秋風がまだ心地よく感じる今日この頃。
お団子屋さんにまた注文が来ました。

「…で、こうなるわけですか」

「なんか言ったか?」

「いえ!なんでもないです、土方さん」

本日はお団子屋に「真選組で餅つき大会をするから餅米の注文だよ」と言われ餅米を持たされた。
真選組に付き、代金をいただき帰ろうとしたら土方さんから声をかけられた。なんでも隊内の指揮を高めるべく餅つき大会をしよう!とのでこの餅米を頼んだそうだ。

多量に作られるからよかったら手伝ってくれと、土方さんに言われ一応お店に電話してきたら「やってきな!お客を掴むのも名前ちゃんの役目だよ!」と言われた。とりあえず、とお店のタレのレシピを数点教えていただき、土方さんの提案を承諾した。

屯所の庭へ行くと、杵と臼は用意してあり、あとはついて食べるだけの状態だった。
会場を見ると、他の隊士さんたちなどたくさんいた。

「近藤さん」

「おお、トシ!ってえーと…?」

「苗字名前です。お久しぶりです近藤さん」

「苗字…?…あぁ!病院の子だな!今日はどうしましたか?」

「苗字さんがバイトしてる団子屋の餅米を頼んだんだ。ついでに親父からの秘伝のタレの作り方も教えてもらったらしいぞ」

タバコに火をつけて話す土方さん。か、かっこいい…様になる!

「そうなのか!ではそのタレを作ってくれるってことだな!嬉しいなぁあの団子屋のみたらしは美味いからな!」

「ありがとうございます、親父さんにも伝えますね」

「あぁ!ぜひ伝えてくれ!」

「おいおい、このかわい子ちゃんは誰だ近藤ォ」

「おお!とっつぁん、この子は苗字名前さんだ。かぶき町の出入り口のところの団子屋のバイトさんだ」

「あそこの団子屋の娘かァ、あそこの団子うめぇからなァ。俺は松平片栗虎っつーモンだ。よろしくぅ」

「はじめまして苗字名前です。よろしくお願いします、松平さん」

「俺のことはとっつぁんて呼んでよォ名前ちゃぁん」

「は、はい…」

「おいとっつぁん、ここはキャバクラじゃねぇんだ、あんまりベタベタすんなよ」

「お前は少し遊ぶことを覚えろトシィ」

「あんたは少し落ち着くこと覚えろよ」

そんな会話をしていたら、餅つき大会始めますよー!と言われた。
私は土方さんにタレを作ると言い、外に置いてあるガスコンロで作ることとなった。

よいしょ!よいしょ!なんて声が聞こえてきて、なんか懐かしい感じに浸った。
昔、家の近くで餅つき大会があり、餅をついて食べたものだ。そう、父と母と。こんな家を離れて探しているだろうか、そう思うと申し訳なく感じる。

「おい新人」

「お、沖田さん…」

「浮かない顔してどうしたんでィ」

「……少し父と母のことを思い出してました。昔はこうやって食べてたなと」

「…今の…」

「なんでもないです!ごめんなさい、楽しい餅つき大会にしましょう!」

「…おう」

餅つき大会は大盛況のまま幕を閉じた。
私は代金を多めにいただき屯所を後にした。



名前が屯所を後にした後、沖田は山崎を呼び出した。

「なんですか、沖田隊長」

「…苗字名前の実家を調べろ。それと身の周りを」

「苗字ってさっきの子ですよね?どうしたんですか?」

「…まぁ、少し気になってるからでィ」

「はい、わかりました」

山崎は沖田の申し立てを聞き調べることになった。

「…あんな顔をされたら、会わせたくなるもんでィ」

沖田は名前の喜んだ顔を思い浮かべて少し胸があったかくなった。








真選組の帰り、親父さんへ電話をしたらそのまま帰っていいと言われた。ありがたく思い、そういえば松平のとっつぁんから言われた言葉を思い出したのでそれを伝えたら「…そうか、あいつ覚えていたんだな」なんて聞こえた。
これ以上深く聞くのは野暮なので、電話を切り、万事屋へ向かった。

「こんにちわぁ!」

そういうと定春がわん!と玄関に来た。

「あれ、銀さん…か誰かいる?」

「わぅ」

定春はこっちに来てと言わんばかりにちらちらこちらを見てきた。定春の後ろについて行くとソファーで銀さんと神楽ちゃんがお昼寝をしていた。

「…ねてるんだね」

「わん」

「じゃあこれ…」

私は手紙を書き定春へ託し、アパートへ帰った。
今日は真選組の人たちと仲良くなれそうでよかったなぁとか、親父さんが言ってた一言はなんだろうとか…。それでも平和な日々に満足をしていた。


一方真選組の山崎退は苗字名前について調べていた。現在かぶき町の出入り口付近の団子屋で働いており、それで生計を立てているらしい。万事屋の旦那とも付き合っている、か。
しかし江戸に来る前の足跡が全く無い。
沖田隊長は「両親に合わせてやりたい」なんて言っていたが、壁があるならそれをとっぱらったほうがいいだろうと思っているのだろう。
しかし、その前に彼女の両親や出身地、仕事など全く出てこない。唯一大江戸病院の看護師が「あの子が記憶喪失になったときに、東京から来たとか?前の仕事は事務をしていたとか?なんか言ってたわねぇ」なんて教えてくれた。

「…どういうことだ…」

そう呟いた声は広い書庫に消えた。




-隠れたるより現るるはなし-
(やましいことや秘密は、隠そうとすればかえって人に知られてしまうというたとえ)








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