鍛練も15日目に入った。季節はバレンタインから春の兆しが見える頃となってきた3月。
今日も今日とて鍛練とお団子屋の仕事の両立に図る。最近は万事屋にも行けていないが、銀さんと顔を合わせなくて良いと思っていた。また、私はすれ違ってしまった。

「おい」

私のせい、だよね。でもこれはやめては行けない。銀さんの近くにいるための私の課題なのだから。

「おい、新人」

「ひょえ!沖田さん!」

「どうしたボーっとして、更年期か?」

「まだ更年期じゃないです!」

「…じゃあ旦那ですかィ」

「……はい…」

「はぁ…まだどうせ、旦那に手の豆とかばれてそれでアンタは言えないからはぐらかしたら旦那が怒ったとかそんなモンだろィ」

「う!」

「当たりか…」

「言い返す言葉もありません…」

「不器用なんでさァ、アンタも、旦那も」

「不器用…?」

「お互い事を気にかけているのにその言葉もうまくかけられない、でもずっと気にかけてるって。不器用以外の言葉ありやすか?」

「もっともです…」

沖田さんは朝の空気に溶け込みながら言葉を綴った。確かにそうなのかもしれない…。わからない…。

「とりあえず鍛練しやしょう」

「…はい」

今日も今日とて木刀を振る。自分のことは自分である守るために、銀さんの近くにいるために。あの人の力に少しでもなるために。







「最近名前来ないアルネ」

「そーさな」

「どうしたんだろうね、名前さん」

お茶を飲みながら神楽に問う新八。

「この前名前の手を見たらボツボツ?があったアル」

「ボツボツ?えぇと、こんなの?」

新八は自分の手を見せた。神楽は「あ、それアル!」と元気よく返事をした。

「これは木刀や竹刀を握ってないとできないものだよ…。って、名前さんまさか、道場行ってるのかな…」

「道場…?何で行くアルカ?名前なんかあったネ?」

「うーん…わからないけど…。どうしたんだろう、名前さん…」

「私、名前と万事屋でお菓子食べられないの悲しいネ」

「うん…そうだね…」

しん…と万事屋の空気が重くのしかかるのを銀時は感じた。







「って事で来ちゃいました」
「来ちゃったアル」

「え、ええ?」

名前が働くお団子屋に新八と神楽は出向いた。ことの経緯を説明し、名前のところへ来たと言う事を伝えた。

「そっか…ごめんね…」

「どうしたんですか?名前さん」

「…銀さんの近くにいる為にはこれが良いかなって思って」

「銀ちゃんの近くにいる為に…?」

「うん…。新八くんや神楽ちゃんは万事屋の一員として、もしなんかあっても自分で戦えるじゃない?銀さんの周りにいる人達は皆そうだなぁて思って。
私はね、自分で戦える、戦えなくても自分の身は自分で守れるくらい強くなりたいって思って…。
そうしたら、銀さんの近くに…付き合っていても変じゃないかなって思って」

ヘラァと笑うと新八くんと神楽ちゃんは困った顔をしていた。そう、だよね…。

「そんなこと必要ないアル…私が名前のこと守るネ!」

「名前さん…」

「それじゃダメなの。自分もみんなと同じ土俵…までは行かなくても、それに近いところにいたいから」

「そうなんですね…」

「うん…。今は真選組の沖田さんに稽古をつけてもらっているの。厳しいけど、筋肉も付いてきたんだ!…だから、銀さんには内緒にしてて」

「…わかりました」

「新八!?」

「神楽ちゃん、銀さんに言ったらあの人、名前さんの事をやめろって言うに決まってるでしょう?だから、名前さんがやりたいなら僕たちは背中を押すべきなんだと思う」

「…そう、アルネ…。でも無理はダメアル…。ちゃんとご飯食べて、ちゃんと寝てね…?」

神楽ちゃんは私の目を見て言った。メイクで隠してはいるがここ最近クマが凄いのがわかってしまったらしい。

「勿論!わかった、ありがとう神楽ちゃん」

「あとあのサドに何かされたら言うアル、私がコテンパンにしてやるネ!」

「ふふ、頼もしいなぁ!」

わいわいと盛り上がったひとときだった。それを遠くで沖田が見ていた。








鍛練20日目。もう1ヶ月近い。
朝真選組屯所へ行くと近藤さんと土方さん、沖田さんが道場へ出ていた。

「おはようございます」

「お!おはよう名前ちゃん!」

「おはようございます、どうしたんですか、稽古ですか?そうしたら私出て行きます」

「違う違う、そうじゃなくて。はいこれ」

近藤さんから渡されたのは小さな短刀だった。

「これ…」

「短刀だよ、名前ちゃん。いわゆる懐刀と呼ばれて懐に入れて持ち運ぶ刀…、護身用として」

「なん、で…」

「名前ちゃんがここまで本気でやるなんて、正直考えていなかったんだ。
失礼だよね。でも女性が刀を振るのは大変な事だよ、それに名前ちゃんのような接客業をやっている普通のお嬢さんなら尚更。
でも、本当に強くなりたい、あいつの側に誇りを持って立つ為に頑張ってるんだと思ったらさ、何かやってあげたいって思って」

「近藤、さん…」

近藤さんから渡された短刀は私の手に収まるような大きさだった。しかし、木刀と同じように重いことからこれが本物だと思った。

「トシや総悟にも相談して俺たちで名前ちゃんのために、特別に打ってもらったんだ。
鞘に付いている紐は名前ちゃんがいつも着ている藤の花の着物の色をつけてもらったんだ」

色をよく見ると鞘に付いている紐は紫とも言えぬ綺麗な藤の花の色だった。
無骨な手が私の手の上へ重なる。

「名前ちゃん、ここまでよく頑張った、今日から木刀じゃなくて短刀での鍛練をしよう」

「こんどう、さん…」

「ん?」

「ありがと、ござ、ます…」

短刀を見て3人がどんな思いをしてこれを打ってもらったか、どんな思いをして紐の色をつけたか、どんな思いをして私を見ていたのか。それを思うと涙が止まらなかった。

「こらこら、化粧が落ちちゃうぞ」

「新人、ブッサイクでさァ」

「これハンカチ、ちゃんとしろ苗字さん」

「う…ありがとうございます…!ありがとうございます!、わたし、頑張ります!」

「頑張ろうな、名前ちゃん!」

「はい!」

元気な声が真選組道場に響いた。





-雨が降ろうが槍が降ろうが-
(槍が降るような厳しい状況でも、何があっても決行するという意志であると言うこと)






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