男女というものは性別という括りにされているが、単にその二つしか選択肢を作らなかった世の中にも問題があるのだ。これは男性と女性が逆転した世界の話。
本日ハロウィンが終わり11月に入って少し経った頃、お団子屋さんは本日も繁盛しています。そんな中、お客さんが一時少なくなった時、外で掃き掃除をしていた。その時、ピカリと空がピンク色の光に包み込まれた。
「わぁああ!」
「名前ちゃん!」
しばらくして落ち着いた。私は転んだ時に落とした箒を手に取り立とうとした。
あれ…体が重いな…最近お団子食べすぎたかな…あーもう女将さんと親父さんが「これおすすめの食べ方だよ」なんていうから試しちゃうじゃんって考えながら女将さんの元へ行った。
「なんですかね、その光…て、だ、誰!?」
「いやあなたこそ誰!?」
女将さん…、が着ていた着物を着た初老の男性と、親父さんが着ていた着物を着た初老の女性…あれ…あれれ…?
「ま、まさか、女将さん!?親父さんなの!?」
「そ、そうさね、っていうかあんた、名前ちゃんかい!?」
「そ、そうですがっ…!」
そう2人に言った目線の先に商品ケースに映った私。な、なんだこれ、男性になってる…ちゃんと20代男性になってるし髪の毛も短くなってる…何これ!
「お、女将さん…」
「あんたいい男だよ…」
そういい女将さんは少し涙目になりながら私をみていた。まってなんで親父さんも泣いてるのよ。
「…これまさか…」
ー「地球の皆さん、神の贈り物はしっかり受け取ってもらえましたか?」
声が聞こえる先を見ると、目深く被り物をしている人の声がした。お団子屋にあるテレビからだ。
「見せて!」
ー「…しかし、教えに背こうというならば、この星中に捌きの光が降ることでしょう。私たちはいつもあなたたちをみている事をお忘れなく」
これは…デコボッコ神!ってことは、ここにいるみんな男女逆転してしまったのか!
「…これは…なんだい…名前ちゃん…」
「…とりあえず、男らしく、女らしく過ごしましょう。捕まっちゃうかも知れません。
親父さんの着物を着てください。親父さんは女将さんの着物を着てください」
「お、おう…あとこれ名前ちゃんに、いや名前くんかな」
そう女将さんに渡されたのは親父さんの着物と袴。
「これ俺が若けェ頃、来ていたモンだ。これ着てきな」
「親父さん…ありがとうございます!」
別室で私は貸してもらったのを着たが、体に違和感がありすぎて怖い。胸がないし、無いものがあるのが…。
万事屋のみんなは今解決している方向に考えているのだろう。もう少したったら万事屋へ向かおう。
「いやぁ、驚いたけど仕方ねぇよな、とりあえず上がやってくれるまで待つしかあるめぇよ」
「そーそー、仕方ねぇからな」
さすが江戸の人たちだ、一時混乱があったもののその性を受け入れ落ち着くためにここの団子屋に来たそうだ。
「いやぁしかしあの名前ちゃんがこんなイケメンな兄ちゃんになるとは思わなんだ」
「あはは…」
私は元の身長よりはるかに背が高くなり、若い男性になっていた。背格好は銀さんに似ているが、自分がこんなふうになると思っていなかった。
大丈夫かな…銀さん…。
*
お団子屋の周りを見回っていたら、橋の上に女の子2人を見つけた。いやなんかすごい軍団だ。まぁいいか…万事屋へ急ごうと思い、橋の上を渡る。
「ねーねー、おにぃさん、あたしの宇治銀時丼食べなぁい?」
「おにぃさんお茶しなぁい?」
と、2人に声をかけられた。
振り返り女の子をよく見た。あれ…この銀発と着流しのマーク…。それとサラサラのV字前髪…は、まさか、まさか!
「ぎ、銀さん、と土方さん?」
「え?って…お前、名前か!?」
「う、うん…。銀さん、だよね?」
「お、おう…」
うわー!かわいいー!超かわいいなにこれ可愛すぎる!さすがだよ銀さん!
「銀さん!かわいいよ、あとで写真撮らせて!お願い!」
「お、おう…いいけど…」
くるくるの天然パーマは、ウェーブのかかった銀髪になっており、いつもの着流しを着こなし、スリットが深く入っている格好になっていた。
「おい苗字さん」
「………土方、さん?」
「…あぁ」
「……………あっ…すみません」
「ねぇ上から下まで見るんじゃねぇ」
土方さんはかなり太っていた、いや驚きすぎてじっくり見てしまった。それでもぶたさんが描かれた着物は可愛い。
「2人ともとても可愛いですね、私がお嫁にもらいたいくらいだよ」
「名前、お前のキャラ変わってねぇか?」
「え、そんなことないよ?私は銀さんが、いや銀子さんが可愛いと思うから言うだけだよ」
「…お、おう…」
「なんだよいちゃつくならあっちいけや」
土方さんが私たちを見ながらそう呟く。ことの発端や、今現在の状況を聞き、もうすぐ片付くと思うから団子屋にいた方がいいと言われた。承諾し、団子屋に急ぐ。
そのあとも私の後ろでナンパしていたが、なんかいい声が聞こえてきた。
お団子屋に帰る途中、髪を縛った女の子を見かけた。可愛いなぁあの子…いや今いるのは元男性か。会釈し、立ち去ろうと目の前を通った時「おい新人」と呼ばれた。
「この呼び方…」
「なんでィ、俺のことわかんねぇのか」
「い、いや!そんなことないですよ、沖田さん」
「旦那に会ってきたんで?」
「は、はい…まぁ…。銀子さんとても可愛くて驚きました!」
「私は…」
「え?」
「私は可愛くないの?」
可愛い声を出して腕に縋り付くように近づくとこっちを見てきた。
「や、可愛いですけどっ…沖田さん…」
「じゃあ私と付き合ってよぉ、お兄さぁん」
「え、えぇ?」
こ、これがモテる男性の立場かー!すげぇー!
「わ、わた、えっと…俺には付き合ってる奴がいるから、ごめんな」
そう沖田さんの顔を見て頭を撫でると、沖田さんは固まってしまった。あれ、まじか…なんかこういうのやりがちじゃないの?と沖田さんの表情を見ると少し照れてるように見えた。案外女性の姿だと可愛く見えてしまう。
「私、お団子屋さんに急がなきゃ!ごめんね沖田さん!」
そう沖田さんとうでを離れお団子屋へ急いだ。
1人沖田は名前の後ろ姿を見つめる。女性の時とは違い、優しい男の雰囲気を纏い、目つきは女の時の名前と同じ目だったのを思い出した沖田。
「…なんでィ…あの野郎…」
沖田はやられた、と1人熱くなる頬を押さえていた。
-狐を馬に乗せたよう-
(動揺して落ち着かないさま。また、言うことが当てにならず信用できないことのたとえ)
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