A sequel to l'm not a lonley boy

仕事の成績は変わらないどころか右肩上がりだった。だって、俺はカリスマだから。

─まあ、冗談はさておき、名前がいてくれることで、毎日なんの翳りもなく過ごせるようになった俺は、仕事にもより精を出せるようになっていた。

今日は、オーバーサイズの白地のカッターシャツに、ゆるめにネクタイを結びつけ、かなり極太なオレンジのワイドパンツと、ブラウンレザーのプレーントゥのローファーをあわせていた。

セール前で暇なこの時期は、店頭で同僚や先輩とこそこそとどうでもいい話をすることが多いのだが、今日の俺にはとっておきの話題があった。

「なあ」
「ん?なにカリスマの我妻くん」
「カリスマの我妻くんは、耳がよすぎて音で人の感情が読めるって言ったらどうする?」
「はあ? ………なにそれすげーじゃん!」
「え、…せこいとか思わないの?」
「いや、え?だって別にせこくなくね?お前めっちゃ仕事がんばってるじゃん」

「ですよね!?」と対角線上に立つ先輩に小声で聞く同僚。先輩も腕を組んで、なぜだか誇らしげな表情だった。
「お前なんか壁作ってると思ったらそういうことかい」と隣で笑ったと思ったら、「今度飲みいってゆっくり話そうぜ!」と耳打ち。

お客様の入店でそれは免れたが、正直、本当に涙が出るかと思った。





舞い上がる気持ちを持て余して帰宅すると、名前がキッチンで夕飯の準備をしながら、「おかえり」と迎えてくれた。エプロンをつけて鍋の味見をするその姿に、高揚していた気持ちがさらに高まる。
思わずうしろからぎゅうっと抱きしめると、「危ないよ」と見上げられたので、そのまま口づけた。時折漏れる困ったような吐息に耳を刺激されながら、角度を変えて何度も啄むようにしてキスを繰り返す。お腹に回した手は、気がついたら腰あたりを撫で始めていたが、キスの合間に俺の名前を必死に呼ぶ彼女の声で、我に返る。やばい、夢中になってしまっていた。

「…ごめん、エプロン姿が可愛くてつい」
「もう……ご、ごはん、食べてからにして」

そう言って作業を再開する名前の耳は、真っ赤だった。「なにそれ、ずる」と呟くと、なにも聞こえませんとばかりに無視を決め込まれたので、仕方なく部屋着に着替えることにした。



夕飯を食べながら、同僚に耳のことを話したと伝えた。俺がこの話を周りにしようと思えたのも、今この話を聞いて「よかったね」と笑ってくれる彼女の後押しのおかげだった。

彼女は文字通り、俺を闇の中から救ってくれたひだまりのような子だった。その底知れない優しさも純朴さも素直さも、これまで俺が知ることのなかったものばかりで、触れるたびに胸が熱くなり、彼女をもっともっと好きになっていく。俺のすべてをかけても大切にしたいと思えた、初めての存在だった。





「言うの忘れてたけど、今日のウェアリング好きだったよ」
「…だいたいぜんぶ好きじゃん」
「わ!なにそれカリスマ販売員は言うことがちがうねえ」
「ばか、それやめろって言ってんのに」
「……明日、一緒に服見にいってくれる?カリスマ販売員さん」
「…いいよ、しょうがないから、見繕ってあげる」

まだお互い熱を持った体で、ぴとりと素肌を合わせてベッドに潜り込むと、くだらない話で笑いあう。

そうだよ、俺はカリスマ販売員だよ。でもそれ以前に、我妻善逸という、本当は全然情けなくて、全然格好のつかない男なんだけど。


名前は、そんな俺が、好きだと笑う。
全然売れなかった日、あからさまに落ち込んで帰ってくる俺だって、好きだと笑う。
酔って訳もわからずへろへろになって帰ってきた俺も、好きだと笑う。
セックスのとき、名前がかわいくてたまらなくて思わずいじめてしまう俺すらも、好きだと笑う。

─でも煙草はあんまり好きじゃないって言うから、すぐにやめた。

俺は、憎らしいほど全部が大好きだ、と笑い返す。


腕のなかで花が咲いたように笑う、知らなかった気持ちをたくさん教えてくれた彼女。

そばにいられる幸せをめいっぱい噛みしめながら、名前を腕のなかへと閉じ込めた。


< BACK >
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -