(春子視点)
柳「どうだ、調子の方は?」
春子「おかげさまで、すこぶる良いわ。もう困っちゃうぐらい」
閉じられた瞳の表情はうかがえず、これが嫌味なのか、あるいはそうでないのかを判断することは難しい。
ただ、声のトーンや口元の歪み加減から判断するなら、これは嫌味だろう。
……やはり、柳は嫌味な奴だ。
出来れば敵には回したくないタイプだろう。
柳「しかし、婚約者様は不服だろうな」
春子「そりゃ、そうでしょうねぇ。今だってアンタのこと睨んでるわよ。良いの?」
柳「まぁ、俺は財閥の家系でもなければ、同じ学校の友人というわけでもない。跡部との関係は、言わば全国大会で必ず会うであろうライバルというところだ。そんな俺からすれば、跡部に睨まれるくらい痛くも痒くもない」
柳からすれば、景吾の突き刺さるような視線もどこ吹く風、といったところらしい。
そもそも、景吾は先程から私と会話している男を見境なく睨みつけている。
とは言っても、やはり出鼻を挫かれた柳への視線はことさらに厳しいものだった。
きっと、柳だって気づいているだろう。
まぁ、それもこれも全て景吾に呼びかけられても徹底的に無視を決め込んでいる私のせいなのだが。
柳「……それよりも、お前の方が良いのか?」
春子「そうしようって決めたのは私よ?良いに決まってるでしょ?むしろ景吾と話す方が勘弁よ」
柳「そうか。……俺が跡部なら嫉妬に狂いそうだがな」
すっと開かれた瞳にまた目が離せなくなる。
ぞくりと背中が粟立ったのは、いつもは開かれない瞳になのか、それとも背中に痛いほどに突き刺さる視線になのかは分からない。
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