本日は曇りです。冬の風が吹く今日この頃。お団子屋さんも忙しく動き回っています。

「あ!」

ピン!と机に袖を引っ掛けてしまい、びりっと少し破ってしまった。

「あらあら、破れちゃったの?」

「女将さん…はい…これお登勢さんから頂いたやつなのに…」

「お登勢…あぁ、あのスナックのお登勢さんね、いい反物よこれ…」

「え!そうなんですか!?」

「持ちもいいから丁寧に管理していたのねぇ…でもそれじゃすこし大変だから私が直しておこうか?」

「本当ですか!」

女将さんはニコニコしながら縫い物をするジェスチャーをする。なんかワクワクしている。その姿を見て親父さんは「奴は、子供の着物を縫うのが夢だったんだよ」と言われ、合致した。仕事終わりにアパートへ行きシャツと長ズボンを着て着物を渡した。

「代わりの着物、おすすめのお店あるから行きなさい」と言われてその着物屋さんへ向かっている最中だ。

「お、名前」

「銀さん!こんにちわ、どうしたの?」

「いや、甘味買いにコンビニ行こうと思ってよ。名前こそ洋服なんて珍しいじゃねぇか」

「それが仕事中袖を引っ掛けちゃって着物切れちゃったんだ…だから買いに行こうと思って」

「そうなのか、じゃあ俺も行く」

「え、いいの?」

「いいってことよ、デートデート」

「でーと…」

銀さんは私の隣に立つと手を握ってきた。そんな普通のことがどきっとしてしまう。着物屋まで色々話しながら向かった。

「いらっしゃいませ」

女将さんに言われたのはここのお店だ。とても敷居が高そうで反物も高そうだった。

「じゃあ私見てくるね」

「おう」

高そうだが、持ちが良さそうだなぁとか、これかわいいなとか、繊細なものが多かった。

「お、これ可愛いな。名前に似合うと思う」

銀さんが指をさしたのは、藤の花があしらわれた薄ピンク色の着物だ。

「わっ…これ、大人っぽい…」

「いいんじゃね?似合う」

「じゃあ、これにする!」

「ん、じゃあ簪とか帯留めも買ったら?」

「うん!」

そうして店内を見て、藤の花があしらわれた着物に合わせて、帯、帯留め、簪も購入した。簪は水色と白色の波紋が施してあるものを買った。銀さんぽい、と思いカゴに入れた。レジに行くと、女将さんと同じくらいの年齢の人がレジをしてくれた。

「…あら、あなた…団子屋の?」

「え?お団子屋さんで働いていますが…」

「あぁ、あそこの。私、実はあそこのお嫁さん、みんなは女将さんって言うのかィ?そこの友達でさ、電話かかってきたんだよ」

「え…?」

「"うちから、かわいい娘が行くから反物安くしてくんな"って。あんた、愛されてるねェ」

「…女将さんが…」

「そーそー、名前は女将と親父から愛されてるもんなァ」

ぽんぽんと頭を撫でる銀さんと、それをみて笑う店員さん。ありがとうございます、女将さん。買って着たらすぐ見せたい。

「じゃあ金額はこれで」

「え!これは、半額じゃないですか!これはさすがに…」

「いいんだよ、代わりに今度団子持ってきておくれ」

「…はい!かしこまりました!」

そんなこんなで買い物を終えて、明日着物を着て見せようと決意して銀さんと別れた。








次の日の出勤日、女将さんに新しい着物を着てお店に出た。

「まぁ!いいじゃないかい!しかも藤の花にんていいねぇ」

「おお!名前ちゃん綺麗だねぇ、しかも簪もいい色だ!」

「女将さん、あそこの着物屋さんお友達だったんですね、しかもあんな言葉…私に…ありがとうございます…!」

「いいのよ、名前ちゃんにはお世話になってるんだから、私たちの娘よ」

「女将さん…ありがとうございます…。それとこの着物、銀さんが選んでくれて…」

「え!あの万事屋の旦那が!?」

「はい…」

すごい驚いてる2人、何故…

「名前ちゃん、藤の花は"優しさ、歓迎、決して離れない、恋に酔う"…なんて花言葉もあるんだよ。それをあのロクで無しの天パが…。わかってんのかね」

「え、そ、そんな花言葉が…」

「…それだけ、愛されてるってことさね」

「う…」

それを聞いて顔が赤くなってしまった。やだな、知ってたのかな…。

「ふふ、じゃあ顔冷やすついでに、買い物お願いしていいかい?」

「は、はい!行ってきます!」

私は熱くなった顔を冷やすべく、外に出た。
早く冷やさなきゃー!と思い、小走りに大江戸マートへ向かった。
小走りで向かっている時、背後から頭を殴られた。

「!!」

私は誰に、とも見えず倒れて意識を失った。






「あ!名前ちゃんにお財布とメモ渡すの忘れた!ちょっと行ってくるから!」

「おうよ!」

女将さんが団子屋から大江戸マートへ向かう最中、名前が倒れていた。

「!?」

そして、背の高い男が彼女を抱えて裏手に入った。

「ま、まって…」

女将さんは名前が連れられた裏手に向かったがもうその姿はなかった。代わりに落ちていた彼女の簪。それは銀時と同じ羽織の柄ものガラス玉がついた簪だった。

「…よ、万事屋の、銀さんに、連絡しなきゃ…」

女将さんは走って団子屋戻り震える手で電話をかけた。

ーはい、万事屋ですけどォ

「ぎ、銀さん!?名前ちゃんが、名前ちゃんが連れ去られた!」

ー今からそっちに行く、待ってろ!

ガチャン!と切られた電話を置いた。

「お、おい、名前ちゃんは?」

「あんた…名前ちゃんが、連れ去られたんだ!」

「…連れ去られた!?」

しん、とした団子屋に響く声。それは冷たく降り注ぐ雨の如くだった。




-雨垂れは三途の川-
(雨垂れの落ちる軒下から一歩出れば、外にはどんな危険が待ちかまえているかわからぬから、いつも用心を怠るなという戒め)







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