Q





恋してるってこんな感じ?
そうなら恋には痛み止めが必要かもしれない。生きるのに支障をきたすよ。なんて。

ピヨピヨとそんな心のツイートしちゃってるシンジも1秒前まで恋愛偏差値0のたまごだった。だけど急にキュンと心臓が羽ばたいちゃって、彼を見ちゃったりすると胸が苦しくなるし泣きそうになるし変な感じになるのだ。いつもはかかない手汗をかく。脳みそがしびれてくる。なんだか叫んで駆け出したくなる。あああああわけわかんないよ!

彼?それは言うまでもないけど、渚カヲル君のこと。

シンジは高校生になってちょっと遠出をしてみたくなった。第三新東京市のど真ん中、流行の発信地ネルフストリートへと向かうバスにひとり揺られていた。カッコイイスニーカーが一足買えたらはじめてのおつかいは大成功。シンジのファッションセンスはやっと近所のショッピングセンターの大気圏を突破しようとしていた。

途中のバス停でひとりの客が乗ってきた。シンジと同世代の男の子。大きなサングラスに見たこともないアッシュグレイの髪の毛がふわふわしている。肌は透き通る炊きたてのお米の白さ。なんて綺麗なんだろう。唇も高級なかまぼこみたい…例えまで所帯染みてるのが恥ずかしくなってシンジは下を向いた。じろじろ見て失礼だったなと反省。バスが発車して窓を眺めるシンジ。車内はとても空いていてシンジは窓際に座っていた。そしてうっすら窓に映る自分を眺めていた。

(僕ってなんか垢抜けないよな)

シンジは昨日アスカに「だっさ!」と言われたのをものすごく気にしていた。「芋シンジ!」床屋で前髪を揃えてもらったらそう言われたのだ。

(でもアスカみたいに何千円も払うなんておかしいよ。髪をちょっと切るだけじゃないか)

そう言いつつもシンジは危機感を覚えたのだ。高校生でダサいのは致命的。ずっとアピールしている綾波にいつまでも相手にされないのはそのためだなと思った。

(綾波がいつもぼーっとしているのは僕を男として見てないからだろう)

ナイーブな独白を垂れ流しシンジは窓の薄っぺらい自分を観察した。前髪を斜めに撫でつけてみる。

(あのケンスケだってワックスをつけはじめたんだ。僕だって……)

その時だった。肩をトントン。後ろの客がノックした。シンジは振り向いた。あのアッシュグレイが窓のすきま風に揺れた。赤い瞳。彼はサングラスを外していた。

「僕と結婚しよう」

次の瞬間、シンジは見ず知らずの同性に求愛されていた。

「それ詐欺の手口じゃない!」

だからアスカが叫ぶのも無理はない。

「詐欺?」
「まずあり得ない条件を吹っかけてから要求のレベルを下げるの。するとあんたみたいな童貞はまんまと個人情報を晒しちゃうわけ」
「でもそんな悪い人じゃないよ?」
「あんたバカァ?詐欺師はいい人間に擬態してるもんなのよ!」
「うーんでも」
「サングラスかけてブリーチしてるゲイなんていかにもアヤシイじゃない!」
「言ってることが矛盾してるよ!」

アスカはロッカーからバッグを取り出した。最近買ったサマンサなんとか。ブランドモノらしい。

「いい?あんたがそいつにカモられないよーにしてあげるから逐一報告しなさいよね」
「えー」
「返事は?」
「……」
「殴られたい?」
「わ、わかったよ、すればいいんだろっ」
「よくできました、カモシンジ」

アスカは颯爽とコンビニの自動ドアを潜って手を振った。彼女はシンジの中学からの友達だ。コンビニで一緒にバイトをしようと誘ってきたのも彼女から。アスカは稼いだ金でファッションのレベルを上げていく。次にバイト代が入ったらピアスをあける予定らしい。

シンジはというと特に使う予定はなかったから綾波を遊びに誘ってみたのだった。

「今度映画観に行かない?」
「私、映画観ない」

なんとか踏ん張るシンジ。

「あ、あの!映画館の横にパンケーキ屋さんがあってさ、綾波パンケーキ食べるかなって」
「全然食べない」
「へえ〜〜〜」

シンジの繊細なハートは粉々に砕け散り春の青空の彼方へと風に吹かれて永遠に消えた。だからシンジはバイト代の使い道はなかったわけで。

『今度僕とデートしようよ』

シンジはノンケだしけっこうな奥手でデートなんてしたことがないのだけど、こう返事したのだった。

『遊ぶってことですか?い、い、い、いいですよ』

そんなふたりのデートは偶然にも映画館だった。カヲルはシンジの遊び慣れた地元まで来てくれたのだ。それはシンジが何万回もした妄想に輪をかけて素敵だった。ピュアラブファンタジーを観ながら一緒のポップコーンを食べて肩を寄せ合う。胸キュンのシーンでカヲルはシンジの手をそっと握ってくれた。

それから流行りのクロナッツのお店に行って食べさせ合いっこしたり有名なオモチャ屋さんでケモミミカチューシャかけてキャッキャウフフと笑っていたら帰りにはふたり手をつないで歩いていた。恋人つなぎだ。シンジは一生こうしていたかった。殻のひび割れる音がした。それは世界の始まりだった。ふたりは趣味も感覚も目指してる方向性も何コレってくらい相性抜群。それでやっと1秒前にわかったのだが、カヲルとシンジは運命共同体らしい。なんの1秒前かだって?それはカヲルがシンジの頬に小鳥みたいなキスした時の。駅前でまだ帰りたくないとぐずってUターン、夕暮れの街を彷徨っていたら歩道橋の上でふたりは急にそんなことになっていた。

このさじ加減。いきなりプロポーズしておきながら盗んだキスは物足りないくらいの圧力。そのリップクリームよりも軽い感触がシンジを半殺しにした。しばらく身動きがとれないくらいに。

まあそれでシンジはついに(と言っても出会って1週間くらいだが)カヲルとの交際をOKしてしまったのだった。もちろん誰にも内緒で。シンジは未だにそのワンシーンを思い出せない。本当に幸せな瞬間ってどうして記憶から抹消されてしまうのだろう。甘く切ない気持ちを抱えていつでもどこでもシンジは溜め息をつく。

「その後詐欺師から連絡は?」
「ないよ」
「……あったんでしょ?」
「ぜーんぜん」

しれっと嘘だってつけちゃうくらいシンジはカヲルに夢中だった。シンジは理解した。恋はしたくてするものじゃない。落とし穴の罠にハマるみたいに真っ逆さまなんだ。

でも、そんなシンジにも心配ごとがひとつだけあった。

「ねえアスカ」
「なによ」

シンジとアスカはぼんやりと客のいないコンビニのレジに突っ立っていた。時が止まったみたいな店内。

「あの、もしもだけど、さ」
「なによさっさと言いなさいよ」
「もしも誰かが道を歩くたびに友達に会ってたらどう思う?」
「ハア?」
「だから友達がたくさんいたら」
「どこで?」
「どこ?」
「学校だったらヒエラルキーのバラモンで商店街だったら八百屋の息子とか違ってくるでしょ」
「……ネルフストリートとかで」
「遊び人ね」
「そんなわけないだろ!」
「あんたが聞いてきたんでしょーが!」

