本日夏祭り当日です。
江戸の人たちは祭り事が好きらしく朝からワイワイ仕事もそわそわしている感じで、私もそのワクワクとソワソワが移ってしまう。
そんな中仕事を終えお妙さんの家に急ぐ。お妙さんの家に着くと神楽ちゃんに浴衣を着せてもらっている最中だった。

「あ!名前、仕事お疲れ様ネ!」

「あら名前さんお疲れ様です」

「こちらこそ遅くなってしまって申し訳ないです」

「そんなことはないわよ、名前さんはお化粧をしてて。私は神楽ちゃんのヘアメイクをしちゃうわ」

「はい!」

カチャカチャとメイク道具を出す。ここにきた頃は化粧もお金がなくできなかったが数ヶ月いるうちに女として一応化粧品を揃えた。それに今日はお祭り、濃いめのアイシャドウも買っておいた。
化粧をすると前の世界のことを思い出す。
友達と遊ぶたびに仕事用ではない化粧をする、それが非日常へ連れていってくれるようで楽しかった。
今日がそれのように胸が高鳴る。銀さんに選んでもらった浴衣と初めてこの世界での夏祭り、楽しみしかない。

その楽しみな反面、昨日河上万斉にあったことを思い出す。まだ私しか接触してないが河上万斉がいると言うことは高杉やまた子、他にも危ない奴がいるかもしれない。
万事屋のみんなや真選組に迷惑はかけられない。

「名前?なに考えてるネ?」

「え!なにも!」

「…そう…?」

心配そうに私を見る神楽ちゃん。青い瞳に私が反射して写る。

「そんなことないよ!神楽ちゃんすごく可愛い!」

「そ、そうアルカ?」

「ほら名前さんも浴衣着せちゃうわよ」

「はい!」




「お、出てきた」

銀さんはいつもの格好、新八くんは浴衣姿で玄関にいた。うわー!かっこいい、新八くんも男の子だ。

「名前さん素敵です、神楽ちゃんも可愛いよ」

「当たり前アル!名前も可愛いネ!」

「みんな揃ったのね、さぁ行きましょう」

お妙さんも浴衣姿だ。洗練された美人ですらりと伸びる足、とても美しい。








夏祭りの会場はそこそこ大きく下手したら迷子になるレベルだ。
神楽ちゃんがお腹を空かせたらしく早く早くとせかし、私と銀さん、お妙さんと新八くんと神楽ちゃんで食べ物を買ってきてまた集まろうと提案された。

「…今日の浴衣似合うじゃん」

「本当?」

「おう、やっぱり俺の目に狂いはねぇな」

キリッとキメ顔をする銀さんを見て笑う。歩きながら少しずつ美味しそうな屋台のものを集める。
大方集め終わった後銀さんに「ここで待ってて」と言い近くの真選組の方へ声をかけ、沖田さんと土方さんがどこへいるか聞き、そばに行く。

「沖田さん」

「…新人かィ、今日は馬子にも衣装だな」

「馬子にも衣装は馬子がかわいそうですよ。はいこれ、皆さんで食べてください」

「…マジで持ってきたのか」

「え、なんかダメでした?あ、毒見は私と銀さんがしたので平気ですよ!とってもおいしかったです」

「あっそ、じゃあいただくぜィ」

「はい、では私はこれで」

そう言い沖田さんのところを去ろうとした時、沖田さんが「浴衣まぁまぁだな」と言われた。

「…ありがとうございます!」

沖田さんの顔色はわからなかったが嬉しくて返事をした。

「おい総悟、ボーッとすんな。ってこれなんだ?」

「苗字さんからの差し入れでィ。冗談で欲しいって言っただけなのに」

「昨日の…。あの人素直な人だよ」

「なんでィ土方きもちわりィ」

「うるせぇ!」











人混みを避けながら銀さんのもとへ戻る。
早く合流して食べようと思いながら歩くと、手をギュッと誰かに握られた。なに?と振り向くと女物の着物を着た男に手を握られていた。

「っ…!」

「よォ、お前が苗字名前だな」

「…違います」

「何がちげぇんだよ、最近銀時とつるんでるそうじゃねぇか」

「…万事屋に依頼するので」

「突然現れて不思議なやつだよ、あんたは。それに俺を見ても驚かないし逃げない。あんた、俺のこと知っているだろう」

「指名手配で見たことあります」

「指名手配…?それよりも前に見たことあるくせによォ、そんなことよく言えるな」

それを言われてバッと振り向くとニヒルに笑う高杉晋助の姿があった。

「……なんですか、何を、言いたいんですか」

「毎日バレないように過ごして心は痛くねぇのかよ。俺なら痛くて逃げ出す」

「何言って…」

「お前は江戸に来たのではなく、突然飛ばされてきたと言った方がしっくりくるだろ」

「……」

「都合が悪くなるとダンマリ決めて…。
まぁいい…ここ最近、人が飛ばされる事件が京都の方で多発している。江戸にいた人が京都に、京都にいた奴が江戸に。
それは突然、何もないところに急に出現したような状態だ。人は皆神隠しなんて呼ぶが、原因は天人達の原因だと鬼兵隊内で掴んだ。
お前は唯一成功者だとあいつらは思っている」

「成功、者…?」

「今のところ、他の奴らは同じ現代を移動している。いわゆる"瞬間移動"だ。
しかしテメェはちげぇ。お前は"次元を超えて来た"やつだ。しかも身体に支障はなくだ。
…俺たちがいいてぇのはお前はいつでも戻れると言うことだ」

「私が…」

「戻りてぇなら俺たちに言えばいい、じゃあまたな名前」

高杉が腕を離し人混みに消えていく。

「待って!」

そう叫べどもう気づけば居ない。
私が天人のせいでこちらへ来た?まって、わからない。だって私はそんなことないと思っていた。帰りたいなら高杉へ言う…。

「名前!」

「っ…銀さん…」

「…おい顔色わりいぞ?大丈夫か?」

「う、うん…人に酔っちゃった…」

「ゆっくり歩くか。お妙たちが待ってるぞ」

「うん…」

私の背中へまわる銀さんの手が暖かい。銀さんはいるし、みんなここにいる。みんな生きてるんだ。

ドン!と空に花火が広がりそして闇に消える。

「あっ、花火はじまっちった」

「はなび…」

私は、こんなふうに散ってしまうのか。
私はみんなの中で楽しく生活してるのが楽しいがそれを散り散りにする高杉の言葉。
どうすればいいのか、わからないよ。

楽しみな夏祭りは、楽しくない夏祭りになってしまった。



-嵐の前の静けさ-
(台風が来る前に一時的に風が止むように、事件や変事が起こる前の不気味な静けさのこと)






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