秋風が心地よく吹き、紅葉が綺麗に衣替えして来た頃、お団子屋の女将さんがお願いことをされた。
「緊張する…」
今日、女将さんが「真選組組からお月見団子を作って持ってきてくれないかって言われてね。しかもあの沖田さんからの指名よ」と言われお月見団子をもらい、行ってきてと言われた。
沖田さん…!なんで私なんかに配達を…。
銀さんとのことを言われるのだろうか。やめとけとか、邪魔だとか…。
いや!大丈夫!そう考えてお団子屋から真選組屯所へ向かった。
ー特別警察真選組、そう書かれた札を見て緊張が一層増した。沖田さんに用事があるって言えばいいのかな…それとも誰か…
「す、すみませーん…」
そう呟いても誰もいないし人気がない。あれ、皆さんいないのかな…?そう思い一旦引き返そうとした時「あの、どうされました?」と声をかけられた。
「わ!え、えぇと…」
「すみません!脅かしてしまって…。何か用ですか?」
「あ…」
山崎さんだ、そう名前を言いそうになって口を継ぐんだ。危ない、気をつけなければ。
「えっと…お団子屋ですが、月見団子をお届けに来ました。沖田さん宛に…」
「え!そうなんですね、ご苦労様です。そんな話聞いてなかったなぁ…。少々お待ちください、えっとお名前は?」
「団子屋の苗字名前です」
「苗字さんですね、ここでお待ちください」
そう言い玄関まで通され、ここで待っててと言われた。意外と大きい玄関とかなりの広さの屯所。すごいな…ここがみんながいるところか。
「新人」
「あ、沖田さん」
そう呼ばれて振り返ったら沖田さんがいた。なんか眠そうだし寝てたかもしれない、悪いことをした…。
「あのこれ、お月見団子です。皆さんで食べると思い、結構多めにあるそうです」
「へェ、わかりやした」
「代金はこちらになります」
代金が書かれた紙を渡し、お金をいただく。紙袋に入れて「ではありがとうございました」と屯所を去ろうとしたが、沖田さんに腕を掴まれた。
「え…、あの…」
「茶付き合え」
「え、えっ?」
「ほらいくぜィ」
「えぇ」
腕を引かれ屯所の中へ連れて行かれる。ま、待て待て!なんで!?え、えっ…
混乱していると1つの部屋に着いた。ここ沖田さんの部屋なのかな…。そうキョロキョロしてると「山崎ィ、茶」と言い放った。え、山崎さんいるの!?足音しないし、さすが監察。しばらくするとお茶を山崎さんが運んできた。
「あ、ありがとうございます…」
そういう時山崎さんはニコッと笑いこの部屋をさった。待って!待って行かないで山崎さん!2人でどうしろとこの空気!
「あ、あの…沖田さん…?」
「おい新人」
「は、はい!」
「…旦那と付き合ってるって本当ですかィ」
「え、あの…はい…」
「ふーん…」
別れろってことなのかな…。それとも銀さんには他に好きな人がいるのかなどうなんだろう。
そう悶々と考えていると沖田さんが口を開いた。
「あんたは、旦那のどこが好きなんで?」
「えっ…えーと…優しくて、ちゃんと周りのこと考えてて、私のことも考えてて、とにかく好き、だからです…」
「ふーん…」
そ、それだけ?えぇ…?何を言いたいのだろう。私が考えても沖田さんは顔色ひとつ変えず答えている。
「あの、私もう帰ります。仕事の途中だし…」
そう言い放ち私は立って部屋を出ようとした。
「おい名前」
「え」
私のことを名前で呼ぶのは初めて聞いた。
すくっと立って私に近づく沖田さん。
「なんで旦那なんか…」
「あの、沖田さん…?」
手を引かれて私を抱きしめる沖田さん。待ってどうしたのなんで。
「旦那なんかやめて、俺にしやせんか」
「お、きた、さん…?」
「なぁ、名前っ…」
私なんで、沖田さんに抱きしめられてるの?
私はなんで、沖田さんにそんなことを言われてるの、わからないよ。沖田さんは私のことを嫌いじゃないの?
「沖田さんっ…」
よりギュッと抱きしめる沖田さんと緊張する心臓。怖いよ、私は知らないよこんな沖田さん。
「離して、ください…」
「うるせぇ」
「…私、仕事に行きますから、離してください…!」
ドン、と沖田さんの身体を押すと私は部屋を出た。部屋を出たすぐそこに山崎さんが居て、会釈をして出た。早く帰ろう、早く、仕事場に戻ろう。
*
屯所からとぼとぼ団子屋さんに帰る道で考えていた。私は沖田さんに告白された?いやいや!違う違う!そんなことはない、ありえない。あの超絶かっこいい沖田総悟に告白されたとかどんな夢小説だよ!たまたま、私が居たからだ。考えないようにしようと思いお団子屋に着いたら銀さんがいた。
待って!なんか、夢小説で見たことある展開ー!何これ!待って私はなんでそんな隠そうとしてるの、そう、隠すから夢小説であんなことやそんな展開になるわけで、素直に話せばいいんだ!
