彼氏が妖精で困っています!






「行ってこいと言ってる」
「…あー…」
「媚び売ってこい。芝居の一環とでも思えばいいだろうが」
「…んー…」
「行ってこい」

談話室でAチームの何人かとテレビを見ていたのだけど、そろそろ部屋に戻ろうかと思い扉を開けた時だった。向こうの方の廊下で臣クンと左京にぃが立ち話しているところを俺はたまたま目撃した。

「…あの、個人的にはあんまり気乗りしないと言うか」
「なんでだ。楽しく話してくりゃいいだろ」
「…あー…そういう席があんまり…好きじゃないと言うか」
「知るか。社会勉強のつもりで行ってこい」

なんだか憂鬱そうな顔の臣クンは、左京にぃの言葉に困って頭をかいている。なんの話をしているのか気になって、俺は二人の元へ駆け寄った。
「臣クン!左京にぃ!なんの話ッスか〜!?」
二人の背後から顔を覗かせたら、なんでだか臣クンは不自然なくらい驚いて「わっ、太一!」と言った。
「七尾か。お前からもこいつを説得してやれ。んっとに…なに渋ってんだか」
「うん?」
左京にぃは、話の内容が分からない俺のため、溜息混じりに説明してくれた。

話を要約すると、つまり、臣クンが大学で合コンに誘われた。
なんで左京にぃが行ってこいと言ってるのか。それはどうやら相手側グループのメンツに理由があるらしい。その人たちはとある女子大の演劇サークルの人たちみたいで、その演劇サークルがそこそこ有名なところなんだって。だからその女子大のみんなと仲良くなっておくと後々、客演とか衣装・小物の貸し借りとか、いろんな面でお互いにメリットがあるだろうからって、左京にぃは考えたらしい。要するにコネ作りだ。
で、どうして臣クンにその合コンの誘いが来たのかと言うと、その合コンの発案者が葉生大の演劇サークルメンバーなんだけど人数が足りなかったみたいで、どうせ頭数を埋めるんなら演劇に携わってる奴がいいだろって事になって、臣クンと綴クンの二人に声がかかったらしい。

「横の繋がりが、いざって時に助けになったりするもんだ。何人かと仲良くなって連絡先交換するくらいしてこい」
左京にぃがこともなげにそんなことを言う。臣クンは俺の方をチラと見てから困った顔をして「だから」と返した。
「俺はそういうのが苦手と言うか、好きじゃないんですよあんまり」
「じゃあ大人しく端の席で酒飲んでろ。とりあえず行くだけ行け」
「だから…」
臣クンはどうにかして断るつもりみたいだ。そしてその理由はたぶんこの俺だ。臣クンのことだからきっと、俺に気を使ってくれているんだ。
「テメェはさっきから何をそんなに嫌がってんだ?特別な理由でもあんのか」
左京にぃが臣クンをじろりと睨みながら尋ねる。臣クンは口元を手で抑えて返答に困っているみたいだった。…なんかなんか、臣クンの困ってる顔を横で見てるのは、やだな。

「…臣クン!行ってきなよ!絶対楽しいッスよ!!」
明るく大きな声で言いながら、俺は臣クンの背中をバシバシと叩いた。臣クンは「え」とこぼして俺を見つめる。臣クンの顔には「どうして」って大きく書いてあったけど、でもさこれがきっと一番この話を早く終わらせられる方法だと思うから。ね、臣クン。俺だいじょぶッスよ。
「演劇の話たくさんしてきてほしいッス!それからこういう男がモテるみたいな秘伝も聞いてきてほしいッス!あとで俺っちに聞かして!!」
「…太一」
臣クンは眉尻を下げてちょっと寂しそうな顔をした。ああ臣クンそんな顔しないで。
「七尾のモテてーモテてーに貢献できるチャンスじゃねえか、行っとけ」
左京にぃが腕を組みながら言った。臣クンは、二体一の自分が一になってしまったからか、納得してなさそうな顔で仕方なく頷いた。
「…太一が…そう言うなら」
あんまり悲しそうな顔をするものだから、なんだか俺が悪いことをしてしまったような気分になって、心が痛んだ。

その日の夜、自室で二人きりになってから臣クンは俺を抱き寄せ言った。
「…太一ごめん。俺がちゃんと断っておけば」
シュンと項垂れる臣クンは、狂狼というより犬に似てる。周りからは俺ばかりが犬に例えられてるけど、実のところ臣クンも犬っぽいところがたくさんある。
臣クンのかっこよくて頼りになるところはみんなのものだけど、こういう可愛いところは俺だけのものでいてほしいなって、こっそり思ってる。だから俺は臣クンって犬っぽいんだよってことを周りの人に内緒にしてるのだ。
臣クンの大きな背中を両手でわしわし撫でた。なんだか大型犬を抱っこしてるみたいな気分だ。
「いいよ臣クン、えへ、俺のために行きたくないって思ってくれたんスよね。それだけで超嬉しかったよ」
「…本当に行きたくないんだ、そんな場所に行く暇があるなら太一とここでのんびりしてたい」
「あはは、臣クンそんな悲しい顔しないで」
「…」
臣クンは黙ったまま俺の頭を両腕でがっしりと抱きしめた。臣クンの大きな胸に顔が埋まって、ちょっと苦しくて、でもあったかくて嬉しい。俺は応えるようにしてその胸に鼻を擦り付けた。
「…こまめに連絡する。終わったらすぐに帰るから」
「うん」
「絶対に何も起こらないから、信じてくれ」
「あはは、うん。大丈夫」
「…はぁ…」
臣クンの溜息の音が頭上で聞こえる。うーん、まだ元気出ないのかなぁ。臣クンが元気ないと俺も悲しくなってしまう。
「…太一は心が広いな。俺は…もし逆の立場だったら「行ってきな」って言える自信がないよ」
臣クンの言葉に、俺も逆の立場を想像してみる。臣クンがもしも「行くな」って言ってくれたら。…超嬉しいなぁ、それ。
「臣クン、俺ね」
「うん?」
「行ってきなより、行くなの方が、言われたら嬉しいや」
臣クンの寂しそうな顔を思い出して、俺は気づく。ああ臣クンも、これとおんなじ気持ちだったのかもしれないな。

「…ほんとの気持ち言ってもいいッスか?」
臣クンは俺の頭を優しく撫でながら「当たり前だろ」と言った。
「…ほんとはね、ちょっと行ってほしくない」
「うん」
「…嘘ついた。ちょっとじゃない」
「…うん」
そうなのだ。本当は嫌なのだ。もしも臣クンがその場所で楽しい時間を過ごすんなら、俺はその楽しい時間を過ごす臣クンを隣で見ていたいのだ。臣クンの過ごす時間の中に、できるならいつでも自分がいてほしいと思ってしまうのだ。
「………太一、俺やっぱり断ってくるよ」
臣クンが言うやいなや部屋のドアを開けて外に出ていこうとするので、俺は慌ててそれを引き止めた。
「待って待って!でもね臣クン、今回のは行って来た方がいんじゃないかなって俺も思うんスよ!」
「………」
「俺っち前ね、女の人だけの劇団にお手伝い行った時いっぱい勉強させてもらったんだ。臣クンもきっと、いい話たくさん聞けると思うんス」
「……そうかな…」
「あと、今更やっぱ行かないって言ったらたぶん左京にぃ結構怒るよ」
「…それは、そうだな…確かに」
臣クンの手をギュッと握って、思いが伝わるように力を込める。ねえ臣クン。あんまり行ってほしくないけど、行ってきてもいいよって思えるのはさ、臣クンがいつも俺に、真っ直ぐ気持ちを伝えてくれてるお陰だよ。
「臣クン、行ってきていいよ」
「…太一」
「ちょっと寂しいけど、不安な気持ちとか全然ないよ。帰り、待ってるッス!」
臣クンは一瞬だけ、ほんの少し悲しい顔をしたけれど、次の瞬間に首を横に振って力一杯俺を抱きしめた。
「すぐ帰る。待っててくれ」
「うん」
「太一好きだよ」
「俺も!」
やっと臣クンの顔にやんわりと笑顔が戻った。臣クンが笑ってくれたら俺も嬉しくなる。俺たちは一緒に笑って、何度もキスをして、その後もずいぶん長いこと抱きしめ合った。



数日後、談話室で万チャンと喋ってたら万チャンが心底かったるそうな声で愚痴をこぼした。
「あ〜マジだりぃ、行きたくねー」
「なにが?」
俺が尋ねると万チャンはソファの上でゆるく胡座をかきながら言った。
「合コン誘われてよ。そいつにちょっと貸しがあって断れなかった」
なんかタイムリーな話題だ。この時期ってやっぱりそういうのが多いんだろうか。…てかもしそうなら何で俺の元には一つもそういう話が舞い込んでこないんスか。おかしくないッスか。
「何でだるいの。楽しんでくればいーじゃん」
ジトリと睨みながら万チャンに言うと「楽しくねーよ」と即座に返されてしまった。
「彼女探してる奴なら気張るだろうけど、俺別にいま彼女いらねーし。大して行く意味ねーからよ」
そうかなるほど、と思う。彼氏彼女を作りに行くための場所(と言ったら語弊があるのかもしれないけど)なんだとしたら、そうじゃない人にとっては少し気が引けてしまうのかもしれない。
「そういう時に限って向こうから押されたりすんだよな。あ〜だり〜」
万チャンが天井を見上げだらしない姿勢で言う。俺は今の言葉にピンとアンテナが立った。
「万チャン、それってなんで?」
万チャンが視線だけをこちらに向け、だらしない姿勢のまま俺の質問に答えた。
「あ?あ〜なんかガツガツしてない方が印象がいんじゃねーの、知らねえけど」
「…マジか…」
「端っこで相槌打ってるだけの奴とかが一番モテたりすんだよ。お前も真ん中で鼻息荒くしてる女より隅で大人しくしてる女の方がいいだろ」
「…マジだ…」
万チャンの言っていることに目から鱗が落ち、それと一緒に冷や汗も出た。メチャクチャ正論だからこそ、俺は内心動揺した。
「臣クンと綴クン、合コン行ったらモテちゃう」
俺のつぶやきに万チャンが「なに、あいつら合コン行くのかよギャハハ」と笑ったが(何がおもしろいのか全然わからない)、そんな万チャンとは対照的に、やけに低いトーンで「は?」と聞き返す声がした。
振り返るとそこには、目をまん丸に見開いたまま固まったカズくんが立っていた。

