さあ、うたおう
ユキとキラその後
11月11日

大学生は暇人か。

終業時間に震えたケータイを見れば、メールが一件。
深雪からの「お疲れ様です」と「待ってます」
待ってるって……。

「ウチ、か?」

鍵はやってない。

この寒ぃ中待ってんのかよ。
月曜から、暇な奴。

約束もしてねえのに。
マメマメしく通って来て。
事前に言っとけっての。
オレに予定があったらどうするつもりだったのか。

ブツブツ言いながらも、心なしか足早に帰宅の途につく。
歩きながら「メシは?」と返せば、速攻で「ラーメン行きましょう」
お、イイネ。

ああ、じゃあ、あそこでイイや。
最近見つけたラーメン屋。
結構美味いし、家からも近い。



ふわりと香るつゆの香。
ぐう、と腹が騒ぎ出す。

暖かそうな店内に目を奪われながらも、その前を通り過ぎる。
深雪を迎えにアパートへ行かねえと、だ。

「おかえりなさい」

「ひょっ……!?」

「アキラさん、お疲れ様」

「……ただ、いま」

脇から道を塞ぐように、黒い影。
ぶつかった体は、よく知った匂いに抱きとめられた。

ここ、道の真ん中。
オールライト?

脛を蹴りとばす。
解放された体を居心地悪くもぞもぞさせているオレを、ニコニコ見つめる深雪。
うぜえ。

「何でここにいるんだよ」

「ラーメン食べましょうって言いましたよね?」

言った、が、
さ、ラーメン屋なんてさ、いっぱいあるわけで。
うん。

「……オウ」

うん。
まあ、いいや。
詮索すんのも面倒臭ェ。



腹は満たされたけど、折角温まった体は家に帰るまでに冷えてしまった。
幾分温かい部屋の中。
さみぃさみぃと言いながら靴を脱いでいると後ろから鍵を閉める音がした。
毎度ご苦労。

「アキラさん、これ」

自分のカバンをごそごそしていた深雪が、取出した物をコタツに乗せた。

「何」

「ポッキーです」

「見りゃわかる」

それは有名なチョコレート菓子で、言われなくたって分かる。

「ポッキーの日です」

それも知ってる。
平成11年の11月11日、11時11分をポッキーで祝ったクチだ。
モチ授業中。
超懐かしい。

「甘いもの食わねえし」

「はい」

続いて登場したプリッツを渡されて、思わず受け取る。
……まあ、ビールのつまみには良いよな。

開封して一本かじりながら冷蔵庫をのぞいた。

「どうすんだよ」

「え?」

「ポッキー」

「ああ!」

振り返ると、深雪の満面の笑み。
さあっと、気温とは違うもので背筋が寒くなる。

「あ、イイ。やっぱりい「勿論下のお口で」




「死ね」

食いもんを粗末にするやつは死んでしまえ。

「ちゃんと食べますよ」

「……死ね」




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おまけ。

「11月11日って麺の日でもあるんですよ」

「ああ、だからラーメンだったのかよ」

「はい、どうせなら、制覇したいじゃないですか」

「イヤ別に」

「あとね、」

「(聞いちゃいねえ)

「独身男性の日だそうです」

「ハ?」

「中国らしいんですけどね、光棍節っていって」

「グアン……?」

「つるつるの棒って意味だそうです」

「つるつる……」

「何だか卑猥ですよね?」

「…………別に?」

「あとね、電池の日でもあるんですよ」

「……何が言いたい」

「言っていいですか?」

「……やっぱりいい」

「言います」

「ヤメロ」

「言いますよ」

「シネ!」

「つるつるの……」

「シネシネシネ!」


こうして二人の夜は更けていくのでした。


―11月11日 終―


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