侍の国、僕たちの国がそう呼ばれていたのはいまは昔の話。かつて侍たちが仰ぎ見、夢を馳せた青い空には今は異郷の船が飛び交い、かつて侍たちが肩で風を切って歩いていた町には、今は偉人がふんぞり帰って歩く。それが僕たちの街、江戸である。
ラストサムライ、坂田銀時。そう呼ばれていたのはかつて昔の話。
「な、なんじゃこりゃアアアアアア!!!」
夏の暑い日差し、うるさく響く蝉の声それにうるさく響く、声…?
ガバッと身体を起こすと土の感触があり、倒れていたのだ。
…………あれ…?あれ、あれ!?あれ銀さん!?
目を凝らして叫んでいる相手を見るともふもふの銀髪と小脇にいる映画泥棒のコンビをみてやはり…と確信した。
…いや銀さんなんか叫んでるよ!?サンライズとか言ってるよ!?これは…!まさか!
「トリップ成功…!」
とりあえず銀さんは銀さんですごーく混乱している。これで私も気持ちもわかるだろう。いやまじでこんな風になってたからね。うんうん、とりあえず5年後の世界に来たのは確かだ。
私は5年後の世界には2人…いるはず。どうにかしていかなきゃ。何かやっているのかもしれないと願いを込めて。
私はお墓があるところから江戸の街並みを見ると、ターミナルは壊され、街並みは廃墟と化していた。
それに心が痛いと思いつつもゆくべきところに足を進めた。
わたしのアパートへ。
*
ボロボロのアパートの前に来たが、それは面影もなく立っていた。人の気配は無く、住んでいる人はいないだろうと直感でわかった。
勇気を出してピンポーンと自分の名前が書かれたドアのインターフォンを鳴らす。
わたしと会うことは、緊張する。心臓が痛い。
「は、ぁい…、あなた、は…?」
「…なん、で…」
「…待っていたよ、私。やっと、やっと…会える」
目の前にいる5年後の私は、真白の髪にやつれた頬、そして目が虚になっておりかなり痩せ細っていた。
そんな姿を、脳内の処理能力はギリギリ追いつきそうで、言葉を捻り出した。
「待って…なんで!?あなたは5年後の世界に行ったんじゃないの!?今のわたしと同じように…!」
「………私は…5年後に行けなかった私…。銀さんを追っていこうとした、でもトリップできなかった…。しかし、白詛は私の身体を蝕みもう、1人では出歩けない様になってしまった…」
何を言っているのか分からなかった。
なんで行けないのか、なんで行けなかったのか。
「原因は分かっていた、でも止められなかった…物語を変えてしまうから…。
…新八くんと神楽ちゃんも、喧嘩をして万事屋は解散、各自でやっているけど…その姿が痛々しくて、見てられなくて…ゴホゴホ!」
5年後の私は咳をした途端血をボトボト、と手を伝って玄関に落ちた。
「ちょ、え!」
混乱をしていると、カサカサとゴミ袋が擦れる音がこちらに近づいてきた。誰か人が来る…?
「はぁ…、はぁ…。隠れて…!」
「え、え!?」
5年後の私は、私の腕を引き部屋の中に押し込めて玄関に来た人物に向かって話していた。
「ありがとう……」
「いえ、そんな」
その声に聞き覚えがあった。
まさか、でもなんで…。
「ゴホゴホ……総悟くん…」
「名前さん…また血出して。だめじゃねェですかィ」
「ごめんね…ちょっと咳き込んじゃって。それにあんまり目も見えてないからどのくらい出したかわからなくて」
「………少しでさァ」
「そっかぁ、よかったぁ。ご飯ありがとうね、また明日ね、総悟くん」
「俺たち特製の弁当なんで、そのまま蓋を開けたら食えるんで。また何かあったら電話してくだせェ」
5年後の私の頭を軽く撫でて目を細める沖田さん。その目は恋人にする目と、切ない目が混ざったような視線で見ていた。
沖田さんは長い髪を一纏めにしており、昔の土方さんのようだった。
パタリと玄関を閉めてホッとため息をつく未来の私。
「…今の、沖田さん?」
「…うん、総悟くんは色々してくれて。沖田さんって言い方懐かしい」
受け取ったお弁当をテーブルに置いて、コホコホと席に着く。
「…私、銀さんを探しに行く」
「…銀さんのいる場所わかるの?」
「わかる、と思う」
「………そう…、とりあえず今日はここに泊まって。これから、雨が降るわ」
時間軸にして、多分2日後くらいに5年後銀さんと、現在の銀さんが会うはず。
私が来た事で未来が変わらなければ、映画通りに進むはず。
「…わかった」
今もなお、5年後銀さんは1人、荒れ果てる街並みを見ているのかと思うと、胸が痛い。
「やっぱり、来たか…。これで未来は変えられる」
甘栗色の髪を揺らしながらボロボロのアパートを見下ろす影が1つ。
-灰燼に帰す-
(跡形もなく燃え尽きてしまうこと。「灰燼」は灰と燃えかすの意)
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