「
善高報道部部長は高嶺の花」
初恋
02
違和感に首をひねる。中原は港をハルとは呼ばない。いつも、ハルキと、そう呼ぶ。
「ハル!」
どうした、中原。
オレはこっちだ。
どこを見ている?
おい。ハルは、ハルキはこっちだぞ?
思わず長身の横顔を呆然と見つめた。
中原が港を見守っていない。こちらを見ない。港の目線に答えない。かつてない事態に港の心に戸惑いと不安が入り混じる。入学当初から一年以上積み上げられてきた信頼感が、音を立てて崩れていく。
中原。
このオレを無視して何を見ているんだ?
中原の視線の先。辿ったそこにあったのは、床に転がったボールを拾い上げる地味な一年生の間抜けな姿だった。港の思いなど知る由もない中原は、ゆっくりと一年生の傍へ近寄っていく。
「あれ、基にい」
「ははっ、アレ、じゃねーよ。なんで気づかねーの」
「いや、ボール拾うの忙しくて」
「真面目か」
「大真面目だって、の」
目を細めてその一年生の頭を乱暴に撫でる中原の姿は純粋に物珍しいものだったが、それより何より、港が気になったのは、その一年生自身だった。
「あいつ……」
どちらかといえば地味で特徴のない学生だが、撮影中からずっと気にかかっていた。
体育館中の視線を集めていた港は、どちらを向いても必ず誰かと目が合う。慌てて逸らす人、熱視線を送り続ける人、勿論、好意的なものばかりではない。妬みや嫉み、射殺さんばかりに睨み付けてくる人もいる。反応は人それぞれであるのだが、その誰しもがそわそわして落ち着かない。
そんな中、彼の纏う空気だけ凪いでいた。
きっと彼と目が合ったのも数秒だった筈。他の人と目が合ったとそう変わらない瞬間的なものだった。
それなのに、その印象は鮮烈。
真っ黒な目が港を見つめ、そしてそのままそらされた。
そこには何の特別な感情もなく。まるっきり、景色の一部にされてしまった。
オレは港陽輝だ。
港はアイドルだ。
この学校の太陽だ。
全生徒が港を意識している。そういう地位を築いてきた。
あれは誰だ?
一年だ。地味で、平凡な、年下の、つい先日まで詰襟を着た中坊だった、ガキ。
そのガキに、無視された。
コケにされた。
そう、港はそのプライドを傷つけられたのだ。
この体育館の支配者は間違いなく港だったのに。ただ一人の男を取り漏らした。そのことが、苛立たしい。しかも、港の唯一無二の親友である中原をまで誑かすとは……!