足駄をはいて首ったけ


※現パロ、同棲


お腹のあたりを撫でまわすような、不快ではない違和感で目を覚ます。それはくるくると円を描くように動いて、時折脇腹をふに、とつまんでは、またやさしい手つきに戻っていく。それと、うなじの近くがほんのすこしくすぐったくて、おそらく鼻を埋められていて。こんなことをするのは、もちろんひとりしかいない。


「…ぜんいつ」
「ん、あ、ごめんねえ、起こしちゃった?」


今日は1日中家でだらだらとしていて、わたしよりずっと体の大きい彼に、うしろから抱きしめてもらうような形でいつの間にか眠ってしまっていた。「おはよ、なまえ」と耳裏で声がして、今度はうなじにあったかくてやわらかい感触。善逸はスキンシップが日頃から多いし、こうして触れられていることに気づいて目を覚ますことも少なくはない。お互い短いボトムを履いていて露出したままの足も、うすいタオルケットのなかで絡みあう。彼の体温が感じられて、あったかくて気持ちがいい。

けれど、すこし気になるのは、脇腹をふにっと摘まれるようなその動作。最近、家にいることが増えて、善逸と一緒におだやかな時間を過ごせることが多くてうれしい反面、ちょっと太ったかもしれないと、危機感を覚えていたところだった。善逸の手は相変わらずわたしのお腹をふにふにと堪能していたから、ほんの出来心で訊ねてみる。


「…ねえ、善逸、わたしちょっと太ったよね?」
「ん? …そーお?俺はこのくらいが好きだけどなあ」


彼はまたうなじに鼻を埋めて、「んふふ」と笑い声を漏らしながらなおもお腹を撫でつづける。否定しないってことは、やっぱり多少は肉づきがよくなってしまったのだろう。このままだと太る一方だから、ダイエットでもしようかなあ、と眉をひそめる。


「だめだよ、ダイエットしようとか思ったら」
「…なんでわかったの」
「おまえの考えてることなんて、手に取るようにわかるんですぅー」


そう言ってきっと唇を尖らせた彼は、わたしの肩に手を添え体をくるりと反転させて、向かい合うような形をつくった。至近距離で、寝起き間もない善逸の、いつもに比べてとろんと垂れた瞳と視線が絡み合う。妙な気恥ずかしさでなんとなく俯くと、「ん」という小さな声とともに唇を掬い上げられた。


「俺はねえ、なまえのふわふわでやわらかい体、大好き」
「…そ、そう?」
「うん、そう。こうやって抱きしめてるとね、めちゃくちゃ気持ちよくて…いつも気がついたら寝てんの」
「…確かに、いつも、寝ちゃってるかも」
「でしょ。それに、太ってようがそうじゃなかろうが、関係ないくらいには好きだよ」


向かい合わせになったことで一度お腹から離れた手は、今度は太ももをなぞるようにしてすりすりと撫ではじめる。心なしかいやらしいその手つきにぴくりと体が震えたけれど、善逸はわたしの瞳を捉えながら「だからダイエットなんてしちゃだーめ」と笑うので、照れくささとうれしさが、胸の奥からじわりと湧き上がってきた。

善逸は本当にわたしを甘やかすのがじょうずだ。それに、言葉ひとつひとつから、その視線から、嘘がないことが十二分にも伝わってくる。わたしは自分に自信なんてないから、悲観的になってしまうことが多々あるけれど、いつも彼がそんなわたしも拾いあげて、やさしく説いてくれる。今日みたいに些細なことから、そうじゃないことまで、まるっきり。

幼子をあやすようにわたしの前髪を撫でてくれる彼に、返事をするようにして目線をあわせながら、もう一度触れるだけのキスをする。それとほぼ同時に、ぐう、とわたしのお腹が鳴った。「お腹空いたね」と笑った彼の手は、相変わらず太ももを撫でていて、なんだかちょっと、様子がおかしい。


「…ね、なまえ、ちょっと運動してからご飯食べよ」
「う、運動?」
「んー…太もも触ってたらさ…ほら…」


へにゃりと眉尻を下げたその相好には似つかわしくない、硬くて大きな何かが太ももに押し当てられ、瞬時に言葉の意味を理解した。思わず逃げ腰になりながら、動きを止めようと手首をぐっと掴んだけれど、見た目に反して力の強い善逸は、わたしの抵抗などものともせずに、「ね」と頬への口づけをひとつ。

もう、こうなってしまうとわたしは彼に敵わない。敵わないけど、せめてもの抵抗を。


「じゃあ、先にシャワー…浴びたい」
「あ、そだね、一緒に入ろっか」
「い、一緒にとは言ってないんだけどな…」
「ん? だいじょうぶ、俺がきれいにしてあげるから」


言うが早いか、今度はわたしを仰向けにさせた善逸は、膝裏と脇に手を差し入れて軽々と持ち上げた。声を上げる間もなく彼の首にしがみつく。寝ていたからお互いぼさぼさの頭で、なんだか間抜けだ。ぴょんと跳ねた善逸の前髪をじっと見上げていると「なあに」と破顔した彼と目が合った。

本当は、太ったかもしれないと思ってから、一緒にお風呂に入るのも躊躇していた。けれど、もはや見た目なんて関係ないくらいに好きだと、とんでもなく嬉しいことを言ってくれて、こうしていつもみたいに求めてくれるのだから。気にするほうが、きっと彼に失礼だ。

明日は仕事だけど腰は痛くならないだろうかとか、ご飯にありつけるのは何時になるだろうかとか、色々憂慮はあるけれど。そのぶんまた善逸に甘やかしてもらえばいいやと、「なんでもない」と小さくつぶやいた。



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