「え?カズくんどうしたの?」
「いや、合コン?」
カズくんがなんだかいつもとは少し違った様子で俺に尋ねてくる。一体どうしたんだろう。
「うん。金曜日」
俺がそう答えると、カズくんは数秒後まるでスイッチを切り替えるみたいにいつもの明るい顔に戻って「マジ!?激マブじゃん!!」と言った。
その後はずっと普通だった。いつものトーンで話すカズくんに俺も普段通り会話を続けた。どうしてかさっきの、氷みたいにひんやりした一瞬のことが気になってしまって尋ねたかったけれど、結局それを俺はカズくんに聞けないままだった。



数日後。今日は例の合コンの日だ。
臣クンは朝から憂鬱そうで、朝別れるまでの間に計3回くらいギュッと無言で抱きしめられた。抱きしめ返して大きな背中を撫でたら「行きたくないなぁ」と小さな声で呟くから、俺は思わず笑ってしまった。
俺より少し先に出る臣クンに「いってらっしゃい」を告げ、俺もその後学校へ向かった。
クラスでクリスマスの話題が出るたびにもうすぐ開催されるファンミーティングのことを考える。俺たちAチームのはなし、お客さんにちゃんとウケるといいなあ。綴クンに今日あたり、他のチームには内緒でコッソリアドバイスしてほしいなあ。…あ、だめだ。綴クンも合コンだから今日はいないんだった。
合コン、どんな感じになるんだろう。綴クンや臣クンのことを気に入って、アタックしてくる女の子とかいるんだろうか。臣クンが可愛い女の子に押されて、優しく笑い返すところを想像してみる。結構リアルに想像できてしまって、自分で自分にダメージを食らってしまった。ああ俺っちのバカ。

夕方、綴クンと臣クンのいない寮に帰ってきたところでスマホが鳴った。画面を見ると臣クンからのメールだった。
『これから行ってくる。太一は稽古がんばって。また連絡する』
短いけど、真面目で優しい文面に心がじんわりした。
『いってらっしゃい!稽古がんばる!臣クンもがんばって!』
文の後に『fight!』という単語と共にガッツポーズを決める熊のスタンプを送った。

「さっき左京さんから聞いたけど、臣と綴マジで合コン行ってんのな」
晩御飯の時、俺の隣に座った万チャンが話しかけてきた。(今夜はもちろんカレーである)
「うん、そッスよ」
「今日はお前、一人で寝ることになるかもなぁ」
万チャンが呆れるようにして笑いながら、なんかメチャクチャ不穏なことを言う。どーゆー意味だ。全然わかんない。
「臣みてぇな奴はさ、酔い潰れた女を介抱してた筈だったのに、気づいたら…みてぇなことになんだよ」
「は!?」
思わずでかい声が出てしまった。しかも口の中に入ってた米が数粒飛び出してテーブルの上にみっともなく着地する。万チャンは「きったね」と眉をひそめていた。いやこれ万チャンのせいなんだけど。
「あいつ、お人好しと天然タラシのコンボだろ。女に仮病使われてヤラレそうじゃね。多分帰ってこねえよ今日」
万チャンもしかして俺たちのこと知ってて、俺をいじめるためにわざと言ってる?って、疑いたくなるくらい嫌なセリフだ。青ざめる俺の横で、万チャンは涼しい顔をしながらカレーを口に運んでいた。
…頭の中で、万チャンの「帰ってこねえよ」がエコーで響き渡る。
そんな訳ない。絶対そんな訳ないと思うのに、万チャンの言ってる場面を頭の中で思い描いたら、いとも簡単に想像できてしまった。
だって臣クンは、そういうところがある。はたから見ていて「それ口説いてるよ」って臣クンに思ったこと何回もあるし、言われた相手がもし臣クンのこと好きだったら、脈があるって思っちゃうよって心配になったことも。天然タラシってどういう人のこと言うのか今まではよく分からなかったけど、ああ、臣クンみたいな人のことを言うんだなって、俺は頷いたんだ。
優しくて、無自覚で、お人好しな臣クン。具合悪いフリした女の子が「帰らないで」って言ったら、きっと臣クンは「困ったな…」って言いながらその場に残るだろう。臣クンはきっと、そんな相手の下心に気付けない。
それからは一気にカレーの味がしなくなって食べるペースが落ちてしまった。結局、食器をシンクに戻しに行ったのは俺が最後だった。

