夏が終わり、秋の風が吹くこの頃。
この間のウェディングドレスの時は、ドキドキしちゃって銀さんのところへ行けていない。もともとそんな関係ではないが、新八くんや神楽ちゃんとも合わないから少し寂しいのが現状だ。
最近銀さんも見ないしどうしたんだろう、意を決して行こう!と仕事終わりに団子を包んで万事屋へ足を運んだ。
「お邪魔しまーす!新八くん、神楽ちゃんー!」
「あ!名前、久々ネ!名前の持ってるモノお団子アルか!?」
「そうだよ、新八くんいる?」
「いるアルよ、ダメガネー、名前ネ!」
「はいは、ってダメガネってなんだよ!あ、名前さんお久しぶりです、どうぞどうぞ」
「わー、ありがとう、久々だね。私も仕事疲れて帰っちゃってたから、なかなか会えなかったね」
万事屋のリビングへ行きお団子を新八くんへ渡す。新八くんはお皿を2つ用意し、10本あるお団子を5本ずつ分けた。
「あれ、新八くんわける数おかしくない?」
「え?そうですか?あ、名前も食べますよね!すみません!」
「い、いや、私は平気だけど…」
あれ…?あ、銀さんまた2人のおやつとか食べたな、前新八くんが「あの人僕たちのおやつも食べちゃうんですよ?」なんて言ってたっけ。銀さんが悪い。
「あ、そうそう名前はどうしたネ?またなんかあったアルか?」
「ううん、みんなの顔見たいなって思ってさ」
「あぁ、そうなんですね。あ、今呼びますね」
「金さん!」「金ちゃーん!」
「きん、さん…?」
「おー、なんだオメェら、どうした?って名前じゃねぇかよ、久々だな。団子屋忙しいのか?」
寝室から現れたのは、キラキラの金髪ストレートヘアーで黒い羽織に白いシャツ、白いズボンを履いた彼、坂田金時がいた。
「っ、誰!?」
「誰ってどうしたアルか?金ちゃんネ、名前」
「そうですよ、名前さん。金さんじゃないですか。この前のウェディングドレスの事件は大変でしたよね」
「そうだよなぁ、俺がいなかったら掻っ攫われてたよ。まぁその前に俺が名前を奪うがな」
「ヒュー!金さんかっこいいー!」
「名前も金ちゃんと早く付き合っちゃえばいいネ!」
「え、え!?」
新八くんも神楽ちゃんも何を言っているの?だって彼は違う人じゃない、坂田銀時じゃない。天然パーマで死んだ目をして下世話な下ネタが好きな鼻くそほじってる男が、いるはずなのに。
「……あなた、どういうつもりですか」
「どういうつもりも何も、俺はここで万事屋をやっているだけだ。なんだ、名前。知らないのか?」
「私はあなたなんか知らない、銀さんはどこ!?新八くんも変だよ!なんでこんな男に付くの、あなたが慕っていたのは銀さんじゃない!それに神楽ちゃんも!銀さんだよ、いつも一緒にいたの銀さんだよ、覚えてる…?覚えてるよね!?」
私は2人に必死にいう。こんな男知らない、私が知るのは銀髪の男だけだ。
「何言ってるアルカ!私は金ちゃんしか知らない、名前こそ変アル!いつもいたのは金ちゃんネ!」
「そうですよ、名前さん。僕は金さんに拾われて万事屋に来たんです。おかしいのはあなたはじゃないですか?名前さん」
「…おかしいって、何が…?私はこんな男を好きになった覚えはない!こんな男、好きじゃない!」
そう万事屋で叫ぶと神楽ちゃんが私の頬をパチンと叩いた。
「かぐ、ら、ちゃ…」
「名前…、私は名前のこと好きアル、でも、私たちのリーダーの事を悪く言う名前は嫌いネ。もう、うちに来ないでヨ」
「え……」
「名前さん、あなたがそんな事言うとは思ってませんでした。名前さんは金さんに沢山助けられてきたじゃないですか…」
そう言う2人の顔は切なそうに歪んだ。
私が、変…?私が変なの?今までの事はなに?だって、私は。
「もう………名前なんて嫌いネ…!早く出てってヨ!」
神楽ちゃんはぐいぐいと私を玄関まで押した。
「待って!私っ、わたしは!」
戸が閉まる前、坂田金時の顔を見たら笑っていた。
ぴしゃんと勢いよく締められ、心がギュッと押しつぶされた。坂田金時が出てきた。と言う事は、銀さんは、もう。
私は走る、坂田銀時を探しに。
*
坂田銀時を探しているとたまさんに出会った。そして傍には定春も。
「たまさん!定春!」
「名前様…?」
「たまさん、どう言う事ですか?これは、坂田金時は、どうして…」
「名前様は、坂田金時の術にかかっていないんですか…?」
不思議そうに私を見るたまさん。
そうだ、私はなぜかかっていない?なんで。
「私は、異質な存在だから…」
「異質…?」
「…私は、あなたたちのことを知っているから…」
たまさんは理解が追いつかないような顔をしていた。たまさんにはまだ話していなかった。たまさんにも知ってもらおうと私はここにきた理由、そして事の発端などを丁寧に説明した。
そうしたらたまさんは納得した顔で私に言った。
「わかっていましたよ」
