高杉一派の使用する船内を歩く私。と、それに続くまた子さん。
「…また子さん…」
「なんすか」
「…迷子になりました…」
「やっぱり…ついてきて正解っス。こっちが洗濯の方」
「ありがとうございます…」
全然わからない!こんな狭いはずなのにわからない!と思いまた子さんに聞いた。洗濯機がある部屋に着くと私の着物が出ていた。
私はそれに袖を通し、今まで来ていた着物をまた子さんに返す。着物を着付けている最中、声をかけられた。
「その…名前さん?は、白夜叉とどういう関係っスか」
「銀さん?…付き合ってる、よ」
「は、はぁ!?あんな男と!?」
「あんな男って…確かにあんな男かもしれない!」
「なに今更気づいてんスか」
「いや…好きな人だからその辺は盲目なのかもね」
「盲目…」
「恋は盲目なんて言うじゃないですか、あなたも高杉さんに盲目なんでしょう?」
「は、はぁ!?違うっス!断じて!」
「そうなの?」
「し、晋助様は…憧れというか、あの人の力になりたいって言うか…」
「…人には、色々な好きがあると思うの。恋の好き、モノが好き、憧れの好き。あなたの好きは憧れの好き、ですね。素敵です」
「…憧れ…」
「憧れって一言で言えばそうだけど、一言では言い表せないくらいの全てが詰まった"憧れ"って言葉なんですよね」
「………あんた、変なやつっスね」
「酔ってるかもしれないから、忘れてください」
「…うす…」
話ながら洗濯機が置いてある部屋を出る。
この子も根はいい人なのだ。かっこよく、貫く芯がとても強い女の子だ。
私は再び高杉さんと万斉さんがいる部屋に着く。また子さんも入りますか?と聞くとここにいるっス、と言われた。私は部屋に入った。
「次は藤の花の着物でござるか、とても似合うな」
「ありがとうございます。これ銀さんが選んでくれて」
「あの白夜叉が…」
「……藤の花なんて選ぶなんて意外すぎるって顔してますよ、万斉さん」
「失敬、そんなことはないでござる」
顔が驚いていた。私はわかる、サングラスをしていてもわかるぞ。
高杉さんを見ると窓の外を見ていた。
「高杉さん、席を離れてしまって申し訳ございませんでした」
「いいってことよ、あんたはその着物が、似合ってるぜ」
「…高杉さん」
「しかし、もっと年齢が若ければより似合っていたでしょうね、この私の目は誤魔化せませんよ!」
「いや武市さんかよ!」
「おやあなた本当に知っているのですね、驚きです。あんな非科学的なことなのに」
「しまった…」
高杉さんの服を着てわざわざ変声機を使って話していたのは武市さんだった。もう全然似合わないよ、すごい格好ですよ。
「あの、高杉さんは…?」
「隠れていただきました。もうじきお迎えが来ますよ」
「え?」
そう言った時、うおおおお!と声が聞こえ、バン!と襖が空いた。
「名前!」
「ぎ、銀さん!?」
「早く帰るぞ!」
「え、え!?」
「今夜は深夜のラーメンもいいデショ?」
「え、なに!?ラーメン!?」
「こちとら名前を探して飯すら食ってねぇんだよ!行くぞ!」
「わ、わわわっ!」
突然出てきた銀さんと神楽ちゃん、新八くん。銀さんが私を俵担ぎの如く持ち上げ走り出す。3人を見ると少しボロボロになっていた。
持ち上げられながらふと目線を上げるともう武市さんや万斉さんはいなくなっていた。早い、早すぎる。
私は銀さんにつかまりながら呟いた。
「ごめんなさい…」
「あぁ!?聞こえねぇよ!」
「ごめんなさい!3人とも!」
「謝ればよろしい!ほらどけえええ!万事屋一行のお通りだ!」
「名前さん!今夜の夜食はラーメン替え玉付きで!」
「私はラーメン替え玉10個と味玉とチャーシューと、全部トッピングネ!」
「え、う、うん!なんでも食べていいよ!なんならチャーハンもつける!」
「キャッホー!嬉しいネ!」
神楽ちゃんは追っ手が来ては傘の銃で足元を狙う。し、しかし早い!早すぎる!走るの早いよ!
