冬の風が身に染みて吐く息が白く変わりつつある今日この頃。もうすぐ年末です。
銀さんとみんなで風邪を引いたあと、私達は丈夫なのか1日で良くなり、万事屋へ様子を見に行ったときには新八くんと神楽ちゃんはより悪くなっていた。なぜ…と思っていると、銀さんが「お、お妙の粥を食ったのか…」と2人に聞いたら「食べました…」とのことで、少し経過が良くないそうだった。
私はたまご粥を作り2人にあげるとバクバク食べていたので安心した。
数日後みんな良くなり良くなり、謝罪も込めてみんなでどこか美味しいところへ食べに行こうと言うことになった。
「うわぁ!久々ネ!焼肉!」
「僕たちもいいんですか?」
「勿論!あのときはごめんね…だから遠慮なく食べてね」
「名前さん…いいんですよ、気にしなくて」
「それでも、私のせいで風邪をひかせてしまったし、それも含めて。これじゃだめかな…?」
「そんな遠慮ばっかりしてたらこっちの世界で暮らせないアルよ、名前!」
「そ、そうだよね!ごめんね神楽ちゃん」
神楽ちゃんはコートを着て私の腕を引っ張る。新八くんもそうですよ、とそういいニコニコしている。銀さんも久々の焼肉にワクワクしているようだった。
暮らす、だなんて言われてドキッとした。そうか、もう帰れないかも、なんておもっていたがそうか…神楽ちゃんの目にはそう写るのか。こちらの世界で暮らすと言うものも、悪くないのかもしれないと、心のどこかで思ってしまった。
今夜の焼肉を楽しもう!と意気込んでワイワイ食べた。食べ放題だから気兼ねしないらしく多量に食べてて笑ってしまった。銀さんと私はアルコールも入ってより楽しかった。
新八くんが途中「銀さんも記憶が飛ぶほど呑まないでくださいよ!それと名前さんも!」と言われたが「「わかりましたぁ!」」と返事をした。
幸い量的には呑んでなさそうだが、雰囲気もありほろよい、フラフラする程度まで呑んでしまった。
焼肉を食べるのが終わりになり、4人で外に出る。寒さが身に染みるこの頃で、はぁ、と吐く息が白い。
「名前さん」
新八くんに呼ばれて私はそばに行った。
「なぁに、しんぱちくん」
「あんた酔ってるな…。名前さん、僕たちは万事屋へ帰りません。今夜は銀さんと過ごしてください」
「え!な、なんでぇ」
「銀さんと2人きりで過ごしてください、たまには僕たち抜きで」
「えぇ…でも、その…」
「いいアル!そうやって遠慮しないネ!」
「は、はい!…ありがとうね、2人とも」
「いいんですよ、ではそのチャランポランをよろしくお願いします」
「またネ、名前!」
「うんっ…」
2人がそんなことをしてくれるなんて思っても見なかったから酔いが醒めるような感じに思えてきた。
「アレェ、あいつらは?」
後ろからそっと言う銀さん。驚いて振り向いた。
「あ、あのそのっ…えーと…」
「2人きりにしてくれた、とか?」
「え、う、うん…ごめん…」
「なんで謝るんだよ、そんじゃァ2人の好意は無下にはできねェな」
銀さんがはぁ、と吐息を吐くと、手を出してきた。え?と困って見ていると「手が寒くて仕方ねェから、早くしろ」なんて言うから。その大きな手に手を重ねた。
焼肉屋さんから万事屋まではすこし遠く、歩いて帰ることになった。多分それまでには酔いが醒めると思う。どうしよう…なんか、恥ずかしいよ…。そう思って俯いて歩いていたら、銀さんが頭を掻きながら私に言った。
「…ウチに酒あっから、また呑みなおそうぜ」
「…うん…」
そう言われたが、なんか緊張してしまう。
銀さんと2人きりで過ごしたことはまだ両手でも少ないくらいだ。これで緊張しない方がありえない。
そのあとも妙に緊張してしまい、あまり会話をせず万事屋についてしまった。
緊張する、と思いつつも銀さんは普段通りで、私だけが緊張しているのかと思ってしまった。
「んじゃ、乾杯」
「乾杯」
コツンとグラスを鳴らし呑む。酒が酔わせてくれ、早く。なんて思っても見る。
そのあとはたわいのない話をした。神楽ちゃんや新八くんのこと、万事屋でのハプニングや、真選組のこと、普通の会話をしていた。その分緊張も忘れつつあった。
「お、もうこんな時間か」
そういい銀さんは席を立った。寝室に行くのだろう、私はソファーで寝れればそれでいいと思っていたからそんな気には止めなかった。
「もうねるの…?」
「今こんな時間だぞ」
銀さんはジャスタウェイの目覚ましを私に見せた。もう12時は超えて1時だ。こんなに立ってしまったのか。
「じゃあ寝ようかな、私はソファーでいいよ」
「は?布団2組あるからよこっちで寝ろよ」
銀さんは寝室に行き、私も後ろをついていった。ご丁寧に布団は隣同士だ。その時酒が醒めそうな感じがして気付かぬふりをした。
再び緊張する、と。
「え、あ、うん…、そ、そうだね」
「んじゃ、寝ようぜ」
そう手を引かれて布団に座る。やだ、何これ緊張がまた来る。来る前に寝てしまおうと思い銀さんに背を向けて布団を捲った。
でもその腕を後ろから銀さんは掴み「なぁ」と耳元で囁かれた。
「な、なに…」
「なんでそんな緊張してんの」
「だって…」
「だって?」
「す、好きな人だよ、緊張するよ…」
「俺も緊張してるけど?」
「それ、は…」
後ろから覆い被さるように私を押し倒す銀さん。月明かりと相まって髪がキラキラ光る。
「…なぁ、名前に似合うって言った着物、最初は単純に似合うと思って言ったんだ。でも、家に帰る途中に藤の花の花言葉なんだっけって思ってよ、後ろの花屋に聞いてみたら、そんな花言葉だ。
それでも、俺はそう思ってるよ」
銀さんが私に似合うと言ってくれた着物の柄。藤の花の花言葉は、
「だからよ、名前」
"優しさ、歓迎、決して離れない、恋に酔う"
「俺から、離れないでくれ」
切ない声で私に言う銀さん。
そう言いながら覆い被さり、2人の体温が重なる。
私は、もう、この人が好きだと、恋に落ちてしまった。
-恋は盲目-
(恋におちると、理性や常識を失ってしまうということ)
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