気だるい身体を起こし、温もりが後ろ髪を引かれる布団を出る。生々しく散らばった着物や下着を着て、1月の朝のしん…となる音を聞き彼を見る。銀さんは涎を垂らして寝ていた。

「…ばいばい、ありがとう」

そう静かな寝室を去り、万事屋の扉を閉める。

「…ごめんなさい、ありがとう、また、ね」

万事屋の看板を見て泣きそうになりながら走ってアパートへ向かう。
私は、ひどいことをしている。それでも、銀さんに言ったら向こうへ帰れと言われるであろう。神楽ちゃんは新八くんは、一度は引き止めてくれてるかもしれないけど、帰ってくださいと言われる。それが、聞きたくなくて帰る。何も言わずに。
真選組の皆さんとも関われたのが楽しかった、お団子屋さんの親父さんと女将さんとも仲良くなれてよかった。みんな、優しくて、それでいてカッコいい、芯を持つ人だ。

アパートに付き、パジャマを着る。
ふと、手帳が目に入って、文を嗜める。
多分いないからとここに来るかもしれない。心配をかけたくない、こんな別れは嫌だ。でも、この世界に長く良すぎてしまった。
ならば、何も言わずに帰るのが筋というものではないか。

私はペンを出してみんなのことを思い出しながら手紙を書く。涙で紙を濡らしながら、必死に書く。

「…ごめんなさい…」

そう呟いて、私は目を瞑った。
帰りたい、もうこの世界には戻らない。そう心で祈るとくらりと眩暈が襲ってきた。
ここでいろんなことができて、楽しかったです。







名前と繋がった次の日、目を覚ましたら名前はいなかった。一瞬焦ったが、そうか、朝ごはんを買いに行ったんだ。すぐ戻ってくる、そう思って着物を着てリビングで待っていた。
1時間、2時間、と経つにつれて遅いな…と思っていた。いや真選組の奴らと話してるかもしれない、そう考えているとガラリと音がした。
名前だ、そう思い玄関に行ったが、玄関には新八と神楽がいた。

「ぎ、銀さん?どうしました?」

「銀ちゃん?」

そう声がして、おかしいと思い始めたその時、万事屋にリリーンと電話が鳴った。名前か?なんて電話を取ると、名前が働いている団子屋の女将からだった。"あの子が来ない?と、電話があった。
サッ…と血の気が引く。まさか、まさか。

「なぁ…、名前、みてないよな」

「え?名前さんですか?みてないですよ」

「そうアル、今日は会わなかったアル」

そう聞くや名前のアパートへ向かった。嫌な予感がする。銀さん!銀ちゃん!と声をかけられるがそんな声を後ろに聞きなが走った。
アパートに付き、部屋を開けると鍵がかかっていなかった。ドクリと嫌な予感が当たる。

「名前!」

扉を開けると、昨日着ていた着物が床に散らばっていた。テーブルには手帳もあった。

まさか、帰ったのか?

「銀さん!どうしました!?あれ……名前さんが、いない?」

「名前ー!どこアルカー!」

「…名前……」

ふと目についたテーブルの上の手帳を開いた。

ー万事屋の皆さんへ
この手紙を見ている頃には私はもう元の世界に帰ってることでしょう。
桂さんから教えてもらってすぐ帰れると言われました。帰りたいという想いで帰れるそうです。でももうこちらへは来れそうにないそうです。ごめんなさい。

新八くん、私はこちらの世界へ来た時に初めて会って驚きました。だってすごいかっこいいんですから。あなたが私に話しかけてくれたから、今の私があるんです。ありがとうございます。
神楽ちゃん、神楽ちゃんはとても優しい女の子ですね。夜兎族なんて言っても心は繊細で、可憐な子です。仲良くしてくれてありがとうございます。
銀さん、私はあなたとお付き合いができて嬉しかったです。あなたの背中を追いかけて、生きていきたい、そばにいたい。そう願うくらいです。

突然帰るのを許してください。帰れるといえば、帰れと言われるであろうと思ったからです。帰るべき家があるなら、そちらへ戻すのは一般的な考えですから。
私は、ここの世界の人たちと約1年間、楽しく過ごせたのは万事屋の3人のおかげです。
ありがとうございました、ごめんなさい。

名前より


そうところどころ涙で滲んでいた字を見てしん…と、なった空気が痛い。

「名前、か、帰っちゃったアルカ…」

「なんで、どうして僕たちに…言ってくれなかったんですか…」

「……手紙にもあるように…帰れと言われるのが辛かったんだろうけどよ…そんなこといわねェよ…」

「銀ちゃん…」

泣きながら手紙を書く名前の姿が目に浮かぶ。ごめんなさい、ごめんなさいと言いながら手紙を書き、泣きながらあっちに戻ったと想像すると、泣きそうになる。

「…銀さん…」

「銀ちゃん…」

「…お前ら、考えてることは同じか?」

「…はい」

「うん!」

「よっしゃ、やるか!」

万事屋は、再び動き出した。
これは名前が知らないお話だ。




-会うは別れの始め-
(人と人とが出会えば、いつか別れる時が来る。つまり、会うことは別れることの始まりでもあるということ)






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