「明けましておめでとうございます!」
そう町の中から声がする今日この頃。忙しい年末を乗り越え、いつもより重い体を歩きながら気を引き締める。頭にはシャラリと音がする華やかな簪や花飾りを付けて、今日も万事屋へ行く。
万事屋の階段を登り、戸を開け「こんにちわ」と声をかける。足音が聞こえて「名前さん?」なんて声が聞こえて目の前を見れば新八くんが驚いた顔で私を見ている。
「うん、私だよ。明けましておめでとうございます、新八くん」
「あ、明けましておめでとうございます!名前さん!」
「新八ぃー?どうした、ネ!?」
「あ、神楽ちゃんこんにちわ。明けましておめでとうございます」
「あ、明けましておめでとうアル。っていうかどうしたアルカ!?」
「なんだよおめーらァ、名前が来てんなら俺に声くらいかけろ、よ!?」
「銀さん、明けましておめでとうございます」
「お…おう、明けましておめでとう…いやいや!おま、どうしたその格好!」
3人が私をみて驚いていた。私の格好は振袖に身を包み、頭には花の髪留めや金色の簪など派手につけており、髪型も今まで考えられないくらいのくるくる巻き紙やヘアスプレーなんか使っちゃって綺麗にセットされている。
「あはは…これは…その…」
これは年末の時、お餅の配達で藤の花の着物を買った女将さんのお友達のところへ来ている時の話。
私はいつもの如く配達をしにその着物屋さんへ向かっていた。
「ではお会計は1300円です」
「はいよ、これ」
「はい、ちょうどですね。ありがとうございました!」
そう言ってお店を出て行こうとしたとき、店主の人から声をかけられた。
「あの!」
「はい、どうされましたか?」
「あなた、お正月はどうするの?」
「どうって…えぇと、一応友達?と神社へ初詣の予定ですが…」
「そうしたらこれを着ない?」
店主が出して来たのは少し派手目な振袖だった。
「え!?私がですか!?」
「うん!似合うと思って、どうかしらねぇ?」
「ふ、振袖…」
振袖とは、成人した人が着る着物のイメージで、未婚の女性なら着ることがある。らしい。私はまだ未婚だし、成人してるけど、歳は銀さんと近いし…。私なんかの大の大人が…。
「お願い!お正月振袖を着て出かける子も多いのよ!それで練習、と言っては失礼だけど、着てくれないかしら…?」
そう言われて練習なら…と承諾したが、それはこの店主の嘘だった。元々お正月に振袖を着たいから特別なセットをしてくれと頼まれていたそうだが、店主が「あの子似合うわ!絶対に!」という思いで頼んだらしい。
それで着させてもらったがすぐ脱ぐのは気が重いので、せっかくなら万事屋へ来てそのまま初詣も行こうという考えてここにきた。
「…ってわけ…」
「そうなんですね…でもとっても似合ってますよ名前さん!」
「そうアル!似合ってるね!可愛い!」
「え、ほ、ほんと?よかった…この着物少し派手だし、化粧も派手にされちゃったから…」
2人は可愛いと褒めてくれたが肝心の銀さんが私をじっと見ていて話さない。
「ぎ、銀さん…どうかな…」
「…うん、まぁ…似合うんじゃね?」
そういうと和室に向かった。
…あれ…そうか…銀さん好みではなかったのかな…、そう考えていると新八くんと神楽ちゃんは「あれは照れだ」と言っていた。
…照れ…?と考えて頬が熱くなったのを感じた。
「あ、あのっ初詣行かない?みんなで」
「いいですね、行きましょうか」
「屋台あるネ!?」
「あると思うよ!銀さんにも声をかけてくれるかな…」
「わかったアル!」
神楽ちゃんはそういうと、銀ちゃん!行くネ!なんて聞こえて、2人ともコートと羽織を着て出てきた。私もバックからマフラーを出してぐるぐるに巻いた。
「じゃあ行きましょうか!」
新八くんの声で万事屋を出た。
*
「人多いねぇ…」
「正月だからなァ…。ってゆーか、そのマフラーどうしたんだよ」
「え、これ?これは沖田さんからもらったの」
「…なんで?」
「年末に真選組の皆さんと食事会して、それで寒いからってくれたの」
「…………そ…」
銀さんはそういうと自分のマフラーを私に巻きつけた。
「わわっ、どうしたの?」
「これ、巻いとけ」
「…うん、わかった」
銀さんをよく見ると耳が少し赤かった。
私はポケットにある銀さんの手を握り、ふふと笑った。寒い空気の澄んだ日の話だ。
-笑う門には福来る-
(笑う門には福来たるとは、いつもにこやかに笑っている人の家には、自然に幸福がやって来るということ)
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