俺には好きな女の子がいる。

いや、女の子は基本誰だって好きだ。すれ違えばいい匂いがして、柔らかそうで、可憐で。俺の好きな女の子は、見た目はまさに、今言ったような俺の大好きな女の子。

そう、見た目は。


俺が彼女に心を奪われたのは、その絹のような髪の毛をふわふわと揺らしながら、顔を綻ばせて猫を愛でる姿を見たときだった。



俺は、たまに講義をさぼる。よくないことだとわかっているんだけど、そんなにしっかり聞かなくたって、なんなく単位が取れる授業だってあるのは、みんな承知の事実でしょ。そういうときのお気に入りスポットは、大学内のかなりの面積を占める芝生広場の中、ちょっと入り組んだ場所にある木の下。あまり他の人と鉢合わせることもない。緑の生茂るなかで、たまに、心地よすぎて寝てしまう。

ここには俺以外にも訪客がいる。何処からキャンパスに入ってきたんだか知らないが、多分野良猫。真っ白な猫だったから、ネーミングセンスのない俺は、勝手に"シロ"って名前をつけた。週に一、二回くらいの頻度で訪れる俺に、シロはいつの間にか餌をねだるようになった。猫のわりに人懐っこく、俺が寝てしまったときにはすぐそばで丸まって眠る、かわいいやつ。

その日も、俺はいつものように木の許を目指して歩を進めていた。でも、目的地が近づくにつれ、いつもと様子が違うことに気がついた。聞こえてくる音で、シロがいるんだろうなとは思ったのだが、もうひとり誰か、いそうなのだ。

ばれないように、そっと木の幹に隠れて様子を伺う。そこにいるのがガタイのいい男だったら、今日はさぼる場所を変えよう、そう思いながら。

そんな俺の予想は、いい意味で裏切られることになった。

目に映ったのは、お腹を見せて甘えるシロの姿と、そんなシロのふわふわで真っ白な毛を優しく撫でる、あまりにも可愛すぎる女の子の姿だった。白桃色の透けるような肌、長く伸びた艶のある黒髪に、目を伏せると下瞼についてしまいそうなほどに長いまつ毛、小さくてぷるんとした愛らしい唇。

思わず俺の目線はその子へ釘付けになる。あまりの熱視線にこちらに気づいた彼女が、愛おしむようにシロを抱き上げたのと、俺のほうを見たのはほぼ同時だった。二つの丸い瞳に見つめられ、俺の口からは考えるより先に、言葉があふれ出していた。

「付き合ってください!!」

その言葉と同時に、ドォンとものすごい音がした。
え?なにいまの?俺の心音?と思って呆然とする俺を見上げる、俺よりもっと呆けた顔をした彼女。

白い肌をみるみるうちに真っ赤に染め上げると、「なに言ってるんですか!?」と他人行儀な敬語で言葉を投げつけて、ものすごいスピードで走り去ってしまった。
prev back next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -