紅桜の事件以降はまた平穏な日が続いている。たまに万事屋へ向かい銀さんの様子を見ることも生活の一部となりつつあった。
「お邪魔しまーす!」
あれ、玄関に草履がある。お客さんだろうか。うーん…どうしようかな…と思い引き返そうと玄関を出て行こうとした時「苗字殿!」と声をかけられた。
こ、この声は!
「はい!」
「おお!そなたが苗字名前殿だな!」
「か、桂さん…」
「おいヅラ!急に声かけたら驚くだろ!」
「すまぬ銀時、どうしてもエリザベスが苗字殿に会いたいと言っていたからな」
「…エリザベス…?」
「あー…まぁ話長くなりそうだからこっちきな」
「はい…」
銀さんに手招きされ万事屋のリビングに入り銀さんの隣に座った。エリザベスがプラカードを私に見せた。
「[あの時は大丈夫だったか?]」
「あの時…あ、紅桜のときですね。あの時は銀さんの止血の指示ありがとうございました。無事銀さんの止血もきちんとできました」
「[よかった]」
「ありがとうございました…!」
エリザベスに頭を下げると白い手でもふもふと頭を撫でられた。
「エリザベスも苗字殿を心配していてな、普通の女の子にあんな血を見せていては夢見が悪かろうて、と言っていた。元気そうで何よりだ」
「はい、ありがとうございます。ご心配をおかけいたしました」
「ところで」
「はい」
「なぜエリザベスの名を知っていた?」
…あ…や、やってしまった!初対面なのに!桂さんは街中のビラで見かけるも、エリザベスの情報はないはずなのに名前を言ってしまった。やばい…
「…名前、ヅラも多分協力してくれると思う。言っても大丈夫だ」
「…銀さん…、わかりました…。桂さん、このことは他言をしないという約束を守ってくださるなら、言います」
「武士に二言はない」
私は銀さんに話したことをそのままゆっくり話をした。たまに驚いた顔をしていたがゆっくり噛み締めるように聞いていた。エリザベスもたまに相槌を打ちながら聞いていた。
「なるほど…そうしたら何かないか探ってみることにしよう。苗字殿が来たということは必ず帰れるということだ。極秘裏に調査してみる」
「ありがとうございます」
「ただ、期間はわからない。突然来たから突然帰れることもあるかもしれぬ。悔いのないように1日ずつ過ごすが吉だ」
「はい…」
「では行こうかエリザベス」
「[はい桂さん、またね名前ちゃん]」
「またお話ししたいです、エリザベスもまたね」
そうして万事屋を去っていった2人。
また秘密を言うことになるとは。でも桂さんもエリザベスも不思議がらないで聞いてくれて良かった。
「ヅラもいいやつだから大丈夫だ。あとは神楽と新八だな」
「…言った方が、いいですかね…」
「まぁな…1人では帰る方法は見つかりにくい。だから俺も協力したいが1人より3人だ」
「はい…」
少し不安になる。2人がきちんとわかってくれるか、私のことを変な人だと思わないかだ。せっかく普通にしゃべれるくらいになれたのに。
「あいつらも俺と同じだ。大丈夫だよ」
「…はい…」
「それと!敬語やめね?」
「え!」
「多分俺と名前歳近いよな?20代…だろ?」
「はい、そうですが…」
「じゃあやめようぜ、これからも関わっていくんだからよ」
「…う、うん…」
「よし」
わしゃわしゃとあたまを撫でる銀さん。すこしはにかむように私に笑いかける。
「それでどうしたよ今日は」
「あ、えーと銀さんの傷の具合どうかなと思いまして」
「敬語」
「…うーんと…どうかなって思って…」
「だいぶ良くなってきたし大丈夫だ」
「よかった…」
バックの中から包帯と消毒液を渡して「これ使って」と渡した。「おうよ」と受け取り銀さんは万事屋の救急箱にしまった。
その時ガララッと玄関が開く音がした。「銀さーん?」なんて新八くんの声がして、言うなら今しかない…と覚悟を決めた。
*
たまたま定春の散歩から帰ってきた神楽ちゃんも居て私の今までの経緯を話した。
ずっと隠そうとして、あなたたちと関わらないつもりだった、でも関わってしまった。後悔はしていないし、私がいることで未来が変わってしまうかもしれないが、これからも話し相手や相談に乗って欲しいとそこも付け加えて言った。
「そう、なんですね…だから初めて会った時あんな格好だったんですね」
新八くんは申し訳なさそうな顔をして私に言った。新八くんは私がこちらの世界へ来て初めて会った人物だ。
「…うん…気がついたらって感じだから初めて新八くんに会った時驚いちゃった」
「名前ちゃん…寂しくないアルか…?」
「神楽ちゃん…寂しい…かな…でも万事屋のみなさんがいるから寂しくないよ」
「名前ちゃん…わたしが名前ちゃんの妹ネ!そうしたら寂しくないデショ?」
「神楽ちゃん…うん!寂しくないよ」
「名前〜!」
「神楽〜!」
ひしっと抱きついてくる神楽ちゃんをぎゅっと抱きしてる。かわいい…しかもほっそいかわいい…
「なにこれ銀さん置いてけぼり?」
「僕もですよ銀さん」
「新八くんも銀さんも兄弟、じゃないの?」
少し悲しげな目で2人に問いかけると、銀さんと兄弟!?新八と兄弟!?と2人揃っていて笑ってしまった。私は、今ここで幸せです。ふと思ってしまう、ずっとここにいたい。でも帰らなくてはと。
-災い転じて福となす-
(自分の身にふりかかった災難や失敗をうまく利用して、逆に自分が有利な状況になるよう工夫すること)
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