まものの心
二寸の恋心@
03

 だから今、前世と同じ虫に産まれたキノだったが、少しも辛くはない。目標のある人生のなんと素晴らしいものかと、とても小さく見つけづらいキノの瞳は希望に輝いていた。

 あの獣に再び見える。

 その為に日々を生きることの充足感。キノは胸に灯る幸せを噛みしめる。
 会って、そして食らってもらっても良い。食らうまでもなく、踏み潰されてもいい。ただもう一度会いたかった。

 前世から転生するのにどうやら百年近く経っていたらしいと、まずキノは知った。キノにとってそれは取るに足らないブランクだった。あの獣がまさか百年足らずで寿命を迎えるはずがないからだ。
 また、前世の最期を何度も思い返すうちに、キノはあの獣があの瞬間あの場所に生まれたのだという考えに至った。獣に気づいたと同時に膨れ上がった気配。普段から用心を怠らないキノが、自分に近付いて来るあの気配を察知できないのはおかしかった。そして激しい飢餓状態。相当な魔力を持つ個体が、あんな風に飢えるのはおかしい。キノなんかよりも遥かに大きな獲物ですら容易に狩り取る能力があるのだから。
 この考察はキノに愉悦をもたらした。あの獣が初めて口にしたのがキノであったと、真っさらな獣に自らが取り込まれたのだという想像。それはとても官能的だとキノは思う。キノが圧倒的に弱者であるのは事実なのに、どこか満たされる征服欲。
 あの日あの尖った牙がキノの皮膚をプツリと突き破った。そこから滴る体液は獣の舌にトロリと広がり、湧き出た獣の唾液とねっとりと混じり合った事だろう。そして獣の喉の奥にゴクリと嚥下されるのだ。残った体も舌と上顎に押し潰され、何度も何度も歯牙に噛み砕かれ、きっとそうやって獣に食べられたのだ。腸に染み込んだキノだったのもは血となり肉となり、獣の一部となる。
 獣の内側にキノがある。
 ジッとしていられず悶えるキノ内心は暑苦しい程にピンク色だったが、側からはびくん、びたびた、とひときわ新鮮な虫にしか見えなかっただろう。

 これは、“恋”だろうか、とキノは自問する。

 遥か昔、確かに誰かと交わしたこのある心の機微。今キノの心を埋め尽くす会いたいと願う気持ちは、それに似ていた様な気もする。


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