と怒ってみたアスカだが、予想的中、ニヤリと笑いが止まらない。

「健気ねえ。遊び人の詐欺師にカモられちゃって」
「そんなんじゃないって言ってるだろ!」
「やっぱり連絡あったんじゃないの」

強烈なデコピンを一発。シンジは嘘ついてゴメンと口にするかわりにそれを真っ正面から受け止めた。

(カヲル君が遊び人のはずないじゃないか……)

その後、シンジはおにぎりを並べながら心の中で呟いていた。確かに冷静に考えると鮮やかな犯行なのだ。結婚しようとプロポーズ→連絡先交換→デートで頬にキス→交際スタート→毎週のデート→毎日のメール……そしてシンジはある精神疾患に陥ってしまう。渚カヲル君中毒。息するたびにスマホをチェックしたくてたまらない。メールが届いてないとシンジは頭の中のカヲル君を挑発したり意地悪して彼の切ない恋心を爆発させちゃう“ 仕返し ”をした。

(僕、病んでるのかも…?)

いくらガチャしてもシンジが出なくて泣いているカヲルを妄想しながら唐揚げに語りかけていたシンジ。つい前の日曜日のことを思い出してしまう。

次のデートはひとりじゃ心細いネルフストリートをカヲルと並んで歩きたいと提案したのはシンジだった。珍しくカヲルは渋っていた。ここらへんから既に怪しかったのだ。結局シンジの願いは叶った。シンジは流行の発信地でカッコイイ自慢の彼氏を見せびらかした。つまりお洒落な男友達の隣で自分もファッショナブルだという気分を味わっていた。

「カヲル!」

通りを歩きはじめていきなり、本当にファッショナブルな女の子がカヲルに声をかけた。

「渚カヲルじゃ〜ん」

流行の先端の先っちょみたいな青年たちもカヲルを指差しハイタッチ。

「あ♥カヲル君だ」

5メートルに1回はそんな現象。カヲルはシンジに向けるのとは違う笑顔で手を振っていた。カヲルはシンジの抱いていたイメージとはだいぶ違った。もの静かで可愛いモノが好きで秘密めいたカヲルはそこにはいなくって、なんだか軽率でノリ重視でClap your handsしちゃうこの街が産んだ男の子がそこにはいた。そしてそんな集団はみんなシンジをないもののように扱ってさらっと通り過ぎてゆく。

「カヲル君って人気者だね」

もやもやを隠しきれずにシンジは小さくぼやいてしまう。

「ごめん、落ち着かないだろう。やっぱり別の場所に行こうか」
「うーん」

「あー!渚くーん!」

空気を読まないお姉さん達がカヲルに投げキッスしているのを見てシンジは果てしなく惨めになった。

(アスカの言う通りだって本当はわかってたんだ……)

シンジは不意をついて裏通りに逃げ出そうとした。それで必死で自分を追いかけてくるカヲルを妄想した後に、きっと僕は大多数のうちのひとりだからそこまでされないだろうといじけた。

「シンジ君」
「ん?」
「僕の手を離さないで」

けれど。実際はシンジが悲しみにしびれて動けない間にカヲルが逃げ出したのだった。シンジの手を握ったまま。

「もうすぐだから」

シンジはカヲルに手を引かれて全速力で走りながら振り返る。追っ手は見つからなかった。

「加持さんいますか」

そして辿り着いたのは感じのいいセレクトショップ。無精髭でキメた店員が顔を出す。

「おう、またか」
「はい、二人分お願いします」

カヲルはシンジの手を握ったまま店の奥の試着室のカーテンを開けた。

「入って」

ふたり納まったらさっき加持と呼ばれた男が全身コーディネートした服を運んできた。

「ごめん、着替えて」
「え」
「いきなりごめんね」
「どうして着替えるの?」
「……今は僕を信じてほしい」

1人用にあつらえられた試着室はふたりには狭かった。向かい合った顔は着替えの服で隠さないと心が透けてしまいそう。心のままのシンジはカヲルを困らせたくて仕方なかった。けれどそうはしなかった。頭の中で何度警告音がしても。

背中合わせになってから、シンジはポロシャツのボタンをひとつひとつ外した。カヲルは豪快にTシャツを脱いで放った。シンジは出来心でふと振り返る。カヲルの露になった上半身。シンジよりも細く引き締まったその筋肉。真っ白で滑らかな肌。羽根のような肩甲骨に銀髪の襟足からまっすぐこぼれる背骨がうっすら浮かび上がる。シンジが見とれているとカヲルが振り返った。視線がかち合ってしまう。考えていることは同じだと、シンジは感じた。熱く濡れた赤い瞳はシンジがまだポロシャツの裾をつかんだままなのを残念そうに瞬いた。シンジの頭の中では上半身裸のカヲルが壁ドンして、鼻息荒くシンジのポロシャツを無理やり脱がしてゆくのだった。

「お〜いおふたりさん。お楽しみ中悪いが早くした方がよさそうだぞ」
「わかってますよ」

カヲルの声は悔しそうに聞こえた。それすらシンジの妄想かもしれないけれど。そう諦観してからシンジはポロシャツを脱ぐ。選んでもらったらしいTシャツはコミック柄でひどい冗談が描いてある。こういうのが一周回ってカッコイイのかKawaiiのか。ああでも僕っぽい、なんて思ってしまう。こんなお洒落の巣窟では僕ってこんな存在なわけで……と自虐ネタをツイートしている最中、シンジはカヲルに後ろから抱き締められてしまった。

ふたりの肌が擦り合わさって発熱する。ギュッと思いきり回された腕は脇腹から差し込まれて胸の辺りでクロスしていた。あまりの性急な力強さに驚いて前屈みになると、覆い被さる体の重みを感じた。くすぐったい。触れ合った箇所がおかしくなりそう。身をよじったら吐息が耳にかかってしびれてしまう。逃げ出そうとしたらもっとギュッとされてシンジの胸の先端がカヲルの指先にこすれて思わずピクンと体が揺れた。こんな快感はじめてで「ん」と漏れそうな声を飲み込む。シンジは息を止めた。膝がふるえて腰を抜かしそうだった。

「好きだよ」

けれど鼓膜をふるわせたのはいたずらに発情した声ではなかった。それはまるで、思い悩んで切なくてたまらない、そんな声だったのだ。

「5円のおつりとレシートになります」

いつの間にかシンジはレジで接客をしていた。そして客を見送ってもしばらくそのままレジのお金を数えるふりして動かない。何でもないという顔で、でも恥ずかしそうに耳を赤らめうつむいていた。

あの試着室を思い出すたびにシンジは勃起してしまうのだ。エロ本を自ら買って抜くほど性に貪欲ではなかった。なのにカヲルと出会ってから確実に体は変化していた。
きっとあの時、ふたりがすぐ離れたのは欲望を隠すためだった。これ以上はいけないラインでふたりは踏みとどまって純潔を守った。純潔は純愛の証だと信じていた。それにもしかしたら、ふたりともこわかったのかもしれない。
それからカヲルとシンジはバックヤードのスタッフ専用通路を抜けて、裏通りから街に出た。着替えた服はカヲルが支払っていた。シンジは自分の分は払うと食い下がった。でも「僕のせいだからこれくらいさせてほしい」そう言ってカヲルは頑なだった。それが余計、シンジにカヲルを疑わさせた。

