師走、それは読んで字の如く12月の四季に使われ、お坊さんが忙しく走り回る様子を模して作られた漢字だとか。江戸も師走そして年末年始に向けてかなり忙しくなるそうですが、団子屋も忙しいです。
「名前ちゃん!隣の家に餅配達ね!それが終わったらお隣さんとお向かいさん、それと、えーと」
「わかりました!とりあえず行って来ます!」
「餅できた!注文してる人!」
団子屋は年末年始忙しいのかな?と思ったのがことの始まり。お餅美味しいから角餅とか注文受け付けたらどうでしょうか?と言ったら2人揃って「いいねぇ!」と言われて、張り紙を出した途端、忙しくなった。
「すみませーん!お餅配達に来ました!」
「あら、お団子屋の名前ちゃん。待ってたわありがとう」
「いいえ、えっと…1500円です」
「はいこれ」
となりの家のお婆ちゃんに餅を渡したら、金額を言い、3000円渡された。
「お釣り待っててください」
「いいのよ」
「え!」
「これで女将さんと親父さんと美味しいもの食べてちょうだい」
「…いいんですか…?」
「いいのよ、いつも元気な声でこっちも元気もらっているもの。ありがとう、名前ちゃん」
「…はい、ありがとうございます。またぜひいらしてくださいね」
「また行くわね」
お婆ちゃんの家を出ると手を振りながらにこにこ笑っていた。可愛い…。
店に戻りとなりのお婆ちゃんからお金のことを言った。
「あら!そうなの!もういいのに…じゃあお昼はちょっと豪華なお蕎麦食べましょうか!」
「はい!」
そういい女将さんは蕎麦屋さんに連絡をした。蕎麦かぁ、楽しみだなぁ…!
そんなこんなで、豪華な蕎麦をいただき(大きい海老天やイカ天、野菜天のせ)、午後の仕事へ移ろうとしていた時、電話が鳴った。
女将さんが出たが「え!?は、はぁ…え!?待ってください、300個…、大丈夫ですが」
そんな声が聞こえた。300個とはなんだろうなんて呑気に思っていたら名前を呼ばれた。
「名前ちゃん…」
「どうしました?」
「し、真選組に、その…お餅を300個…配達…」
「300?」
「300個」
「………え?」
「300個よ。予備があるから今すぐ配達行けるわ!」
「まってください!?誰から注文ですか!?」
「沖田さんよ」
「沖田さん…!」
沖田さんもしかして、このお餅配達をしてることを知ってまさか連絡したのかな。いや、違う違う。300個なんてみなさん食べちゃうもんね、わかる。そんなことを考えていると女将さんはどんどんキャリーバッグのようなカートに積んでいく。まってこんなのここにあったんですか。
「ほら!名前ちゃん!いけるよ!」
「…え、えぇ…」
「沖田さんは、ウチの上客よ!」
「わ、わかりました!」
女将さん、目がお金のマークになってるよ、お金のマークだよ!?
そんな女将さんに後押しされて真選組へ向かった。
*
重い!重すぎる…!ゴロゴロカートを引きながら真選組に向かう。でも、こんだけお餅を食べてくれて嬉しいなぁ…。なんてマフラーを再びかけた。
真選組に付き、「すいませーん!お団子屋でーす!」というと「はいはい!」と声がした。
「はい!あれ、苗字さん!」
「山崎さん、こんにちわ。沖田さんいますか?」
「沖田隊長ですか?まっ…いででで!」
「なんでィ早かったな新人」
沖田さんは山崎さんの頭をぎりぎり持ちながらそう言った。痛そうだよ、山崎さん!
「あの、お餅を配達しに来ました。金額なんですが…」
「あぁ、これで」
そう言うと沖田さんは財布を出した。財布の中身は札束が数枚あり、餅のお金で全部なくなりそうだった。でも…沖田さんこういう財布使うのかな…なんてよく見たらカードに土方と書いてあった。…ん?これ…
「沖田さん、この財布…」
「あ、いけね」
沖田さんはひらりと土方さんのカードを落とした。おっとっと…と言いながら広い、お金を私に渡した。
「いやいや!これ土方さんのですよね!?いいんですか?」
「…あっ、いっけねー間違いやした」
「棒読みですよ沖田さん」
「ほら金」
「は、はぁ…」
お金を受け取ると財布にしまう。でもよかった、受け取ってもらえて。
「…あんた」
「え?」
「それ、使ってるんですかィ」
沖田さんはマフラーを指さした。
「はい、沖田さんがくださったので巻いてますよ」
「…へぇ」
「あ、やっぱり返します?」
「いらねぇ」
「…じゃあ、私はこれで。ありがとうございました!」
「へいー」
私はカートを引きながら沖田さんと山崎さんに言った。屯所を出た後すぐに「総悟オオオ!!」と土方さんの声がしたのでお財布のことがバレたのだろう。…なんか沖田さんぽくて笑ってしまった。そんな忙しい師走の話だ。
*
新人が屯所に来た。多量の餅を頼んだがまさか1人で来るのは思わず驚いたが、何より驚いたのはあいつが俺のあげたマフラーをしていることだ。なんで、してんのか。と言いそうになったが、それ使ってるんですかィ、くらいしか言えなかった。
「はい、沖田さんがくださったので巻いてますよ」
なんて言うもんだからなんか心がむず痒い。土方の財布から金を出し精算するとありがとうございました!なんて元気な声が聞こえて来た。
帰る時少しずり落ちたマフラーをかけ直してニコニコした顔で帰りやがる。
…そんな、悪い気もしねェな。なんて思った師走のくそ忙しい時の話。
-冬来りなば春遠からじ-
(つらく厳しい時期を耐え抜けば、必ず幸せがめぐって来るというたとえ)
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