私は走った。家に帰る為に、あの人が待っているところに。
頬が痛い、男の人の力で叩かれて身体がよろけて倒れれた。叩かれた頬に鈍痛が広がる。痛いのは、あの人の心も、銀さんの心も痛いのだろう。
…それと唇を奪われた。

「…私、初めてだったのに…」

そんな事は考えるのをやめよう。早く戻ろう、あの銀色の世界へ。




坂田銀時が坂田金時の光に勝った次の日、銀さんは私のアパートに来ていた。

「銀さん!どうしたの…?」

「あー…その、助かったわ」

「金さんのこと?」

「おう」

「そっか、よかった。銀さんがいなくちゃ万事屋じゃないもん」

私は銀さんにそう言い、いちご牛乳を差し出した。銀さんはあんがと、と受け取りごくごくと飲んでいる。

「そうだ、新八くんや神楽ちゃんは?」

「あいつらは迷惑かけたからってあいつと謝りに行ってるわ」

「そっか…」

新八くんや神楽ちゃんが欲しいと言って理想のリーダーを詰め込んで坂田金時というものができた。だからケジメは自分たちでつける為にいろんな各所に謝ってるそうだ。

「なぁ、前の日何があったんだよ」

「え…?」

「ほっぺた、腫れてるから」

「…それ、は…」

「それに唇切れてる」

「転んだの…」

「転んでこんななるか?」

アパートに2人、銀さんはぐいと詰め寄る。
まって、緊張する。でも言えないそんなこと。そうしたら銀さんは心配してしまう。絶対に言えない。
考えているとピンポーンとチャイムが鳴った。私は銀さんから抜けて玄関に向かった。

「はーい…て、新八くんに神楽ちゃん…それに…」

「名前さん…」
「名前…」

「…とりあえず入って、話はそれから」

そういい3人を部屋に招いた。
部屋に銀さんがいることに3人とも驚いていたが、銀さんが「心配かけたから来ただけだ」と言った。

「それで、どうしたの?」

「名前…!私、わたしっ…名前にもう来ないでって言ったアル…そんな事は無いネ、もっと遊んで欲しい、また万事屋に来て欲しいアル…!ほっぺ叩いてごめんなさい…!」

「僕も、名前さんにひどいことを言ってしまいました…すみません…すみませんでした…!」

2人は私に土下座をして謝ってくれた。
2人がどんな思いをしてこれまで謝ってきたのかわからない。自分たちが悪いと、思わないで欲しい。

「2人とも顔を上げて…。私は大丈夫だよ、だって記憶が塗り替えてたなら仕方ないよ。私は、2人とも銀さんのことを思い出してくれてよかった。2人は私とまた遊んでくれる…?」

「名前…もちろんアル!」
「名前さん…勿論です!」

「よかった…!」

名前ー!と抱きつく神楽ちゃんと、すみませんと謝りこっちへくる新八くん。大丈夫だよ、気にしないよと言いながら2人と頭を撫でる。本当によかった…。

「ちょっと!金さんも名前さんに謝ってください!」

「あー…その…。俺は、俺の玉座をまず作ることにしたよ…それが地面から作ろうが、砂から作ろうが関係ない。俺がいいと思ったところが俺の席だって事がわかった。
だから、そいつの玉座を奪ってすまねぇ…」

私に謝る金さん。
私は頭にチョップした。

「いだ!」

「…これで、おあいこです。それに、あなたはやはり坂田銀時の分身なのですね。今のあなたは、坂田銀時にそっくりですよ、金さん」

「…俺も焼きがまわったか…」

私は金さんと話していて、この人はやはり坂田銀時の分身、兄弟と言われても疑問はないくらい根本が似ているように感じた。

「おーい、話は終わったか?」

のし、と私の頭に顎を置く銀さん。重い…。

「あ、この前頬叩いて悪かった…。それと口付けも…」

「は?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「は!?」

「何銀さんうるさいよ」

「はぁああ!?おま、お前!名前!頬叩かれたのか!?男のくせに女に手をあげるなんてよ!しかも、口付け!?口付けって何!?ちょ、名前!?」

「喧嘩して、その流れで」

「は!?なんでそこドライなの!?」

「まぁ落ち着け兄弟」

「いやお前こそ何やってんだアアアアアア!」

銀さんギャイギャイ言っているが、金さん本人も気にしてないらしいからいい。頬を打たれた事は痛いが、私も悪かったし…。
キスは…カラクリだから、うん…ノーカン…ていう事で。
今日も今日とて平和です。

「って何おわそうとしてんだ名前!話は終わってねーぞ!」

「え、えっ…ダメ?」




-網の目にさえ恋風がたまる-
(綱の目には普通、風は吹き抜けてたまったりすることはないが、恋の風なら通り抜けることなくたまることがある)








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