目を覚ますといつものアパートでした。
朝の光に目を細めると冬の少しツンとした空気が部屋を覆う。部屋を見渡すと、物が少ないままの部屋で、これから沢山集めなきゃ。なんて考えていた。

「…よし!」

私は寝巻きから着物に着替えるべく温もりが残るベッドに後ろ髪を惹かれながらも身支度を整える。
私は勝手に帰り、そのあと万事屋のみんなが迎えにきてくれてこちらへ戻る決心ができてこちらにいることとなった。
アパートには元々そんなに荷物を置いてなかったが、荷物がこれから増えそうだと確信した。
いつものお団子屋さんまでの道のりを歩く、銀さんが選んでくれた藤の花が描かれた着物をなびかせて、笑みを浮かべて私はお団子屋の暖簾をくぐる。

「おはようございまーす!」








お団子屋の親父さんと女将さんからは、どこ行ってたんだい!とかどうしたんだ、とか色々聞かれた。体調が悪くて休んでましたと言ったら納得してくれてよかった。これから仕事を無断で休まないようにしなければ。

仕事終わりにいつものように万事屋へ向かう。手には、菓子折りを持って万事屋へ行く道のりを歩く。

「はぁ…」

私が悪いとはいえなかなか気が重い。
多分…怒られるかな…。それが少し、怖くて1日空けてしまった。手には多量の菓子折りと謝る言葉を頭で復唱する。
そういえば、帰ると決めた時半ばこれが最後と思って色々やらかしたことを思い出した。例えば銀さんと…その、え、エッチな、事とか…。…忘れよう忘れよう!今は違うからね!

万事屋の階段を登りチャイムを鳴らす。

「はいはーい、って名前さん!もう荷解き終わったんですか?」

「うん、キャリーケースも無事持って来れて色々片付けたよ」

「どうぞどうぞ」

新八くんが私を中へ招く。万事屋も久々な感じがする。

「銀さんと神楽ちゃんいる?」

「はい、居ますよ」

僕お茶入れてきますね、なんて新八くんは台所へ行き、私はリビングへ行くといつものようにぐーたらしてる銀さんと酢昆布を食べながらテレビを見る神楽ちゃんが居た。

「こんにちわ、銀さん、神楽ちゃん」

「あ!名前ネ!今日はどうしたアルカ!」

「今日はこれ、謝りに来たの」

「謝りィ?」

銀さんは私の方を見た。新八くんは私が持ってきた手土産に驚きながらも私にお茶を置いた。

「戻る決心をつけさせてくれて、ありがとうと、これからよろしくねって意味でこれ」

「クッキーにケーキに美味しいおかずも!銀ちゃん、これで万事屋は安泰ネ!」

「おいおい、なんのマネだァ?あん時謝っただろ?」

「でも、ちゃんと謝りたくて。あの時はご迷惑をおかけして、ごめんなさい。それと、これから迷惑とか色々かけちゃうかもしれない、だからまたよろしくお願いします」

私は3人に頭を下げた。過去も未来も、よろしくの意味を込めて。

「…頭上げてください名前さん。僕たち、そんなこと言われることしてないですよ」

「そうアル、ただ友達を迎えにきただけネ」

「俺の女をほっぽり出して生活できるほど俺は甘っちょろい男じゃねェんだよ」

「…みんな…ありがとう…!」

3人は顔を見合わせて笑っていた。それに釣られて私も笑う。よかった、本当に。








万事屋で色々話をしたりご飯を食べた後、銀さんが私をアパートまで送る事となった。
そういえば2人でこの道のり…。

「なんか、名前が来た当初みたいだな」

「ふふ、私も思ってた」

「マジ?俺たち以心伝心してんじゃん」

「銀さんとこんな仲になるなんて思ってなかったよ」

「名前はそん時、なんつーかこう…近づかないで!みたいな感じだったな」

「え、本当?」

「ホント」

万事屋からアパートまでの道のりを昔は並んで歩いてたものの、今は銀さんと手を繋ぎながら歩くだなんて思っても見なかった。

「そーいやさ」

「うん?」

「名前が帰る前にエッチな事したじゃん」

「ゴホゴホっ!」

「そん時朝起きたら名前いなくてびびったわ」

「…銀さん…」

「ずっとリビングで待ってたんだぜ」

「…ごめんね」

「だからよ、今度は俺のこと起こしてくれや」

「うん、わかった」

私は銀さんの手をギュッと握った。
目の前にはアパートが見え、もう手が別れる時だと思うと寂しい。銀さんはいつも玄関先まで送ってくれる。

「ありがとう送ってくれて。またね銀さん」

私は懐から部屋の鍵を開けると銀さんにそう言った。

「おい名前、またねってなんだよ」

「え…?」

銀さんは私をぐいぐいと押しながら玄関を開けて私を押し倒す。

「ぎ、ぎんさん?」

「俺は…」

「…うん…」

「俺はずっとお預け状態だアアア!1回なんかで収まると思うかよ!銀さんのギンサンはいつもギンギンさんだよォ!あの時、朝起きたら2回シて、そのあとまた何回かする予定だったんだよ!なのに名前は帰ってこねェし?俺なんかやったかな、いやヤッたけど、心配したわ!」

「え、ええっ…だって、私はあれが最後だ思ってたから…」

「最後ォ!?待て待て待て!最後はやめて、俺もっと名前とSMとかナースとかメイドとかドスケベチャイナ服とか着て欲しいよ!?」

「待って銀さん、それは私しないよ!?最後っていうのはここにいるのが最後だからって意味で…」

「…これからいるんだもんな名前は」

「え、う、うん…」

「よしする、今からする。ほら名前も服脱げ」

「え、まっ、待って!?」

「こちとら待たされてんだよ」

銀さんの手が帯留めを掴む。え。待って待ってちょっそれやばいから、やばいから!

「こ、今度!」

「あぁ!?」

「今度!なんでもするから!今日は、しない!」

「…なんでも」

「なんでも!」

銀さんはニヤァ…と笑っていた。やばい、咄嗟とはいえなんでもは言いすぎた。

「なんでも、だな名前チャン」

「う……」

「あー楽しみだなァ、なんでも、なんて銀さん嬉しいなー」

銀さんは私から離れて玄関を開ける。振り向いて私をニタリと笑いながら言った。

「楽しみにしてるよ名前」

パタンと閉じた玄関を呆然と見る。やばいこと、したかもしれない…!あわあわと慌ててもそれは時すでに遅し。

「やばい…」

どうしよう…とこれから悩む種になるとは思ってもいなかった。




-虎の尾を踏む-
(きわめて危険なこと。また、非常な危険をおかすことのたとえ)









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