま、え…」
「総悟くんじゃないの?間違えちゃいました?」
「いや」
「へへ…そーごくん、お酒!注いでください!」
「ヘェヘェ」
酒が入ったボトルを手に取ると「待て」と言われて手を止められた。そこには銀時の姿があった。
「名前、帰るぞ」
「銀さん…」
「お前呑みすぎ、前みたいになってんぞ」
「前っていつよ…!それに今の銀さん嫌い!」
「なっ…」
「ふ…旦那嫌われてますぜ」
くく、と笑う沖田に、銀時はイラァ…と表情とオーラを出していて、名前をキリッと睨む。
「だって女の子にちやほやされて、それでニコニコ笑っちゃってさ?みんなずるいじゃん!」
「ずるいって…これ仕事だから、分かれよ…」
「じゃあ、銀さんは私にそれしてくれる…?」
泣きそうな顔で銀時を見つめる名前と、それを見る銀時の姿。銀時は、はぁ…とため息をつき名前を抱き上げ、もう店終いの作業をしている狂死郎へ言う。
「んじゃあおつかれっした、依頼金は銀行振り込みでよろしくー、じゃあ新八、神楽、今日はこいつ説教すっから万事屋来んなよ」
「「アイアイサー!」」
「それと沖田くん」
「なんですかィ」
「名前呼んでほしかったら素直になるこったな」
そう言って高天原を去る銀時と名前の後ろ姿を見る沖田達。
新八と神楽は「やれやれ…」とつぶやいており、土方と近藤は「総悟…」とため息をついていた。
「…人の勝手だろィ」
沖田はそうぽつりとつぶやいた。
*
万事屋に付き玄関を開ける。その手つきは怖かった。そこにどん、と落とされるように座らされる私と、私を見る銀さん。
高天原での酔いはなくともほんのり酔っている程度だった。
「ぎ、ぎんさん…」
「ホストってのはよ、好きでも無い女に愛想振りまいて客を乗らせて酒を注文してもらうっていう接客業だ。でもよ、好きでも無い女と話すのは俺は大変だった。
名前はあんな風にしてほしいか?」
「それ、は…」
してほしいかと聞かれると、そうでもない。いわば嫉妬の類いと言うことはわかっていた。でも、わたしはこの人と付き合ってていいものなのか、本当は別の人がいいのか、私のような、この世界の人たちみたいに強くはない、何もこの人の力になれないものが、付き合う資格はあるのか。
これは、そうだ。
「不安、なの」
「不安?」
「私は、あなたのそばにいていいの…?」
「またそう言う……」
「だって!…だって、私…不安で…、やっぱり釣り合わないし、付き合うとか、わからないよ…」
「名前」
「ぎ、銀さんだって、悪い奴と戦う時に背中を安心して任せられる人がいいんじゃない?私は何もできないし、銀さんは輝いてる人だから、だから…」
自分で言ってて自分の傷を抉るようなことを言っている。そう思うと涙が止まらなかった。本当はわかってるんだ、この人の事を好きになってはいけないと。それでも、私は好きだ。
「…ごめ…帰る」
「は?これからか!?」
「………少し、頭冷やす」
「おい!」
私の身勝手のせいで銀さんが迷惑してると思って万事屋を出た。酔った頭を鮮明したくて走る。しんどい、息が辛い、やっぱり私
「付き合うんじゃなかった」
静かに呟く言葉は冷たい空気に溶け込むようだった。
「どうした」
声が聞こえて前を見ると、そこに似つかわしくない人がいた。
「沖田、さん…」
「さっき旦那と帰ったばかりじゃねェですかィ」
「それ、は」
「…喧嘩でもしやしたか」
「違います…私が悪いんです」
「……相談くらいなら乗りますよ」
「沖田さん」
「ん」
手を差し出されて躊躇なく手に触れる。
私は、弱い人間だ。私の気持ちも銀さんの気持ちもうまく言えなくてそれで逃げてしまう。
「屯所行きやしょう」
「はい…」
朝日が緩く照らすかぶき町の空気と無言で歩く2人の空気がとても冷たくかんじた。
-透き間風は冷たい-
(義理の仲が、なんとなくしっくりいかないことのたとえ。また、友人や男女の間で感情の隔たりができると、まったくの他人どうしでないだけに、よけいに冷たさが身にしみるというたとえ)
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