夢を見ていた。
これは、この世界に来る前の話だ…。
「名前、今日の夜ご飯は何がいい?」
「早く仕事おわして帰ってきなさい」
「うん、わかってるよお父さんお母さん」
お父さんとお母さん…元気かな…
お父さんのお母さんの先、銀髪の着物を着た人がいる。それと袴を着た少年とチャイナ服の少女。私は、知ってる。
「名前」
ハッ!と目を覚ました。
知らない天井…ここは…。待って…私誰かに頭を打たれて…それで、ここに…
「目ェ覚ましたか」
「!」
「怖ェ顔すんなよ」
「…高杉、晋助…」
「…銀時と仲良いよな、お前」
「……………」
目の前に高杉晋助。そしてここは多分、鬼兵隊の船だろう…。
…………夢小説みたいな展開だよこれ!何これ!多分銀さん達が助けてくれるパターンだよコレェ!!!叫びたい、そう言いたい…我慢するんだ…!
「ダンマリか、まぁいい。飯の時間だ」
「は…、ご、ごはん?」
「もう夜だぜ?」
「え、えええ!夜なの!?そんな寝てたの!?」
「…まぁ…」
「えええまじか…なんかショック…」
「気を失ってたんだから当たり前だろ」
キセルを吸いふぅ、と煙を吐き出す高杉。いや様になりすぎだろう。わかる?エロエロ高杉が目の前で船の窓枠に座りながらキセル吸ってるのってマジでやばいからね、これテンションあがっちゃうからね、それと声がいい。
「そう、ですか…」
ふと自分を見ると着物が汚れていた。新品なのに、殴られた時に転んだからだろう。
…なんか、悲しい…綺麗にしたいな…。
「あの…た、高杉さん…」
「なんだ」
「この着物…その、汚れてしまって…洗えたり…とか、そのっ…」
「…………」
おおおお怒ってるぅ!!怒ってる!!怖い怖い!助けて!!!!
「汚ねぇ女は好きじゃねぇ」
高杉さんは手をパンパン、と手を叩くと襖の近くに「晋助様?」と女の人の声がした。
この声って…
「また子、こいつの着物洗濯してやれ」
「失礼しますって…こいつ白夜叉の…。えぇ…なんでですか…」
「着物が新品だとよ、それで凹んでやがる。部屋が湿っぽくなって仕方ねェからな」
「…はい、わかりました。おい、そこの女。こっちくるっス」
「え、は、はい!」
「…銀時が藤の花が描かれた着物を選ぶなんざ、笑えるねェ」
「え…?」
「おい!女、行くっスよ!」
「え、はい!」
高杉さんがそう言った。そんなに意外に写るのかな、なんて思ってしまった。
また子さんに連れて行かれたのはこの船の中の小さな脱衣所と洗濯機。
「ほら脱げ」
「は、はい!…あの…」
「なんすか」
「…変えの着物…なんて、ありませんよね…」
「…はぁ…ちょっと待ってるっス」
暫くしてまた子さんが持ってきたのは、また子さんがきている着物と同じもの。
まって、これを着ろと?わたしそんな若くないんだけど?
