明日は夏祭りだ、今日は前日。用意をして不足のないようにしなくてはと意気込んでいた。
「じゃあお疲れさん名前ちゃん」
「はいお疲れ様です!お先に失礼します」
今日もお団子屋さんの仕事上がり、親父さんと女将さんへ声をかけて出る。
家に帰って浴衣の準備と明日お妙さんの家に持っていく浴衣たちを袋に入れて、あとは御財布と…と考えていながら帰っていると誰かとぶつかってしまった。
「わっ!すみません…!て沖田さん」
「なんでィ新人」
「すみません考え事していて…」
「考え事って…」
「あ!そういえば沖田さんも明日警備なんですよね?」
「まぁ、人が集まるからな」
「じゃあ明日はお裾分けしに行きますね」
「焼きそばとりんごあめとフランクフルトが食いてえ」
「ええ…多いじゃないですか…」
沖田さんの話していると後ろから総悟ー!と声が聞こえた。すごい勢いで走ってくる。
「総悟!テメェサボんじゃねぇ!」
「土方コノヤローうるせぇな」
「総悟ゴルァ!…って、お前…えーと…」
「苗字名前です。お久しぶりです、土方さん」
「あ、あぁ久しぶりだな苗字さん。どうした、まさか総悟にまたなんかされたのか!」
「いえ!私の不注意でぶつかってしまって。それでその流れで夏祭りの話をしてました」
「夏祭りィ?あぁ、明日か」
「はい、土方さんにもお裾分け行きますね」
「いやいい、俺たちは警備の仕事だからな。苗字さんは自分の分買えばいい」
沖田くんの後ろ襟を掴みながら私に話しかける土方さん。かっこいい…が瞳孔が開いている…それとタバコ吸うのかっこいい…もう声がいいよね。
「じゃあ時間があれば、と言うことで」
「おう。じゃあ行くぞ総悟!ごめんな時間をとらせて」
「うるせぇ土方コノヤロー死ね」
「うるせぇ沖田死ね」
そう言いながら私の前を去る2人。土方さん沖田さんを引きずりながら歩いてる凄い…。
私は2人を見送ってアパートへ帰路に着く。
明日は楽しみだなぁとか、仕事が終わった後シャワーを浴びてお妙さんの家に行こうとか、お金少し多く持っていって真選組の皆さんにお裾分けしたいなとか考えていると、また男性にぶつかってしまった。
「わっ、すみません!」
「いや、拙者も悪かったでござる」
ぶつかった衝撃で転んでしまった私に手を差し伸べてくる男性。
でも私はこの声を聞いたことがある。
手を掴み立ち上がらせてもらうとその人物は私を見た。
「か弱い女性にぶつかって申し訳ないな」
「…、い、いえ、大丈夫です。私、急いでますので、失礼します」
その男性と目を合わせないようにして足早に歩く。
私がぶつかった相手、河上万斉。鬼兵隊の1人で高杉の右腕に近しい人物だ。本人を目の前にして怯えてしまった。
早く、早く、アパートに帰るんだ。
「…声が震えていたでござるよ、苗字名前」
明日は夏祭り、何事も起きないでと願うばかりだった。
-薄氷を履むが如し-
(薄い氷の上を歩くといったように、非常に危険な状況をたとえていう)
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