あなたはーもう、忘れたかしらー
赤い手ぬぐいマフラーにしてぇ
2人で行った横丁の風呂屋ぁー
そんな歌が聞こえてきた、夜6時ごろの話。空はいつも見る晴天ではなく、夜の星空だ。3月と言えど、まだ寒くそしてそんな日は広いお風呂にでも行きたくなるのだ。
「あれ、名前?」
「あ、神楽ちゃんに銀さん!」
「なに、名前も風呂?」
銀さんは赤いマフラーを巻き、羽織を着ており、片手に風呂桶を持参していた。神楽ちゃんもマフラーをしており銀さんと同じ様な形で風呂桶を持っていた。いやかわいいかよ。尊い意味わかんない心のシャッター連写しかない。
「うん、お団子屋さんのお客さんに"たまには江戸の広い風呂を堪能したらどうだ"って言われて。銀さんたちは?」
「私たちはテレビで温泉特集見てて入りたいって言ったアル」
「駄々こねてたやつがよく言うぜ」
風呂屋の暖簾をくぐりながら話す。そうか銀さんたちも来てるなんて世間は狭いとはよく言ったものだ。
「大人200円、子供100円」
シワの多いおばあちゃんが私たちを見て呟いた。私は小銭入れから200円をチャリチャリと出して番台へ置いた。
「はい、200円よろしくお願いします」
さて女湯の暖簾を潜ろうとしたら銀さんが何か言っていた。
「おばちゃん俺、心は少年だから100円な。神楽も100円」
「えぇー!銀ちゃん私コーヒー牛乳飲みたいアル」
「水でも飲んでろ」
「じゃあ私が買うよ」
「やったぁ!ありがとう名前!」
「俺のもよろしく」
「銀さんは自分で買って」
そういい神楽ちゃんと2人で女湯の暖簾をくぐる。くぐった先にはお妙さんがいた。本当に世間は狭すぎる。
「あら、2人とも」
「アネゴ!アネゴも来たアルカ?」
「お妙さん、こんばんわ」
「こんばんわ、神楽ちゃんと名前ちゃん。テレビの温泉特集見てて、来たくなって。2人は?」
かくかくしかじかと話すと、そうなのね世間は狭いわ、なんて笑っていた。お妙さんと神楽ちゃんと話しながら浴室へ入る。さすが大きいお風呂だ広い!それに人もあまりいなくて最高だ。
私は身体を洗うところへ来てわしゃわしゃと洗う。いつもアパートのお風呂は小さめだから広々してて嬉しい。
全て洗い終わり湯船へ入る。
「ふぁー…」
「あったかいわね…」
「いい湯アル…」
「……あら、男湯が騒がしいわね」
お妙さんがそう言っていて耳をすませる。
「おい!ゴリラ早く穴開けろ!俺は名前のおっぱい見ンだよ!」
「なんだ万事屋ァ!俺はお妙さんの裸を見るために突貫工事してんだ!」
「近藤さん何やってんだ!」
…あれれ…銀さん以外に誰かいる…。お妙さんがいるということは新八くんもいるのだろう。それと真選組の3人…かな。
「何してるのかしらあのクソゴリラ」
「あはは…」
「キモいアル…」
あははと笑う私たちと、ガヤガヤ騒いでいる男湯のひとたち。
なんだかんだと思ってみればトータルここに来て1年は経とうとしていた。早いものだ、あのとき新八くんに話しかけられなかったら変える術もわからなくそのままだったかもしれないと考えると人とのつながりは大切にしようと考えた。
それと銀さんとの関係だ。付き合ってるとは言えまだ線を引いている状態だ。それは決して前回みたいな感じでは無く、万事屋としての線と私たちの関係を同じにしてはいけないと言う線引きだと、思っている。
「はー…」
「あら、何か考え事かしら?」
「お妙さん…。私、お妙さんみたいに強くなりたいです」
「あら、それはムカつくやつを想像して拳に力入れれば相手は死ぬわ」
「待ってそれじゃないです。……私は、もっと強くなりたい、みんなに迷惑はかけられないから…」
「…そうね…そうしたら、今度暇なとき稽古しましょう、でもこの手なら、あなたが頑張っていることはわかるわ」
お妙さんは私の手に自分の手を添えながら話した。私はお妙さんの顔を見るとにこりと笑う彼女。やはりあなたも強い人ですね。
「名前」
「ん、なぁに?」
「私も、名前がピンチの時にはすぐ助けるアル!だから、心配しないで…。また遊ぼうアル」
神楽ちゃんは私に抱きつきながら話す。そうか、神楽ちゃんも心配かけてしまった。自分のことばかり考えて、周りのことを考えていなかった。
私は神楽ちゃんをぎゅっと抱きしめながらこう言った。
「じゃあ、もしピンチの時には助けてください、神楽ちゃん」
私は、1人で、1人で。と考えていたが、周りに耳を傾けていなかった。寄りかかるところは寄り掛かろうと。
「…うん!」
彼女たちに、少し、寄り掛かろう。
「ところで名前」
「ん?」
「名前おっぱい大きいアル!」
「え、え!?」
神楽ちゃんは私の胸を両手でもみもみと揉みながら叫ぶ。
「あら?名前ちゃん意外と大きいのね?嫌味かしら?」
「待って神楽ちゃん揉まないで!?お妙さんも落ち着いて!?」
「これぞパフパフアル!」
「うぎゃー!恥ずかしいよー!」
ワイワイと叫ぶ女湯、神楽ちゃんの声と私の声が響く。
一方男湯では、そんな声が聞こえてきた真選組の近藤、土方、沖田。そして万事屋の銀時と新八はその声を聞いてこそこそと話していた。
「ぎ、銀さん、名前さんって…その」
「……し、しらねェから、想像なんてしてないから。うんうん(そんな大きかったのかアアアアア!しらねェエエエ!あん時暗くて見えなかったアアアアア!)」
「銀さん鼻血垂れてます」
白い目で見る新八と鼻を押さえる銀時。それを引き攣った顔で見ている土方と、ボソボソと呟く沖田。
「…新人の胸は、大きいと」
「おい総悟、今後揶揄う材料集めてるんじゃねェよ」
「お妙さんは小さくても美乳、と…」
江戸のとある風呂屋での話。
-湯に入りて湯に入らざれ-
(入浴は健康に良いが、入りすぎては害になる。何事もほどほどが良い)
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