私は誰だ、と問いただせば名前が出てくる。
でもここはどこだ。
スマホを2つ見つけた。なぜ2つだろうと電源を入れれば2つの内1つは電波が入ったがもう片方は圏外だった。

坂田銀時さん、坂田さんに退院の手続きをしてもらって現在帰路に着く。ここの人たちを見るとみんな着物で私は着たことがないので着付けがわからないと坂田へいうとTシャツとズボンを買って来てくれた。それに着替えて大江戸病院の外へ行く。

「あの…すみません、坂田さんにご迷惑をかけてしまって…」

パーマ頭で髪色が銀色の坂田さんは少し切なそうな顔をして私を見た。

「そんなことねぇよ、一応記憶が戻るまで万事屋で暮らすことになったからな。それと名前は仕事をしていたけど、店の人に言って一時休みにしてもらってるから仕事先も心配すんじゃねぇよ」

頭をぽんぽんと撫でる坂田さん。あなたは前の私を知ってるの…?

「着いた、ここが万事屋だ」

「よろず、や…ぎんちゃん…?」

銀ちゃんというのは坂田銀時の銀から来ているのだろう。万事屋…万のことをやるから、万事屋なのだろうか。私は本当にここに来ていたのか、疑問が残る。

「たでーまー」

「おかえりヨー!あ!名前も!今日から一緒に暮らすんだヨ!」

「あ…えっと…神楽さん、ですよね?よろしくお願いします」

「神楽ちゃんって呼んでたアル…、だからそう呼んでヨ、名前…」

「…ごめんね、神楽ちゃん。これからよろしくね」

「…うん!」

少し申し訳ないことをさせてしまった、と感じた。神楽ちゃん、そう呼んでいたらしい。
神楽さんもとい神楽ちゃんは「ここが台所で、ここがトイレネ!」といろいろ教えてくれた。ありがたい。

「戻りましたー、てあれ名前さん!おかえりなさい」

「あ、志村さん、ですよね…」

「名字呼びなんて久しぶりです。名前さんは僕のこと新八くんと呼んでましたよ」

「新八、くん…」

「はい、今日からよろしくお願いします」

志村新八さんのことを、新八くん。
ついでに坂田さんのことも、銀さん呼びにしてと言われて承諾した。
銀さん、神楽ちゃん、新八くん…思い出せないような、思い出せるような。

そして銀さんは私をソファーに座らせて私のことを話した。
私は元々ここではない所にいて、突然飛ばされたらしい。いわゆるトリップというものだ。そして私はこの世界の人たちのことを知っていて、銀さん達は私の世界で言う、マンガの中の世界の人で、私はいろいろなことを知っているらしい。そのことを銀さんに伝えられた時驚いた。だから私は1人異質な存在だったのかと。

「っと、そんな感じだな。あとは、あー着物、名前の服持ってくるか」

「着物ですか…?」

「おう、こっちの世界で名前は着物着てたぜ。とりあえず俺と名前は服とか必要なもの持ってくっから、飯の用意よろしくな」

「「アイアイさー!」」









「ここが名前が住んでたアパートだ」

「アパート…」

少しボロめのアパートだ。ガチャリと入るとものは少ないが生活できるものが揃っていた。
箪笥を開けると綺麗に畳まれた着物数着と髪留め、そしてパジャマがあった。

「うわ、このパジャマ懐かしいな。これ着て名前はここにいたんだぜ」

「私が…」

でもこのパジャマは覚えがある。友達とお揃いで買ったパジャマだ。部屋着として使っていたのだろう。

「あとは…ん?」

銀時はテーブルの上にある手帳を見つけた。名前がつけていた手帳か。見るのも引けるが一応なにかの鍵になるかもしれないと袋へ入れた。

「よし、どうだ?なんか思い出しそうか?」

「…いいえ…パジャマは前のいたところで買ったことを思い出しましたが、あとは全然…。私は一応ここで1人で生活してたんですね」

「まぁな、名前はしっかりしてたぞ。分からないなりにちゃんと考えて、仕事も早く探して、自立しようとしていたよ」

「そうですか…」

私は、ちゃんとしていたのか。考えられない。

「よし、万事屋に帰ろう」

「はい…」









「あ、新人」

「げ、総一郎くん」

「総悟でサァ旦那」

私のことを新人と呼ぶ男性。かわいい顔の男性が私に話しかけてきた。
私より年下だろうその男性は私を上から下まで見ている。

「ちょっと名前ちゃんのこと見ないでくんない?」

「何でこいつこんな格好してるんでサァ」

「………はぁ…記憶喪失なんだよ。車に轢かれてその衝撃で忘れちまったんだとよ」

「は…?」

「…あの、銀さん、誰でしょうか…」

「あー…真選組っていう警察の沖田総悟くん。名前が働いている団子屋でたまに来てたんだよ」

「…そうですか…。沖田さん、はじめまして。記憶が無くてすみません」

「新人……いや、苗字さん、はじめまして、沖田総悟でサァ。よろしく」

「はい、よろしくお願いします。では万事屋へ戻るので失礼します」

「またなー」

ひらひさと腕を振る。
信じられない、と顔をしている沖田さんを振り向いてみて、万事屋へ急ぐ。

「……なんで…、忘れちまったんだ…」









「「「いただきまーす!」」」
「いただきます」

テーブルに並んだ数多くのおかず。なんでも新八くんが「名前さんの退院お祝いです!」との事。ありがたい。

「おいしいよ、新八くん」

「ありがとうございます、名前さん」

ご飯を食べながら、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。今の私はみんなのことを知らないのに、なのに優しくしてくれる。私はみんなにどう接していたの。わからない。
考えているの銀さんの手が頭にぽんぽんと撫でてくれた。

「あんまり考えんな、いつか思い出す」

「…はい…」

あなたの切ない顔が、私の心を痛くする。
私とあなたの関係はどんな関係だったの。




-忘れたと知らぬに手がつかぬ-
(忘れたとか知らないという者には、何を言っても無駄であるということ)







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