その夜、Aチームの稽古が始まった。シナリオはもうほとんど出来ているから、あとは立ち稽古を重ねて言い回しや間の細かい部分を詰めていくだけだ。綴クンがいないから今日だけは四人で進めることになった。
本当は良くないんだけど、俺は稽古場にスマホを持ってきていた。臣クンからのメールをすぐ読みたくて、読んだらすぐ返事を返したかったからだ。幸い、スマホを持ち込んだことを咎める人はいなかった。
稽古の合間、休憩の時を見計らうようにしてスマホが震える。臣クンからだ。
『始まった。とりあえず一番端の席に座った。中央の方がなにかゲーム始めて盛り上がってる(笑)』
臣クンからのメールの文面を見てハッとなる。これはまさに万チャンが言っていた「一番モテる」の法則そのものじゃんか。やばいよどうしよう臣クン押されちゃう。イケイケに押されてグイグイに引っ張られてアレヨアレヨと迫られて…。
俺は手に汗握りながら返信をした。
『ゲーム、臣クンも参加した方がいんじゃない!?真ん中の方に移動した方がいいと思うッス!!』
送信すると、すぐに『そうか?』と返ってきたので『うん!楽しんでなんぼっスよ!』と返信した。でもそう返信した直後、俺は楽しんでる臣クンを想像して気持ちがズーンと重たくなった。臣クンが楽しいのは俺も純粋に嬉しいけど、楽しそうにしてる臣クンをすぐそばで見られないのは嫌だ。今、臣クンの笑顔や笑い声を見れないのが、すごく嫌だ。
…ああ俺ってこんなに全部知りたがりだったんだ。「行ってきていいよ」って「不安な気持ちとかないよ」って、俺、自分で言ったのに。ほんとに心から思ってそう言った筈なのに。
たった一言二言、周りからもらった言葉だけでこんなにも不安になって、今すぐ帰ってきてほしいって思ってる。情けなくて意志が弱くて、そんな自分が嫌で、久しぶりに心底げんなりしてしまった。
「ねね、たいっちゃん」
稽古場の隅で膝を抱えて項垂れてたら、頭上からカズくんが声をかけてきた。
「だいじょぶ?どったの?具合悪げな感じ?」
カズくんはこういう時すぐに気がつく人だ。気づいて、手を差し伸べて、その後ものすごく上手にフォローする。うまく言えないけど、その上手さを前に押し出さないところがカズくんのすごいところで、かっこいいところだなって俺はいつも思う。
「いや!へへ、ごめんッス!全然元気ッスよー!」
心配そうに俺を覗き込むカズくんの方へ顔を上げて笑うと、カズくんはそれ以上追及することなく「そか〜!」と笑い返してくれた。
「なんかさ、大事な連絡してたり?もしあれだったら稽古場いったん抜ける?通話とかしてきてもだいじょぶだよん」
俺がスマホを見ながら落ち込んだりしてることに気付いてくれたんだろう。カズくんの気遣いはいつも「超」がつくほど細やかで、優しい。
「ううん、あのね、臣クンとLIMEしてたんス!合コンの実況中継してくれてて。俺っち合コン行ったことないからさ〜!どんなか教えてってお願いしたんだ!」
臣クンからのLIMEをこんなに気にしてしまうのを、不自然に感じられないように、思いついた嘘を並べて俺は笑った。
「…おみみ?」
「うん。こんなしょーもないことでスマホ見ててごめんなさいッス。よっしゃー休憩終わり!」
勢いよく立ち上がって稽古に戻ろうとしたら、ずいぶん真剣な顔のカズくんが俺の袖を少しだけ引っ張った。
「おみみ、なんて?」
どうしてかこの時、カズくんの瞳の奥に臣クンや俺に対してじゃない、全然別の方向へ向けられた思いがあるような気がして、妙な違和感を俺は覚えた。けれど俺がその違和感を感じたのとほぼ同時に、カズくんは普段通りの笑顔に戻ってしまった。
「あは、合コンの話題はやっぱりこのカズナリミヨシ、喰いつかないわけにはいかないっしょ〜」
「…。あはは、そーだよね!は〜俺っちも合コン行ってみたいッス!モテて〜!」
その後はお互いに言及することなく稽古に戻った。
俺は、臣クンのことと、それから少しだけさっきのカズくんのことが気になりながら、それでもファンミーティングが間近に迫った稽古に残り後半、真剣に取り組んだ。