「そろそろ変なモノ買わされたりしてんじゃないの?」
「違う」

アスカが休憩あがりで伸びをしながらやってきた。

「じゃ、複雑な境遇で同情を誘ってんのね」
「違うって!」
「ならなんでそんな死にそうな顔してんのよ」
「……この店潰れそうで」
「そんなのわかりきったことじゃない」
「そうだね」

シンジとアスカは気怠そうに誰もいないコンビニを眺め回した。

「雑誌の検品してくる」

レジから抜け出したシンジは帰り際の駅のホームを想う。最後まで疑心暗鬼の嵐は去らなかった。カヲルは察してシンジの手を握らなかった。またね、と告げる時、カヲルは泣きそうな顔をしていた。でもシンジはずっと待っていたのだ。着替えの理由を。けれどカヲルはもう何も言わなかった。シンジは見送るカヲルに背を向け改札を通り過ぎた。

雑誌のバーコードをスキャンする。ファッション誌を見ると反射的にまた日曜日に帰ってしまう。ああもうやだ。溜め息まじりにいらっしゃいませと声出しをする。見た目ばっかり気にするヤツは中身がからっぽなんだ。シンジの感じの悪いツイート。あれからカヲルからメールが来ない。もう火曜日なのに!ほらね、シンジはピッと端末のボタンを押す。僕がダサいからってカヲル君は僕を見下してるんだ。妄想は加速する。こうなったら僕はもう一生ユニクロ着て過ごしてやる。シンジは後ろの棚から大きな雑誌を取り出した。裏返してバーコードを確認してからまた裏返した。

渚カヲルが雑誌の表紙を飾っていた。

「は?」

シンジは雑誌を持ってレジへ行く。

「これ誰か知ってる?」
「渚カヲル」
「なんで知ってるの?」
「ハア?あんた本気で言ってんの?今一番人気のモデルじゃないの」

つるんとした紙の上ではファッショナブルなカヲルがミステリアスに微笑んでいた。ページをめくると彼は海辺の貴公子になったりメルヘンな森の王子様になったり近未来のアンドロイドになったりして最新ファッションに身を包んでいた。それはモテたい服装というシンジのファッションの概念を覆して、とても芸術的だった。

「か、彼って他の雑誌にも載ってるの?」

もっと見てみたい、もっともっと。そう虜にさせる魅力が彼にはあった。けれどアスカからの返事はない。無知な自分に呆れているのかとシンジが顔を上げた時だった。

「シンジ君」

後ろで声がした。振り返ると、シンジの知ってるカヲルが弱々しく立ち尽くしていた。サングラスを外すと怯えた赤い瞳が繊細に揺れていた。

「どうしても直接伝えたくて来たんだけど……一足遅かったようだね」

シンジは声が出なかった。

「いつかはちゃんと言おうと思っていたんだ。でもなかなか言えなかった」
「どうして」
「嫌われたくなかったんだ。シンジ君はこういう仕事は……好きじゃない気がして」

みるみると熱が毛細血管を駆け巡る。くつくつと沸点を超えて、シンジはまんぷくになったような幸福感で喉を鳴らした。ふふ、こらえきれずに鼻から陽気な息が吹き出す。ああもうだめだ。

「あははは!!」

シンジは何故か爆笑しはじめた。

「なーんだ!そういうことだったのか!」
「そういうこと?」
「あはは!ごめん、僕、盛大な勘違いをしてたんだ。カヲル君が街中の人と付き合ってる詐欺師なのかなって」
「どうしてそんな」

アスカは涼しい顔で禿げかけたネイルをいじっている。

「僕が悪いんだ。自分がダサくて嫌で卑屈になってたから」
「シンジ君はわかっていないようだね」

カヲルは我慢できずに一歩踏み出す。ちょっと怒った顔をしている。すらりとした長い指でシンジの前髪を梳いた。

「君がどんなに魅力的か」

黒く艶やかな髪がさらさらと瑞々しく健康な肌に流れた。透明な未来を映す瞳、やさしさでできた唇、シンジのすべて――それはまるで新緑の森に眠る果実のよう。甘くかぐわしく、そして誰にも見つからずに秘密めいて、その生命をたたえている。本当に美味しい果実は食すのに、調味料は何も要らない。

「僕がどれほど君に心を焦がしているか」

果実はその価値を見いだした者の言葉で熟れてゆく。

「君の魅力にひれ伏しているか」

熟れた果実は自らの輝きに気づいてゆく。

「君は最高だよ」

シンジは思った。やっぱり恋には心肺蘇生が必要かもしれない。キスするたびに何度も死んじゃうから。なんて。

それからそのコンビニは予想に反して潰れなかった。しばらくして週刊誌にあるゴシップ記事が掲載されたからだ。そこには大人気モデルと普通の高校生がコンビニラブ!という見出しで熱烈なキスをすっぱ抜かれていた。みんながあの大人気モデルのハートを射止めた素朴な男の子を見にコンビニにやって来た。

記事には匿名のインタビューも添えてあった。「床屋で髪を切ってるような芋っぽいヤツなの」証言者Aは語る。「でもすごくいいところがあって、可愛いヤツで、ま、そこがよかったのね」この証言は全国の大人気モデルのファンと腐った乙女たちの想像力を掻き立てた。

「なかなかしぶといわね」
「まだ潰れないね」
「仕事が増えたのに時給がそのままだなんて」
「あ、あの、そこで記念撮影するのはやめてください!」

週刊誌の写真を再現する若者でごった返す店内は賑やかだった。

「これじゃ割に合わないわよ!」
「そういえばアスカ、今日新しいバッグだったね」
「それは臨時収入が入ったから♪」
「へえ〜〜〜」

なんとかジェイコブスに夢を詰めてピアスをもう1コあけようか悩んでいるアスカの横で、5秒おきにスマホを気にして必死で勃起と闘っているシンジが一生懸命レジをうつ。そのコンビニからバスで1時間のスタジオでは今日も意味不明な格好をして芸術を体現するカヲルが神妙な面持ちで次のデートのプランを練る。そんな第三新東京市の高校生たちの日常。


快適生活増刊号
1号店:コンビニラブは突然に




神様はたまによく仕事をする。

「碇シンジ君ください」

無言、のち、ため息。シンジは昔のポップソングを思い出した。運の数〜せめて自分で出し入れさせて〜と歌うあの曲。

バイトしているコンビニのオーナーが変わった。日付的に嘘かと思った。時給がアップしシフトもうまい具合に再編成。あと1時間早めが良かったなと思っていた矢先にこの劇的なチェンジ。あまりいいことが重なると疑いたくなるのが世の人情。でもね?やっぱり。

変な客に出くわした。

「なんで僕の名前を知ってるんです?」
「名札」
「ああ」
「ねえ君の時間は売ってないの?」

プラマイゼロだなぁと思う。その客は示し合わせたように新体制初日にやってきて、またやってきて、やってきた。

「僕は基本的に売り物じゃありませんけど」
「基本的?例外アリ?」
「ない」

あぁつい敬語が散歩に出かけた。よく晴れた昼下がりだから当然か。珍客が身を乗り出してジロジロ見てくる。子どもが宝物を見つけたみたいに。

(なんなんだよ…)