「え、こ、これは…」
「これしかないっス」
「…お腹、隠れるのって…」
「ないっス」
「…はい…わかりました…」
洗濯して乾くまでしばらく時間がかかるそうなのでこれを代わりに着ることになった。
切る順番を間違えてまた子さんに教えてもらいながら着た。なんだかんだまた子さんも優しい。
「晋助様」
「入れ」
「ほら、入れっス」
「う…はい…」
「…なんのコスプレパーティーだ」
「すいません…着物お洗濯させていただいて…代わりにまた子さんの服をお借りしました…」
「まぁいい、座れ」
ちょこんと酒とつまみが用意されていた。しかもご丁寧に向かい合わせに。私はビクビクしながら座り、そのあと高杉さんも座った。
「ほら、酒だ」
「は、はい…」
小さな上品なお猪口に酒が注がれる。私なんでこの人とお酒呑んでんだろう…なんて思ったが考えないことにした。
「ん、」
くいっと呑むその姿はさすが様になる。悔しいがカッコいい。
私も少し呑む。あ、これ美味しい…。
「…驚いたと思うが、俺たちの方が驚いたぜ」
「え?」
「お前は、天人に連れ去られそうなところだったんだよ」
「は!?」
「なんだ、わからなかったのか?ここ数日ずっとつけられていたぞ」
「え、本当ですか?」
数日、というと沖田さんに話しかけられた前くらいからかな…。何故だろう…。
「まぁその前に真選組の監察もお前のことを付けていた。そいつのことはなんで付けていたがしらねェが、その後ろに天人も付けていた」
「…私2人に尾行されていたんですか…」
「間抜けなことだ」
それに気がつかない私も私だ。全くそんな感じはしなかった。多分…いつも誰かしらと今からだろうと思う。
「でだ、お前が連れ去られそうになっていて、たまたま通った万斉がお前を助けたのはいいものの、連れて帰ってきたってことだ」
「河上さんは何してんすか…」
「何もしてないでござる」
「わっ!」
後ろを振り返ったら河上万斉さんがいた。いや気配とか音とかしなかったよ!?大丈夫!?
「お通の新曲を届けた後帰ろうとしたらたまたま天人に連れ去られそうになっていたのを見つけてな、それでなんか持ってきたでござる」
「私は捨てられた猫ですか」
「いや犬だな」
「高杉さんも何言ってるんですか、ここ夢小説ですよ、高杉さんはククッとか言えばいいんですよ、暗黒微笑とかつけれてればいいんですよ、エロテロリスト」
「は?」
「すいませんでした」
なるほど、だから私はここにいたのか。てっきり高杉さん達に連れ去られたと思った。
窓の外を見ると暗くなっており、体感では20時を超えてそうだった。
私はお団子のお買い物の途中で連れ去られたと言ってたから女将さんや親父さん心配してるだろうな…。
銀さん…は、心配してないと思うけど大丈夫かな…。
「…そんなに気になるか、あいつが」
「え?」
「銀時のことだ」
「銀さん?いや…お団子屋さんの買い物途中で倒れたので、そっちが心配で…」
「そっちでござるか」
私の隣にすとんと座り私の酒を取る河上さん。最初会った時は怖かったが案外普通の人なのかもしれない。
「…こんな私を拾ってくれて、雇ってくれた場所なんです。初めてこの世界で自分で見つけて、自分の意思で働くと決めた場所なんです…。だから、心配で」
「………そうか」
「すみません、こんな話をしてしまって」
「おい、女って…先輩もこんなところにいたんすか」
「あぁ、また子、どうしたでござるか?」
「その女の…」
「名前でござるよ」
「え!」
河上さんが私の名前を呼び驚いて顔を見た。サングラスのせいで表情はわからないが、笑っている、のかな…?
「なんでござるか?そなたは名前であろう?」
「い、いやそうですが…驚きまして…」
「あー…その名前さん?の着物乾いたっス」
「あ、ありがとうございます」
また子さんがそういうと襖を閉めてしまった。乾いたことを知らせてくれてありがたい。
「拙者はそのままの姿でも見目麗しいがな」
「え!」
「はて、変なことを言ったかな、なぁ晋助」
「変ではないが」
なにこれ、なにこれ!なんか、それっぽいよ!?雰囲気それっぽいよ!?なにこれ!
「夢小説じゃん!」
「…夢小説でござる」
「なに言ってんすか」
そうツッコミを入れて私は部屋を出た。はやくこの着物から普通の着物に戻ろうと。
スタスタ歩く船内は、なんか新鮮な感じがした。
-入船あれば出船あり-
(世間はそれぞれ異なった事情があるという事)
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