プロローグ:彼女の"欲"に関する考察
人は欲深い。
金・権力・恋愛といった高い関心が寄せられる欲。
何かを食べたい、飲みたい、ゆっくり眠りたいと思う生理的な欲求。
安心や信頼、病気や事故、不安な要素から自分を守ってくれるものを求める欲。
仲間・同志・社会的な役職……自分を理解してくれる存在や居場所を欲する衝動。
そして、「理想の自分を実現したい」という欲。
一人の少女は考える。
それは『夢』と呼ばれるものではないか、と。
ならばそれを成し得たとして、その次は?
かの心理学者アブラハム・マズローは晩年にこう発表した。
欲の頂点には「自己超越」の段階がある、と。
それは何者にも正直であること。誰に対しても献身的であること。複数の視点から物事を考えられること。美しく、あたたかく、決して残忍ではないこと。他人のために動けること。
一人の少女は知っている。
それを子供の内から成し得た人物がいることを、そして――――――
自分たちを生んだ両親は、全くもって醜悪な欲にまみれた人物「であった」ことを。
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