見た目は嘘のような美貌。なのにこれまた嘘だろってくらい口を開けば残念な高校生、たぶん、タメくらい。シンジは密かに彼をエイプリルフールと呼んでいた。初来店の日とかけて。

そしたら毎日がエイプリルフールになってしまった。

「あたためますかって聞いてみてよ」

あまりのウザさに肉まんを投げたくなる衝動をレジの早打ちに込める。

「…あたためますか?」
「僕のハートをお願い」

鳥肌が立つ。レジ打ち間違えた。

「え、なんで唐揚まで入れてんのさ」
「325円です」
「強引な商売だな…ちぇっ」

シンジこそがちぇっと言いたい。客が他に誰もいないのをいいことに今日も長居しやがって。

なのに。

(遠目で見たらかっこいいのに…)

自動ドアの前でニコニコ手を振る姿はまさに神様に愛されている姿そのもの。まあこういうところでも神様はちゃんと仕事をする。

「またね」

彼がもし窓際に陳列している雑誌の表紙を飾っていたらつい買ってしまうだろう。そしてなんでインタビューが袋綴じなのかなウフフなんて笑顔でハサミで開けて、真顔で閉じる。目を瞑って読まなかったことにする。プラマイゼロの法則。

客が少ないうちに賞味期限チェックをしようとシンジは大きく伸びをした。

「さてと…やるか」

高校生活の隙間を縫うようにバイト三昧。そこそこに青春を味わいつつ、プラスアルファの生活費とささやかな物欲を満たす。シンジは密かにホーロー鍋が欲しかった。そんな高校生だった。


「スマイルください」
「285円です」
「え!?」

変な客に取り憑かれて早2週間。驚いた顔がかわいいななんて思える余裕が生まれていた。そんなに経てば対処法も心得る。営業スマイル廃止、動じない精神、そしてあくまでも、商売に徹する。

「ゼロ円じゃないの?」
「ポテト税込160円です」
「僕頼んでないし。ま、いいか。じゃシェイクもお願い」
「君マック行けば?」

シンジのために記すが、こんなこと他の客には絶対に言わない常識はちゃんとある。

「一緒にマック行ったらスマイルくれる?」
「マックで働いていないんで」

でもこの男子を目の前にするとこんな調子になるのだ。普段の営業スマイルが本当の自分なのか、この仏頂面がそうなのか、たまにシンジはわからない。

「シンジ君のスマイルはおいくら万円?」
「非売品です」

口下手なシンジの舌が勝手に動く。

「プライスレス」
「そうプライスレス」

なんでだろう。

「お金で買えない価値がある。買えるものは」
「…コンビニで」
「商売上手〜!」

なんだこのノリ。笑いたくなるのも我慢。もっと喋っていたい気持ちをおくびにも出さないでシッシッと追い払う。

「またね」
「…ありがとうございました」

彼は一体何者なんだ。もっといろいろ知りたいけれど、シンジは彼の名前すら知らない。知っているのは

(エクレア好きだなぁ…)

好きなスイーツくらいなのだ。毎日買っていくんだから。

あの日から、夏休みのラジオ体操のごとく皆勤賞のエイプリルフール。毎日来ているのかな。それとなくバイト仲間に探りを入れたら、どうやら彼は自分のいる日だけ狙い撃ちでやってくるらしい。シンジは頭の中、今日も、エイプリルフール君がんばりましたシールを貼り貼りしつつ首をかしげる。

(偶然?)

もちろんそんな芸当は神様の趣味じゃないくらいはちゃんとわかっていた。

(なんで僕?)

学校で会っていたら友達になれただろうか。店員と客というのは大陸が違うくらい、遠い。シンジはよく校舎ですれ違って仲良くなるふたりを妄想した。

そして気がついたら『コンビニ 恋愛』とググってしまった。むふむふ意外と凡シチュなのか。密かにいつの日か小銭と一緒に連絡先を書いたメモが置かれるんじゃないかとドキドキしていた。ドキドキしながら小銭だけが降り降りするつり銭トレイ。ガッカリだ。

いや、ちょっと待て。

何を期待しているんだ、落ち着け。僕はホモじゃない!男同士で好きなんてありえない!これがシンジのなけなしの言い訳だった。

(別に、そんな変な意味じゃなくて…)

ただ、レジなんて大陸なんて取っ払って気が済むまで話をしたい。素の自分で思いきり笑ってみたい。この気持ち、神様はなんて呼んでるんだろう?

嫌いと好きでプラマイゼロ。嫌いなほど気になる相手。二度と来るなと思ってもう待ち遠しい相手。

だから彼がコンドームを会計しに来た時に、シンジは頭が真っ白になってしまった。


「意外なセレクト?」

それはまた2週間後のこと。ウフフと嬉しそうなリアルツイート。挑発的な表情にハッとする。何でもない風を装った。

「…ポイントカードは?」
「え」
「いつもそうなので」
「あー忘れた!」

フン、なんて鼻を鳴らしかけて

「なんてウッソ〜ちゃんと持ってるよ〜」

華麗にスルー。バクバクうるさい心臓に不機嫌は加速。汗ばむ手のひら。ひとの気も知らないで。珍客はその独特なノリでマイウェイだ。

「どうして僕がポイント貯めてるか知ってる?これが1000ポイント貯まったら君に愛の告白しようと思ってるんだよね。あは!ウケない?コクる前に貢ぐなんて僕って健気〜」

鼻につく。

「ありがとうございましたー」
「あれ、会計は?」
「ポイント貯まってたので引いておきました」
「げっ…!」

今度こそ怒られるのを覚悟したのに

「ま、いっか」

怒られなかった。それどころか

「ただのポイントだし」

キラキラした赤い瞳は一層澄ましきってシンジを射抜くのだ。

「まだ可能性あるのかな」

意味深なセリフ。それに惑わされるのはごめんだった。

「またね」
「…」

なのに。やってやろうと思った営業スマイルは不発。あぁ自分が嫌になる。

(相手がちゃんといるんじゃないか…)

コンドームが頭から離れない。それを使っている袋綴じのエイプリルフールを想像した。

(僕をからかって遊んでるだけなんだ…)

そうしてシンジは開きかけた心の自動ドアから慌てて逃げ出す。嘘なんだ、ぜんぶ。僕は知らない。こんな気持ちは一時的で、はじまってもいなくって、だから誰にも内緒にすればいつか腐ってあとかたもなくなってしまうだろう。

シンジは閉じかけた目前の自動ドアからも逃げ出した。あのプラマイゼロの笑顔なんて見てやらない。手を振ってたって見てやらない。あ、そうだ!

(今日は給料日じゃないか!)

なんてことだ!この大事な日をこんな時間まで忘れてた。先月は諸々の出費でカツカツだったけれど、時給がアップしたからずっと欲しかったアレが買えてしまうのだ。今はなんでそんなに欲しかったのかもわからないけれど、きっと現物を見たら僕はあんな四月馬鹿なんて忘れてしまう。絶対に忘れる。

その日、シフトあがりの17時まで、シンジは空調の温度計を何度もチェックした。どうしてこんなに寒いんだろう。指先まで冷たいんだろう。


「おつかれさまでしたー」

制服を脱ぎ捨てロッカーから私物を引っ掴んで、シンジはそそくさとガラス張りの自動ドアから飛び出した。外は土曜日の茜空。見上げて深呼吸すれば、ちょっとだけあたたかくなれた気がした。

「おつかれー」

後ろから耳許で囁かれるまでは。

「★△◎&!?」

言葉にならない悲鳴を上げて振り返れば、そう、エイプリルフールがそこまで。もうすぐ5月だというのに。

「嫌がらせはやめてください!」
「どうして急に敬語?」

半径1メートル以内でにじり寄ってくる珍客。同じ大陸に立つふたり。レジという超えられない壁が消えればこうも馴れ馴れしい距離感なのかと、シンジは驚愕した。

「驚いた?」
「別に」
「嬉しい?」
「全然」

声がほんのり張りつめていて余計にざわつく。緊張してるの?ちらりと横目で確認するとすぐ側にある、色づく頬、とろけた瞳。明らかに、完全に、恋する瞳。

(いやいや勘違いだろ…)

顔を見せないようにして早足で駐車場を過ぎてゆく。ふと一瞬、シンジの顔が綻んで、つらく歪んで、また綻んだことはシンジの名誉にかけて、誰にも内緒。

「私服なんて新鮮だね」

交差点で信号を待つ間、シンジは何も言わなかった。

「もちろん制服も似合ってるけど」

横断歩道を渡りながら、シンジは何も言わなかった。

「そろそろデレ期来てもいいよね?氷河期並にサイクル長いね」
「……」
「先に言っとこっかな。シンジ君デレちゃってかわいい〜」
「……」
「あ、カッコイイの方がいい?カッコイイね〜、あは!」
「……」
「あは、は…」
「……」
「…ねえ、どうしたら君の彼氏になれるのさ」

シンジは立ち止まった。

また歩き出す。

「…僕がノンケって考えたことないんですか?」
「どっちでもいいけど僕は」
「そうじゃなくて!僕が君のこと好きにならない可能性の話!」
「そんなことあるわけないじゃん」
「は?なんで」
「君が僕のこと好きになるまでやめないから」
「あっそ」

そう気のない返事をして、シンジは何故だか震えてしまった。駆け足になってもピッタリくっついて来られるから、シンジは脱力して、のんびりと歩くことにした。無駄な抵抗をやめれば、ふたりは並んで夕暮れのアスファルトの上を歩く。それはとても自然で、まるでずっとそうしてきた友達のようだった。

「ねえ、なんだってするからさ、どうしたらいいのか教えてよ」
「……」
「お願いだよ、こんな気持ちはじめてでどうしたらいいのかわかんないんだよ」

苦しそうに呟かれた。触れ合う肩。痺れるくらい、何かを感じた。

「…なんでもするんですか?」
「うん、なんでもする」
「へえ。すごい」

素直に驚く。

「感心してないでちゃんと教えてよ」

でもちょっぴりシンジは悲しいのだ。

(アレを使う相手はいるクセに…)

「じゃあ…」
「じゃあ?」
「そうだ。コンビニ丸ごと買い上げたらいいですよ」
「それだけ?」

(ほらやっぱり。真剣じゃないんだ…)

「そうそれだけ。たったそれだけ。そしたらそこで働いてる僕も君のものだから好きにしていいですよ」
「なあんだそんなことでいいの」

(なんだその反応…)

「僕があのコンビニのオーナーなんだけど」
「え」

シンジは立ち止まった。

いやいやまさか。また歩き出す。

「嘘ならもっとマシな嘘つけよ」
「嘘なんてついてないけど」
「嘘だ」
「本当だよ」

ほら、と突きつけられた契約書。立ち止まる。

「……」

なんだこれは。彼、外国人?ゼーレ?高校生がオーナーになれるの?しかしなんでそんなものを。あらかじめこの展開を予想して用意していたのだろうか?なんで?なんで?

「やった!シンジ君はずいぶん前から僕のなんじゃん♪」

わけわからん。ムカつく。

「あ、」

どうして気づかなかったんだろう!この美貌といい変態要素といい女遊びといい、まるっきり金持ちのお約束じゃないか。きっと大富豪がモデルか芸能人かと結婚して、派手な暮らしと交流とが遺伝したんだ。それでそんな豪遊にも飽きたからコンビニにやってきた。ほら、いるだろ?料亭三昧が嫌で好きな食べ物はカップラーメンですとのたまう輩。なら毎日カップラーメン食べてみろと言いたくなる。それが嫌でも庶民は料亭にふらっと行くこともできないんだ。

(ひとをバカにして…)

だからこいつは利便性ではなく観光として遥々コンビニにやってきたわけだ。火星人が地球にやって来るように。この銀髪赤目は地球の珍しい貧民・僕をオトす遊びを愉しんでいる。それで僕がハハーッとひれ伏すと思うのか?そうだ、こいつは火星の黄門さまだ。契約書という印籠を僕につきつけようと待ち伏せしていたんだ。

ふう。

ま、こんな展開も古くからラブコメで語り継がれている。シンジは大きく息を吸った。

「でもそれは君の稼いだ金じゃないだろ」

浮かれている四月馬鹿はキョトンとした目でシンジを見た。

「君がご両親か誰かから貰ったお金で買ったものは君が買ったんじゃない。君のご両親か誰かが買ったものだ。だから君は彼らが買うものをただ選んだだけ。つまりそんな契約書があってもコンビニも僕も、君のじゃない」

よし!言い逃れた!

と思ったら

「ゾクゾクしたよ…」

すごく嬉しそうに微笑んで

「やっぱり僕の目に狂いはなかったわけだ」

シンジへと一歩近づいたエイプリルフール。

「僕が稼いだお金だよ」
「…は?」
「つくったSNSが当たってさ。あは!マーク・ザッカーバーグって知ってる?まあそんな感じ。その気はなかったんだけどお金持ちになっちゃって。何も欲しいものがなかったし寄付しよっかな〜と思ってコンビニ入ったら君がいたんだ。神様っていたずら好きだよね?やっと欲しいものが見つかったのにそれはお金じゃ買えないなんてさ」

絶句。

「それで僕思いついたんだよね。プラマイゼロの法則」

それ知ってる。

「何もいらないけどお金持ちの僕、これを空っぽのコップとするでしょ。そしたらお金で買えない君に出会う、これをコップに入らない氷にとするわけ。でもさ、君を溶かして水にすればそのコップにきっちりちょうどよく入るんだ。だってもうコップはそこにあるんだから。環境学の応用だよ。欲しいものがあったらまずそれを納めるスペースを用意するってやつ」

身振り手振りで熱心に説明しているが、何を言っているのかわからない。

「ま、僕が言いたいのはそれでさっき君と僕用にゴム買っといたんだよね。そしたら君のあの態度。勘違いしちゃった?君の顔見て脈アリかもって思ったんだよね〜」

空ではカラスが小バカにするような声で鳴いていた。シンジはまた歩き出した。

「それに君から買ったゴムを君と使うって最高じゃない?」
「変態だな」
「褒め言葉でしょ」
「んなわけないだろ」
「好きなくせに」
「違う」
「あは!やっぱ好きなんだ」
「違うって!」
「あ、ところでホーロー鍋は買えた?」
「え」

