※学パロ


最近、人より無駄に良い俺の耳に、無駄に心をざわつかせる話が、それなりの頻度で飛び込んでくる。生まれた時から一緒の、今だって隣の一軒家に住んでいる幼なじみが、どうやら俺のことが好きらしいとか。そんな、高校生ならではの益体もないもの。

益体もない、とか言いつつ俺の心がざわつくのには、理由がある。

俺が彼女のことが好きだと気がついたのは、もうずっと前の話だったからだ。


当の本人とたまたま廊下ですれ違った。家は隣同士とはいえ、彼女は部活に所属していて朝が早いから、毎日のように顔を合わせているわけではなく、見かけたのは久しぶりと言っていい。
「よ」と手を振って見せたのに、ふいと顔を逸らされてしまう。

「は?なにその態度」

長年の付き合いからの、苛立ちを含んだ遠慮のない俺の声音に、彼女はぎくりと肩を震わせて体すらも俺から背けた。その行動に、さらに居心地が悪く感じられ、「おい」と眉間に皺を寄せる。

刹那、彼女が走り出す。俺も弾かれたように後を追って走った。運動は得意じゃないくせに、小柄で身軽だからか、走るのが速い。階段を軽やかに駆け上がる彼女を息を荒くしながら追いかけて、「待てってば!」とその小さな背中に投げかけると、屋上の扉の前で、彼女の足がぴたりと止まる。

俺と同じように肩で息をしながら振り返った彼女の顔は、真っ赤だった。あー、なんだよ、そういうことか。おおかた、変な噂が流れてるせいで俺のこと避けてたんだろうけど、そんな顔してるってことは、期待してもいいってことだよな。

熟れた林檎のように真っ赤な彼女に一歩ずつ近づき、その手をそっと握って顔を見つめると、大きな瞳をがぐらりと揺れる。肺の中の空気をすべて吐き出すようにして深呼吸して、渾身の想いを伝えた。

「お前の言葉で聞きたいんだよ」

随分狡い物言いだよなあ。それに、俺だっておんなじように真っ赤な顔をしているはず。

握った手を弱々しい力で握り返してくれた彼女の、チリンと鈴が鳴ったような「ずっと好きだったよ、ばか」という言葉。

それは、人より無駄に良い俺の耳に、この上なく心地よく鳴りはためいた。



校舎の亜麻色と、頬の赤と

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