本日は普通の天気です。今日はお団子屋さんがお休みなので、真選組にて稽古をつけてもらっています。

「んで、斬りかかる」

「うりゃ!」

「これじゃダメでさァ。遅い」

「う…」

カタンと言い沖田さんの手をよって落とされる短刀。はぁ…とため息をつきやはりダメか…と項垂れる。
真選組の道場で沖田さん相手に斬りかかりの練習や護身術を教えて貰っているが、なかなかハードすぎてしんどい。
もう一度言おう、私は20代と言っても多分銀さんや土方さんと近い年齢だからしんどいにもほどがある。これならユ○チューバーになってダイエット動画として投稿したいくらいだ。

「は、はぁ!しんど…!」

「は…なら休憩しやしょう」

「はい!」

ふらふらの身体を持ち上げて、お水が入ったペットボトルを取る。この行動すら筋肉痛がひどい私は辛いのだ。
ここで鍛練をつけてもらうことになってから着物では動きにくいからジャージを買ったが、なかなかにいい。家にある高校の時のジャージ持って来ればもっとお金浮いたかなぁ…とも考えてしまった。

「あ!」

「俺も喉が渇いた、くれ」

「あああー!!私の水ー!」

沖田さんが私が手に取ろうとしたペットボトルの水をごくごくと勢いよく飲んだ。いやもう全部飲んでない!?

「まっ、待ってください!私これしかないんですから!あの、あの!」

「ぷはー……あり、マジですかィ全部飲んじまった」

「沖田さん!?酷い!ドS!人でなし!」

ぎゃいぎゃいと騒いでいるとダダダ!と足音がしてきた。

「ホワチャァア!」

「ゴボォオ!」

なんか知らない陰が沖田さんをぶっ飛ばした。この声はまさか!

「名前!いじめられてないアルカ!?」

「か、神楽ちゃん!」

「顔真っ赤アル!どうしたネ!?あんなことやそんなことやられたアルカ!?このクソサド!名前の純潔奪っておいて!」

神楽ちゃんに肩を掴まれてぐらんぐらん揺さぶられる私。その揺さぶりに軽く目眩がすると、ストップ!と叫ぶ。神楽ちゃんはパッと手を離し、目線は沖田さんへ向く。お前、ちゃんと見てろヨ!とかなんとか言って言い争いができていた。