あれはどんより曇っていた水曜日だった。シンジはむしゃくしゃしてバイト仲間につい愚痴ってしまったのだ。今のバイトじゃ欲しいものは買えないしシフトの時間も都合が悪い。辞めたいかも、なんて小さくこぼしてしまった。その時、パーカーのフードを被った客が何も買わずに店内で、そんな店員を見つめていた。

シンジはその客のことをまるで思い出せないけれど、まざまざと想い描けた。そんな店員に一目惚れして声もかけられず、遠くから見つめては持て余したお金を抱えて“ 氷を水に変える方法 ”を一生懸命考えた、当日より3日前のエイプリルフール。そして、一年で一度、世界中が悪びれもなく嘘であふれる、あの何もかもが疑わしい日に、彼は自分のコンビニへと現れたのだ。彼の買った時給とシフトを確認するため。本当に欲しいものは売っていないと知りながら。何故なら彼は、恋をしてしまったから。

ラブずっきゅん。

これは初恋がシンジのハートに着火した音。

「あ!どこ行くのさ!」

猛ダッシュでシンジは逃げ出す。

(ずるいずるいずるい…!)

仕組まれた出会い。決められた結末。こんなの、オチるしかないムリゲー。

「待ってよ!」
「来るな!エイプリルフール!」
「エイプリルフール?」
「君はエイプリルフールだ!」
「誰?僕は渚カヲル!」

明日もバイトだ。逃げられない。どうしよう。シンジは恋の予感にもうなす術もない。ドキドキが止まらない。

「近寄るな!渚カヲル!」

自動ドアは開きかけて一歩退いても、開いてしまうものなのだ。


快適生活増刊号
2号店:あしながエイプリルフール




隕石でも衝突したかと思った。バイト中なのにウトウトしまったせいもあるけど、それくらいの衝撃音だった。シンジは目を覚ますと同時に両手で頭をかばってしゃがみ込む。けれど別に屋根を突き破って隕石は降ってこなかった。

その代わり、自動ドアの前で客がうずくまっていた。

「大丈夫ですか!?」

駆け寄ると、銀髪の青年がピンクに染まった額を押さえて涙目だった。察するに、開かずの自動ドアに激突したらしい。

「大丈夫…です…」
「あの、よかったら店内にお入りください。手当てさせていただきます」
「いや、僕の不注意だから」
「いえ、この自動ドアのせいですから」

そう。最初、シンジは自動ドアの誤作動だと思っていた。

「お邪魔します」
「コンビニですので…」

雑誌の入れ替えをしていたバイトのアスカがプッと笑ったのを横目でヤメロとテレパシー。エロ本と同じポーズを取ってふざけだしたのでコラッと一喝。ハイハイワルカッタワネとアスカは怠そうに首を回した。

「ちょっとこちらでお待ちくださいね」

そしてシンジは商品の保冷剤をこれまた商品のミニタオルで包んで客に差し出した。

「お使いください」
「ありがとう」

まあこれくらいなら自腹を切ってしまってもいい。アスカなら破損で処理するだろうけど。それよりも。

「店の外にベンチがあるのでよかったらご利用ください」
「そうするよ」

シンジは感動に密かに身悶えていた。銀髪はブリーチかと思ったけれど、色素の薄い肌に血の色の透けた瞳。どうやらすべて天然らしい。それにこの地球にこんなに美しいひとがいたのかと思うほどの完璧な造形。なんて綺麗なんだろう。

それなのにうちのこの自動ドアときたら。彼を傷つけようとしたのだ。バカバカバカ!こんなひとに恥をかかせてしまうなんて。無機質のドアは謝れない分シンジが申し訳なく思うしかない。

「…どうやら開かないようだ」
「あ、あれえ?」

なのに。なんてことだ。シンジが頭の中で自動ドアに説教している間、その客はドアの前で立ち尽くしていた。ドアは全然反省していないらしい。

(おっかしいなぁ。こんなこと一度もなかったんだけど)

そしてシンジは彼の横に立つ。ドアはご主人様の言いつけとばかりに素直に開く。あれれ。

そう。この自動ドアはこの銀髪の青年の前だけでボイコットする仕様だったのだ。





「はいはーい今行きます!」

シンジはレジから店の入り口へと早歩き。そしてドアの前に立つ。ヴィーン。まるで宇宙船の入り口みたいにガラスは開いてその目の前には――

「こんにちは、碇くん」
「こんにちは、渚くん」

――銀髪の青年・渚カヲル。ふたりはドア一枚分の距離で見つめ合って、今日も挨拶。えへへと微笑み合うふたりにスイーツ棚を整理していたアスカが天井を見上げて溜め息。アスカは彼が苦手だった。

シンジとカヲルはあの運命の出会いから意気投合。お互い名前を教え合って、また来てくださいまた来るよと別れを惜しんだ。保冷剤とミニタオルは僕が買うよいや僕がと押し問答の末、カヲルがお買い上げをした。カヲルはそれらを今も大事に奉納しているけれど、それはヒミツ。

そうしてふたりはこの宇宙人コンニチハの儀式を通じて、とても仲良くなったのだ。シンジはいつだってカヲルが来るのが待ち遠しくて、たまらなかった。

「NEW?」
「それ使いやすいですよ」

話しかけられると嬉しくて、何でもない声を装いながら熱くなる頬に手を当てた。カヲルはとても楽しそうに商品の陳列を眺めていた。新商品のペンを魔法の指揮棒みたいに揺らしている。シンジは遠くても近くても彼に見とれてしまっていた。高鳴る心臓は知らないパルスを刻んでゆく。ジジジッ。パルスに呼応して目眩、縮む瞳孔。ああ眩しい。

なんでだろう。

「あたためますか?あッ」

バーコードを読み込んだのは…ペンと単4電池と綿棒。どう見てもあたためる向きじゃない。

「お願いします」
「えええっと、これ、あの、」

なのにそんな変な反応。困ってしまう。シンジは耳まで真っ赤になって、うっとり自分を見つめてあたため待ちのカヲルにこう言うしかなかった。

「すみません、あたためられません」
「?」

それからカヲルは首を傾げ、沈黙、ちょっとタイムと合図してから後ろに姿を消してしまった。そして、

「お願いします」

差し出したのはとろふわオムライスだった。

「え、そんな、」
「お願いします」

ニコニコ輝くその笑顔は悪意のかけらも感じられない。仕方なくシンジは頷く。容器を持ち上げる時、白くすらりと長い指に触れてしまった。ジジジッ。

「あたためるとおいしくなるのかい?」
「あたためると…その、あたたかくなります」
「ふふ、それはよかった」
「…はい」

オムライスは踊りつづける。

「他にどれがあたためられるんだろう?」
「えっと、お弁当とか、おにぎりとか、ごはん系です」
「ごはん系か。とても勉強になったよ」
「…えへへ」

オレンジのライトを浴びて。

「僕もオムライス好きです」
「そうなんだね。オムライスはとても黄色い」
「黄色いですね。ふふ」
「それに真ん中は赤いんだ。ふふ」
「ふふふ」

レンジがくるくる回っている間、出会った日から2番目に長い会話を楽しんだふたり。チンと聞こえて会計が済めば、お馴染みの宇宙人サヨナラの儀式をするのだった。

「ありがとうございました、渚くん」
「ありがとうございました、碇くん」

一緒にペコリ。自動ドアが閉まってゆく。広い駐車場の隅で手を振るカヲルに手を振りながら、シンジは思った。

「惚れた…」
「あんたバカァ?」

つい心の声が漏れてしまった。両者とも。

「あいつ頭でも打ってんじゃないの?」
「失礼だな。個性的なんだよ」
「あんたもあんたよ。何トンデモ星人同士でシンパシー感じてんのよ」
「ほっていてよ!」
「フン」

プンプン怒って反対方向のベクトルに向かってゆく。

(最近よくつっかかってくるんだよな!)
(シンジは面食いなんだから!)

