(七瀬視点)
仁王にメールで屋上に呼び出されたので、屋上に向かうと、そこに居たのは仁王でなくて、なんと幸村だった。
アイツ、いきなり呼び出しといてこれか。
次会った時は、絶対文句言ってやるんだ。
幸村「やぁ、七瀬。驚いた?仁王じゃなくてごめんね」
七瀬「いや、仁王じゃなくて残念とかはないんだけど、それよりも……」
幸村「それよりも、なんで俺がここにいるのか、ってことかな?理由は七瀬とゆっくり話せるかな、と思ってね」
そう言うと、爽やかな笑顔を浮かべて幸村は自分が腰を下ろしている隣を指差した。
どうやら、隣に座れということらしい。
とりあえず、幸村の隣に腰を下ろす。
あの幸村が授業をサボってまでここにいるということは、よっぽど自分と話したいらしい。
……そうなれば、あの話題か。
七瀬「ねぇ、やっぱり自分と幸村ってどっかで会ったことあるの?」
幸村「うん、そうだよ。……やっぱり七瀬は何も覚えてないか」
もの悲しげに微笑む幸村に心がチクリと痛む。
幸村の憂いの表情はとても綺麗で、自分はこの表情を頭のどこかで必ず知っていると思った。
七瀬「じゃあ、なにかヒントとかはないの?」
幸村「ヒントはあげられないよ。俺は七瀬に自分で思い出して欲しいんだ」
ヒントはなし、か……。
自分はそんなんで思い出せるのかな……。
何しろ、16年間の内で一度だけしか会ったことがないかもしれないレベルの人間を人は覚えているわけがない。
それが、つい最近の出来事ならまだしも、幼少期の時のことだった場合はなおさら覚えていないだろう。
七瀬「……思い出せるように頑張るよ」
幸村「いつまでも、待ってるから」
なんでこの人はこんなに自分を好きでいてくれるんだろうか。
好きと想われれば想われるほどに、きりきりと首を締められているみたいに苦しくて泣きたくなってゆく。
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