稽古が終わり、シトロンと誉サン、それからカズくんと十分ほどのミーティングをしてから稽古場を後にする。
談話室へ移動してソファーに座った俺は、ずっと気になってたポケットの中のスマホを取り出した。臣クンからのLIMEが来てる。
『稽古終わったか?こっちは席替えとかエチュードバトルとかいろいろ始まって騒がしいよ』
文面から賑やかな様子が想像できた。臣クンもその場の一員なのだと思うと、やっぱり寂しさが顔を覗かせてしまう。ってかエチュードバトルってなんなんスか。その状況でエチュードって絶対恋愛要素盛り込んだ内容じゃないスか。
モヤモヤしてたら続けざまにもう一文送られてきた。
『綴がモテて大変そうにしてる(笑)』
すかさず『臣クンは!?』と返したら『俺は、あんまり目立たないようにしてるから大丈夫』と、絶対大丈夫じゃない内容が返ってきた。ああだめだこりゃ、臣クンモテてる。だってそもそも190センチも身長のある男が目立たないわけがないのだ。
臣クンのLIMEの文面と、晩御飯の時に万チャンから言われた言葉を頭の中で交互に再生する。…俺、昨夜はこんな気持ちじゃ全然なかったのに。なんでこんなにハラハラしているんだろう。臣クンを信じてるのに。絶対絶対信じてるのに。信じているだけじゃ埋まらないものがあるのかな。だとしたらどうすればいいのかな。
自分でも驚くくらい憂鬱になってしまって、それが嫌でスマホをテーブルに投げた。やたら長いため息が口から漏れる。

「…ね、おみみとまだLIMEしてる?」
俺にそう声をかけてきたのはカズくんだった。カズくんもスマホを片手にソファーに座っていたみたいだ。全然気づかなかったのはきっと、今の俺にそれだけ余裕がないってことなんだろう。…ああ本当に嫌だ。
「あんまり、返信来なくなったッスけど…」
無理やり明るく振る舞う気力が残ってなくて、どんよりしたテンションのまま答えてしまった。でもカズくんはそれについて言及することはなかった。
「マジ?盛り上がってんのかな?」
やっぱりメンバー内の合コンって、カズくんからしたら興味ある話題なんだろうな。…もしかして合コンベテランのカズくんなら、臣クンのLIMEを読んだうえで現場の様子を細かく予測したり推理したりしてくれるかもしれない。
なんだかさっきからやたらと不安に駆られている俺は、臣クンとのトーク画面をカズくんに見てもらうことにした。
「こんな感じッス」
見せると、カズくんは上からゆっくりスクロールして「ほぉ〜」とか「ふむふむ」と相槌を打った。途中、どの文を読んでなのかは分からないけどカズくんの目が少し見開かれて、その直後に「マジねーわ!」と、吐き捨てるような一言がカズくんの口から飛び出した。
「!?え、ないんスか!?」
何がないのか分からなくて俺はとっさに尋ねる。なんだろう。合コンにおける「ご法度」みたいなことを、もしかして臣クンはやってしまっているのだろうか。
「あ、ごめん。あはは。…ハァ〜。ないでしょこれ…」
カズくんは今にも「トホホ」って言いそうな顔をして笑った。呆れてるようにも悲しんでるようにも見えて、カズくんの言わんとしてることがやっぱり俺には汲み取れない。
「…ない…。えと、こんなんじゃモテないって意味…??」
首を傾げて聞くと、俺の問いかけは即座に否定された。
「逆、逆!モテるでしょ、これおみみ完全にモテてるの分かってない」
…ああ…。
合コンスペシャリストのカズくんが言うんだもん。もう間違いない臣クンはモテてる。今この瞬間に確実にモテていて、誰かに狙われていて、何人かの女の子は酔っちゃったフリをして臣クンに近づこうとしているに違いない。
なんでこんなにリアルに思い描けるかって、だって俺がもし女の子だったら、やっぱりそういうことしちゃうだろうなって、思うからだ。臣クンはきっと、相手のそういう「ずるい」に気付けない人だ。「オトせる」って、「イケる」って、絶対思われてる。
ねえ臣クン、ずるい人っていっぱいいるんだよ。知らないでしょ?今きっと臣クンの周りにも何人かいるよ。…だってここにさえ、一人いるんだから。
「…やっぱり…そうじゃないかとは…俺…薄々…思ってたッス……そーだよね臣クン…だって超かっこいいッスもんね……」
臣クンに対するやるせない思いと、自分への嫌悪感みたいなものが入り混じってどんどん気持ちが沈んでいく。臣クンに「しっかりしてよもう」って思ってしまう自分が嫌で、なんだか泣きたくなってきた。
もう一度長いため息を吐いたところで、臣クンから一枚の写真が送られてきた。
「あ」
「ん?」
「…カズくん見て」
送られてきた写真は、綴クンが両サイド女の子に挟まれてピースしている写真だった。臣クンのカメラには背中を向けているから、きっと正面で違う誰かに撮られているところ、ということなんだろう。
…正直げんなりした。ねえ臣クンもこれ撮ってる時、綴クンみたいに両脇女の子に挟まれて腕組まれてたりしたんじゃないの?
「…綴クンじゃなくてさぁ〜…!臣クンがどーなってんのか知りたいのに俺…もーやだ臣クン…」
不安や寂しさが、臣クンへのイライラに変換されていくのが自分で分かる。こんなの嫌だ。だって臣クンはきっとスマホの向こうで「しっかり太一に報告しよう」って事しか、きっと考えてないのに。俺の為にしてくれてるのに。ごめんね臣クン。でもやなんだよ。お願いだからちゃんと突っぱねてよ。
…ああそうか、分かった。俺は臣クンのことは信じてるけど、臣クン以外の人のことを、誰も信じていないのだ。俺のいない場所で臣クンが、俺みたいにズルイ誰かに言い寄られる。その人のやり口や手段を俺はするすると思い浮かべることができた。だって俺はズルイ誰かの気持ちが、手に取るように分かるから。
…ああもう、こんな思いをするくらいならあの時。
「…やっぱ合コン行かないでって言えば良かった…」
こんなちょっとのことでグラグラしてしまうくらい、俺は弱くて、器が小さくて、心が狭い奴なんだ。…嫌になるなぁ。こんな時は臣クンの肩にもたれて、それから頭を撫でてもらえば一発で元気になれるのに。けれど肝心の臣クンは今、遠い遠い場所にいる。