「…え…?」
「お登勢様が"あの子は変わった子だ"そうおっしゃっていました。たまに、お登勢様のお使いで団子屋の近くを通りましたが、あなたのいる雰囲気、そしてあなた自身が特別な何かを纏っている事は、わかっていました。
しかし、私たちに危害を加えるどころか、私たちに心をひかないような行動をしている。だからこそあなたのことを周りの方に聞きました。もちろん、銀時様にも。銀時様は、たまにも知って欲しいとそう言い何がわかったら言ってくれ、とおっしゃっていました」
「…そうですか…」
「だから、あなたも坂田金時の催眠派が通じないのです」
たまさんが私を見て言った。坂田銀時の力となる人間はこの2人と1匹しかいない。だから動かねば。
坂田銀時を探すたまさんと定春。私は坂田金時の取扱説明書を渡され読み込んでいた。
*
時は夜になり、ずぶ濡れの銀さん、定春、たまさんを私のアパートに招き入れた。
銀さんにはシャワーを浴びてもらい、定春とたまさんにはよく拭いてもらう事にした。
定春をわしゃわしゃ拭いてると銀さんが出てきた。
「シャワー、ありがとうな」
「いいよ、銀さん大丈夫?」
「…まぁ、へーき」
「…そう…」
タオルをガシガシとやり頭を拭く彼を見る。
仲間の2人が違うところへ行ってしまった。私ではない、本当の仲間が。突然1人になってしまった。
私は銀さんをギュッと抱きしめた。
「ど、どうしたよ、名前…」
「私はそばにいるよ。ここにはあなたの味方しか居ない。だから、あなたは金なんか塗り替えて」
「………おう…」
銀さんもギュッと抱きしめられた。定春とたまさんもそばにきて微笑んだ。
「やってやるよ、金より銀が優ってることを知らしめてやる」
*
こうして私の家を出た2人と1匹。万事屋へ行くと言っていたが、まずは敵地視察ということで行ったらしい。
そしてすぐ帰ってきた。いや早くない?
「おかえりなさい…てどうしたの銀さん…」
「いやいやいやいや!銀時2号機ってなんだよ!?プラモデルってなんだよ!なんでアニメ原作関係ない夢小説も乗っ取ってんのあいつ!」
「多分夢小説までも進出したいのでしょう。あわよくば坂田金時の夢小説を増やしたいのでしょう」
「なんでだよ!ここは坂田銀時の夢小説だよ!」
たまさんがなんかわからないが生々しいことを言っているのは確かだ。夢小説なんて言ってないと思う、そんなことないから。夢小説ではあるけどここトリップだから。
「ま、まぁ、落ち着いて…」
私は銀さんにいちご牛乳、たまさんにはオイル、定春には水をあげた。
「私に考えがあります」
そう言いたまさんはごそごそと服を出した。
赤いチャイナ服と網タイツ、定春用の大きいメガネをテーブルへ並べた。
「万事屋セピアとして私たちは活動し、違和感をより刺激するのですアルヨ」
「わん!」
そう言い作戦を立てていた。私の入る隙はなくご飯を用意しながら話に耳を貸す。
がんばれ、みんな。
*
銀さんが帰ってきたのは夕方近くだった。
「おかえりなさい…、どう、したの…?」
「たまが、あいつにやられた」
銀さんの顔は静かに怒っていた。
定春も悲しそうに鳴いていた。私は、そう…と言い、「卵がなくなったから買いに行くね」とそう言い家を出た。
走って万事屋へ向かった。
たまさんがやられた、大事なカラクリでこれから要となるたまさんが。
走って万事屋の階段を上がる。ガラッと戸を開けリビングに入る。
「はぁ、はぁ…」
「おいおい、どうした?そんな走って」
「たまさんを壊したのはあなた?」
「…たまは自分で壊れたんだよ」
「あなたは、可哀想な人。他人の玉座を取ることしかできないくせに。自分で積み上げた玉座ではなく、銀さんの玉座を奪うことしかできない可哀想な人」
銀さんが座っていた椅子を音を立てて立ち上がる金時。
「お前、どこのやつだ。何故俺の洗脳が通じない」
「あなたこそ、誰のおかげで生まれたのか考えたらどうなの?新八くんや神楽ちゃんのおかげで生まれたくせに」
「うるせぇ!」
そう言い金時は私の頬を殴った。その衝撃で私は床に転がる。
「お前は何も知らないくせに、知ったような口を聞くんじゃねぇ」
「たまさんを手にかけて、ひどい奴…!」
「うるさい!」
金時は私に覆い被さり口を塞いだ、やつの唇で。
「ふ…!、やめ、」
「女はこれが好きだろう」
「ぁ…!」
口の中に動く舌が気持ち悪い。銀さんはこんなことしない、絶対に。
私は唇に噛みつき離れた瞬間に金時から逃げる。
「あなたは、間違ってる!」
そう言い放ち万事屋から出て行った。
「間違ってる…、俺は、間違ってない!俺が正しい!」
そう呟く金時の声は万事屋の家の中へ反響した。
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