「ぎ、銀さんは!?銀さんはラーメンなに食べたい!?」
「あぁ!?俺は!」
「はい!」
「名前が食いてェな!」
「ぎ、銀さん…」
ダダダ!と走りながらいう銀さん。
私は銀さんの服をぎゅっと握りながらこう言う。
「私は!食べ物じゃありません!」
「なんでだアアア!そういう意味じゃねぇよ!」
そう言って高杉さんの乗る船から脱出して空を飛ぶ4人。待って?空を飛ぶ?月が綺麗ねって、待ってなにこれ、なにこれ。
「キャァアアア落ちてる!落ちてる!!」
「口開けんな!飛び込むぞ!」
「ひっ…」
私は浮遊感が続くなか、海に飛び込んだ。
海に飛び込み空を見上げると上空に船が浮かんでいた。私あんな高いところから降りてきたの…。こわ…。
必死で浜に着くと、安心して涙が出てきた。
「あ…」
「名前さん!?どこか痛いところあるんですか!?」
「ち、ちが…。ごめんなさい…!わたしが注意してれば、こんなこと起きなかったのに、ごめんなさい、迷惑かけてごめんなさい…!」
ポロポロと涙が落ちる。高杉さんの船の中は怖かったが、それ以前に3人に迷惑をかけたこと、わたしなんかのためにここまでしてくれたこと。それが申し訳なかった。
「…名前」
銀さんの声がしてビクッと身体を震わせてしまった。怒られる?嫌われる?
「俺は、名前が無事でよかったよ」
銀さんはそういいぎゅっと抱きしめてくれた。あぁ、私はこの人の温もりを欲していたのかもしれない。私はいつから、人と関わらないと決めていたのに、関わるようになり、もっと、もっとと、求めていたのだろう。
「ぎん、さん…!ごめんなさい、心配かけてごめんなさい!」
「いいってことよ」
海に響く私の鳴き声と、優しく撫でる手と、ホッとする目線をくれる2人を。私は忘れない。
*
「おやじ、替玉2つ!」
「こっちは3つ!」
「チャーハンもおかわり!」
ガツガツと食べる3人を見てお財布の中身が全部取られることを確信したが、それくらいでは足りないくらい労力をかけてしまったことに申し訳ないと感じてしまう。
あのあと、神楽ちゃんがお腹空いたネ…とこそっともらし、近くのラーメン屋に行くことにした。身体が濡れているのもいざ知らず、そのまま店に行きガツガツと食べている。
「んで、名前はなんかされなかったのか?」
「え?」
「ほら、あの高杉だろ?なんかあったかなってよ」
銀さんはラーメンを食べながら話しかけてきた。
「い、いや…。目が覚めたら夜で、そのあとお酒を少しかな…。あ、あと、着物が汚れてて洗濯させてもらったんだけど、その時また子さんの服を借りたことかな…」
「え!あの服名前着たアルか!?」
「う、うん…」
「あの服、露出すげぇもんな。あーいいなー俺も名前に裸エプロンとかさせてェわ」
「まって裸エプロンとかの次元じゃないからね?」
「そしたら今度名前と私、お揃いのコーデしようヨ!」
「え!神楽ちゃんの服着るの!?」
神楽ちゃんはラーメンのスープをごくごく飲みながら言った。
「嫌、アルか…」
しょぼん…という効果音が着くごとく私を見る神楽ちゃん。この目、吸い込まれそうだよ…!
「そんなことないよ!着たい!着たいな!」
「わぁい!やったアル!」
「でかしたぞ神楽、名前のエロい姿見れるじゃねェか」
「おいあんたここラーメンだぞ」
新八くんのツッコミ虚しく、銀さんは聞く耳を持たない。
ひとしきり食べたところでラーメン屋さんを出る。お財布の中身はすっからかんだが、心はほっこりしていた。
空を見上げるともう船はなかった。
そうか、高杉さん達はわざと止まっていたのかもしれない。それは本人しかわからないことだ。
「ほら、帰るぞ。万事屋に」
「…うん!」
銀さんは手を出してくれてそれを掴む私。私の反対側には神楽ちゃんが側にいる。銀さんの隣には新八くんがいて、それを見て私も笑顔になる。よかった、無事戻ってこれて。ありがとう、3人とも。
高杉達の乗せた船が宇宙を旅する。
「晋助、よかったでござるか?」
「あぁ、あれでいい」
「拙者は名前に興味があった、どんな音色を奏でるか」
「あいつはあたまが切れる、多分言いくるめても言わないだろうよ」
「そうか…」
「また、会う日までだ」
とうに宇宙にいる船の窓の外を見上げる高杉。その瞳には宇宙の星が綺麗に輝いていた。
-類は友を呼ぶ-
(似ている者や、気の合う者は、自然と集まって仲間を作ること)
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