「おみみに合コン行ってほしくなかったの?」
カズくんの言葉でハッとした。頭から水をかぶったような気持ちになった。
「違う、今のは、なんでもないッス!!」
俺のバカバカバカ!も1つおまけにマジでバカ!!俺のしょうもない不注意のせいで、臣クンと付き合っていることが臣クンの知らないところでバレてしまう。慌てて首を横に振るけどうまい言葉が出てこなくて「あは…」と笑ってみた。こんなんで事態が好転するわけない。
「いや、なんか…」
どうしようカズくん絶対もう勘付いてる。6割、いや7割、いやいや8割くらい、もうきっとバレている。…と思ったけれど、なんだかカズくんの意識はどこか違う方を向いていて、俺の言葉の続きを待っているようには見えなかった。
まただ。カズくんまた、スイッチ入れるの忘れてる。合コンのことを聞き返された時にも稽古の時にも思った、なんていうか「張り詰めてる」みたいな空気を俺は感じた。
カズくんの真意は、本音は、いまどこに…誰に向かっているんだろう。俺じゃない。ましてや臣クンでもない。ってことは、じゃあ。
その時俺のスマホが通知音を鳴らした。臣クンからのLIMEだ。今度は一体どんな内容なのかと通知を横にスライドしたら、最悪最低の一文が目に飛び込んだ。
『具合悪くなった人がいるからちょっと付き添いしてくる』
「………」
ああ、そうッスか。やっぱりそうなるんスか。万チャンおめでとう読み100パーセント当たってたよ。これが賭けだったら万チャンの大勝利だね。
体のどこかが冷えていく。
「どうかした?」
カズくんの言葉に「あはは」と笑い声が出た。ちょっとビックリした。なんだかその時の自分が、まるで全自動の機械のようだったからだ。
「…具合悪い女の子がいるって」
「あー」
「これはもう返事来ないッスねー!実況中継、これにてジ・エンド!ッス!」
笑いながら俺は思う。無理やりキスされちゃうとか、胸を押し当てられちゃうとか、そういう「誘惑」みたいなのじゃきっとない。臣クンによく効くのは「手を握ってて」とか「もう少しそばにいて」みたいなセリフだ。か細い声で、不安げな顔をして縋ればいい。臣クンはきっと手を握られたら振りほどけない。そういうの全部、具合の悪いその人は見抜いてる。ね、臣クンって付け入る隙多いでしょ?わかるッスよ。俺もいつもそう思うから。
カズくんが、ずいぶん冷めた目をしながら「おみみってさあ」と言った。
「天然タラシとお人好しのコンボだよね」
「あはは、万チャンも同じこと言ってたッス!俺っち今度臣クンにタラシのコツでも教えてもらおーかなー!そしたらモテるかなー!」
パサパサ乾いた声で笑うと、カズくんも「ははは」と全然楽しくなさそうに笑った。
「つづるんもさ、面倒くさがりのくせにお人好しで、そのうえ鈍ちんなんだよね」
カズくんの目が虚ろにテーブルを見つめる。テーブルの上には一度も鳴らないカズくんのスマホが置かれてる。…ねえカズくん、もしかして連絡を待ってるんスか?その相手は、綴クンなんスか?聞けなくて、けれど俺のその考えは的外れじゃないような気がした。
「…むかつくね」
カズくんの核心に触れないままで、俺は自分の気持ちをカズくんに寄り添わせるようにして言った。
「ね。お前ら妖精かっつーの」
「………」
ねえ綴クン、カズくん辛そうだよ。…いいの?
沈黙が続いて、談話室の壁掛け時計の音が響く。いま何か言おうとしたら、もっと乱暴な言葉が口をついて出てしまう。自分でそれを止められそうになくて、だから俺は黙った。こんな俺たちを見たら幸チャンは一体なんて言うだろう。「ワンワンコンビが静かで怖い」とか、言うのかな。

