仕事終わり、いつもならお団子屋さんから早めに帰るが、今日は家に食べるものがない。しょうがないから大江戸マート…より安いスーパーに行こうと団子屋から遠回りして帰ろうと考えた。

かぶき町、ここは夕方から夜になるとキラキラしている。前に銀さんに「しらねぇなら夜フラフラ歩くな、ナンパされるぞ」って言われたけど、そんなことはない。私は本当に平々凡々なのだから。

「そこのおねーさん?オカマと話さない?」

「え?」

そう手を引かれた、光るネオンのお店へ。






「お待たせしまし、て…名前…?」

「銀さん!」

なんでこうなったアアアアア!

ことの発端は数時間前、いつもの万事屋だ。ところがババアがスパーンと入ってきた。

「おい銀時!」

「んだよババア!勝手に入ってくんじゃねぇよ!」

「ほら仕事だよ!」

「仕事ォ?」

「かまっ娘倶楽部のな」

「………俺パス」

「家賃払うまで入れさせないよ」

ズッ…とババアの背後に般若が見える。こうなるとうんともすんともだ。

「………はぁ…いくよいくよ、じゃあ新八もな」

「はぁ!?なんでですか!ちょ、引き摺らないで!」

って事で万事屋からここに来た。依頼ってわけでもねーが、ババアがウルセェから来たわけだ。俺も普段着からパー子に変わるべく着物を着て化粧をしている。
新八もパチ恵の格好を渋々している。用意をしていると「指名よー」と呼ばれた。

で、現在に戻る。

「銀さん!じゃなくてパー子さんだね!パチ恵ちゃんもこんばんわ!」

「お、おう…ってなんでこんなところに来てんだ!」

「名前さん1人で来たんですか!?」

「う、うん。だって声かけられて…たまたま入ったら2人がいて…」

「はぁ…夜のかぶき町は飲み屋やキャバクラの客引きが多いって知ってんだろ?だから気をつけろって言ってんの」

「ご、ごめんなさい…」

ごめんなさいと謝るのは、苗字名前。ここ最近、と言っても半年以上経つが、トリップしてきた女だ。ほんとかどうかは本人しかわからないが、俺は信じた。俺の過去や高杉の名前など知っていたから、それを疑う奴がどこにいるんだって話だ。

俺は最近名前と近づきたいと思っている。この関係もいいが、もっと、もっとと貪欲になる。そういえば名前と酒飲んだ事なかったかもしれねぇな。
そう俺はぼぅと考えてしまった。







ここがかまっ娘倶楽部!おお!すごい!アゴ美さんもいる!それに奥にいるのは西郷さん、いわゆるママがいた。
アゴ美さんは「初めてー?」と聞かれ初めてですと答えた。ここの色々なルールを教えていただき、どの子がいい?と問われた。
たまたま見ていたら銀さんがいて、「銀さん!」と言ってしまった。
「パー子ね、まってて」と言われ呼びに言ってくれた。

パー子さんが隣に来てじぃ…とよく見てしまった。ピンクのアイシャドウと赤い口紅、それにツインテール。かわいい、可愛すぎる!

「パー子さんかわいいね!」

「え、マジ?」

「マジマジ!私なんかよりもかわいいよ」

「いやそれは名前の方が可愛いだろ」

「…え、ぁ…」

さらりと言う銀さん。お世辞といえど少し照れてしまった。新八くん、もといパチ恵ちゃんが運んできたお酒をぐいっと呑んで照れを隠す。

「名前さん、今日はたくさん楽しみましょうね!」

そう新八くんに言われ、うん!と答えた。
そういえばここにきてお酒なんて久々に呑む。カシオレ美味しいし、この梅酒も美味しい!これも美味しいー!と、どんどん頼んでしまう。

「おいおい、大丈夫か?」

「だいじょーぶ!パー子さんも呑んで!パチ恵ちゃんもほらジュースのんでのんでぇ!」

「ぎ、パー子さん、これ名前さんやばくないっすか?」

「…まぁ、ハタチ超えた大人だ、それくらいわかるだろ」

「でも…」

「…酔い潰れたら万事屋連れてくよ」






「うっ…銀さん…ごめ…」

「名前へーきかよ」

「うー…少し気持ち悪い…」

「もうすぐ万事屋着くから待ってろ」

「ん……」

かまっ娘倶楽部で呑みすぎた私は銀さんにおんぶされて万事屋へ向かっていた。フラフラした足取りでそのままアパートへ帰ると言ったが、そんな足取りでは明日になるわと言われて銀さんのお世話になっている。
ゆらゆら揺れる振動と、ふわふわの髪を見て少し変な気分だ。

今までは画面や漫画でしか見れなかったものが私が今いるのだ。
多分ストーリーは変わることなく進むだろう。でも不安はある。異質な存在がいる事で変なことが起きないか、毎度緊張するものだ。

「銀さんの髪、ふわふわだね…」

「生粋の天パだからな」

「…銀さん…好きだよ…」

「………」

「ぐぅ…」

「寝やがった…」

夢を見た。坂田銀時におんぶしてもらって歩く夢小説みたいな夢を。幸せすぎてぽろっと出てしまった。でもこれは夢だ、想いを伝えてはいけない、だって私は帰る存在だから。








「ぅ…」

気だるい感じと少し胃がムカムカする。
昨日は、西郷さんのところで呑んで、パー子さんがいて、そのあと万事屋に連れて行くって言われたっけ…。
はっとして周りを見返せば万事屋の寝室だった。銀さん…銀さん、と探して襖を開けるとソファーで横になる銀さんがいた。

「銀さん…」

「ん…」

「おはよう、昨日はありがとう…」

「おう…、二日酔いはヘーキか?」

「胃がムカムカして少し気持ち悪いだけだよ」

「完璧に二日酔いじゃねーかよ…水飲む?」

「うん」

銀さんは台所へ行き水をくれた。それを飲み干すと少しはマシになった。

「なぁ名前」

「うん?」

「昨日のことどこまで覚えてる?」

「えぇと、お店出た後万事屋に向かってる途中までかな…?」

「…なぁ、その、昨日の……、いや、なんでもねーわ。ったく、飲み過ぎだっつーの」

「う、うん…?」

銀さんは私に目線を外し台所へ向かった。
私、覚えてるよ。覚えてるんだ、銀さん。
でもこの言葉は言えない、このままの関係の方がいいと思っているから、蓋をしよう。厳重な鎖をかけて。


-鳴かぬ蛍が身を焦がす-
(口に出して色々、言う人よりもジッと黙っている人の方が心の中で深く思っているという意味)








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