善高報道部部長は高嶺の花
初恋
01

 私立善沢高等学校、略して善高。郊外の山ひとつがその敷地だという、規模の大きな男子校だ。
 六十年の歴史を持つこの進学校には、報道部という、あまり耳慣れない部が存在する。簡単に言ってしまえば、新聞部と放送部を足したようなもので、構内のマスメディアを一手に引き受ける部だ。活動内容は多岐にわたり、真面目な校内新聞を発行したり、ちょっとした動画やアニメーションを作ったりする部門もある。

「では、最後に全校生徒に向けて意気込みなど、伺えますか」
「はいイ! 我ガ卓球部は、来週末の試合で……」

 その中でも、他部活動の活動や大会出場の報告動画を作成するのは、主な活動の一つだ。その動画は学食やホールに設置された大型モニタで繰り返し放送されており、善高生ならば誰もが目にした事があるはず。また、学校ホームページで同じものを視聴することもできる。その動画の再生回数は、経営陣に広告掲載を検討させた程だとか。まあ、これはただの噂、ではあるが。

 人気の理由。
 それはインタビュアーが善高のアイドル、港陽輝(ミナトハルキ)だから、である。

「部長、真っ赤ですね」
「そらまあ、あんな近くで、頑張ってください、応援してますとか言われたら」
「いいなあ、部長。さっき握手もしてましたよ」
「ひい、オレなら一生、手、洗えねえ!」
「陽輝サマ、今日もお美しい……!」

 インタビューを受ける生徒の背景、練習風景を演出するメンバーもどこか浮ついている。たどたどしく勝利宣言をする卓球部部長の隣で、静かに微笑んでみせる港だが、心中では高笑いが止まらない。
 港を意識してざわざわと落ち着かない空気。体育館中から集まる注目と熱視線。
 この春入学して、まだ日も浅い一年生の間にも善高の校風は浸透し、港の存在も受け入れられている。日頃の努力の賜物だ。鼻歌でも歌いたい気分である。

 どうよ、中原!

 カメラのLEDが緑に変わったことをしっかりと確認してから、親友であり、相棒の中原元基の姿を視界の端で探す。みんなのアイドル港陽輝は、平等でなくてはならない。それがこの校内で唯一心を許した友人相手であったとしても、人目がある場所で普通の友人にするように気安くすることはない。
 いつも港を見守ってくれている中原。
 港が中原を見付ければ、その視線は必ず港に向いている。約束がある。行動がある。信じられる。
 
 二人の間に恋愛感情はない。
 しかし、恋愛などよりもっと確かな絆がある。

 今の今まで、港はそう思っていた。

「ハル!」
「!??」

 ハル……?


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