どれくらい時間が過ぎたのか、玄関のドアが開く音がした。俺もカズくんも伏せていた顔をハッと上げた。廊下を歩く音がしてそのあと談話室のドアが開く。そこにいたのは綴クンと臣クンだった。
「おっ、臣クン!!」
思うより先に俺の体は立ち上がる。臣クンだ。臣クンが帰ってきた。どこかの誰かの手を握ったまま戻って来ないと思ってた臣クンが、今ここにいる。
「太一ただいま。一成も。二人してこんな時間までどうした?」
いつもと全く同じように、優しい顔で臣クンは笑ってる。合コン帰りになんて全く見えなくて、俺はもしかして今まで悪い夢でも見てたのだろうかと錯覚しそうになった。

「三好さん…」
臣クンの半歩後ろで、綴クンが呟く。歯切れの悪そうな、バツが悪そうなその様子を見て、ああ二人の間に何かあったんだろうなと思った。
ねえ、でもさカズくん。良かったね、綴クン帰ってきたね。カズくんの方へ向き直り俯いたその顔を少し覗き込んだ瞬間だ。俺は言葉が出てこなくなった。
…カズくんは、泣いていた。
「…ああ〜もう!アンタなんで…」
綴クンもカズくんが泣いていることに気づいたんだろう。いつもは絶対しないような乱暴な手つきで、カズくんの腕を綴クンは掴む。それから早口で「伏見さんお疲れ様でした!太一おやすみ!!」と言った後、綴クンはカズくんの腕を引っ張って行ってしまった。
「綴のやつ、どうしたんだろうな」
臣クンはキョトンとしていたけれど、俺はなんとなく全部の糸が繋がったような気がした。
カズくんは無理するのが上手いから、きっと今日一日中、いやもしかしたら何日も前から辛くて、でもそれを誰にも気付かれないようにしてたのかもしれない。そうさせるのはきっと綴クンで、でもそれを掬い上げるのもきっと、綴クンの役目なんだろう。
はたと思い出す。そういえば俺、綴クンが女の子に挟まれてピースしてる画像をカズくんに見せてしまった。きっと、すごくすごく嫌だっただろうな。…う、カズくんごめんなさい。

