現在朝5時、場所は真選組屯所。

「は、はぁ!はぁ!」

「おい新人、へばんじゃねェ」

「ひ、ぇ!は、はぁ!」

現在私は屯所の敷地内をひたすら走っている。それはもう20代の私には高校以来の体育なわけで、所謂死にそうです。
沖田さん曰く、鍛錬…私の場合は護身術から入るらしいが、その場合基礎体力としてとりあえず走れと言われた。

女の私がこの真選組へいるという事で、一応土方さんや近藤さんへ言っておいたが「そういうことならいいぞ」と近藤さんはすぐ返事をくれた。土方さんは「女は何もしない方がいいんじゃねェか?」とも言われたが、今はそんなこと言えない時代になるかもしれない。だからこそ自分ができることをしたい、自分の危機は自分で打破すると言ったら「そーかよ」と言われた。…銀さんに似てるな…。

「んじゃ、そのあとコレ」

「ぼ、ぼく、とう?はぁ、はぁ…」

「ん、木刀。旦那と同じくらいの長さで多分このくらいの重さでさァ」

「うわ、重い…」

「何も持ったことねェ奴はそう感じるだろィ。俺たちが持ってる刀はそれの倍重いと思った方がいいでさァ」

銀さんはこんなのを持って戦っているのか…新八くんや神楽ちゃんも。すごい、私も迷惑をかけたくない、そう考えぎゅっと木刀を握る。

「まず重心がちげェ、ここ、腹に力入れる」

「はい!」

「そしたら刀の握り方はこう」

「う、はい、えぇと…」

「こう」

「はい!」

「んで、とりあえず素振り」

「はい!」

私は、上手くできないかもしれない。役に立たないかもしれない、でも、次なんかあった時、あの人のそばにいてあの人に守られるようなことはしたくない一心で木刀を振る。



「名前ちゃん頑張ってるな」

「…そうだな…」

「恋する乙女は頑張れるんだよな、わかるわかる」

「あんたはストーカーだろ」

庭で稽古をつけている2人を近藤、土方は微笑んで見ていた。







「ふぁ…」

「あら、名前ちゃん眠いのかい?」

「え、えぇ、まぁ。でも大丈夫ですよ!」

「そうかい?辛くなったら言うんだよ」

「はい、ありがとうございます」

朝早く起きて真選組で稽古をつけてもらってから、お団子屋さんへ仕事へ行く。これが早くても半年かけて鍛錬をしてくれるそうだ。
頑張るんだ、と手をギュッと握る。







「よろしくお願いします!」

「じゃあ今日も素振り」

「はい!」

1日、2日、と日々続けていく。運動不足が重なり全身筋肉痛でしんどい…と休憩中足をさすっていたら、山崎さんが「コレ使って」と湿布をくれた。
木刀を握っていると手も痛くなるわけで、手が痛いと思っていたら土方さんが包帯をくれた。ついでに巻き方も教えてくれて、嬉しかったのは今は少し前の記憶だ。

現在鍛錬8日目。
まだまだと言うところだが、最初の頃よりかはよくなっているらしい。単純に成長してるあたりかなり嬉しかった。

「あ、名前ー!」

「あれ、神楽ちゃん?」

「遊びに来たアル!」

「わー!いらっしゃい、何にする?」

「んと、みたらしとあずきと、んー…全部!」

「ふふ、わかった、待っててね」

「…名前」

パシ、と手を掴まれた。

「え、どうしたの?」

「………なんでも無いアル!あーお腹すいた!」

「待っててね」

パタパタとショーケースの方へ行く名前を見つめながら神楽は頭の中に疑問符が並んでいた。








「ただいまヨー」

「んー、おけーりー」

玄関を開けると銀時の声が聞こえてきた。
神楽は名前のお店のお団子を銀時のそばに置いた。

「これ名前からネ」

「お、団子。ラッキー」

「……銀ちゃん」

「んー?」

「名前の手、なんか変だったアル」

「手ェ?」

「なんか、えぇと…ボツボツって、硬かったネ」

「ボツボツゥ?」

「それと、なんか眠そうだったアル」

「……ふーん…」

銀時はジャンプを読みながら鼻をほじっていた。







「じゃあ、お疲れ様でした!」

「はいよ」

ふー…終わった。鍛練をつけてもらってるからかまだ身体が慣れてないらしくかなり疲れる事がある。
それでも沖田さんは厳しく…いや、かなり厳しくやってくれる。
早く家帰って寝よう…とお団子屋を出たら銀さんがいた。

「おつかれ」

「あ、お疲れ様銀さん。神楽ちゃんに渡したお団子食べた?」

「………」

ズイと私の前に来て銀さんは私の手を掴まれた。

「何…?」

「これなんだ」

「え?」

私の手を見て言われたその言葉を受けて、自分の手を見た。その手は木刀を握っているからか、手のひらに豆ができていた。

「こ、れは」

「…この手の豆は木刀や刀を握ってないと出来ないモノだ。お前、何してんだ」

「銀さんには、…関係ないでしょ…」

「あのな、名前…。ここじゃない世界から来た名前は刀とかそういうモン使ったことねェだろ。だからやめろって…。何考えてるかわかんねェけどよ…」

「銀さんには関係ないこと!」

銀さんに掴まれてる手を引き抜いて後ろに隠す。

「なんで、俺には言わねェんだよ…」

その声は、切なそうな声で私に言った。

「ぎん、さん…」

「……帰るわ、ごめんな引き止めて」

銀さんが私に背を向けて万事屋へ足を向ける。

「銀さん…」

私が、ちゃんと言えばいいのかな…。
でも言ったら止められるかもしれない…。

「…ごめんなさい…銀さん…」

静かな声が夕焼けに照らされる影に吸われるようだった。




-朝に夕べを謀らず-
(事態が切迫していて、余裕がないことのたとえ。朝にその日の夕方のことを考えるゆとりがないという意から)





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