お登勢さんのところへ通って今日で6日目になる。毎回夜は坂田さんがアパートまで送ってくれて安心だ。いつもお礼にイチゴ牛乳を渡してお礼を言うまでがセットだ。

最近坂田さんが私を名字呼びから名前呼びに変化したことも最近のことだ。最初だめです、と言ったが「これから付き合いがあるかもしれないからそう呼ぶ」と言われてしまった。気恥ずかしいが嬉しかったのでじゃあそれでと返事をした。

次の仕事先も決まった。アパートと万事屋の真ん中くらいにあるお団子屋さんだ。坂田さんに言ったら「そこよく行くからまた会うな」と言っていた。
また、彼を見ていられる。純粋に嬉しかった。


「ありがとうございます、坂田さんのおかげで毎日安心です」

「いいってことよ」

「はいこれイチゴ牛乳です。よかったら飲んでくださいね」

「おーありがとよ」

「…?」

イチゴ牛乳を渡したらいつも帰るのに坂田さんは帰らない。どうしたのだろう。
坂田さんはすぅ、と息を吸って私をじっと見た。

「あのさ、名前ちゃんはさ、田舎から江戸に来たって言ったよな」

「…はい」

「しかも歩いてだろ?」

「はい、そう…ですが…」

「…江戸から歩いて来れる地方で、近くに大学なんつーもんはねぇんだ」

「えっ…」

「本当に家出か…?」

「っ…」

しくじった。地理に詳しくないから元の世界のことも混ぜて言ってしまった。大学なんてものは銀魂の世界にはないのかもしれない。

「なぁ、家の人心配してないか?箱入り娘が1人でこんな所でよ…」

「心配してないですよ」

「…名前ちゃんは、どこからきたんだ」

真剣な目と、心配する目をして私をじっと見た。

「…上がってください。全てお話しします」







部屋が重苦しい…。
どうしようか、坂田さんに話すべきか、いやいつかバレると思うし、多分万事屋がいないと帰れない、周りからの協力も必要なのかもしれないと悟ってしまった。

「私は坂田さんに出会う前、気がついたらここにいました」

「……」

最初から一つずつ、間違いがないように話した。一つ間違えば伝わらないと確信したからだ。

「それと…私はあなたたちのことを知ってします。この世界のことも、あなたの過去も」

「それは…」

「あなたたちは私の世界では漫画の登場人物でした。しかもあなたが主人公で、なかなか長期間連載されていました」

「えええ!?まじ!?すげぇ!俺主人公か!そんな器だろうと思ってたけどなー」

「…お、驚かないんですか…、変な人だって…」

「んー…そりゃ俄には信じられねぇが、あんたが嘘をつくなんてそうは思えねぇよ。それに俺何も言っていないのにイチゴ牛乳渡してきた時には驚いたよ」

「あ…」

そういえばその話をしていないのに渡されたらびっくりするわ…。
話してしまった…変なことは言ってないはず、でも変な人というレッテルは貼られているかも知れない。それはその人にしかわからないことだ。

「んー…じゃあ俺たちとは違う世界、トリップっていうやつ?」

「そう、ですね…そうなります。元の世界の私は今どうなってるかわかりませんが、今私はこちらの世界にることは確かな事実です」

「じゃあ帰る方法も考えよう」

「…いいんですか…?」

「帰るか帰らないかは別として、帰る方法を見つければいいんじゃねぇの」

「坂田さん…ありがとうございます…」

「しっかしこんなことがあるなんてなぁ…名前ちゃんはどこまで知ってるの?」

「うーん…それをいうことで話が変わる可能性もあるので詳しくは言えませんが、あなた坂田銀時が元伝説の攘夷志士なのは知っています」

「…お、おー…そうだな…」

「坂田さんの芯のある言葉、胸を打ちます。だからあなたのファンになったんです」

アニメを見ている時から、この人はすごい人だと思っていた。それは主人公だからとかそんなことではない、台詞に心を打たれるというのはこういうことだと確信した。

「ファン、か。俺にファンなんて初めてだ」

「ふふっ…坂田さんのファンはたくさんいますよ」

「え!?まじで!?俺モテモテじゃん!」

そんな話をしていると1時間くらい話してしまった。もう日付が変わる寸前だ。これ以上坂田さんに迷惑をかけられない。

「すみません、こんな時間になってしまいました…」

「いいってことよ、男1人なら大丈夫だ」

「はい、気をつけてくださいね!」

「名前ちゃんもちゃんと寝ろよ」

「はぁい」

話してしまった、が後悔はない。
帰るべきなのだ、この世界は魅力的だが私がいるべきではない。帰る、そう胸にもう一度刻み寝る準備を始める。
もうすぐ春だ。
出会いと別れの季節。







「紅桜、これが」
「打ち直した紅桜だ、とてもいい」

そんな話が迫り来るとは思っていなかった。


-若い時旅をせねば老いての物語がない-
(若い時に旅をしておかなければ、年をとってから人に話す話題がないということ。)






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