1月の風が私と銀さんを冷たくするが、私の片手は銀さんの手によってぽかぽかとあったかい。この慣れた道をゆっくり歩く。もうこの歩き慣れた万事屋からアパート、職場の団子屋の道のり、日々思い出す。
「そういや、もう名前がこっちにきて1年…くらいか?」
「え、う、うん…そうだね」
「季節はもう少し先だけどよ、こんなに長く帰れないなんておもわねェよな」
「そう、だね」
「いつ帰れるかわかんねぇからよ、毎日楽しく過ごそうな」
そう言った銀さんの横顔は少し切なそうな目をしているように見えた。
少し歩くと居酒屋さんが出てきた。赤い提灯が夜道に光る。ガラリと戸を開けると、あったかい空気が私たちを包む。
「ふぅ、あったけェ」
「あったか…」
「お!銀さん!久々だねェ!…と、となりの子は銀さんのコレかィ?」
居酒屋の店主はニヤニヤしながら小指を立てた。
「そーそー、俺の彼女ー」
「…え!?そ、そうなのかぃ、嘘だろ!?万事屋の旦那が!?」
「何、なんか俺そんな驚くようなことした?」
「いや、だって…、そこの嬢ちゃん!考えなおさねぇか…?」
「あはは…」
銀さんは慣れた手つきでカウンターに行き、いつものーと頼む。私も隣に座り梅酒くださいという。銀さんは、この町の人なら誰しも知ってる人だ。そう、この頼りになる人が付き合ってる人。
「ん、これ」
銀さんは卵焼きを私に渡してきた。ふわふわでわだしがきいてる卵焼き。美味しい…。
もぐもぐ食べてると「付いてる」なんて銀さんが私の口元の卵を取って食べた。
「あ、ごめ…」
うわ!と顔が赤くなってしまった。まってやだ、かっこいい…好き…。顔が赤くなってて、銀さんもそれをみて、にやぁ…と笑っているが耳が赤い。
それを第三者としてみている店の店主が「あー、あちぃあちぃ」なんて声が聞こえた。
お酒も相まって、楽しい。こんな日がずっと、日にちなんて進まなければいいのに。
*
「おい、名前、へーきか?」
「ん…へーき、だよぉ」
「………酔ってんな」
居酒屋で悩みながら呑んでいたらたくさん呑み過ぎてしまった。これは、ほろ酔い…というか、泥酔の一歩手前。神楽ちゃんはー?と聞くと、今日は新八ん所で新年会だと。と答えてた。しん…となった万事屋に2人。
銀さんは私をおんぶしながら万事屋へ連れてきた。銀さんもほろ酔い程度に酔っていた。
そのまま万事屋の布団に降ろされた。
「んぁ…銀さん…?」
「どーした」
「…私のことを抱いてください」
「………は?」
「だから、えぇと…エッチなことしていいよって」
「待て待て待て!なんで、ど、どうした!?」
「…だって、付き合ってもう1年だよ?ダメ…?」
「いや、まっ…そんなことは、ない、」
「…銀さん、しよ?」
「酔った勢いとかで、後悔しねェ?」
「うん」
「…そっか」
「うん…」
銀さんは私を布団に押し倒した。この布団は銀さんのだ、銀さんの匂いがする。
銀さんが着物の帯をとりシュル…と音がして、銀さんの羽織が私の腹の上に布が被さる。それを脱ぐと、私の着物の帯留めを外した。お腹が苦しくなくなり、緊張が襲う。
「…優しくするから」
「うん…」
私に近づく銀さんと、お酒の匂いがする。私と一緒に呑んでたからだなぁとか、天然パーマっていう割には前髪サラサラだなとか、目が赤くて綺麗だなとか。
私は軽く微笑むと目を瞑った。これから最初で最後の行為が始まるのだから。それを思うと胸がちくりと痛くなった。
-愛は小出しにせよ-
(人を愛するのには、少しずつ愛して長く愛するのが良いということ)
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