「おー、おつかれ」
「ぎ、銀さん、お疲れ様」
「あら名前ちゃんお疲れ様。どうだった?」
「あ、はい。ちゃんと受け取りました」
「ありがとうね。ところでこの前の相談事は解決したかしら?」
「あ!え、あ、はい!」
「この前の相談の相手ってまさか沖田さん?」
「え!?」
「違う身分ってお侍さまだものね、しかも幕臣で高給取りの真選組1番隊沖田総悟さん!あの人はすごい人よぉ、名前ちゃんと歳は離れてるかも知れないけどここ最近はそんなの当たり前だからね!」
「ち、ちがっ…」
今沖田さんの話をしなくても!そう思いながらも女将さんはニコニコ笑いながら話をしていた。
「おーおー、なんだよ名前、俺以外の男が出来たのか?」
「ぎ、銀さん…」
「え!名前ちゃんまさか…この前の相談の相手って…!」
「俺のこと話してだんだよなァ?名前」
「銀さん、そのっ…」
「名前ちゃん銀さんと、そ、そう言う関係なのかい!?」
「え、えぇっと、その」
「ちゃんとはいって言えよ」
ぐいっと後ろから抱きついてきてほっぺを掴む銀さん。いたい、いたいいい。
「あら、銀さんかぁ。いいじゃない、天パで万年金欠、家賃滞納、仕事してるかどうか怪しくて、パチンコ大好きな糖分野郎で」
「待て女将さんよ、俺のこと嫌い?嫌いだよね?」
「あんたツケばっかするからだよ」
「へいへい」
「名前ちゃんはもう上がっていいよ、銀さんが迎えにきてくれたんだからさ」
「ふぇ、ほ、ほんふぉ?」
「ホントホント、じゃあまたなー」
「お、おふぅかふぇさふぁでぷ(お疲れ様です)」
「はい、お疲れ様」
抱きしめられながら団子屋を出た私たちは、銀さんに腕を引かれながら万事屋へ向かった。あれ、なんか、怒ってる?
*
「で、どう言うことだ」
「どういうって…」
「お前沖田くんと仲良いの?」
「違うよ、仲良くないよ?いつも新人って呼ぶし、意地悪してくるし…。あ、」
「あ?」
「その…あのさ、怒らない?」
「内容による」
「…………」
言おう、でも怒られるかもしれない…。いや!怒られない!私は何もやってない。
「その…お団子を真選組に届けに行ったときに、沖田さん言われて…」
「何を?」
「…銀さんと付き合ってるのか、とか…俺にしませんかとか…。多分冗談だけど…その、驚いちゃって」
「…あいつ…」
「でも冗談だよ…、ね、銀さん…」
話終わってパッと顔を見たら銀さんは怒っていた。なんで、どうして?
「銀さん、怒らないで、私が悪かったから…」
「悪かったって名前は沖田くんにそういう思わせぶりな態度とったのかよ。それにちょっかいって…あいつ…」
「わ、私が銀さんとよく話してるから危ないやつかどうか見てたんだよ!ね、大丈夫だから…」
「なに?名前もあいつの肩持つじゃん、もしかして俺よりあいつが好きなの?」
「ち、ちが…そんなこと言ってないよ…」
銀さんは私の隣に移動してギュッと抱きしめた。
「ぎ、銀さん!」
「………はぁ……なんで名前は優しいかなー…」
「え!優しくないよ?」
「優しいんだっつーの、だから沖田くんも調子乗るんだよ」
「えぇ…?」
ぎゅっ…と抱きしめられるとドキドキが伝わってしまうんじゃないかと緊張する。少し身じろいで身体を離そうとしてもより銀さんはぎゅっと抱きしめた。恥ずかしいよ…。
「…年甲斐もなく、嫉妬…しちまった」
「嫉妬…」
「…こんな男は嫌かよ」
「わ、私だって、嫉妬しちゃうよ!銀さんの周りは素敵な女性が多いし、みんなスタイルいいし、可愛いし、おっぱい大きいし…銀さんの好みそうなのに…だから、嫉妬しちゃう…」
「……はぁ……」
「ぅ…」
頭上からため息が聞こえた。変なやつだと思われた、そう思っていたら、かわいすぎんだろ…と呟かれた。かわいい…?誰が?わたし…?そう思ったらボッ!と顔が熱くなるのがわかった。ついでに体が熱くなった。
「銀さん、離して…」
「ヤダ」
銀さんが満足するまで離してくれなかった今日でした。
-悋気は恋の命-
(やきもちを焼くのは、恋をしている証拠で焼かれなくなったらお終いだということ)
←