「名前の純潔奪ったのは俺だっつーの」

「銀さん!?なに言ってるんですか!?」

「銀さんに新八くん!どうしたの?」

神楽ちゃんの後に気だるそうに歩く銀さんと何か持っている新八くん。その後ろに旦那待ってくださいー!と追いかける山崎さんの姿。

「銀さんが名前さんが頑張ってるから弁当でも持っていけって言いまして」

「え!お弁当!?新八くんの手作り?」

その手に持っているのはお重だったらしい。結構な高さがあるから驚いた。

「はい、お口に合うかわかりませんが…」

「うわぁ…!たのしみだなぁ!私初めてかも、新八くんのご飯食べるの」

「あれ、そうでしたっけ?今度万事屋に遊びにきた時にでもまた作りますよ」

お重のお弁当箱を道場の片隅に置いて話す新八くん。マジでパーフェクト青年の志村新八くんだ。さすがです。

「ありがとう」

「オイオイ、銀さんは置いてけぼりか?」

私の後ろに来て顔を覗かせる銀さん。その体温がわかるくらい近いが、今は汗臭いから近寄って欲しくないのが現状だ。

「銀さん、私汗臭いから近づかないで」

「なんで?臭くねェよ?」

「えぇ…?」

「それにジャージ姿初めて見た」

「え、そうだっけ?」

「うん」

「だって動きにくくて…」

「でも戦う時には多分着物だぜ?」

「…あ」

「考えてなかったな…」

「あはは…」

銀さんに言われてみればそうだ。もしそういうことになった場合、元の世界と違ってこちらの主な服装は着物。やはり着物で慣れなくてはいけないのか…と考えた。

「こちらでは着物ですからね。名前さんなら慣れますよ」

「そうかな…」

「はい、大丈夫ですよ」

3人で話していると沖田さんから「おいサボるんじゃねェ」と言われた。サボってません!と言うとほらやるぞと言われ立たされた。

「俺ら見てるから頑張れよ」

「うん、見てて、銀さん」

まだまだ弱いし、沖田さんにも毎回負けてるけど、ちゃんと頑張ろう、頑張らなければ銀さんの隣に胸張って居られない。

「んじゃ斬りかかる!」

「ていや!」

「これじゃダメでさァ、ここを狙う。1発で」

「こ、こう!」

「ん、それで、走る!」

「はい!」

相手と距離を取り、首筋を狙う。しかしこのタイミングと素早さが素人の私には難しい。
毎回刀で私の短刀が弾き飛ばされる。

「はいはい、銀さんが教えてやるよ」

手をパンパンと叩きながら私に近づく銀さん。

「え、え?」

「名前な、まずヘソに力入れんの」

ジャージの上から私のお腹をつつ…と触りギュッと押す。待って何これ、恥ずかしいよ。

「ちゃんと足開く、それで短刀はこう持つ。それで……」

銀さんは私の後ろからギュッと抱きつく体制になって片手でお腹を、片手で私の短刀を握る。耳に銀さんの息がかかるくらいの近さだ。恥ずかしい、今は集中しなきゃいけないのに、いけないのにも関わらず、ドキドキして、覚えられない。

「…、?」

「え!?」

「聞いてんのかよ」

「き、聞いてるよ!」

「………名前」

「な、ぁに…?」

「…ドキドキしてる?」

この人、わざとしてるんだ…!バカ、バカバカ!恥ずかしいじゃん!沖田さんこっち見てるのに!

「ぎ、ぎんさん…家に帰ったらにして…ください…」

「……………ふーん…わかった」

ニタァ…と笑いこっちを見る銀さん。その顔は変なことを考えているようだった。
銀さんは呟きパッと離れた。ドキドキしすぎて死ぬかと思った…。

「あんたらイチャコラすんのやめてもらっていいですかィ、ぶっ飛ばしやすよ」

「ひぃ!ごめんなさい!









お昼まで稽古をつけてもらってまた月曜からと約束した。沖田さんの仕事が何もない時や、市中見回りが無ければお願いをする。
はぁ…とため息をつき、ほっとすると疲れどっとくる。

「お疲れ様です名前さん」

「ありがとう新八くん」

新八くんはタオルと水をくれた。それを受け取り一気飲みした。うわー!美味しい!冷たい…ぽわわ…と生き返る顔をしていると新八くんと神楽ちゃんが笑っていた。

「ここの道場でご飯食べていいか山崎さんに聞いたら今日は特別ね、と言われたので、お昼食べましょう」

パカ、とお重を開けるのそれは、唐揚げにおにぎり、卵焼きに漬物、ミートボールなど、花見弁当の如く豪華だった。新八くんはお味噌汁を水筒から注ぎながらつぶやく。

「名前さん、はいどうぞ」

「新八ィ、俺にも」

「私早く食べたいヨ!」

「待ってください」

キラキラと目線を向ける銀さんと神楽ちゃん。かわいい…。

「んじゃ」

「いただきます!」

4人手を揃えていう言葉は、久々だった。
私はおにぎりを食べながら唐揚げを頬張る。

「ん!美味しい!すっごい美味しいよ新八くん!」

「よかったです。その唐揚げは銀さんが作ったんですよ」

「え、そうなの?」

「ん…まぁ、な…」

「私はおかず詰めたアル!」

「…ありがとう…」

もぐもぐと食べるその口は止まらないのに。

「…オイオイ、そんな顔してちゃ飯もうまくねェだろ」

「名前…?どっか痛いアルカ…?」

涙が出てきた。
こんなに美味しいご飯は久々だった。元の世界では母が作ってくれたご飯を人と食べる。しかしこちらに来てからは1人で食べることが多くなった。そして真選組での鍛錬が始まると食事より睡眠を選んでしまい満足に食べていなかった。
だから、万事屋の3人が作ってくれたご飯がとてもおいしかった。

「ん…ありがとう、みんな…」

「いいってことよ」

「またお弁当作ってきますね、名前さん」

「また一緒に食べようヨ、名前!」

私の自分勝手で鍛錬を始めたのに、この人たちはとても優しい人だ。私も、いつか恩返しをしたい、そう思った。




-米の飯より思し召し-
(ごちそうしてくれるのもうれしいが、その気持ちのほうがずっとうれしいということ。「飯」と「召し」をかけて調子よく言った言葉)





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