こうして10AMのコンビニはちょっぴり可笑しく平和に過ぎてゆくのだった。それからカヲルは少しでも会話を長引かせたくてコンビニ弁当を買うようになった。

(…私がいるのに)

地球はそんな感じである。





「イラッシャイマセー」

ドンッと投げ出されたライムグリーンのスニーカー。宇宙人コンニチハの儀式は無慈悲にも他者介入によって崩壊する。ふたりだけのものではなくなってしまったのだ。前々から、

(どうして他の客と鉢合わせしないわけ?めんどくさいわね、一緒に通ればいいじゃない!)

と思っていたアスカの疑惑は的中した。ふと窓ガラスの外を見たらカヲルが白昼堂々、電柱に隠れていたのだ。その時スライドする自動ドア。どうやらカヲルは客不在の時を狙ってやってくるらしい。

ははーん。

そこで前の客が帰ってすぐシンジに仕事を頼んだのだ。お菓子棚はちょうど入り口から対角線。死角だった。

「あ…」

哀しい呟きがコンビニの白っぽい空間にこだまする。それはカヲルの鼓膜にまでちゃんと届いて、

「やあ、碇くん」
「いらっしゃい、渚くん」

ふたりを吸い寄せてゆくのだ。仁王立ちするアスカの横をカヲルは通り過ぎていった。まるで自分が悪者になってしまったみたいだ。従業員ロッカーに用がある風に立ち去るのがアスカの精いっぱいだった。

「お菓子の仕事をしているのかい?」

シンジの背後で覗き込むカヲル。彼はよく不思議な日本語を話す。

「そうだよ。これ、新作なんだ」
「へえ、細長い」
「細長いね」
「それに可愛い」
「可愛いね、ふふ」

宝石を眺めるみたいにキラキラと赤い瞳。手のひらでソフトキャンディを転がしている。シンジはその純粋なリアクションが可愛いなといつも思う。

「碇くんはこれらを燃料に使うのかい?」
「燃料?あ、うん。帰り道によく食べてるよ。新作は味見するんだ」
「帰り道?帰るのかい?」
「もちろん」
「どこへ?」
「自分ち。実家じゃないんだ」
「いつ?」

シンジはジジジッとした。

コンビニは24時間営業。常に誰かいなければ営業できないのだ。シンジは説明した。朝〜午前/昼〜夕方/夕方〜夜/夜〜朝とシフトは巡る。シンジは男子なので夜〜朝、つまり深夜に働くことも多い、と。

カヲルはジジジッとした。

人間は深夜にだって働くらしい。深夜の間も地球が廻っているように。カヲルは体の真ん中がざわつくのを感じた。よくわからないけれど、これはこのままにしては、よくないと感じた。

だってシンジは帰り道に燃料を必要としているのだから。

おにぎりがオレンジを浴びて踊っている間、ふたりはちぐはぐのシグナルを送り合った。

「おにぎらずって食べたことある?」
「…おにぎりの親戚かい?」

でもそれは見事に繋がってゆく。

「どっちかっていうとできる弟って感じ」
「できる弟。おいしいのかい?」
「うん、僕それつくるのハマってるんだ」
「へえ、捕獲するんじゃないのか」
「あはは」

お米の粒と粒とを繊細に紡いだネックレスのよう。

そしてシンジがおつりを渡そうとした時だった。

「僕も食べられるかな?」

さりげなく滑り込ませられたセリフに呆然としていたら、おつりを握り締めた手は白くてすらりと長い指に捕まえられた。

「食べられたら素敵だな」

はじめて誰かに手を握られただけで死ぬかもしれないと思ったシンジ。それを見つけて違う意味で死ぬかもしれないと思ったアスカ。幼馴染みが宇宙人にさらわれてしまう。それなのにどうすることもできない。

「そうだ。この燃料は君に」
「え」
「ひとつあげるよ」

新作のソフトキャンディがふたつ。ひとつはシンジのもとへと。

「わ、悪いよ、そんな」
「敬語じゃなくなった記念だよ」
「あ」

コンニチハができなかったのが残念で残念で、つい気持ちが前のめりになってしまった。客と店員の立場を忘れていたのだ。

「…ありがとう」

でもそれは失敗なんかじゃなかった。

「またね、碇くん」
「またね、渚くん」

ずっと仲良くなれたと感じた16PM。シンジは大きく背伸びをした。

「あーそういえばコレ、宣伝で燃料にしてロケット飛ばしてたわよね」
「返せよ。僕がもらったんだから」

ソフトキャンディをバトンのように投げて遊んでいるアスカ。度が過ぎているなとシンジは思った。特にカヲルをバカにする言葉はとても嫌だった。

「UMAじゃなくてUHAなのね。ヨッ!宇宙人同士お似合いですこと!」
「…別に僕は渚くんが宇宙人でもかまわないよ」

アスカがとても傷ついていることも知らずにシンジはそう応戦した。傷つくほどひとをバカにする自分の癖をアスカは呪った。いつかUFOが地球を侵略してきて世界が終わってしまったら、終末のモニュメントにはこう書かれているだろう。『別に僕は渚くんが宇宙人でもかまわないよ!!』そしてこう落書きされてるはず。『こっちがかまうわ!!!』

そしてカヲルが今日おにぎりを買った理由、それはヒミツ。

「これなら入るかな」

今まで買ったものはぜんぶ冷凍保存されているなんて、誰にもヒミツ。





世界の終わりのような深夜。カヲルはコンビニへも舗道をコツコツと歩いていた。

(こんな時間にまで働くなんて、心配だ)

もうすぐあの灯が見える。横断歩道は赤信号。すぐさま青信号が点灯した。

(リリンは9時5時で働くわけではなかったのか)

ここまで読んでピンと来なかったひとは少ないだろうが、そう。彼は本当に宇宙人なのだ。地球語で彼は、アダム。使徒。または、渚カヲル。

カヲルは深夜のシンジの様子を見に来たのだ。人間が好意的に感じられる節度でシンジを見守りたい。できれば送り迎えをしてあげたい。だって制服を着ている子たちはそうしてもらっている。コンビニ店員だって制服を着ているのだ。というのが彼の持論。

また赤信号が一時的にパターン青になった。

地球はもちろん地球人仕様。すべてがそう。だからちょっとくらい信号の色を変えたっていいじゃないか。スマホはバグるし、ICカードはスロット化して、自動ドアは開かない。常にひと手間流し目で操作しなければ。なんてめんどくさいんだ。便利な現代社会なんて大嘘だ。

そう。あの日も自動ドアを開けようとしたのだった。

ジジジッ。

けれどガラス越しにあの横顔を見つけた。一目惚れだった。カヲルは地球の不条理な不便さはすべてこの瞬間のためにあったんだとわかったのだ。カヲルは激突した。

?!