「太一、もしかして待っててくれたのか?」
臣クンが俺の頭を撫でながら嬉しそうに言う。さっきまでのイライラや寂しさがどうしてこんなにも、魔法みたいに消えていってしまうんだろう。
「…帰ってこないかと思ったッス」
「どうして?終わったらすぐに帰るって言っただろう」
「…具合悪くなった子を、介抱するみたいに言ってたから…ずっと付き添うのかなって…」
おずおずと告げると、おみくんは「ああ」と思い出したように言った。
「うん、幹事の男がな、しこたま飲んじまったみたいで。タクシーに乗せてやったんだ」
「え!!!」
か、幹事の!お、男!?臣クンのその言葉で慌ててトーク画面を遡って見てみる。確かにそこには「女の子」なんてどこにも書いていなかった。
「…お、俺…」
「うん?」
「早とちりしたッス…」
「うん?早とちり?」
臣クンをゆっくり見上げる。ああ俺、さっきまでひどいこと思ってた。「むかつく」って声に出して言っちゃった。ごめんね、ごめんね。臣クンごめんなさい。俺、嫌な奴でごめんなさい。
「会いたかった。やっと帰ってこれた…ずっと太一のこと考えてたよ」
臣クンが目一杯力を込めてこの体を抱きしめるから、ごめんねも好きも全部溶かされて、全部混ざって、心臓が熱くなった。
「…臣クン大好き」
「うん、俺も太一が大好きだよ」
「……臣クン、俺」
「ん?」
「…臣クンのこと待ってる間、やな奴だった…ごめんなさい…」
「…うん?やな奴って?」
臣クンが俺を抱きしめながら、俺の頭にふんわり頬ずりした。ああ、泣きたくなってしまう。ごめんね、ごめんね。好きだよ。大好き。
「…むかつくって、思っちゃった…ご、ごめんなさい…」
大きな背中に腕を回してしがみつく。腕を振り解かれてしまうかもしれない。太一はほんとに嫌な奴だなって呆れられてしまうかもしれない。でも、例えそうだとしてもこの体を離したくなくて、俺は持てる全ての力を使って、縋るように臣クンを抱きしめた。
「……んー…」
耳のすぐそばで臣クンの声がする。どんな言葉が続くのか俺は怖くて、思わずギュッと目を閉じた。
「そういうこと思ってる太一のそばに、いられなかったのが嫌だなあ」
優しい声のまま臣クンはそう言った。想像していた言葉の続きとはあまりにも違っていて、俺は閉じていた目を開けながら「え?」と聞き返した。
「太一が怒ってる時とか悲しい時を見逃すのは嫌だよ。それが俺に向けられてるんなら尚更」
「……臣クン」
「嫌な気持ちにさせたな、ごめんな。今から全部ちゃんと聞くから、全部言ってくれ。太一」
ああ、俺が臣クンの「楽しい」の瞬間には必ずそばにいたいのと同じように、臣クンは俺の「悲しい」の時に隣にいたいと思ってくれているんだ。
俺の汚い感情さえ臣クンは「太一だ」と言って、絡め取ってくれるのだろう。優しく笑いながらきっと、全部全部。
尖った破片がどんどん消えていく。やっぱりそれは魔法みたいで、俺は不思議で仕方なくなる。もしかしたら臣クンは魔法使いなのかもしれないな。
「…嫌な気持ち全部どっか行っちゃったッス。臣クンに会ったら消えちゃった」
「あはは、そっか。ちょっと残念だな」
残念なんて思うの、きっと世界で臣クンだけだ。そんな臣クンが、俺、世界で一番好き。
ねえ臣クン。俺はズルいけど、それで他にもきっと沢山ズルい人はいるんだろうけど、この気持ちだけは正々堂々誰にも負けないよ。自信あるよ。




部屋に戻ってから、今日のお互いの間に起こったことを臣クンと話した。
ワクワクしながら「合コンどーだった!?」と聞いてみたけど、臣クンには「太一のことばっかり考えてたからあんまり覚えてない」と返されてしまった。こういうセリフを吐けてしまうのが臣クンのタラシたるゆえんで、でも本気で言ってるからこの人は天然なんだ。嬉しいけど恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しいから「いひひ」と笑った。臣クンも笑い返してくれて、また心があったかくなる。
「太一は?今日はなにか変わったことあったか?」
「えーとね…」
臣クンに聞かれ、万チャンから言われたことの内容を伝えた。「メッチャ間に受けたッス!」と笑い飛ばしながら話したら、臣クンはずいぶん長いため息を吐いてみせた。
「…ちょっと、今度話つけてくるな」
ワントーン、いや、スリートーンくらい声を落としてそう言う臣クンは、さすが狂狼と言われていただけのことはある、滅多に見れないような鋭い目つきだった。

「…太一、あんまり…周りからの言葉にたぶらかされないでくれよ」
「いやそれ俺っちもメッチャ臣クンに言いたいッス。騙されないでね」
「いや俺じゃなくて太一だろう」
「臣クンだよ」
「太一だって」
「臣クンなんだって」
何回目かの攻防ののち、俺たちは同時に笑った。

ああもう、ほんとわかってないんだから臣クンは。









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こちらは、えすりの教祖様であり、いつもいつも本当にお世話になっている「まじかよチャーミー」先生との、合作小説です!!
まさか!!先生と合作できるなんて!!すごいや…ほんとすごい…。

チャーミー先生はカズくん推しで、夏組を書かせたらマジで神様な人です。
(私は彼女の作品の中で特に「三角紙ひこうき」と「百合の花は泣かない」が好きです)
綴一、大変に萌えます。臣太と全然違う旨味があって、合作する中でその対比に激しく萌え転げました。
あとあと、カズくんのセリフは殆どチャーミー先生、太一くんのセリフは殆ど私、という感じで監修しあって小説を書いたんですが、まるで私の小説の中にチャーミーちゃんの所のカズくんが出張して来てくれたみたいな感じがして、物凄く楽しかったです。というか興奮した。
秋組以外の人をほとんど書いたことがなかったのでとっても新鮮だったし、綴くんのこと、カズくんのこと、そして綴一のことを今までよりもっと好きになれました。綴一…罪…。なんかこう、距離にやたら振り幅のある追いかけっこ、みたいな感じがします(?????)

チャーミー先生、合作してくれて本当にありがとう!!!
また次回もなにか先生と一緒に作品作り…したいなぁ…ふおおおぉ…。

チャーミー先生の書いたカズくん視点の綴一小説はコチラ!
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