ああ痛い。たまらない。でもそれがきっかけで、

『大丈夫ですか!?』

カヲルはシンジに存在を覚えてもらえた。だからドアを開けられないフリをした。ピンチになったら「あたためます」と他の客が告げたオムライスを思い出した。ライバルの女の子に意地悪をされまくったけれど、カヲルはいつだってシンジの瞳を独占した。ああ、あの深い青の瞳。この星のよう。その瞳に映る自分の姿に、カヲルは自らのホームを見つけたのだった。

(碇くんの瞳…)

体の真ん中がざわついてしまう。うずいてうずいて死にそうだ。シンジの手を握った時もそう。たぶん死ぬかもしれなかった。その感覚が今だってシンジを思い出すたびに甦る。等価値の言葉に置き換えれば、生まれるかもしれない感覚、なのだろうか。

そしてコンビニの駐車場のラインを踏んだカヲルを運命が待ち伏せしていた。

「あ!」

数メートル先の店内、シンジが引く台車のキャスターが引っかかり陳列棚が傾いていた。

「碇くん!」

それは摩訶不思議な出来事だった。シンジはカヲルの声を耳許で聞いた気がした。すると誰もいない自動ドアが突然開いて、瞬きもしていないのにシンジの目の前にはさっきまでいなかったカヲルがいて、危なっかしい横の棚を支えてくれていたのだった。それはもうすぐで倒れそうだった。

「大丈夫かい?」
「…うん」

夢を見ているみたいだった。シンジは少し考えて、考えるのをやめた。考えるほどカヲルが不安そうな顔をしてしまったから。

「夜分恐れ入ります、渚くん」
「…夜分恐れ入ります、碇くん」

だから何事もなかったかのように笑った。カヲル語録を探してみた。宇宙語かもしれないけれど。

「こんな夜中に渚くんに会えるなんて嬉しい」

シンジは笑いつづけた。

「ありがとう渚くん」

夜に見るシンジは昼よりもしとやかだった。可愛かった。凛々しかった。肯定的な形容詞が余すことなく当てはまった。

「カヲルでいいよ」
「僕もシンジでいいよ」

でもカヲルにはわかったのだ。

「シンジくん」

自分がリリンではない確信をシンジは手に入れてしまった。

「カヲルくん」

シンジはもう何もかもわかってしまった。そんな顔をしていた。

「夜中はあまり商品がないんだ」
「うん」
「でも僕は夜中のコンビニって静かで好きだよ」
「そう…だね」

真っ暗な不安が渦のように流れ込む。ダークマターのように、真空のように、息ができない。

「……」

言葉にできない。

カヲルは知っていたのだ。映画という記録メディアで理解していた。宇宙人と地球人はどんなに仲良くなっても、最後にはサヨナラをしてしまう。相容れない。

(サヨナラなんてしたくない…)

でも。

(ヒミツを知られてしまったんだ…)

夜風の匂いがした。コンビニの自動ドアが開いていた。シンジは飲み物の棚から振り返った。あたたかいジンジャーエールでもカヲルに差し入れようかなと思ったのだ。でも、カヲルは店の外にいた。駐車場を歩いていた。自動ドアはもう誤作動しなかった。

「待って!」

レジを見たら小銭がたくさん並んでいた。1円ばかりがふわふわと直立して、ミラーボールみたいに煌めいて、回って、揺れて、最後の言葉を描いていた――『BYE』バイバイ。

サヨナラ。

シンジは誰もいないコンビニをほったらかして自動ドアを通り抜けた。一目散に駆け出した。バイト失格。社会人失格。でも人生にはそんなことよりも大切なことだってあるはず。

「カヲルくん!」

駐車場脇の横断歩道は赤信号なのに、青に変わった。

「ねえ!」

進路方向、もうひとつの赤信号も、パターン青。

「ズルしちゃダメだよ!」

ビクッとした遠くの背中。とたん、赤に戻る。立ち止まる、宇宙人。

地球人は彼に接近する。

宇宙人はおにぎりを持っていた。オムライスを握ったオムすび。おにぎりの遠い親戚。シンジはその秘密のシグナルを理解した。

『僕も食べられるかな?』

ジジジッ。

『食べられたら素敵だな』

夜風がふたりの肺を冷やす。息を吸うと想いで満たされていった。頭上には、都会らしい褪せた宇宙とまばらな星とが広がっていた。

「おにぎらず…食べてみたいって言ったよね?」
「そうだね」

吸って、吐いて。

「今度つくるよカヲルくんに」
「でも」

吸って、吐いて。

「君が言ったんじゃないか。僕はつくるからね」
「でも、僕は…ちゃんと食べられるのだろうか」

冷凍庫のなか、食べる気になれなかったオブジェたち。うっとりして眺めていた。カチコチのミニタオルと共に並ぶ塩さば弁当。シンジから渡された想い出の記憶装置。カヲルの宝物。そんな自分がリリンの捕食対象を食べられるのだろうか。カヲルは果てしなく、思った。

(どんな味がするんだろう?)

「つくるのにちゃんと食べてくれなきゃやだよ」

シンジは泣きそうな顔で冗談っぽく笑った。

「一緒に食べようよ」
「君と?」
「そう。ふたりでランチしよう。ピクニックでもいいよ」

カヲルはゆっくりと振り返った。赤い瞳からは星屑がこぼれていた。どこに浮かぶ星のかけらだろうと、シンジは思った。

(ああ、君が食べてというのなら)

「それなら、」
「それなら?」

(僕はそうしたい)

「…ピクニックは宇宙にでもいってみようか」
「面白そうだね」
「シンジくんの好きな星はなんだろう?」
「月。僕、月が大好きなんだ」
「嬉しい」

一歩、一歩、そしてドア一枚分の距離で見つめ合って、ふたりは互いの手を握った。

「僕たち相性ピッタリだね」

シンジは星屑を受け止める。
互いの瞳に互いの笑顔を見つけたら、ふたりきりの惑星にでもいるみたいだった。誰もいない深夜の地球。

「ふたり一緒ならいいことがきっとあるよ」

シンジは星屑を乾かしてゆく。
ふたり一緒なら。どんな壁だって自動ドアになるのかもしれない。

ねえ、そうでしょ?

「僕たちはお互いに会うために生まれてきたんだね」

そして星屑をまたいっぱい散らしてしまった。
ちょっぴり感じる無重力は恋だけのせいじゃないのかもしれない。そんな宇宙で最初の異種間コンビニラブファンタジー。


FIN.

快適生活増刊号
3号店:君のコンビニにも宇宙人はやってきてるかもしれない


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